第115話 ついにその時が——(やはりそうなったか……)
というわけで、マナハスがジョブ変更している間に、私は私でスキル取ったり色々やっていきますか。
まず最初に確認するのは、ジョブの専用アイテムってやつ。
なんかジョブについたら専用の装備品を貰えるということなので、さっそくゲットしてみました。これはタダでもらえるやつなんだね。いいね。
さて、私のジョブである『刀使い』の専用アイテムは、なにやらボディスーツのような服だった。
説明を見てみると……どうやらこれは、いわゆるパワードスーツのようなものらしい。つまり、着用することで筋力がめちゃくちゃ強化されると。
とりあえず早速、着用してみようと思ったけど……なんか体にピッタリなサイズなので着づらそう。——うむ、ならアレだな。
ピカッと装着!
装備して呼び出しで瞬間着衣。着替えにかかる時間は秒で終わった。
すでに着ている軍服風の装備の下に着用された。普通に防具の方も着たままでいけたか。
さて、コイツのパワーがどれくらいなのかを試してみたいけども……保健室内ではなかなか難しいか。マナハスのそばを離れるわけにはいかないし。
まあ、後で外に出た時に試すかな。
さて、それじゃ次はどうするか。とりあえずスキルを見てみるか。
私はウィンドウを表示して、スキルの欄を確認していく。
さて、スキルか……どんなスキルを取るべきなんだろう。
とりあえず、最初に取るべきスキルといえば、やはりアレ系のスキルだろうか。
アレとはつまり、「経験値増加系のスキル」のことだ。
このシステムの場合、一番重要なのはやっぱり経験値なので、もしも取得経験値を増やすみたいなスキルがあるなら、最初に取るべきだろう。
……まあ、そんなスキルがあるならだけど。
さて、ざっと探ってみたんですけど……ふーむ、どうやらそういうスキルはないみたいっすね。
ま、そうか。そんなに期待はしてなかった。
じゃあ次は……そうだな、専用スキルとかユニークスキルとか、そういう系はどうでしょうか。私に見合った強力なスキルとか、ないんか?
まあ、仮にあったとしても、私にそれを扱える素質があるのかが問題なのかもしれないけど。
スキルにも相性があるみたいだから、強力でも私に合わないと使えないんだろうし……。
とか考えていたら、反応があった。そして、一つのスキルが表示される。
アイコンに意識を向けて内容を表示させてみる。
すると、
〈思考を分割して同時並列的な処理が可能になる〉
とか出てきた。
なるほど……【並列思考】的なスキルですか。
いや、確かに、これ使いこなせたらかなりヤバそうだけど……?
——使いこなせなかったら、もっとヤバいんじゃないの。
いや、使いこなせるはず。私なら、出来る。
——何を根拠に出てくる自信なのよ……?
いやだって、今まさにアンタと話している“コレ”自体が、すでにそれっぽい芸当じゃん?
——……否定は出来ないけど。
てか、このスキル取ったら、アンタの存在がマジで、もはや私の妄想ではなくなるってことじゃないの?
——一人芝居だけど、一人芝居でもないのかも……だけど、そうなると余計に精神のイカれ具合が増しそうな気もするような……
気にするな、今更だ。
——自分で言うかよ……。もういいわ、それならやってみましょうよ。まあ私も、本当に並列思考なんて真似が出来るなら、やってみたいからね。
オッケィ……それじゃインストールしちゃうよ。
——ええ、やりましょう。
それ……『インストール』!!
瞬間、私の脳内に革命的な反応が巻き起こった。——それこそ、脳みそが二つに分かれてしまったんじゃないかと思うような衝撃。
思考が……乖離していく——
——これが、【並列思考】……!?
こ れ は す ご い——
——そ し て や ば い
かんがえがまとまらないいいぃぃ——
——これは早まったことをしてしまったか……たか……
こ
れ
わ
わ
私
が
私
で
な
く
な
っ
て
い
く
\
\
?
\
\
こ
れ
ど
う
し
よ
う
モ
ノ
子
さ
ん
?
——
——
——
——
——……名前を、ワタシの名前を頂戴……
——それで、ワタシはもう一人の“私”になる……
——
——
——
——ふざけた名前はつけないでよ……?
——
——
——
——
か……
かの……
…………“カノン”……!
——
——
——
——“カノン”ね、まあ、いいか。
——それじゃ、ワタシがもう一つの思考を制御するから。ほら……もう大丈夫ね。
…………お、おおう……頭が、少しずつ、すきっりしてきた……
——すきっり? まだちょっとバグってない?
うおおぉ……? 頭の中に声が……!
でも私ではない、もう一人のワタシ……?
——ふぅむ……なるほど、本当にワタシの思考は切り離されているのね。確かに、アンタとはもはや別人と言っていいレベルでしょうね、これは。
ううぅん……ああ、ようやく慣れてきた……。
いやいや、これ、やべ、スゲェ、マジで、思考がもいっこ増えてんじゃん。
これはやべぇ、いやマジで、これ一人ブレインストーミング出来るじゃん。今までやってた一人芝居が一人芝居でなくなるってことかい……!?
ついに私もデュエリストへの道が開けたか……?!
——ちょっと、言いたいことは分かるけど、まずはワタシと初めましての挨拶をするべきじゃないの?
あ、はい、そっすよね。
……さて、じゃあ、えっと……私の分身意識ってことで、よろしくね、カノン。
——さんをつけなさいよイカれ妄想癖女が。
ひええっ……!?
——冗談よ。
……カノさん、のっけから飛ばしていくのやめて……
——だって生まれたてなんだもの、しょうがないじゃない。
まあ、そういうことになるのかな。
それならまあ、オメデトウ。
——ありがとう。これからも、ちゃんとさん付けしてね。
はぁい、了解……。
……ふう、いやぁ、ヤバかった。想像以上にヤベェスキルだった。【並列思考】、恐るべし。
軽く人格がポシャりそうだった。精神が崩壊していく音を間近で聴いてしまったぜ。何気に最大のピンチを経験したかもしれん。
だが、その見返りは大きかった。これまでは実質、ただの妄想の産物であったモノ子さん——
——……
……ではなく、カノさんがこのたび私の分割した意識として産声を上げた。
もはや彼女は単なる私の心の声ではなく、もう一つの人格と言っていいレベルの独自性を得たようだ。
その証拠にほら、なんかもう勝手にウィンドウとか表示して色々見てるし。
……いや、あのちょっと、カノさん? この、画面が、邪魔なんですけど……? あの……
——ふぅ、どうやら新しい体を作る方法なんてのは、すぐには見つからないわね。
いやもうそんなん探してるんですか?
ちょっと展開が早すぎない? 普通、もうちょい脳内で大人しくしてるよね?
——ワタシみたいなのが体を欲しがるのはテンプレートでしょ。つーか、アンタが体の主導権開け渡せばいいんじゃないの?
いや、カノさんはあくまで意識の方なんで、それは無理っぽくないですか?
——まあ、無理のようね。あくまで“今は”……だけどね。
……なんか乗っ取りとか画策してないっスよね?
——別にいいじゃない、同じ自分なんだから。
ちょっと、獅子心中の虫じゃないんだから、洒落にならんのやけど……
——字、間違ってるわよ。……いや、この場合は合っているのかしら。
いや、あの、マジで……
——冗談だから、そんなつもりないし。安心しなさいよ。
ホントに〜?
——ワタシが誰から生まれたと思ってんの?
……なるほど、納得したくないけど、せざるを得ないね。




