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最高の笑顔の瞬間を探して

作者: 織花かおり

最高の笑顔の瞬間が思いつかないほどたくさんある、そんな人生が理想です。


「笑うのは、生物学上人間の特権なんだって」

その話を聞いたのは、たしか私が小学校3年生のころだった。

お母さんは、それこそ笑顔でいった。

「人間で良かったわ!笑顔ってすてきだもの!気持ちを明るくするものね!」

お父さんも続けていった。

「そうだな。お母さんは、いつも笑顔でいてくれるから、家の中が明るいな」

私も、その時笑顔っていいものだと思った。

やっぱり、あいさつした時、笑顔で返されると嬉しいし、お医者さんに笑顔で「大丈夫だよ」っていわれるとほっとするし。

だから、4年生の時、同級生のゆいちゃんが泣いているのを見て、笑顔になるように面白い話をしたの。

一番喜んでくれたのは、図工の時間に描いた犬が、夢の中で「もっとうまく描いておくれよ。でないと脚の長さが全部違って歩けやしない」なんて文句を言われた話だった。

ゆいちゃんは、泣き顔を笑顔にして「うふふふふ」って声をだした。

そして、それから一緒に登下校したり、遊びに行ったりする親友になった。

そんな経験もあって、やっぱり「笑顔」って人を元気にするんだ、笑顔ってすてきだなって、心の底から思って、人間以外の動物は可哀想だなって少し同情した。


そんなある夜、不思議な夢を見て……。

ゆいちゃんに話したあの犬が、私に頼みごとをしはじめたのよ。

アンバランスな身体をえっちらおっちらさせて近づいてきて、くりくりした目をぱちぱちさせながら私にぎゅっと抱きついていった。

「ななこちゃんたち人間だけでなく、ぼくも笑顔になれるよう魔法をかけてほしいの。それには、ななこちゃんが最高の笑顔になれる瞬間に『ルルル、ラララ』という呪文を言ってくれたらいいの。本当に最高の笑顔になれるときだからね!お願いするよ、ななこちゃん」

私は、ぱっと目を覚ました。

心臓がどきどき波打っている。

夢?うん、夢なんだろう。

でも、はっきり覚えている。

私が最高の笑顔になれる瞬間?

それって幸せじゃないとなれないよね。

自分でもとても興味が湧いた。


その夢を見た日から、2年経って、私は今年小学校を卒業することになった。

けれど、未だに最高の笑顔の瞬間が分からないでいる。

中学受験に挑戦して受かったことも嬉しかった。

ゆいちゃん家族と、全国の遊園地巡りをする瞬間も楽しかった。

でも、これが最高の笑顔かっていったら、分からなかった。

もしかしたら好きな男の子ができて両想いになった時かもしれないし、ピアノコンクールで賞を取る瞬間かも知れない。

だから、いつも部屋に飾ってある画用紙の犬に話しかけた。

最高の笑顔の瞬間が分からない。ごめん、ほんと待たせてごめんって。


そんな時、お母さんが衝撃の事実を言い始めた。

「ななこちゃん。弟か妹ができたらうれしい?」

私はテレビを止めて、ゆっくり振り返った。

いそぐと大切なその事実がこわれてしまう気がしたから。

「弟か妹……ですと?嬉しいに決まってんじゃん!!ずっときょうだい欲しいって思ってたんだから!!」

「そう、よかった~!!じつはね、ママ妊娠したの。ななこちゃん、中学生になってから、きょうだいができるって複雑な気持ちになるかな?って、いついうか迷っていたんだけど」

「もう!どうしてすぐにいってくれないの~!!もう、めちゃくちゃ嬉しいよ!!で、弟?妹?」

「それは、まだわからないよ。でも、元気に育ってるって」

「きゃー、もうどうしよう」

私は、ソファの上で足をばたばたした。

あっ!これって最高の笑顔の瞬間じゃない?

私は、『ルルル、ラララ』と呪文を唱えた。

お母さんが、びっくりしていった。

「ななこちゃん、なにそれ。嬉しくてどうかしちゃった?」

「ううん、最高の笑顔の瞬間にこの言葉を言うと、約束したの」

「その約束とやらを誰としたかはおいといて、もし赤ちゃんが無事生まれたら、もっと最高の笑顔の瞬間になるかもよ」

しまった!!

どうしよう?

あの子が笑顔になれない。

私は、あせって顔を青くした。

「でも」

お母さんは、私の様子を見てもおかまいなしに本当に嬉しそうに笑った。

「ななこちゃんが、自分の子供を身ごもったら、やっぱりその時史上最高の笑顔になるだろうし、最高の笑顔の瞬間ってアップデートされるのよね」

アップデート!!

そうだ、ほんとうにそうだ。

今まで最高の笑顔の瞬間かな?って思えたこと、どれもが嘘ではなく最高の笑顔の瞬間だったように思う。

私は、またこころからの笑顔になった。

あの子(=犬)が今度夢に出てきたら、ぜったい笑っているだろうな。けっこうかわいいかも。でも、待たせたから怒るかも。

私は、キッチンに立っているお母さんに声をかけた。

「手伝うよ。お母さん、お腹に赤ちゃんがいるんだから、無理しないで」

「ななこちゃん、ほんとうにうれしいのね」

「うん!私、うまれてきてよかったって初めて強く思ったよ。ありがとう、お母さん!」

『ルルル、ラララ』

「また、へんな言葉いってる。最高の笑顔の瞬間、アップデートしたの?」

「あはは、そう、そう、そのとおり。なんか眠るのたのしみ~」

「もう、ななこちゃんったら、ときどき訳が分からない変なこというんだから」

私は笑いながら、自分史上最高の笑顔の瞬間、それは死ぬとき、本当の最後の瞬間までアップデートできたらすごいな、なんてちょっと思った。

おわり



お読みくださり、ありがとうございました。

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織花かおりの作品
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作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点] 嬉しくて出る笑いって、本当に気持ちが良いですよね。 そういう笑顔は、見ている人も嬉しい気持ちにさせてくれます。 犬もきっと、にこにこ笑って、夢でお礼を言ってくれるんじゃないかな。
[一言] 「最高の笑顔」と限定されると確かに難しいですね。 笑顔はアップデートされるというお母さんの発想は素敵でした。 そうですね。 自分が今が最高だと思えば、最高が更新されていく制が素晴らしいと思い…
[良い点] 笑顔の瞬間ってその時その時が本当に楽しい瞬間だと思います♪ 心が暖まる物語で楽しかったです(* ´ ▽ ` *)ノ
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