第109話 コスチューム・チェンジ!
更衣室は、武道場のそばにある建物だった。
更衣室っていうから、なんか校舎の中の一角にあるのかと思ってたけど、独立した建物みたいだった。
私たちは女子更衣室の方に入ると、さっそく服を脱いでシャワーを浴びる。
私はシャワーを浴びている間にも、ウィンドウを操作して色々とやりたいことがあった。
思考操作というやつは、こういう時には便利だ。別のことをしながらでも操作できるわけだから。
私がウィンドウでやりたいこととは、アレだ、昨日も言っていたけど、私たちの服について。
どうせこの後着替えるわけなので、防具的なやつとか探してみることにしたのだ。
そしてマナハスについては、それに加えて聖女っぽい衣装も探したいところ。
そう思ってウィンドウを開いてみれば、初めに目に入ってきたのはお知らせのメッセージで——それはミッションのクリアを知らせるものだった。……ミッション?
——いや、昨日なんか受けたでしょ。たしか、【生存者の安全確保】みたいな内容だったやつ。
ああ、なんかそんなんあったな。……いや、すっかり忘れてたわ。完全に今思い出した。
てか何、クリアしたの? いつの間に?
……まあいいや。これも確認したいけれども、とりあえずまずは先に服を見よう。ミッションについては着替えた後で確認するか。
さて、ショップに服は売ってんのかね。種類はどんなもんかな、と……。
それから、シャワーを浴び終わった私たちは、シャワールームから出る。
マナハスはタオルで髪を拭きながら、私に話しかけてきた。
「ああ、カガミン、なんか着替え出してよ。アイテムんとこに何か持ってるでしょ?」
「オッケー、はいこれ」
そう言って私が渡したのは、ついさっき作成したマナハス用の防具、兼、聖女用衣装である。
「……ん、何これ?」
「マナハスのための衣装だよ」
「……いや、普通にアンタが持ってる適当な着替えを出してくれたらいいんだけど」
「いや、今更そんな普通の服とか着てられないよ。これさ、ショップで用意した防具的なやつだから、防御力もかなり期待できるよ」
「へぇ、そうなんか。……で、なんでこんなデザインなの」
そう言うマナハスの持つ衣装は、なにやらひらひらとした布がふんだんに使われている豪華な一品に仕上がっていた。
ショップの防具というか服の欄には、様々な服があった。——いや、服というよりは、そのデザインか。
服自体は防具として特に種類なんてものはなく、デザイン自体を改造することでいくらでも好きに変更できる、って感じのシステムだった。
そもそも、この服に関しても、装備品の一種として強化が可能な類いのアイテムみたいだったので、デザインごとに別々だったら個別に強化する羽目になる。
なので、ベースの素体があり、デザインは好きなように変更できる——と、そういう感じのシステムだった。
これなら、服の見た目を変えたくなったらデザインを改造すればいいだけで、強化内容は引き継がれるので安心だ。
そして服のデザインについては、プリセット的なやつから選ぶことも出来たし、自分で一から細かく変更していくことも可能のようだった。
なので私は、候補一覧の中からまず良さげなやつを見つけてきて、それに自分で少し手を加えることで、マナハス用の衣装を(シャワーを浴びている間に)完成させた。
そうして完成したマナハスの衣装は、私なりに聖女が着る服として相応しいデザインにしてみたつもりだ。
基本的には修道服のような形状をモチーフとしていて、そこに聖女のイメージに相応しいような荘厳さとか、煌びやかなイメージを加味してデザインしたって感じ。
「——なんでそんなデザインなのかと言われても……聖女に相応しいデザインってのを私なりに表現してみたんだけど。気に入らなかった?」
「これ、アンタがデザインしたの? え、装備の服の見た目って、そんな自由に変更できる感じのやつなの?」
「そうだね、自分で自由に変えられるよ。だから聖女に相応しい服ってのを、自分なりに表現してみたわけだよ」
「いや、聖女の服って……そもそもこんなん着る必要あんのかよ? ……つーかこれ、なんかあからさま過ぎるっつーか、コスプレみたいじゃねー?」
「コスプレくらいのレベルでちょうどいいんだよ。——大丈夫、この服、生地しっかりしてるし」
「生地の問題かぁー?」
「まあ、とりあえず着てみてよ。実際に着たとこ見てみないと、どんなもんか分からないし。サイズについては心配ないよ。たぶんピッタリだと思うから」
「ふぅん……まあ、そこまで言うなら、とりあえず着るだけ着てみるけど……。——いやちょっと待て、サイズピッタリって、なんで分かんの?」
「あっ、ゃべ……」
「いつの間に私のサイズを把握してんだよ、おい」
「……さ、ほら、鏡はそこにあるから、ささっと着替えてみなよ」
「いやいや鏡じゃなくて、火神さんよぉ、なんでサイズ知ってんのって聞いてんだけど? ——まさかお前、私が寝ている間に……?」
「いやいや、そんなんじゃないから! マナハス専用に作ったから、たぶん合うんだろうって、それだけだよ」
「は? 私専用ってなんだよ」
「いや……まあ、パーティーメンバーのサイズに合わせて作るって感じのやつがあったから、それ選んだというか」
「え、じゃあなに、私のサイズはすでになんか把握されてるってこと?」
「ぽいっすね」
「ええぇ……?」
「まあいいじゃん。ピッタリの服が楽に作れるんだから」
「いやでも、なんかなぁ……。それ、パーティー組んでる人なら誰でも私のサイズが確認できるってこと? それはちょっとなぁ……」
「いや……確認できるのは私と本人だけだね。私はほら、親元のやつだからじゃないかな」
「ふぅん、それなら、まあ……悪用すんなよ」
「別に、悪用しようにも……マナハスにピッタリのエッチな下着を作って、誕生日にでもプレゼントするくらいしか思いつかないけど」
「すぐさまそんなん思いつくじゃん……てか、お前からそんなん贈られても、どうしろってんだよ」
「いやそこはちゃんと勝負下着にしてよ」
「なんでちょっとキレ気味なんだよ」
そこからもマナハスは色々と言っていたけど、私はなんならちょっと怒っているくらいの強引さで押し切ることで、マナハスが着替えることを納得させた。……ふう、よかった。一件落着だ。
マナハスが着替え始めたので、私も自分用に作成した適当なデザインの服を着る。
その際に私は、装備ということで一応、その衣装を装備欄に装備してみた。
それから、ふと気になって、ものの試しに“装備の呼び出し”を使ってみた。
すると——突然、私の全身が光に包まれる。
うおっ——?!
「うわっ?!」
「ええっ?!」
マナハスと藤川さんが驚きの声を上げる。
光はすぐに収まった。
光の消えた後の私の体は——装備していた服を着た状態に変わっていた。
——これ……なるほど、そんな機能もあったのね。
……どうやら、これはそういうことらしい。
装備欄に「装備」している服にアクションすれば、一瞬で着替えられる。——今みたいに、光と共に衣装が変わって。
これは……まるでヒーローや魔法少女なんかが変身するときのやつみたいだね。
しかしまあ、すごい便利といえば便利だし……地味に使える機能だ。
ふむ、これ、今回は全裸の状態でやったけど、服を着た状態でやったらどうなるんだろう? ——地味に気になるな。
まあ、それはまた後でいいか。
なんだか人生初の方法による派手な着替えを一瞬で終えたところで、私は藤川さんに声をかける。
「藤川さんも、この際だから服作っとこうか?」
「ふえっ、え、わ、私の服、ですか?」
「まあ防具でもあるしね。デザインは、自分で好きなの選んでみればいいよ」
「わ、分かりました」
するとマナハスが会話に入ってくる。
「いやちょっと待って、アンタさっきの変身シーンみたいなやつはなによ」
「ああ、なんか装備してから呼び出ししたら、一瞬で着替えられるみたい」
「マジかよ、そりゃ便利だな。……てか、おい、お前のその服はなんだよ」
「え、なんか変だった?」
「いや違う、私はこんなコスプレみたいな服着るのに、なに自分だけそんな普通の服着てんだよって言ってんだよ」
「ええ……? そんなこと言われても」
「私にはこんな服着せるくせに、自分は普通の服着てるのはおかしくないー?」
「……分かったよ」
「おう」
「それじゃ私も、なんかそれっぽい服にするから」
「……いや、私にも普通の服着させろってことなんだけど」
「大丈夫、マナハスを一人にはしないから。私はいつも一緒だからね」
「いや、だからさ——」
「そういうことなら、私もお二人と同じような服にしたいのですが……私もご一緒しても、いいですか……?」
「もちろん! そういうことなら、藤川さんの服もバッチリそれっぽく仕上げないとね」
「いや、あのさ——」
「わ、私、服のデザインなんて自信無いんですけど……」
「まあ、そこは三人で協力すればどうにかなるんじゃない? 私も協力するし。——マナハスも、協力してくれるよね……?」
「……はぁ、分かったよ。なんか知らんけど、協力すればいいんでしょ」
「おっし、それじゃ、聖女の親衛隊に相応しい衣装を作ろう。なんなら、その聖女服についても、改めて三人でデザイン考えようか」
「分かりました! 服のデザインなんて初めてしますけど、なんだか少し楽しそうかもって思ったり、なんて——」
「そうだね、実際、私も結構楽しかったよ、アレ作った時」
「お前の言ってる楽しみは違うやつじゃん、絶対イタズラ的な楽しみ方してるでしょ……」
女三人、更衣室、服のデザイン。
さて、一体どんな服が出来るのか……素晴らしい服が完成しないはずがないよね……!




