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エピローグif

 



 両手には空になったマグカップを包み、日向ぼっこをしていたメリー君の身体を背凭れにさせてもらい、空中を無言で見つめたままのラフレーズの耳に誰かの足音が届く。徐に顔を上げると特徴的な前髪を後ろに流すも、すぐにピョロンと元に戻ったことに顔を顰めたクイーンがいた。



「クイーン様」

「隣座っていいか?」

「どうぞ」



 クイーンがメリー君に凭れられるように横にずれるとその場に座り込んだ。



「暗い顔をしてるな。後悔してるのか?」

「……いえ……」



『魔女の支配』の調査という名目でメーラに近付き、メーラが望むがままに恋人となったヒンメル。漸くその件が片付き、目を覚ましたヒンメルに婚約解消を告げた。たった一度だけ猶予が欲しいと願ったヒンメルの頼みを——ラフレーズは聞き入れなかった。



「あんなにも必死に私に縋る殿下は初めてでした。殿下が私とやり直したいと言った言葉にきっと嘘はありません。……ですが私が駄目なんです……」



 散々見せ付けられたメーラとの仲睦まじい光景。ラフレーズが何度苦言を呈そうと距離を置いてほしいと頼もうとヒンメルは聞き入れてくれなかった。メーラに近付いたのは目的あってのこと、そこに恋心がないとヒンメルが言おうとラフレーズにはヒンメルを待つ選択肢が存在しなかった。



「婚約解消はもう間もなく受理される。ヒンメルは未だにお前ともう一度やり直させてくれって、リックやベリーシュ伯爵に頼み込んでいるがな」

「お父様達はなんと?」

「ラフレーズが拒むなら、ラフレーズの意思を尊重する。とさ」



 国王も父シトロンも長年ラフレーズが受けて来た仕打ちを知っており、メーラに接近したヒンメルに忠告をしてくれた回数は多々ある。



「メーロは夫と次女共々、南国のハーレム王に嫁がせると準備を進めている。二日後には俺が転移魔法であの馬鹿達を南国へ送り届ける。ラフレーズ、最後に何か言ってやりたい事はあるか?」

「ありません。関わり合いにならないのなら、私はそれだけで十分です」



 あの時、母メーロに見捨てられたメーラの絶望した相貌が忘れられない。メーラの実母はメーロではなく、メーロの双子の妹アップルだと告げられ、母親にそっくりだと言い放たれたメーラは捨てられたくないと連行される最中必死にメーロに手を伸ばしていた。母に捨てられ、絶望的な未来だけが待ち受けるメーラに最後何か言ってやれと促されても、幸福から遠ざけられた相手に対して言葉は浮かばない。



「新しい王太子妃候補の選出は、お前達の婚約解消が成立次第すぐに始まるだろうな。ラフレーズにも求婚者がわんさか来そうだな」

「わんさかって」



 メリー君の身体に凭れていたラフレーズは極上の羊毛の触り心地に感謝しつつ、婚約解消となった自分に求婚者が現れるとは思えないとクイーンの言葉を否定した。



「一度、ケチのついた私に新しい婚約者なんて見つかりませんよ」



 父や兄メルローの補佐に回り、兄が結婚したら領地へ移り住み静かに暮らす選択肢だってある。

 暫く、社交界は騒然とするだろう。学院に入学してから恋人同士となったヒンメルとメーラの時でも十分騒がしかった。そこにメーラがトビアスと妻の双子の妹の子供でトビアス共々南国のハーレム王に嫁がされ、ヒンメルとラフレーズの婚約解消となる。他人の不幸は蜜の味。噂話や愉しい話が大好きな貴族達——特に貴族の女性達は、様々な理由を付けてラフレーズを茶会に呼び出し根掘り葉掘り聞く気でいる。


 学院を休むのは勿論、社交界にも当面出なくていいとシトロンに言われた。



「だったら、続けるか?」

「続けるとは?」

「俺がお前の恋人ってやつ」

「え!?」



 元々はメーラに夢中なヒンメルに一泡吹かせてやりたかったラフレーズと弱った精霊の調査をしたかったクイーンの思惑が合致して成立した関係。驚くラフレーズは、逆にどうして驚くのだと首を傾げるクイーンに慌てた。



「私と恋人でいる必要はもうないのですよ? 気を遣わせてしまったなら謝ります」

「気なんて遣ってない。ただ、短期間であれ、お前の恋人をするのは楽しかった」



 一緒に食事を摂ったり、精霊達と散歩をしたり、時にヒンメルに見せ付ける真似だってした。巷で囁かれる甘い関係ではなかったけれど、子供の頃から知っているクイーンと偽りの恋人関係は居心地が良かった。クイーンは無理をしている風にも見えず、ラフレーズを揶揄っているようにも見えない。楽しそうに笑ってはいるが真面目な視線でラフレーズの答えを待っている。



「私は……」



 両手で持っていたマグカップを下に置き、真っ直ぐクイーンを見つめた。



「クイーン様が受け入れて下さるなら、クイーン様の恋人でいたいです」

「そうか」

「本当に私で良いのですか?」

「良くなかったら言わないだろ」



 そう言われてしまえばそれまで。日向ぼっこをしているメリー君の身体に背を凭れたまま、クイーンに手を握られた。



「なら、改めてよろしくな。ラフレーズ」

「はい! クイーン様」



 クイーンの手を握り返したラフレーズは晴れ晴れとした笑顔を見せたのであった。


 


 


読んでいただきありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
全ての主だったキャラクターが、優秀でありながらそれぞれ残念の部分があり人間らしい。ラフレーズが一番痛々しい(* ̄∇ ̄*) ラストの聖獣の存在と自力発見は突飛な印象。 結末は作者さんの自由ですから、気に…
クイーンエンドのお話、すごく嬉しかったです!\(^ω^)/ サブタイトル『エピローグif』を見た時、何事かと思いましたが…。(^◇^;) ラフレーズ&クイーン、末永ーくお幸せに♪(●´ω`●)
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