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追憶のサンイチイチ・中編

 避難場所を作り、自室へと足を運んだ俺の目の前に広がる光景に、呆然とするほかなかった。

 家具は倒れ、棚はグチャグチャ、本や模型も壊れていると言う状態だが、やはり一番キツイのはデスクトップパソコンだろう。


「……見事にぶっ倒れてるなぁ。HDDが無事か確認したいけど、長居は無用か」


 一先ず目標の物は確認出来たので、パソコン本体は横倒しだったがそのままにして家を出る。

 何故なら小刻みな余震が続いて居て、家中が軋み悲鳴を上げているから。万が一を考えれば留まるべきでは無かった。


「どの道帰路の途中は信号やらも落ちてたし、電気も変電所がやられてるんだろう。起動確認出来ないのは仕方がない……いや待て、確か発電機があったか?」


 避難場所の倉庫に移動した後に、どうにか電源を確保できないかと閃いたのが、発電機の存在だ。

 ガソリン式の旧式発電機だが、パソコン位の起動確認は可能だろう。尤も、安定した交流電源ではないのでやりたくは無いが、どの道電化製品を使うには電気が欲しくなる。


「……あった! って、あー……えー。ですよねー……」


 思い立ったが吉日と親父の寝室を二階に備える旧倉庫に移動して、目的の発電機を発見したが、ダメだこりゃとなっている。

 何故なら、発電機のバッテリーが外れているからだ。これではどう頑張っても電気が起こせる筈も無い。


「あー、そう言えば親父が取り外して『隠して』たんだっだか。ったく、何で外しておくんだよクソッたれ!」


 因みに、親父は新品を仕舞い隠す癖がある。あれがあればいい、欲しいと電動工具や新品のバッテリーを買うのだが、それを仕舞って置いて使わない。

 挙句の果てに、交換する為の新品バッテリーを仕舞い込み、古いバッテリーで農機具を動かしたりすると言う悪癖がある。お陰で何度苦労した事か……。


「めんどくせー! ああもう、いいや……」


 動かない物はどうしようもなく、無い物強請りはしても仕方がない。俺は電気を諦めて石油ストーブが動くかを確認に回った。

 結論から言えば、問題なく作動した。因みに鍋やフライパン等も台所から持って来たので、簡単な調理は可能である。


「所でユウキ。煮沸すれば良いと言っても、ラジオで断水してるって言ってたけど、どうするのよ?」


 一応当面の避難用備蓄食材や資材はあるが、やはり人間は水が必要だ。断水しているという情報を母から得たが、ここで俺は一つの事実に気づいていたんだ。


「……いや、多分出る筈だ。とって来る」


 俺は、重機オペレーター。所謂建設業に携わっており、上下水道工事も行っている。故に、この家の水道管の本管、止水栓が何処にあるかも把握していた。

 確かに断水すると水は止まるが、『本管内に残った水』は圧力が無くても蛇口をひねれば出る事は知っていたんだ。


「ポリ缶、ペットボトル……よし! 水道は『まだ』生きている! 今の内に!」


 結果として、数十リットルの水も確保出来た。母はその水を見て大丈夫かと言うが、水道工事の経験のある俺から言わせれば何の問題も無い。


「因みにな、多分もう少しすると赤い水が出て来る筈だ。それは飲めないが、その前の奴だから問題ない。最悪煮沸すれば良いんだ……念の為、浴槽に水は溜めよう」


 飲み水の確保は終わったので、後は出る分を浴槽へ。これは水洗トイレなどに使う分として確保したのだが、やはり俺の読み通り浴槽が一杯になる頃には赤い水が出て来ていた。間一髪だったな。


「ま、取り合えずこれで当面は……あとは、弟と親父だが。その前にばあちゃんだな……」


 そう、確かに避難所を始め生活に必要な物はある。が、今は三月と言う東北ではまだまだ寒い時期だ。

 俺や両親、弟は良いとして祖母はこの気温に耐えられない恐れがある。どうするべきか……。


「車、は燃料が心許ないから暖を取るに適さない。長時間はエコノミークラス症候群の可能性もある。どうする、どうする……?」

 

 そんな時、車のエンジン音が近づいて来たので何事かと思って外に出れば──。


「従妹ちゃんに叔母さん! 無事だったか!」


 それは、隣り町に住んでいた従妹と叔母。常日頃から認知症を患っていた祖母の為に、足繫く家に通っていたので、地震で心配になりここにやって来たのだと言う。

 

「そっちもね……おばあちゃんは、大丈夫?」

「あぁ、何とかな。だが少々困ってるんだ……あの家の惨状でな、俺達はここでも寝れるけど、ばあちゃんはそうも行かない……所で従妹ちゃん、そっちの被害は無かったのか?」

「え? まぁ、あるにはあるけどそこまででは無いよ」


 因みに、従妹ちゃんの住む町ではライフラインは寸断されていないらしい。まぁ、家は古いからな……って、待てよ?

 被害が少なく、ライフラインが生きている? そこで俺はピンと来た。祖母は嫌がるかも知れんが、そんな事を言っている場合では無いと判断したんだ。


「なら、ばあちゃんを預かってくれないか? 少なくとも叔母さんと一緒なら、俺とここにいるよりはいいだろうと思う。難しいか?」

「え、うん。でも、おばあちゃんが嫌がるなら無理強いは出来ないけど……」

「いや、この際無理にでも連れて行った方が良いと思う。視ての通り、最低限の施設しかない。万が一を考えると、ちょっとな。済まないが、頼む」


 俺の問いに、従妹ちゃんも叔母さんも静かに頷いてくれた。祖母の世代になると、自宅を離れるのは嫌がるが、四の五の言っていられる状況では無いんだ。


「ばあちゃん、一先ず叔母さんと一緒にいてな。お薬類も渡してるから、大丈夫。家は俺が居るから」


 そう言って雪が強くなる中で祖母を送り出し、残った俺と母で避難所内をもう少し広げたりと言う作業をしていれば、瞬く間に夜の帳が落ちていた。

 電気は無いが、非常用に備えて居た懐中電灯や、サバイバルゲームで使っていたフラッシュライトで灯を確保し、寒さも石油ストーブに、間仕切りとして厚手のブルーシートを使い熱の拡散も防ぐ状態を何とか作り出す事に成功した。


 そんな状況下で、時間的には夜の七時頃だったか、弟が帰って来た。

 某チェーン店に勤めていたので、災害時の炊き出し、と言うか配給的な事をやって帰路に就いたそうだが、暗闇の中通行止めや迂回路を経由しまくってたので、この時間帯になったらしい。


「そいつは大変だったな……ま、コーヒーでも飲め」

 

 弟の苦労話を聞きながら、ストーブで沸かしたお湯で熱々のコーヒーを渡してやった。

 雪は小康状態にあるが、風が強く体感気温もかなり寒い。


「あんがと。でも参ったよ兄貴。明日も配給的な販売するんだって。俺もう車の燃料無いし、スタンドもやってないしどうすれば良いんだ……」

「ガソリンか……一応、20リットルなら俺の保管してた奴がある。使うか?」

「……兄貴、それは」

「人の為だろう? 行って来い。俺は何も出来ねぇが……まぁ、ガソリンの当ては無い訳じゃないからな」


 俺は技能職と言う扱いになるので、重機を使うような場所でなきゃ出番はない。弟はチェーン店の販売を行う立場。

 ならば人の為、やる事の方が良いに決まっていると思う。それに、実際ガソリンの当てがあるのもまた事実。


「ありがと、兄貴。ふー安心したら腹が減ったけど、何か喰いもんある?」

「大したもんは無いが、この非常食を喰いな。保存食のカレーとご飯だ。家のコメには劣るが、まぁ食えない訳でもない」


 と、言う辺りで湯銭で温めたカレーで遅めの夕食となった。その後もう一人、父親も帰宅したのだが……まぁ、第一声が凄まじい物だったな。


「なんだこの状況は」

「……なんだ、じゃねーよ。地震、停電、断水」

「停電? 発電機あっただろ。何で使わないんだ!」

「親父がバッテリー外して、隠してたから使えねぇんだよ! とっとと出しやがれ!」


 と、ぶっちゃけ言い争いとなった。正直俺は父親が嫌いだ。


「隠してるんじゃない。修理に出してるんだ」

「同じようなもんじゃねーか!? 予備は?」

「知らん」

「なんでだよ!?」


 すまし顔で言ってんじゃねーぞ! 滅茶苦茶殴り倒したい状況にあるが、何とか堪えた俺は褒められても良いと思う。いや、マジで。


「まぁいい。取り合えずラーメンを食べに行くぞ」

「は? 地震でライフライン落ちてるのに、やってる訳無いだろ!」

「帰って来る途中の店はやってた。から同じチェーン店もやってる筈だ、連れて行け」

「車を動かせるほど、ガソリンなんか余分にねーよ!?」

「備蓄位して置け」


 してたわ! それも、俺が個人で使う為にな。弟に全部使わせたけど!

 とまぁ、こんな具合に父親は、割と俺から見るとクソ親父なんだよな。


「良いから行くぞ!」

「カップ麺で我慢しろよ!? 今は非常事態!」


 と、怒りながらもなんとか諫めようとするが、結局俺が折れて少ないガソリンを焚いて、近くのラーメン屋に連れて行く事となった。

 当然やってる訳もなく、何でだ! とご立腹だったが、知った事ではない。

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