第114話 すべてを兼ね備えし存在
「それじゃマナハス、ジョブの候補を見せてよ」
「分かったよ……はぁ、そんなに楽しみか? これ以上ないくらいワクワクしてるのを態度に出しやがってよ」
「あったりまえじゃん。マナハスの“素質”ってやつを見せてもらわないとね」
「……頼むから、変なの出てくんなよ〜……!」
マナハスの目の前に表示されているウィンドウを、私も彼女の隣に座って見る体勢は整った。
さて、それでは聖女マナハスのジョブ候補、ご開帳だ!
マナハスのジョブの候補は四つだった。
最初のアイコンから確認していく。
一つ目のアイコン、描かれているのは——この特徴的な形の棒は、魔法の杖、かな。それと、本のようなものもある。
その周りには、地水火風などの、いわゆる四属性とかいわれるものを表したモチーフ的なものもあった。
これはつまり、魔法系のジョブ、なのか……!?
魔法の杖を使ってきたから、魔法系ジョブ解放された?? ——いや、マナハスが魔法とか使い始めたの、つい昨日なんですけど……?
なんだろう、よっぽど才能があったってことかー?
「これは……魔法系なんじゃないの……?」
「マジか……いや、マジか……!? マジで魔法系のジョブとか来ちゃうのかよ……!?」
「とりま説明をば、はよ!」
「分かってらぁ、『説明』! かもん!」
〈魔素の扱いに特化した能力値〉
〈地水火風と理力に関連する系統〉
〈魔素や呪文の扱いに関する技能を習得する〉
〈呪文詠唱用の専用装備を獲得〉
ワッツ——!?
なん、なんなんすか……?
よく分からんが、とりあえず魔法系のジョブだということは分かった。
「ザ・魔法使いジョブ出てきたじゃん」
「ガチのやつじゃん、これは」
「正直、よく分からん語句が多すぎて、何がなんやらだけど……とにかく、魔法系ってことは確実でしょ」
「だな……うわ、マジかよ、私って魔法使いの素質があったん……?」
「魔法系とか、もうこれで決定だろって思うくらいだけど……一応、次も見ようか」
「……そうだな、次、見てみよう」
実際、魔法ジョブあるなら、もうそれ選ぶだろって感じですけど。
ま、一応ね。他のも見とかないとね。なんか面白いジョブとかがあるかもしれないからね。
二つ目のアイコン、描かれていたのは……え、また? これもさっきと同じ杖と本じゃん。
そして他には……なんだろう、祈り? そんな感じのモチーフなのかな、これは。
つーかマジか、二つ目も魔法系なの? てか魔法系のジョブって、いくつか種類とかあるんかい。
とりあえず、説明くれ。
「これは、まさかの二つ目も、なパターン……?」
「そんな、二つなんて、どっちを選べば……?」
「とりま説明、表示してっ」
「お、おう!」
〈魔素の扱いに特化した能力値〉
〈心夢幻幽と信力に関連する系統〉
〈魔素や呪文の扱いに関する技能を習得する〉
〈呪文詠唱用の専用装備を獲得〉
WHAT!?
ほとんど説明一緒じゃん。つーか、違う部分を見てもよく分かんないし。
「違いがよく分からんけど、これも魔法系だよね?」
「だろうね……つーか、何……クオリアとフェイス——ってーとぉ?」
「一つ目とは種類が違うんだろうけど……まあ、なんとなく、こっちはあれかな、回復魔法とか使う方じゃないの? 神官とか、白魔法とかさ」
「あーねー、そういう感じのやつなのかね……?」
「一つ目は普通に攻撃系っぽいから、黒魔と白魔ってことかね?」
「なるほど、そういう区分ね」
「どっちがいいのか……いや、まあ、とりあえず残りのジョブを全部見てからにしようか」
「そだな。まずは全部確認しよう」
攻撃系と回復系……だとしたら、どっち選ぶかとかめっちゃ迷うじゃんねー。
つーか、もう少し詳しい説明欲しいんだけど、まずは残りも見てからかな。とりま全部見てからな。
三つ目のアイコン……んっふーー!? いやいや、これ、また杖と本じゃん。また魔法系ーー!?
んで、これはなんなん? これはもうモチーフの時点で何なのか分からん。いやマジで、黒魔と白魔の次は何?
赤? 青? それとも灰? いや、そもそも色で区分ではない?
説明……見ても分かるんかねぇー?
〈魔素の扱いに特化した能力値〉
〈神霊魂源と呪力に関連する系統〉
〈魔素や呪文の扱いに関する技能を習得する〉
〈呪文詠唱用の専用装備を獲得〉
あのさぁ……。
二行目の一文だけで説明終わらせるの、ちょっと酷くない?
もはや何魔だよコレ。何も分かんねぇよコレ。
これに至っては、マジでどういう感じのやつなのか、おぼろげな想像すら出来ん。
「いやさ、これ……」
「ぜんぜん分かんないわ。かろうじて魔法系ってこと以外は」
「説明のための説明が必要なやつじゃん」
「パルシのルシがコクーンでパージするやつ」
「地獄の神様の使徒が楽園で追放な」
「いや知らねぇから」
「てか、ここまで全部魔法系じゃん。いやナニそれ〜、どんだけ魔法の素質があるんですか、アンタは」
「自分でも驚いてるよ……」
「しっかし、こうなるともう、どれを選べばいいのやら……」
「……とにかく、最後の一つも見てみようぜ」
「最後ね……この流れだと、やっぱり……」
「言うなっ……もしかしたら、“これだっ!”ってジョブ出るかもしれんだろ!」
「選択肢が四つに増えるだけじゃないかな〜……」
「とにかく確認するぞ……!」
四つ目のアイコン……はいはい、これも杖と本。分かってたって。
モチーフは何かな……んん? これは何でしょ、今までのモチーフたちが総出演、みたいな……すごいごちゃごちゃしてるんだけど。
一際やばいのが来そうだな……これ以上、混乱させられるのは勘弁して欲しいけど……
ええい、ままよっ! 毒を食らわば皿まで! 説明、出てこいや!
〈魔素の扱いに特化した能力値〉
〈地水火風と理力/心夢幻幽と信力/神霊魂源と呪力のすべての系統に通じる〉
〈魔素や呪文の扱いに関する技能を習得する〉
〈呪文詠唱用の専用装備を獲得〉
意外! それはすべてを兼ね備えしジョブ——ッ!
まさかのウルトラCですべてを解決する選択肢が出てきた。
「マジで出たじゃん。“これだ”ってジョブ。いや、これだわ、確かに」
「うおーう……全部入ってるジャーン……」
「とりあえず、これを選べば問題ないね。よく分かんないけど、全部使えるらしいし。攻撃と、回復と、あと……とにかく……何かの……魔法がね!」
「これは……結局、名前はなんて呼べばいいんだろうか」
「うーん……色分けもちょっと微妙だし……。まあ、とりあえず最初のが『魔術士』だとすると、次は……なんだろ、神官? いや、『奇跡使い』とかかなー? ……三つ目は、んー、『呪術士』かな、とりあえず」
「んー、ま、そんな感じか。んじゃ、最後のやつは?」
「最後のこれは……そうだね、『魔法使い』……で、どうよ」
「うーん、魔術士と被ってないか?」
「いやいや、魔術士よりも魔法使いの方が凄いのは常識でしょ」
「それはなんか、アレの設定のやつじゃん。えーっと、なんだったけ……?」
「まあだから、魔法の種類として、とりあえず、『魔術』、『奇跡』、『呪術』の三種類があるのさ。これらを総じて“魔法”と呼ぶとする……だとすれば、三つすべてを使える者は、これはもう『魔法使い』と呼ぶことになろうよ」
「なるほど……?」
「まあこれも、とあるゲームの引用だけどね」
「はいはい、そんなところだろうと思ってた」
「どうせなら全部、〜〜術って統一したかったんだけど、“奇跡”の上手いのが思いつかなくてね」
「えーっと、神聖術とか、法術とか? うーん、確かに、微妙な気もするかなぁー。まあ別に、私は奇跡でいいけどさ」
「だよね、マナハスは奇跡の聖女だもんね」
「そうじゃねーよ……。いや、てか、そうか……私マジで、魔法使いになっちまうわけか……おいおい、マジかよ、ヤベーな……!?」
「時代がマナハスに追いついたね……!」
「今までも一応、魔法の杖は使ってきたけど……多分、もっとすごい術を使えるようになるんだよな……?」
「うわぁ……めっちゃ楽しみ」
「ドキドキする……けど、ちょっと怖い気もする、かも……」
「大丈夫でしょ、マナハスならきっと上手く使いこなせるよ。なにせ、魔法系ジョブが四つも出てくるんだから。……むしろそれ以外何も出てきてないし、それだけ魔法の才能に溢れてるってことじゃん」
「なんかそれって……褒めてる?」
「もちろん褒めてるさ。さすがマナハス、他の追随を許さないメルヘンの素養がある! とね」
「おい、誰がメルヘンだよ……!」
「いいんだよ? なんかやたら中二っぽい詠唱とか高らかに唱え出しても、聖女ならむしろ映えるまであるくらいでしょうからね」
「くそっ、聖女に助けられる日が来るだと……! ——い、いや、アレだ、無詠唱とか、その辺を習得すればいいんだ」
「多分、その辺は高等技術なんじゃないのかなー?」
「はっ、極めてやるし! 無言で大魔法使えるようになってやらぁ」
というわけで、マナハスのジョブ候補が四つ出揃った。
『魔術士』、『奇跡使い』、『呪術士』、そして……『魔法使い』。
一応、そんな風に名付けてみたけど、実際のところ、どんな感じなのかは全然分からない。
「魔術士」は本当に攻撃系なのか、「奇跡使い」は回復を使えるのか、そして「呪術士」は、コイツはそもそも何なのか……。
まあ、選ぶやつは決まってるけどね。とりあえず全部使えるんだから、「魔法使い」を選んでおけばよい。
「そんじゃ、サクッとジョブ選択しちゃいますか。いやぁ、マナハスの場合は迷う必要ないからスムーズだったね」
「まあ、そうだな。……てかこれ、『魔法使い』があるなら他のやつ要らなくないか? なんで出てきたんだろ」
「うーん……いや、そこはさ、アレじゃないの? たぶん普通はさ、魔法系の素質のある人でも、三つのうちのどれか一つしか出現しないんだよ。自分にあった系統のやつが。んで、中でも才能がある人は二つとか出てきてそれから選べて、よっぽど才能がある人は三つすべての選択肢が出てくる。……そして、聖女と呼ばれるくらい才能が突出した存在は、すべてを兼ね備えた真の『魔法使い』のジョブが現れる——ということでは?」
「いや聖女とか自称じゃん」
「いや、つまりは自称でもないってことなのでは? ガチで聖女レベルの才能あるってことでは……!?」
「ええぇー、いやいや、そんな……マジぃ??」
なんてこと言いつつも、マナハスは満更でもなさそうな様子であった。
まあ実際のところ、さっき私が言った魔法の才能によってジョブの出現数が変わるとかいうのは仮説に過ぎないし、本当のところがどうなのかは分からない。
だけど、まあそこそこ可能性のある仮説ではないかなと思う。事実として、魔法系でもジョブがいくつかに分かれているということは、それだけそれぞれのジョブで違いがあるということのはずだ。なら、それぞれに対して違う素質が必要だというパターンでもおかしくはないだろう。
それで言うなら、そもそも魔法系のジョブの系統がこの三つですべてではない可能性なんかもあるけど。
でも『魔法使い』の説明で「すべての系統に通じる」って言ってるから、これで全部な感じでもある。——つーか、これ以上他にも魔法系あったら、さすがに収拾つかないっしょ。
「そんじゃマナハス、選ぶのは『魔法使い』でいいんだよね?」
「ああ、そうだな。ま、それしかないよな」
「そんじゃ、一応、ベッドに横になる?」
「それ、必要か?」
「まあ、その方が集中できるんじゃないかなぁとは思う。中々の衝撃はくるからね」
「ふぅん、なら、そうするかな」
マナハスはそう言って、ベッドの上に横になった。
今のマナハスの衣装だと、マジでお姫様が寝てるかのようだ。
「……それじゃ、『魔法使い』で『決定』するぜ……!」
すると、ベッドに横たわるマナハスの周囲に異様な気配が立ち込め始めた。
この気配は……今までにも何度か経験した、これは“魔法”の気配だ。魔力とか、マナとか、多分なんかそんな感じのやつ。
マナハスを取り巻くように、その魔力的な何かの密度が徐々に増していく。それは渦を巻くように流動しており、その様子は、まるで何かの生物が生まれる時の胎動を思い起こさせた。
その中心でマナハスは、目を閉じて静かにそれらを受け入れている。
これが魔法ジョブの覚醒か……なんか、すごいな。
私は感心しながらしばらくその様子を眺めていた。
……眺めていた……が……
うん、長いわ。
なんか一向に終わる気配がない。私がジョブ獲得にかかった時間くらいは、もうとっくに過ぎた。
しかしマナハスの様子はまるで変わらず、ずっとなんかよくわからん力の渦がグォングォンやってる。
私も最初は「これは、すげぇ……!」なんて思って見てたけど、ずっと変わらないから既にその感激は過ぎ去った。
うーん、やっぱこれ、魔法系は時間かかるってことなのかなー。スキルの時もマナハスが一番時間かかってたし、てことは、ジョブでも大分かかるんだろう。
ならまあ、この待ち時間も無駄にしないように、なんかやっておきますかね。
レベル15に上がってジョブも手に入れたので、それでは次はいよいよスキルの習得かな。それとアイテムの購入か。
装置系のアイテムとか、もっと色々確認してみたい。あれらは中々すごい効果のやつがありそうだし。
後は、そうだね、さっき達成報酬として手に入った色々なアイテムとかも確認してないし。
ジョブについたことで、何やらジョブ用のアイテムも解放されたらしいし、それも確認しないとだな。
確か、私の『刀使い』のジョブ用アイテムは近接戦闘用の装備とか言ってたよね……?
さて、それじゃ、眠り姫が覚醒するまでに、色々と確認しておこうかね。




