第5話 森の中の戦い
アイの手厚い配慮の下、リンとアイの遣いの神機との戦いがいよいよ始まるのであった。
そして、リンとアイは向い合っていたのである。そして勿論、彼女が拵えた神機『メカニカルハンター』がその傍らに鎮座していた。
無論、その姿はリンへの配慮で恐怖心を煽るものから一転、可愛らしい子供向け番組に出てくるようなロボットのキャラクターのような風貌となっていたのである。
そのアイの配慮に感謝しつつ、リンはこの勝負への意欲を燃やしている所であるのだった。
「それではアイ様。どうぞよろしくお願いします」
「うむ、お主の準備は良いようじゃのう? では、行くとするか……」
そう言うとアイは自身の念をアルテミスの力を備えた『メカニカルハンター』へと送るのであった。
すると、それに呼応するかのように彼のアイセンサーが眩く光り、まるで戦う意欲を見せる。
それが、戦いの火蓋を落とす合図となったようであった。それに便乗する形で、アイは意を決して言い切る。
「では、始め!」
その瞬間にリンと神の化身との勝負は始まったのであった。
そして、リンは咄嗟の判断で先制攻撃へと転じる。それは、敵が弓の使い手である事を即座に判断しての事であった。つまり、相手は適度な距離がないと得意の武器を使えないという事である。
そう判断したリンは迷う事なく野生の中で鍛えられた裸足を踏み込んで敵の懐へと突撃していったのであった。
そして、彼女はその勢いに乗せて拳を振りかぶり、一気にそれを相手へと打ち込む。
「はああっ!!」
その拳の一撃は見事にメカニカルハンターを捉えたようであった。その証拠に彼はその一撃に思わず後ずさりしてしまったのであった。
その瞬間にリンは思う──手応えあった、と。
ならば、もう一撃喰らわせるだけだろう。そう考えリンは次の攻撃を敵に加えようとする。
(もらっ……た、ってあれ?)
そして打ち込んだ第二撃の感触は、彼女に届く事は無かったのであった。その攻撃はものの見事に空を切ってしまったのであった。
まさかの空振りによろめくリン。そして、よろめいた事によりあられもない姿を……晒す事はなくしっかりとその足で体制を整えたのであった。
それをハラハラして見ていたミナトは口を挟む。
「良かった……『見えなく』て」
そう思わず漏らしたミナトを見ながら、リンは「はぁん?」といった風に彼を見やりながら小馬鹿にするかのように言うのであった。
「今の攻撃が空を切って体制を崩した事で、僕が転んで目も当てられない格好になると思いましたか?」
「ええ、それはもう」
そう返したミナトの切実なる想いであるのだった。
「でも残念でしたね、僕は物心ついた時からこの格好で過ごしているんですから、そうそう『見せる』事にはならないスキルが身についていますからね♪」
「それは心強いですね。でも、こっちとしては命綱なしで綱渡りしている人を、いくら訓練積んだからって平常心で見られないのと同等の意味合いですねぇ……」
それがミナトの心からの主張であった。彼の性格上、『絶対安全』等という言葉は信じ切らない主義なのである。
そんなミナトの、リンから見れば小心者な考えは取り敢えず保留にしておく事とするのであった。そう彼に臆病風を吹かせているのは他ならぬ自分自身である事は棚に上げているようだ。
リンの今抱えている問題は、断じて腰巻きスカートの内のすっぽんぽんの中身が見える可能性などではなく、今の二撃目をかわされた事に他ならないのであった。
彼女は確かにその目で敵の姿を確認していた筈である。それが見えなくなり攻撃が空振りになった事から考えられる事実は限られてくる所だ。
(これは、もしかして……)
そうある考えの一つに行き当たるリンであったが、一先ず考える事をやめたのであった。
それは、敵の攻撃が自分へと繰り出されたのを感じたからである。その事に彼女はいち早く察知する所であった。
「そこっ!」
言うや否や、リンはその手に何かを持ち、それを一気に振り抜いた。
すると、ガキィンというけたたましい金属音が走ると共に、何かが彼女の手で弾かれる事が分かったのであった。
そして、その弾かれた何かが空中で錐揉み回転をしながら地面へと落下したのである。
それらの現象を生み出したアイテム達、まず敵が放ってきたのは『矢』であったようだ。
それが今では空しく地面へと落ち、哀愁を誘う程にその軸はひしゃげてしまっていたのであった。
そして、リンの手に握られていたのは、無骨な木を削って作った武器『棍棒』が握られていたのだ。
その光景が示す事は一つであろう。その事をアイは口に出して誰にともなく言い聞かせるかのように言う。
「ほう、見事じゃのう。今のどこから来たとも分からぬ矢の一撃を、その棍棒で撃ち落としたという事じゃな?」
「はい、そういう事です♪」
アイに指摘された通りだと、リンはさっぱりとした様子で返すのであった。
そう、リンは咄嗟の判断で常に携帯しているゴブリンらしい棍棒を振り翳し、それで矢を弾いてみせたという事なのであった。
「へえ~……やりますね」
そのような芸当だと知ったミナトも、素直に感心した素振りで彼女を称賛する所であった。
それに気を良くしたリンは、少し悪乗りしてミナトに返す。
「そうでしょう♪ だから僕が穿いてない事がバレるような事態になりはしないって事が分かるでしょう?」
「いえ、それは別の問題です」
ミナトはきっぱりと断っておいた。こういう事は、はっきりさせておかなければならないだろうから。
ともあれ、その事には余り頓着しないリンは再び意識を戦闘に戻す所であるのだった。
「という訳ですからアイ様。僕にそう簡単に矢の攻撃は通るとは思わない事ですよ」
「ほう、それは頼もしいのう。じゃが……」
意気揚々とのたまうリンに対して、アイはそこで断りを入れるが如く続け、自分の遣いへと指令を出すのであった。
すると、どこからともなく、電子で作った気配がピリピリと放出されたのであった。それにリンは反応する。
「これは……!? 敵さんの放つエネルギーという事ですね……」
「そういう事じゃ。そして分かるじゃろう? 今彼がどこにいるか見当もつかない事を?」
そのアイの弁を聞いて、リンは「確かに」と思う所であった。
それは当然だろう。何せ、敵の気配はこうして感じさせられたのに、その敵が今どこにいるのか全く分からないからである。
だが、そのからくりへの予想は粗方ついているリンは、ここで強気の姿勢で返すのであった。
「でも、どうにかなるでしょうアイ様? なので、遠慮せずに掛かって来て下さいね?」
「ほう、これは強気に出たのう……?」
そんなリンの姿勢に感心しながらアイは返し、「では」と言って自身の遣いに新たな指令を脳内で出す。
(ここいらでパンチじゃ、メカニカルハンターよ)
その指令を受け、遣いはすかさずに攻撃に転じるべく動く。
そこから先は一瞬であった。『いつの間にかリンの目の前に現れていた』ハンターは、その鋼鉄の拳で以てリンへと攻撃を繰り出したのである。
その突如として起こった展開。だが、リンはそれにも労する事なく対応してしまうのであった。
「いきなり現れて攻撃ですか? でも、そう簡単にはいきませんよ?」
そう余裕で以て言ったリンは、その拳の一撃を軽々とかわしてみせたのである。まるで、その攻撃が来る事が分かっていたかのように。
その光景を見たアイは、驚きながら彼女に聞いた。
「ほう、今の攻撃が分かっていたと?」
そのように聞いたアイであったが、どうやら話はそういう訳では無かったようだ。
「いえ、僕は野生育ちですから。肌の感覚が敏感になっているんですよね」
そう頭を掻きながら、リンは照れ臭そうにはにかむのであった。
その仕草は少女の外見に相応しく、可愛らしいものなのだった。なので、願わくばここでリンの話は終わっておいて欲しかったものであった。
「ですから、その敏感さを鈍らせない為にも僕はノーパンを貫いているのですよね」
「…………」
ミナトはそのリンの弁に反論しようと思ったが、どうやらうまい言葉は出て来なかったようである。
ノーパンは公序良俗に反するからおいそれと許す訳にはいかないが、しかしそれがリンの強さの源となっていた点で胸を張って咎める事が出来なかったのであった。
それは、彼自身が常に憧れの父を目標とするが為に、自身が鍛錬して強くなりたいという願望を持っているからであった。だから、彼はその者が強くあれる要素を奪うという事は愚の骨頂だという持論があるのであった。
故に彼は苦渋の選択をした後、リンに対してこう言うのであった。
「……ノーパンは応援しませんけど、頑張って下さい。リンさんは自分の道を突き進んで下さい」
「あ、良い事言いますね。ありがとうございます」
「……どういたしまして」
ミナトは取り敢えずそう言っておく事にしたのであった。
このやり取りで、これから先ずっとリンはノーパンをやめないどころか自身すらつけさせてしまっただろう。だが、それを止める権利は自分には無いとミナトな自身に言い聞かせるのであった。
このように、一人の少女が一線を越える事となってしまったのであるが、今の問題はその少女の勝負の行方だろう。
そして、今再び彼女は眉をしかめるに至っていたのである。何故なら、またも敵のハンターは姿を眩ましていたからであった。
つまり、再度敵に隙を与えてしまったという事なのである。これは身の削るギリギリの勝負において致命的と言えよう。
なので、ここでリンは賭けに出る事としたのであった。読みが正しければ、これでこの状況を打破出来る自信が彼女にはあったのであった。
しかし、もし違えば敵に大きく好機を与えてしまうだろう。そうなると、一気に自分が不利になってしまう所なのだ。
こうして、次で決定打を与えるべく腹を括ったのであった。負けたくはないが、ここぞという時に勝負に出ないようでは問題であるからだ。
そして、再び敵が出現する時を狙って、彼女は意識を集中し始めたのであった。
そんなリンへと、アイは再度彼女に見えない所からハンターを出現させてみせる。
そして、場の空気が一気に変わる。再びハンターがリンを捉えるべく彼女の目の前に出現したのであった。
その瞬間、彼女は目を見開き、
「この時を待っていたよ!」
そう言って懐から矢を弾く時にも使用した棍棒を素早く引き抜きながら高らかにその攻撃の名前の宣言をしてみせる。
「『熱い棍棒っ!!』」
その宣言と共にであった。彼女の手に持った棍棒が赤く光と熱を発したのである。
そして、即席の火力兵器と化したその棍棒を、一気にリンは敵のハンターへと叩き付けたのであった。
それにより、辺りにはエネルギーの爆ぜと熱の奔流が生み出されて包み込まれる事となった。
「すごい……」
この展開にミナトは素直に感心する所であるのだった。
一介のゴブリンがこのような芸当をしてみせたという事実に、彼はただただ舌を巻くしかなかったのである。もはや、彼女はそんじょそこらの小鬼であるという評価は覆さなければならないだろうと思う所であった。
しかし、ここでも彼はやるせない心持ちとなるのであった。当然この攻撃は激しいものであった為に、案の定リンの腰巻きスカートは危なげにはたはたとはためいていたのだから。
それでも肝心の中身を見せるには至っていない辺り、彼女のノーパンスタイルは熟練の域にまで達しているという事なのだろう。
そして、熱とエネルギーの奔流は漸く収まる事となるのであった。
その後にあったのは、腹部が派手に抉れたハンターの姿であるのであった。
このような状態でも、彼にはパロディアスの決闘の方式により物理的ダメージの感覚は走ってはいなかったのであった。
彼は機械の動力で動いているからである。生物ではない為に、このような状態になっても問題なく戦う事が出来るのである。
そう、これだけの損傷を負っても、まだこのハンターの戦闘能力は健在という事なのである。その事にアイは触れながら言う。
「わしのハンターはこうなってもまだまだ戦う事は出来るぞ。対して、お主の方は少々無理をしたのではないのか? わしの直感だと、今の大技は余程のエネルギーを消費すると見える」
そのアイの弁に、リンは否定する要素は皆無であるのだった。現に、彼女は息を荒げながら答える事となったのだから。
「ええ……この技は消耗が激しいから……連発が出来ないのが難点なんですよね……」
呼吸が荒くなりながらそう言う彼女の姿は妖艶なものとなっていた。ノーパンである事も相まって。
(やっぱりいけませんよねぇ……)
なので、ミナトは何度でも思う所であるのだった。だが、一方でこうも思っていたのであった。
(──でも、この勝負。リンさんの勝ちみたいですね♪)
そう心の中で結論付けたミナトは、後は彼女の勝利に至るまでの過程を楽しみに見させて貰おうという腹積もりに決める事としたようだ。
そんな心持ちを抱いた外野のミナトの事は露知らずに、リンとアイ達は向かい合っていたのであった。
その空気の流れを動かすべく、リンが口にする。
「それでは、勝負の続きをするとしましょうよ?」
「そうじゃのう、このまま見合っていても埒が明かないというものじゃからな♪」
リンの意見にそう同意するアイであったが、同時にこうも思う所であるのだった。
「しかし、また続けてもいいのかのう? わしのハンターはまた姿をくらましてお主を狙うぞい」
「僕の処女をですか?」
アイの挑発めいた台詞にリンはおどけて返すのであったが、ミナトはまたも頭を抱える所であるのだった。
(リンさん、その言葉はあなたの格好の関係で洒落になっていませんって……)
いつこの小説が18禁指定になってしまうのかと、ミナトは気が気ではない心中だ。
そんなミナトの葛藤の事を全く意に介していない当事者の一人であるアイはリンに言葉を返す。
「いや、お主はまだわしから見れば幼いからのう。こんな姿で言っても説得力がないかも知れぬが。ともあれ、今言ったようにこのまま続ければお主の不利になるのではないのかのう?」
言外に降参を促すアイであったが、一方でリンが『これ位の事で』折れない事を察して期待する意味合いでもあるのであった。
そして、どうやらリンはそのアイの期待に応えてくれるようだ。
「心配には及びませんよ。もう『僕の有利』は覆りませんから♪」
「ほう……」
その言葉にアイは興味を持つ所であった。それだけ強気で出て来れるのだから、よっぽどの理由があるのだろう、と。
なので、百聞は一見に如かずである。それが何かをリンから聞き出す前に、行動で明らかにする事をアイは選んだのであった。
「では、もう一度姿をくらませてもらうぞ……?」
そう言って自身の遣いに脳内で指令を送ると同時に、彼女が違和感を感じたのを代弁するかのようにリンは言い切る。
「ええ……『出来ませんよね』?」
そう彼女が指摘する通りであるのだった。その事が示す事実をアイは口にする。
「何とも……わしのハンターの『光学迷彩』を破っていたとはのう……」
それがハンターが視界から消え去る芸当のからくりであるようであった。彼は自身の姿を光を屈折させて認識出来なくしていたという事なのだ。
そして、その効果を発動する為には、自身のボディーの表皮が整っている事が必要不可欠なのであった。
だが、知っての通り今のハンターにはリンの渾身の一撃により窪みを穿たれた状態であるのだ。これでは光を屈折させる為の表皮がうまく機能しないというものであろう。
こうして自身の奮闘により好機を手繰り寄せていたリンは、ここから強気に出るのであった。
「そういう事です。では、今度はこちらから行きますよ♪」
そう言うとリンは一気にハンターとの距離を詰めると、すかさずに自らの足捌きで彼の体制を崩したのであった。
「ほう、『けたぐり』とはのう……」
「これも……どうかって思いますねぇ……」
けたぐり自体はごく普通の格闘技であるが故にそれだけでは問題はないのであるが、無論これもリンの格好が問題なのであった。
「その格好で、足技ってのは危険だと僕は思う所なんですよね」
またも無垢な少年の神経を逆撫でするような事をリンはしでかしたという訳であった。
だが残念。(ミナトにとっての)(ある意味)地獄な展開はここからが本番という事なのであった。
見事に咄嗟のけたぐりによりハンターの体制を崩したリンは、今が好機と踏んで一気に畳みかけていく。
「行きますよ!」
そう言うと、リンはあろう事かその足で高らかに見事な跳躍を見せたのであった。
さすがは森の中で育った野生の肉体という事であろう。その足捌きから生み出されるバネは見事の一言であるのだった……が。
「その格好で、ジャンプって……何考えてんのや~!!」
その事実にミナトは普段の温和な口調を崩して地球における関西弁のような口調でツッコミを入れてしまっていたのであった。
そんなノーパンでジャンプという公序良俗そのものに喧嘩を売るような暴挙の前にも、彼女のその中身は見えずに済んでいたのである辺りはさすがとしか言えないだろう。
無論、リンは男心を弄ぶ所業をして喜ぶ事をしている訳ではなく、純粋に敵への迎撃を行いたかった訳であり。
「はあっ!!」
その裂帛の叫び声と共に彼女は宙に跳躍した状態から飛び蹴りを繰り出していたのであった。
そして、その蹴りは見事にハンターに突き刺さる事となり、彼の身体には更なる窪みが刻まれてしまう事となったのだ。
とてもそれは裸足という柔肌丸出しの状態から繰り出されたものとは思えない程の芸当であるのだった。この辺り、さすがは何か人間にはない特価した能力を持った魔物らしさと言えるかも知れない。
「やりおるのう……」
このリンの奮闘には、アイも素直に感心する所であるのだった。だが、どうやらこれで終わりではなかったようだ。
「アイ様。これだけで感心して貰っては困りますよ♪」
ハンターに今蹴りを入れている体勢のリンはそこで意気揚々というと、ここで新しい動きを見せるのであった。
その行動とは、彼女の登場時以来音沙汰の無かったこうもりの翼を稼働させるというものであったのだ。こうして普通のゴブリンにはない代物に対して、再び活躍の場が与えられたという事なのであった。
彼女は、そのこうもりの翼をパタパタと羽ばたかせると、そこに発生した遠心力によって、再び宙へと飛び出していったのだ。
それも、今度は足による一時的な力の跳躍とは違い、永続的に翼で羽ばたきながらの上昇であるが故に、その効力はより高いものとなっていたのだ。
地球の生物界からの視点で見れば、人間の少女程の体を持つリンを、申し訳程度のサイズのこうもりの翼では持ち上げる事は不可能だろう。そもそも、こうもりの身体は翼が大半を占める事で飛行能力を獲得させているのだから。
だが、ここは地球外の惑星パロディアス、そしてこのゴブリンバットたるリンは普通の生物のルールから逸脱した存在である『魔物』であるのだった。だから、彼女には我々地球の住人の常識は通用しなかったのだ。
そして、そのこうもりの翼によりより高く宙へと舞ったリンは、その状態で見下ろすように敵へと目を向けるのであった。
そう、彼女は目標を補足し、的確に射貫くべく意識を集中したのである。──ここで彼女は勝負を決める心構えを見せたようだ。
その後の行動は早かったのであった。彼女はその宙から「はあっ!!」と先程よりも強い口調で掛け声をあげると、そのまま再度足を出しながら敵へと突っ込んでいったのであった。
「いやいやいやっ!!」
そんな高い高度からの跳び蹴り。アブないにも程があるのでミナトは思わず手を振って取り乱してしまうしかなかったのだった。
しかし、それでもリンの大切な所は披露されるような惨事にはならないのであった。
この辺り、様々な意味でリンはノーパンを極めている猛者と言えるのではないだろうか。そして、本当の意味での猛者である所も披露される事となったのである。
こうもりの翼で飛翔してからの蹴りの一撃は見事にハンターへと突き刺さり、それは稲妻の如く彼に直撃をしたのであった。
そして、激しい轟音と共にハンターの身体は崩壊し、派手な爆発を伴って砕けてしまったのだった。
後は、敵が本当に倒された事を重々に見届けたリンは、ここで自身の勝利を確信するに至ったのである。
◇ ◇ ◇
そして、その結果がアイからもリンへと伝えられる事となった。
「おめでとう。この勝負、お主の勝ちじゃ。そして、最後まで気を抜かない姿勢も見事の一言じゃ」
そのアイからの労いの言葉を聞いて、ここでリンは確実に安堵の気持ちを噛み締めるに至るのであった。
「つまり、これで僕の勝ちは決定したって事なんですよね?」
「勿論じゃ、じゃから胸を張っていいぞ」
そう言ってアイはリンに向かってはにかんで見せたのである。
この事が決まれば、後はリンがベストロット皇国にスカウトされて、そこで働く話を話題に持ってくるだけだろう。
そこで、リンはふとある事に思い至ったのであった。
「それでアイ様。僕があなたの皇国で働く事になったら、出来たら今のようにノーパンのままで働けるような仕事が欲しいのですけど……どうでしょう」
「ダメに決まって──」
「そうじゃのう。お主のポリシーを曲げる事はしたくないから、何とか配慮してみよう♪」
「ありがとうございます♪」
(…………)
ミナトは呪うしかなかったのであった。多数決の無慈悲さや世の理不尽さというものに対して。