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ゲームオブザデッド 〜現実にゾンビや巨大怪獣が出現したけど、なんか謎の能力に目覚めたので、とりあえず両方ともぶっ殺していきます〜  作者: 空夜風あきら
第三章 Day3—— 雌伏のとき 〜終末に備えよ〜

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第113話 プリンセス×プリンス

 


 そこまで迷うことなく、私はジョブを決めた。

 そのタイミングで、マナハスが話しかけてくる。


「……それで、どのジョブにするの? もう決まった?」

「そうだね。まあ……私としては、『刀使い』かな」

「ふぅん、確かに、一番使いやすそうではあるよね。……でも、そっかー、最後のやつは選ばないのかー、残念だなー?」

「……あんなピーキーそうなジョブ、私には無理だよ」

「むしろアンタなら使いこなせそうだけどなぁ、ねぇ、火神()()?」

「……特定の人物が誰なのかはっきりしてないのに使えないもん」

「それは、どーだろ〜。案外、近くにいるんじゃないかな〜?」


 マナハスが何やらチラッ、チラッと視線を飛ばしてくるのが無性にウザ可愛いので、私はベッドから立ち上がりその辺をぶらつく。

 そしてボソッと小声で呟く。


「——それに、別にそんなジョブ選ばなくても守るし」

「えっ? 何? なんか言った?」

「……別にっ、ただ『おれは無職をやめるぞっ、ジョジョ!』って言っただけだよ」

「ディオ引きずってんじゃん。つーか、まあ……普通に聞こえてたけどね」

「……WRYYYYYYY(ウリイイイイイイイ)!!!」

「なんで恥ずかしいとその鳴き声になんのよ」

「くっ、こんな(はずかし)め……石仮面があったら被りたいっ!」

「穴があったら入りたいみたいなノリで吸血鬼にならんでくれ」

「くっ、覚えてろよ……どうせこの後すぐに、マナハスもレベル15まで上げてジョブを解放するんだからねっ……ふんっ、どんなジョブが出るか、見ものだぜ……」

「え、私もレベル15まで上げちゃうの?」

「いまさら嫌とは言わせないよ」

「え、嫌っていうか……いいの? 私、今レベル4だけど、15まで上げるってなったら、ポイント結構たくさん必要なんじゃないの?」

「200万あるからよゆーだよ」

「……まあ、アンタがいいって言うならいいんだけど」

「マナハスのジョブ候補は私も見せてもらうからね」

「それは別にいいけど……。それで、アンタのジョブは結局『刀使い』に決めたの?」

「そうだね。これが一番安定してそうだし。……まあ、アレなら別に、後からジョブ変更できるみたいだし、とりあえず最初のジョブはこれでいってみるよ」

「ふぅん、ま、アンタがそれに決めたなら、それでいいんじゃない?」

「それじゃ、今から実際にジョブを『決定』してみるから……もしもの時は、マナハス、お願いね?」

「え? なに? もしもって……?」

「いや、ジョブを選んで、そのジョブになる時に、一体どういう感じになるのか分からないから……もしかしたら動けなくなったり意識を失ったりするかもしれない。だから、その場合はサポートをお願いね、ってこと」

「……マジかよ、そんな可能性あるの?」

「もしも、だよ。私も初めてだから分からないよ。だから、あらゆる可能性を想定しておかないと」

「可能性、って……だ、大丈夫なの……?」

「さあね。だけど、やらないという選択肢はないし、やるとしたら余裕のあるうちに——つまり今、やるしかない。でしょ?」

「そ、そうかもだけど……」

「まあ、まずは私が試してみるから。ま、なにかあっても大丈夫だよ」

「本当か……?」

「だって、私には奇跡の聖女マナハスがついてるし、それに……」

「それに……?」

「ここにはベッドもあるからね」

「……なんじゃそりゃ」

「仮に意識を失っても、ちゃんとベッドに寝かせられるんだし。だから大丈夫さ」

「……ベッドがあるからって、ぐっすり寝ないでよね」

「その時はほら、お姫様のキスで目を覚まさせてくれればいいんだよ」

「ふん……あいにく、ここにいるのはお姫様じゃなくて聖女だろっ」

「大丈夫、その衣装ならお姫様を名乗っても詐欺にはならないよ」

「ちっ、こんなん着るんじゃなかったー。つーか、普通、起こすのは王子のキスで、寝てるのがお姫様だろ」

「最近は男女逆転も珍しくないからね……新しい時代はもう始まってるんだよ」

「なにそれ……じゃあ、アンタの方が王子様ってわけ? ——そう言われれば、なんか服もそれっぽいじゃん」


 そこでマナハスは突然、なにやら芝居がかった仕草で腰掛けていたベッドから立ち上がった。

 それから、ゆっくりと私の元まで歩み寄って来て、私に憂いを帯びたような不安そうな表情を向けたかと思うと、するりと私の後ろに回り込んでから背中に軽く抱きつくようにして私に密着すると、後ろから私の耳元に近づけた口から(ささや)き声で——


「……一人にしないでよ、私の王子様……」

「——ふぐッ!!???」


 心臓付近に強い衝撃を受けて、私はその場に崩れ落ちそうになる体をふらふらとなんとかベッドまで移動させると、その上に倒れ込んだ。

 それから、私に背後から致命攻撃を放って来た人物に視線を向ける。

 しかし、当のマナハスはすでに妙な雰囲気から普通に戻っており、


「——なーんてね。なんか、こんな服着てると、本当に姫にでもなった気分になれるかもね。どーよ、さっきの。お姫様っぽかった? まあ、私もたまにはアンタにやり返さないとね〜」


 などとニヤついた顔で(のたま)うのだった。


「…………」

「おーい、カガミン? もう寝てんの?」

「“……返事がない、どうやら不意打ちで『ハート撃ち抜き♡キュン()に攻撃』を食らって即死したようだ……”」

「あらまあ……これはまたひどい死因だこと」


 ……突然の不意打ちでほぼ()きかけたけど、そんなわけで、私のジョブについては、一番最初に見たジョブである『刀使い』に決定した。

 これを選んだ理由としては、やっぱり安定感が一番の決め手だ。私の役割(ロール)である前衛にも一致しているし、前衛としてはとにかく死なずに安定していることが必要な要素だろうから。

 まあ確かに、他のジョブに比べると、一番パッとしないジョブのような気がするというのは否めないけどもね。

 しかし、その他のジョブたちについては、期待以上に不安要素や問題がある感じなんだよね。


 属性使いの二つのジョブについては、そもそも詳細が分からない。

 どれくらい戦えるか分からないし、仮に火力とかが強いのだとしても、今のパーティー構成での私の役割(ロール)としては、攻撃役(アタッカー)よりもむしろ敵を引きつける盾役(タンク)の方が重要だ。それならば、『刀使い』の方が向いていると思われる。


 『大物殺し(ジャイアントキラー)』については、安定感とは真逆のジョブだ。これほどタンクに向かないジョブもなかろう。私一人ならともかく、前衛をするなら論外だ。


 『先導者』——いやさ、『扇動者』ですか? これはそもそも戦闘職ではないので、最初から却下だ。

 それに、コイツを取ったらキレたマナハスにぶち転がされそうなので、そういう意味でもやはり却下だ。


 最後の()()ジョブについては……正直、詳細が不明過ぎるので選びようがない、というのが本音だ。

 まあ『特定の人物(マナハス)』のことを第一に考えるなら、むしろこれが最適解の可能性もあるが……やっぱり不明な部分が多すぎる。

 私はマナハスに対することを運に任せるつもりはない。運に頼って期待値を上げるよりも、困難に対しては、それを超える死力を尽くした自分の力でもって切り開く方を選ぶ。不確定要素に頼るようなやり方は、私の流儀にはそわない。


 それに……先のことを考えたら、やはりこのジョブを選ぶことはない。

 このジョブは、マナハスと常に一緒にいることが前提だ。

 ずっとそう出来るなら、私だってそうしたい。それが出来るなら、このジョブでも何の問題もないのだろう。

 しかし、未来のことは分からない。それに私の考えでは、おそらく、そう遠くない未来、私とマナハスは別々の道を進むことになる……

 そう、マナハスと、いつでも、どんな時でも一緒にいられるとは限らないから……


 私はベッドの上に仰向けに体を横たえたまま、ウィンドウを操作して、ジョブ選択の最後の『決定』のところまで準備した。


 私が準備を終えたことにより少し緊張し始めたことを察したのか、マナハスの様子も真剣なものに変わっていた。


「それじゃ、マナハス、今からやるから……」

「ああ、分かった……」


 なんとなく空気が張り詰めていくような感覚を覚えつつ、私は『決定』を『選択』する。

 さて、どうなる……!?


 すると、突如として私の体に何かが流れ込んでくるような感覚がした。

 そして、体の隅々まで行き渡るように満ちていくこれは——力だ。

 自らの体が短期間で急激に作り替えられていくような錯覚——いや、これは本当に錯覚なのだろうか?

 ただ、私自身に備わっているこの特殊能力(ステータス)が、一段階上のステージに進んだということは明確に理解した。

 なるほど……やはりジョブを得てからが本番というのは間違いじゃなかった。

 それほどの違いがある、それを今、感じている……!


 ジョブの変更は、スキルのインストールのように若干の時間がかかった。

 しかし、それもそんなに長すぎるということもなく、そして、その間も特に問題になるような重大な副作用が発生することもなかった。

 ただ、他の何かが出来るほどの余裕があるわけではないので、無防備になるといえば確かにそうなのだけどね。


 そうして——私は特に何の問題もなく、ジョブを獲得することができた。


 心配そうな表情でこちらを見ていたマナハスに対して——なんかアレだけ前振りしといて結局何もなかったので、なんとなくその表情に対して申し訳なさと気まずさを覚えつつも——私は、問題なかったことを表すようにベッドから普通に起き上がりつつ、口を開く。


「……なんか普通に、なんの問題もなく終わったみたい」

「……みたいだな。ま、それでよかったよ。何もなくてさ」

「せっかくだから、やっぱりチューしとこうか?」

「ふん……耳元で(ささや)かれただけで死ぬくせに、耐えられるんですかー?」

「心臓が爆発しちゃうかも……でも、それで死ねるなら……本望……!」

「やだよー、返り血で服が汚れそう」

「服よりも私の心配をしてぇ〰〰! ……なんてね、その服にはちゃんと汚れ防止機能がついてるから、そんな心配要らないゾ☆」

「返り血浴びるのは確定なのかー?」


 改めて私は、自分の体について確認する。

 大幅にステータスが向上したことを感じる。例の三色のゲージの総量が一気に増えている。

 今までも、レベルアップするごとに上昇していたのはなんとなく感じていたけど、今回の上がり幅はそれらの比ではない規模だ。

 ジョブ機能、解放して正解だったな。感覚的にレベル10だった今までとは相当な差がある。

 この上、さらにジョブ専用のスキルや装備ってのがあるらしいじゃないの。そのへんも手に入れたら、いよいよもって凄いことになりそうだゼ……!


 とりあえず、ジョブの獲得の際に致命的な問題が起こることはないということも判明したし、ジョブを得ることでこれだけ強化されるなら、ジョブを取らない手はない。

 それでは早速、マナハスのレベルも15まで上げて、ジョブ解放するとしますかね。


「それじゃマナハス、次はそっちの番だよ」

「……おう」

「大丈夫、ジョブを取っても特に何も問題は起きなかったし、仮になんかあっても、私がそばに付いてるし。目覚めなかったら、ちゃんとキスで起こしてあげるから」

「そうかー、んじゃ、途中で寝ないようにしないとな」

「もう……。んじゃ、ポイント渡すから、これでレベル15まで上げてみて」

「レベル15か、一気に10レベルくらい上げなきゃだけど、どれくらい必要なの?」

「うーん、どうかな、とりあえず30万くらいあればなんとか……ま、足りなかったら言って、追加で渡すから」

「30万か、けっこうな量だなー」



 それからマナハスにポイントを渡してレベルを上げてもらい、彼女も無事レベル15まで上がった。

 ポイントは追加分は必要なく、渡した30万で結構ギリギリだが足りたみたいだった。まあ、レベルアップでもらえるポイントもあるしね。

 ただ、ジョブの獲得にもそこそこのポイントが必要になるので、その分はまた渡す必要があるかな。


 まあ、そんなことより、彼女のジョブの候補を確認だ。

 さーて、マナハスの素質とやらは、一体どうなっているのかね。楽しみだっ……!



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