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第07話 和解

「「よかった……」」


「はい! 先輩の言われたとおり検査で病気が見つかって……。

 でも、今なら十分治るって……」



 里桜さんは瞳を潤ませていた。


 やはり病気のことは事実だったのだ。

 「茜色の夢」が未来を示している例が一つ追加された。


 同時に、里桜さんがすっかり病気を克服して元気になる夢も正しいということだ。

 これから完治に向けて治療を続けていくのだろう。

 よかった。本当によかった。


 なかなかうまくいかなくて、

 一時はどうなることかと思ったのだけど。



「ちょ……バカ兄?」



 目頭が熱くなり涙がこぼれかけていて、俺は慌てて手で拭おうとする。



「……ごめん」


「もう。しょうがありませんわね。バカ……ううん、()()()()



 そう言って、愛利奈は取り出したハンカチで俺の目元を拭ってくれた。

 そのハンカチを俺に渡してくる。


「これ、使っていいですわ」


「いいのか?」


「うん。あたしは予備がありますわ」


「ありがとな。愛利奈」


「なななっ……。

 も、もう、そんな腑抜けた顔で学校に来られても困るだけですわっ」



 ぷいと愛利奈はそっぽを向いてはいるけど、声は弾んでいた。

 耳の先まで赤くなっている。


 俺たちのやり取りを見ていた里桜さんがふふっと微笑んだ。



「あ、ご、ごめん。見苦しいとこを見せてしまって」


「仲が良くて羨ましいです。あの、先輩、一つお願いがあります」


「んー、何?」



 里桜さんは、やや熱を帯びた瞳で俺を見つめて言った。



「私……来月に手術をすると思います。その前に、あの、先輩と……」



 言葉を詰まらせる里桜さん。

 何か言おうと口をぱくぱくとさせているけど、声にならない。

 両手に力が入っていて、震えていた。


 緊張が伝わってくる。


 そんな様子を見ていた愛利奈がフォローするように言った。



「お兄さま……今週末ヒマですわね。

 里桜さまと一緒に買い物に出かけていただけませんこと?」


「え。なぜ?」


「お、お兄さまに拒否権はありませんわ」



 俺の呼び方が「バカ兄」から「お兄さま」に変わってはいたけど、扱いはそれほど変わらないらしい。

 でも俺にとっては、それが心地よくて……。



「そ、そうか。予定はないから、じゃあ買い物一緒に行こうか、里桜さん」



 すると、「ありがとうございます!」と嬉しそうに言う下山さんがそこにいた。


 既視感……夢の中で告白をしてきた彼女とかぶる。

 俺たちは連絡先を交換し、詳しいことはあとで決めることにした。



「おっと、学校に遅れるからそろそろ行こう」


「はい!」



 買い物、つまりは彼女とのデートだ。

 そうか、春になるまでこうやって仲を深めていくのなら……半年先が楽しみになってきた。

 でも、と俺は思う。


 半年先まで待たなくてもいいのかもしれないと。



 ☆☆☆☆☆☆



 念願の日曜日、里桜さんとデートの日。

 俺たちは近所のバス停の前で待ち合わせをして、郊外のショッピングセンターまで出かけて映画を見る予定にしていた。


 俺は朝、ギリギリまで寝ているつもりだった。

 しかし、早朝に愛利奈に叩き起こされ、服装や身だしなみの厳しいチェックを受けることになる。



「これからは(わたくし)がしっかりお兄さまをチェックいたします!」



 な、なんか……俺に対する言葉使いは柔らかくなっていたけど、どうにも干渉がキツくなったような気がする。

 気のせいかな?



 ☆☆☆☆☆☆



 早起きしたかいがあり、待ち合わせの少し前に駅前に着いた。

 バス停に現れた里桜さんは、私服で制服の印象と随分違った。


 しかも、この田舎ではなかなか見かけない、桜色のフリルが付いたワンピースで少し大人っぽい雰囲気だ。

 お嬢様という言葉が似合うような、可愛らしい服に身を包んでいる。



「上高先輩、今日はよろしくお願いします」



 彼女は礼儀正しく俺にお辞儀をする。



「うん、よろしくね。里桜さん」



 休みの日に学校の後輩と、私服でお出かけ。

 こんなことは俺には経験が無く、とても新鮮だ。里桜さんの服も、白と桜色という色合いがとてもかわいい。これは、視線を集めるかもしれないなと覚悟をしつつ、つい見とれてしまった。



「あの、先輩……私変ですか?」


「いや、すごく似合ってていいと思う」


「あ……は、はい、よかった」



 やや頬を染めて、はにかむ姿に再び目を奪われる。


 俺たちはやや早く来たバスに乗り込む。車内は休みというのに空いていて、二人掛けの席に並んで座った。

 バスが揺れるごとに里桜さんと肩が触れる。近いけど、里桜さんは距離を取ろうとはしなかった。



「上高先輩は愛利奈さんと、とても仲がよいのですね」


「そうか? 愛利奈は家だと結構、俺への当たりがキツいんだけど」


「そうなんですか。ちょっと想像できないですね。私の前だと、ずっとお兄ちゃんお兄ちゃんって言っていて、とても可愛いんですよ」



 俺の方こそ想像できない。アイツ、学校で一体何してるんだ?



「うーん……そうなのか」


「はい!」



 愛利奈の話や学校での話など、他愛ない会話が続いた。里桜さんは、よく喋り、よく笑い俺もたくさん笑った。

 楽しかった。


 やがてバスはショッピングモールに到達。その頃には少し車内は混雑していた。


 バスから降りて早速映画館に向かう。席は里桜さんが予約をしていてくれて、隣同士だ。

 映画を見始めると、彼女は、ちょっとした音にもびっくりしていたようだけど、次第に慣れていったようだった。


 手と手が触れる漫画のような展開……にはならなかった。

 青春恋愛映画だったのだけど、ラストシーンでは里桜さんは泣いていた。



「あー、面白かったし、感動しました。上高先輩はどうでした?」


「俺も同感だよ。あんな恋愛ができたらいいなって思ったのと、やっぱ主人公がかっこよかった。ヒロインを守ろうとする姿が、とても」


「そうですよね……でも、私は、映画のように……守られるだけというのは……ちょっと寂しいですね」


「そうなんだ?」



 でも、好きな人に助けて貰えるのは嬉しいです、と里桜さんはにっこりして付け加えた。



「上高先輩、私行きたいお店ができました」


「お店? いいよ、行こう」



 俺は不意に里桜さんに手を繫がれると、彼女に引っ張られるように歩いて行く。

 里桜さんは何気なく手を繫いでいるように見えるけど、俺は伝わってくる手のひらのしっとりとした感触にドキドキしてしまう。



「ここです」



 俺たちは雑貨屋さんについた。様々な雑貨やアクセサリーがあり、その一角にたくさんのミサンガが壁一面にぶらさがっている。

 里桜さんはあっという間に並んでいるミサンガに夢中になったようで、どれが良いかなと考え始めた。


 さっき見た映画を思い出す——主人公とヒロインは、願い事を託したミサンガを身につけていた。おまじないの一つで、ミサンガが切れるときに願いが叶う、だったかな。


 今里桜さんの右手首には既にミサンガがあるはず。お兄さんからもらったというミサンガが。

 そういえば、と気付く。俺は繫いだままの手が気になった。



「あの、里桜さん、手……」


「あっ、ご、ごめんなさい」


「俺は別に構わないけどね」



 里桜さんは俺に指摘されさっと手を離してしまった。どうやら無意識に手を繫いでいたようだ。夢中になっちゃうところ、可愛いなあと思う。



「あ、あの……上高先輩、もしよかったらペアで買いませんか?」



 里桜さんは、さらっと一足飛びに俺たちの関係が進むようなことを言った。

お読みいただき、本当にありがとうございます!


【作者からのお願い】


「面白かった!」「続きが気になる!」など思いましたら、


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