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Cafe Shelly

Cafe Shelly 夢、ゆめ、ユメ

作者: 日向ひなた

 まただ、あの感覚が襲ってきた。

 目の前に広がるのは、とても今の自分達の生活とは違う空間。そこには今まで見たことのないような光景が広がっている。

 あるときはバラ色に包まれたような、とても幸せな感覚。そこで僕はたくさんの女性に大モテな生活を送っている。かと思えば、密林のジャングルの中で何かと戦っている自分がいる。見たこともないような最新武器を手にして、これまた見たことのないような怪物とバトルを繰り広げている。

 これは夢だ。それはわかっている。だからこそ、そのあとのストーリー展開は自分が望んだように進んでいく。とまぁ、ここまでは普通の人でもよくあるのだろうが、僕の場合は一つだけ大きく違う。

 そのときの感覚がとてもリアルであり、かつ現実世界にも大きな影響を及ぼしてしまうということだ。

 大モテの自分がいたときには、起きた後に胸にキスマークが残っていた。怪物とバトルしたときには、腕に傷跡が残っていた。他にも似たようなことが度々起きている。

 これは夢なのか、現実なのか、そのときにはまったくわからない。いや、下手をすると今起きているという感覚のこのときが夢なのかもしれない。そう思えるくらいだ。

 そして今夜も、眠ったと思ったらこのリアルな感覚に襲われた。今夜の舞台は…

「こんにちは、何してるの?」

「えっ!?」

 突然話しかけてきた女の子。とてもかわいらしい。自分と同じ高校生くらいかな。できるなら、こういう女の子と彼女になりたい。

「あはっ、私を彼女にしたいんだ」

 あちゃっ、この世界では自分が思ったことが現実になる。だから、思ったことが相手にバレバレになっちゃうんだ。

「いいよ、私も一人ぼっちはさびしいから。ね、これからでかけましょ」

 夢の中の彼女がそう言うと、場面は一気に街なかに移った。これも夢だからこそできることだ。それを僕は自覚しながら、夢の中の彼女とデートを始める。

「名前、なんていうの?」

「僕は信玄。親が戦国マニアでね、強い武将の名前をつけたかったんだって。でも、見たとおり身体はひょろひょろ。運動も苦手だし、名前のせいで馬鹿にされることが多いんだ」

 そうなんだ、名前負けしている自分につよいコンプレックスを持っている。一見するとガリ勉タイプに見えるみたいだけど、勉強だってさっぱりという成績。僕には何一つ取り柄がない。だからいつもこうやって、夢の中の世界に逃げ込んでいる。

「君の名前はなんていうの?」

 夢で出会えた女の子。髪が長くて目もぱっちり。モロ自分好みの女の子。まるでアニメの世界からでてきたような子だ。

「私の名前はゆめ」

「ゆめ、かぁ。まさにピッタリの名前だ」

 夢の中に出てきた夢のような女の子、ゆめ。

「信玄、一緒に行きたいところがあるの。よかったら付き合ってくれる?」

「えっ、も、もちろん」

 今までになくドキドキしている。どうしてだろう?

 夢の中で大モテになったこともある。大富豪のような生活で、美人を周りにはべらせたような経験もした。けれど、今までのそれとは大きく違う。

 その理由はもうわかっている。僕はゆめに一目ぼれをした。現実の世界でも、こんなに激しい気持ちになったことはない。これが恋ってやつなんだな。この胸の高鳴りは、僕にとってはとても貴重で心地よいものだ。

 ゆめは大胆にも、僕の手を握って駆け出していく。ゆめのやわらかい手の感触がリアルに伝わってくる。夢の中なのに、このぬくもりと柔らかさははっきりと感じられる。

「ここなの」

 ゆめが連れてきたのは、とある街なかの路地。目の前には小さなビル。ゆめは僕の手をつないだまま、このビルの階段を登っていく。

カラン・コロン・カラン

 ビルの二階に上がり、木の扉を開けると心地よいカウベルの音が鳴り響く。そして僕はコーヒーと甘い香りに包まれる。なんて心地良い空間なんだ。

「いらっしゃいませ」

 おねえさんの声。少し遅れて渋い男性の声が聞こえる。どうやらここは喫茶店らしい。

 ゆめはお店の奥の窓際のテーブルへと移動する。僕もその隣りに座る。

「ここがゆめの来たいところなの?」

「うん、こうやってここでデートしたかったの」

 ちょっと照れながらそう言う。なんてかわいいんだ。ここであらためてお互いのことを話す。

 ゆめは僕と同じ年齢で、今度高校二年生になる。マンガやイラストを書くのが趣味で、よく空想の世界を楽しんでいるとか。僕も似たり寄ったりなので、似た者同士だね、と笑った。

「信玄は将来、どんなことをしたいの?」

 ゆめからそう言われて、はたと考えた。僕は将来何をしたいんだろう?そんなことを考えたこともなかった。

 このとき、さっきまで喫茶店の空間だったものが一転して真っ暗な空間になった。そして僕はグルグルと回りつづける。

ストンっ

 急に落ちる感覚に陥ったと思ったら目が冷めた。そうだ、これは夢だった。とてもリアルな夢。

 気がつけばもう朝。現実の、つまらない一日が始まる。そういや、明日から学校だ。新学期が始まるんだったな。このところ、ずっとぐうたら生活だったから、そろそろ現実の生活もしっかりやらなきゃ。

 明日から高校二年生。クラス替えがあるわけじゃないので、顔ぶれはかわらないことはわかっている。僕はどちらかというと控えめで暗い性格キャラなので、特に仲がいい友達がいるわけではない。普通に話すヤツらはいるけれど、放課後は帰宅部で一人で時間を過ごす。

 だから、夢の中だけは自分の世界だと思って自由に振る舞っている。物語の主人公になって、大活劇を繰り広げている。こういうのを中学生の頃からやっている。

 それにしても、今回の夢の中に出てきたゆめには、もう一度会ってみたい。今夜、もう一度ゆめに会いに行ってみよう。

「信玄、こんにちは」

 夢の世界に入るやいなや、ゆめの方が待ち受けていた。これにはびっくり。

「ゆめ、会いたかった」

「私も信玄に会いたかった」

 夢の中ではもうお互いを呼び捨てで言い合っている間柄。僕は間違いなくゆめに恋をしている。そしてゆめも同じ気持ちでいてくれているのが伝わる。

「今日も、あの喫茶店に行きましょ」

 こうして僕はゆめとのデートを楽しむ。夢の中の世界なのだから、ゆめに対してどんなことをやってもいい。僕だって高校生の男、だからエッチなことも考えてしまう。

 以前見た夢の中では、そんなことを楽しんだ。けれど、夢の中のゆめにはそんなことをしようとは思わない。本気で好きになった相手だから、リアルな世界と同じように、できるだけゆめに好かれたいと思っている。

「そうそう、ここのお店のコーヒーって変わってるんだよ。その人が望む味がするんだって。飲んでみない?」

 そういえば、せっかく喫茶店に来ているのに飲み物を注文することすら忘れてゆめとの会話を楽しんでいたな。

「へぇ、なんだか面白いコーヒーだね。じゃぁ早速注文をしようよ」

 すると、店員のおねえさんがいつの間にか僕たちの前に現れる。

「コーヒーを二つ、おねがいします」

 ゆめが注文をする。そしてまた僕の方を向いてニコリと笑う。こんな夢のような時間がずっと続けばいいのに。あ、夢の中だった。

「ところで信玄は将来どんなことをやってみたいの?」

 将来の話、それは前にも聞かれた。そういえばあれから考えていなかったな。

「えっ、えっと、それは…」

 言葉に詰まる。

 そのとき、また周りが一転して真っ暗な空間になり、僕はグルグルと周りながらどこかへ落ちていった。

ストンっ

 こうしてまた夢から覚めてしまった。どうやらゆめの「将来なにをしたいのか」という質問に答えなければ、あれ以上前には進めないらしい。これは本気で将来を考えないと。

 そして新学期が始まった。

 去年と変わらない顔ぶれ、去年と変わらない学校。この現実の世界に、僕が刺激を受けるようなものは何一つない。夢の世界のほうがよっぽど楽しい。

 夢の中にでてくるゆめが、現実の世界でも本当にいればなぁ。ゆめは僕が創り出した理想の女の子なのだろうか。それともどこかに本当にいるのだろうか。

 こんなことをボーッと考えながら、高校二年生の初日が終わった。なんの刺激もない一日が。

 帰り道、そのまま家にかえるのも面白くないので何気なく本屋へ立ち寄った。そういえば自分の将来を考えないと、また夢の中のゆめとに聞かれるだろう。さて、僕は将来何をしたいのだろう。

 そう思って何気なく「就職ガイドブック」なる本を手にした。そこには世の中にあるいろいろな職業が並んでいる。パラパラとめくってみるが、ピンとくる仕事がみつからない。

 結局僕は、将来何をしたいのだろう。そして何になりたいのだろう。特に得意な科目があるわけでもないし、大きな興味もない。

 いや、一つだけ興味はある。それは夢の中の世界。あれだけはっきりとした感覚を持った夢を見られるのだから、そこに何か意味があるはずだ。でも、これが将来なりたいものとは直結していない。

 また今夜もゆめに会いに行きたい。けれど、最後のあの質問に答えなければ、二人の関係は前には進まない。どうやって攻略すればいいんだろう。

 そんなことを考えていた時に、一人の女子高生とすれ違った。

「えっ!?」

 一瞬のことだったのでよくわからなかったが、何か違和感がある。どこかで会ったことがあるような、そんな気持ちになった。

 けれど、それを確かめる前にその女子高生は自転車で去っていった。

「いや、まさか、ね」

 僕の脳裏を横切ったのは「ゆめ」の姿。まさか、本当に実在している、なんてことは…

 その日の夢も、ゆめとのデート。いつもの喫茶店でいつものように会話を楽しむ。そして今度は自分の望んだ味がするというコーヒーを早めに目の前に置くことができた。

 そのコーヒーを飲もうとしたときに、ゆめが例の質問をしてきた。

「信玄は将来、なにをしたいの?」

 今までこの質問をされると、僕は迷ってしまっていた。その気持がそのまま反映されて、暗い渦の中に飲まれ込んでいく。

 今日はそうならないよう、まずは自分の気持ちをしっかりと保つ。そしてこう答えた。

「僕はまだ、将来なにをしたいのか見つかっていなんだ。まだそれを模索している。僕になにができるのか、僕がなにをしたいのかを」

「だったらこのコーヒーを飲むといいよ。そうすればきっと見つかるから」

「コーヒーを飲むと将来が見つかる?」

「うん、飲んでみてよ」

 ゆめの言うとおりに、僕はコーヒーを口にしてみる。どんな味がするんだ?

「えっ、なんだ、これは?」

 コーヒーという黒い物体が、グルグルと僕の舌の上で回り始める。そして僕の意識は、また黒い闇の中へグルグルと引きずり込まれそうになる。

「信玄、どうだった?」

 夢の言葉でハッと我に返った。あやうく、また黒い闇の中に引きずり込まれるところだった。

「なんか妙な感じがした。黒い闇の中にグルグルと引きずり込まれるような感覚がした。これが僕の望んでいる味なの?」

「わからない。私のときはぜんぜん違う味がした。だから信玄に会えたのに…」

 だから僕に会えた?それってどういう意味なのだろう。

「ゆめはどんな味がしたの?」

「私が飲んだときの味、それは…」

 このとき、ゆめは確かに何かをしゃべった。けれど、なぜかその部分だけ僕の耳には届かなかった。なぜなら、このときに目覚ましがけたたましく鳴り響いたからである。

「ちくしょう、もう少しでゆめの望んでいるものがわかったのに。それにしても、コーヒーを飲んだから僕に会えたってどういう意味なんだろう?」

 この部分が疑問なまま、また退屈な現実の一日が始まった。

 この日もなんということもなく一日が終わり、僕は帰路についた。だがこの日、将来の夢をもう少し考えたくて今度は図書館へ足を向けた。ここなら気兼ねなく、ゆっくりと将来の仕事について見つけることができるかもしれない。

 早速、就職に関する情報が置いてあるコーナーへと足を運ぶ。昨日、本屋でパラパラとめくった就職ガイドブックなるものを見つけ、早速手にする。そして席に移動しようとした時、一人の女子高生とすれ違った。

「あれっ?」

 デジャブ、一瞬そう感じた。けれど、この感覚ははっきりと覚えている。昨日、本屋で感じたあの違和感だ。

「まさか、いや、そうだ!」

 僕はあわてて女子高生を追った。そして、彼女が椅子に座る。彼女は窓際の、両側が仕切られている一人用の席に着く。そのため後ろ姿しか見えない。なんとかして彼女の顔を見たい。さて、どうする。

 じっと待つか、それとも思い切って声をかけてみるべきか。

 いつもの僕だったら、おそらくじっと待つほうを選択する。もともと消極的な性格で、しかも相手は女の子。自分から声をかけるなんて、とんでもない行為だ。

 けれど、このときはなんとなく「夢の中」にいる時と同じ感覚になっていた。夢の中ならなんでもできる。自分が思った通りの世界を展開できる。だから、ここで決断した行為、それは「思い切って声をかける」だった。

 そう判断して、僕は早速行動に出た。

「あの、すいません」

 彼女の方をポンポンと叩いて、そして声をかける。

「はい」

 そして彼女が振り向く。その瞬間、彼女の顔がとても驚いた表情に変わった。

「えっ、うそっ、なんで!?」

 図書館では出してはいけない大きな声でそう言う彼女。だが、僕は逆の驚きだった。

 僕は彼女がゆめだと思って声をかけた。振り向く直線まで、それを期待していた。けれど、僕のイメージとは違う女の子がそこにいた。

 そこにいたのは、メガネをかけてにきびがたくさんの、そしてほっぺが赤い女の子。僕が夢の中で見たゆめとはあきらかに違う、はずだった。けれど、その女の子が次に発した一言がそれを打ち消した。

「信玄…」

 見知らぬ女の子がどうして僕の名前を知っているのか?その答えは一つしか考えられない。

「ゆ…め…?」

 そう言うと、その女の子は急いで机の上を片付けて、僕の前を避けるように駆け出していった。僕も急いで女の子を追いかける。追いかけながら考えていた。あの子がゆめなら、どうして逃げるのか。

 図書館の外に出たときに、少し大きな声でこう叫んだ。

「待って、ちょっと待って、ゆめ、待って!」

 そのとき、女の子の足がピタリと止まった。そしてうつむいたまま僕の方をゆっくりと向いた。

「きみ、ゆめなの?」

 息を切らしてそう尋ねる。すると、女の子はちいさくうなずいた。その仕草は夢の中に出てくるゆめとは大違い。夢の中のゆめは、いつも大胆に僕を引っ張ってくれる。すごく積極的な女の子。しかし、目の前にいる夢はそれとは正反対。

「君も、夢の中で僕に会っているよね?」

 これに対しても、小さくうなずく。やっぱりこの子はゆめなんだ。

 あらためてゆめの顔、姿を見る。よくよく見れば、確かに夢の中で出会ったゆめの面影がある。髪の長さ、背格好は同じ。違うのはメガネをかけてにきびがたくさん、そしてほっぺが赤いこと。そして持っている雰囲気、これが大きく違う。

「信玄が本当にいたなんて…ご、ごめんなさいっ」

「あ、いや、謝られても…でも、僕も驚いた。本当にゆめがいたなんて」

 そう思うと、急にドキドキしてきた。僕は夢の中のゆめに恋をしている。では、現実のゆめにも恋を…

「信玄、少し話をしてもいい?」

「あ、うん、いいよ」

 図書館の外にあるベンチに腰掛けて、あらためて自己紹介をしあう。ゆめは駅裏の学園高校の生徒で、僕と同じ高校二年生。部活はやっていなくて、毎日のように図書館に来て本を読んでいるということ。

「でも、どうして僕とゆめは夢の中で出会えているんだろう。僕は毎晩のように不思議な夢を見ていたんだ。そんなとき、ゆめが現れて。そして毎回同じ喫茶店に行って楽しく話をしていた」

「私もそう。信玄と喫茶店で話をしていたの。でも、ごめんなさい…」

「ごめんなさいって、どういうこと?」

「だって、私、わたし…」

 そう言うとうつむいてしまうゆめ。

「ごめんなさいっ」

 今度はそう言って駆け出していくゆめ。

「ちょっと待ってよ!」

 慌てて追いかけていくけれど、今度は追いつかない。結局、ゆめの「ごめんなさい」の意味がわからないままだった。

 まぁいい、今夜も夢の中でゆめには会えるはず。それを期待して夢の世界へと飛び込むことにした。

カラン・コロン・カラン

 夢の世界は、あの喫茶店の扉を開くところから始まった。

「いらっしゃいませ」

 いつものようにマスターと店員のおねえさんがにこやかに僕を迎えてくれる。いつもならすでにゆめが窓際の席で僕を待っている。が、今日はそこにはゆめはいなかった。

「あれ、いつも座っている女の子は?」

「女の子?今日はいらっしゃっていませんが」

 そうなんだ。待っていたら来るのかな?けれど、この日は待てど暮らせどゆめは現れなかった。おかしい、夢の中だから自分の思った通りにことが進むはずなんだけど。

 よく考えてみろよ。そもそもゆめが現実に存在して、僕の存在を知っていたということは、ゆめも僕と同じように夢の中の世界をはっきりと自覚していたことになる。ということは、ここは夢の中の世界であっても現実と同じように考えないといけないのか?

 ということは、ゆめが僕に会いたくないと思えば、ゆめは僕の前には現れない。そもそも、ごめんなさいの意味がわからない。

「何かお悩みですか?」

 店員のおねえさんが僕の姿を見て、そう声をかけてくる。

「あ、はい。実は…」

 僕はおねえさんに、事の次第を話した。

「なるほど、そういうことがあったのですね。それで、そのゆめちゃんはこの夢の中の世界と現実とでは見た目に違いがあったのですね。それならごめんなさいの意味がわかるわ」

「ど、どういうことですか?」

「信玄くん、だったね。信玄くんはこの夢の中の世界で、ゆめちゃんに自分をどう見られたいと思っているのかな?」

「僕ですか?僕はかっこよくて、男らしくて、明るい自分って感じかな」

「だから、今はそんな感じでここに現れているんじゃないの?」

 そう言われてあらためて自分の姿を見る。この世界にいる僕は、僕の理想とする姿となって現れている。

「そうか、ゆめも同じだったんだ。あれがゆめが理想とする姿。けれど現実は違う。だからそのギャップに対して申し訳ないと思ったからごめんなさいなんだ…」

 そんなことを言えば、僕だってごめんなさいだ。今の姿と現実とでは大きな差があるのだから。

「だったら、僕はゆめに対してどうすればいいんですか?」

 おねえさんに質問する。しかしおねえさんは答えてくれない。マスターの方を向いてみるが、マスターもにこやかな笑顔を見せるだけで何も答えてくれない。その答えは自分で見つけるしかないのか。

 ここで思い出した。ここのコーヒーは望んだ味がするということを。ひょっとしたらその答えがコーヒーから見いだせるかもしれない。

「す、すいません。あのコーヒーを一つ、お願いできますか?」

「かしこまりました」

 マスターはコーヒーを淹れ始める。もうこれにかけるしかない。僕がゆめに対してどうするべきか、その答えを見つけるにはこれしかない。

「おまたせしました」

 おねえさんがコーヒーを運んでくる。僕は急いでそれを口にする。味は、味はどうなんだ…

 目の前にゆめが現れた。そして、一緒にこのコーヒーを味わい、会話を楽しむ、その姿が見えた。

 つまり、現実の世界でもそれをやれということなのか?

 ここで目が覚めた。いつものリアルな夢。けれど間違いなく僕はあのコーヒーを飲んで、ゆめに対しての答えを見出した。でも、夢で出てきたあの喫茶店は、あのコーヒーは本当に実在するのだろうか?

 次の日の放課後、僕はまた図書館へ足を運んだ。ゆめは毎日のように図書館に来ていると言っていた。だからまたいるはずだ。

 けれど、この日はいくら探してもゆめの姿は見当たらなかった。僕に会うのが嫌になったのだろうか。

 僕はゆめに会いたい。その姿が夢の中のゆめとは違ったとしても、それでもいい。現実の世界でゆめに会いたい。その気持ちが大きく膨らんできていた。

 この日は残念ながらゆめには会えなかった。となると、残る手段はやはりあの喫茶店、これにかけるしかないのか。けれど、あの喫茶店はどこにあるのだろう。よし、今夜はその手がかりを探すぞ。こうして、また今夜も夢の中の世界へと足を踏み入れる。

 夢のスタートは喫茶店の入り口。いつもならここで扉を開けて入るところだが、今日は違う。最初にゆめが僕をここに連れてきた時に見た周りの風景。これをもう一度確認しよう。

 ビルの階段を降りて、通りに出る。その通りはパステル色のタイルで敷き詰められ、道幅はそう広くない。両側には煉瓦でできた花壇があって、チューリップが咲いている。その通りにはいろいろなお店がある。そして大きな通りを出たときに、ようやくこの位置がわかった。

「うん、この店は実在する。よし、明日は土曜日だから早速行ってみよう」

 思えば僕は、土日になるといつも部屋に閉じこもっていた。友だちと遊ぶこともなく、何か趣味に没頭するわけでもなく。テレビとマンガ、そしてゲームに明け暮れていた。

 こんな僕じゃ、ゆめからの質問「将来なにをしたいのか」に答えられるわけがない。もう一度よく考えろ、僕は将来なにをしたいんだ。

 夢の中でそのことを考える。やはり、この答えはあのコーヒーに聞いてみるしかない。何か答えが出てくるはず、何かヒントを得られるはず。よし、この答えが出るまでは夢の中でこの喫茶店に行くのはやめよう。ここでゆめに会えても、僕は何一つ成長はしない。

 その後、不思議な事に夢をまったく覚えていない。いつもならはっきりとどんな夢を見たのかを覚えているのに。僕にしてはめずらしいな。

 そうして目が覚めると土曜日。いつもなら十時くらいまで布団の中でゴロゴロとしているのだけれど、今日は七時には体を起こした。おかげでお母さんがびっくりしたくらいだ。

「今日はちょっと出かけてくるから」

 そのセリフに、お父さんまでがびっくり。お前、熱でもあるのかとまで言われてしまった。

 朝ごはんを食べ終わると早々に、あの喫茶店を探しに家を出た。自転車をこぐこと二十分、夢の中で見た路地に続く大通りへとやってきた。ここは駅に続く通りなので何度も通ったことがある。あとは路地に続く入口を見つけるだけだ。

 ここからは自転車を降りて、慎重に歩いて探す。すると、路地の入口は意外にも簡単に見つかった。

「ここか。今までこんな路地があったなんて知らなかったな」

 生まれてからずっとこの街に住んでいたのに。大通りや観光地は知っていても、街なかの小道なんて気づきもしなかった。

 いよいよ路地に足を踏み入れる。ここからはさらに慎重になってあの喫茶店を探す。確かビルの二階だったな。

 きょろきょろしながら歩く。確かに道はパステル色のタイルで敷き詰められている。道の両側にはレンガでできた花壇があって、チューリップが咲いている。そして道の両側に並ぶお店は雑貨屋、洋服屋などいろいろなお店がある。すべて夢で見たとおりだ。

 そのとき、ひとつの黒板の看板を見つけた。

「Cafe Shelly…カフェシェリー、ここだ!」

 看板の置いてあるところのビルを眺めると、見たことがある階段がそこにはあった。この上にあるんだ。

 僕の胸は高まった。階段を一歩一歩上がるたびに、ドキドキ感が大きくなっていく。そしてその扉に手をかける。

カラン・コロン・カラン

 夢で見たのと同じ音がする。扉を開けると、コーヒーと甘い香りが僕を包み込む。これも夢と全く同じだ。

「いらっしゃいませ」

 女性の声、それにつづいて

「いらっしゃいませ」

 男性の低くて渋い声。どちらも聞き覚えがある。まさしく夢の通りの声が聞こえてくる。僕はおそるおそるお店に足を踏み入れる。

 お店の中の光景も、夢と全く同じ。カウンターがあって、お店の真ん中に丸テーブルが会って、窓際に半円型のテーブル。そこは僕とゆめがいつも座っている席。その席に女の子が一人座っている。

 えっ、まさか、うそだろう。

 僕はもう一度、窓際の席に座っている女性を見る。

「ゆ…め…?」

 僕の声に反応したのか、その女の子はゆっくりとこちらを振り向いた。

「しん…げん?」

 僕の顔を見て驚く。そして僕も驚く。なんと、そこにいたのはゆめだった。

「ど、どうして信玄がここに?」

「ゆめもどうしてここに?」

 さっきまでの胸の高鳴りとは違う、別の鼓動が僕を襲う。急に顔がほてりだす。手に汗もかいているのがわかる。

「そうか、この男の子がゆめちゃんが言っていた子なんだ」

 店員のおねえさんがお冷を持ってきてそう言う。ゆめは黙ってうなずく。

「はじめまして。でも、私とは夢の中では何度か会っているんでしょ」

「えっ、それをどうして知っているんですか?」

「ゆめちゃんから聞いたの。まぁ座って」

 僕はゆめの隣に腰掛けた。するとゆめは僕の方を向いてこう言う。

「ごめんなさいっ」

「どうしてごめんなさいなの?この前もそうだったよね。あれからその理由を知りたくて、ゆめのことを探していたんだ。夢の中にも現れてくれないし」

 ゆめはまた黙り込んでしまった。

「その理由は私から話してもいいかな?」

 おねえさんがゆめをフォローする。するとゆめはまた黙ってうなずいた。

「ゆめちゃんと信玄くんが見ていた夢。これは明晰夢っていうの。夢の中で夢であるってことを自覚しているでしょう」

「はい。不思議だなとは思っていたけれど、夢の中の世界が楽しくて。そんなときに夢の中でゆめに出会えたんです。そしてこの喫茶店も」

「そのことはゆめちゃんからも聞いているよ。ゆめちゃんも随分前から明晰夢を見ていたけれど、現実と夢の世界の区別がつかなくなってきて困っていたの」

 現実と夢の区別がつかない。確かに僕もそうだ。というより、現実の世界より夢の世界のほうが良くてそこに逃げ込んでいた。ひょっとしたらゆめもそうだったのかもしれない。

 おねえさんの話は続く。

「もう見てもわかると思うけれど、現実のゆめちゃんはとても臆病で引っ込み思案。けれど、そんな性格を何とかしたいと思って夢の中では自分が理想としている性格、理想としている姿になって現れたの」

「それ、僕もわかります。僕も夢の中ではとても活動的で、カッコイイ自分になっています。でも、現実の僕はそうじゃない。いつも一人ぼっちで、休みの日も家の中でずっとゲームをしている、そんな性格なんです」

 ここでようやく気づいた。どうしてゆめが「ごめんなさい」と言ったのかを。

「その表情なら、どうやら気づいたみたいね。ゆめちゃん、現実の世界で信玄くんに会ったときに、最初は嬉しかったけれど本当の自分を見られて恥ずかしかったのよ。その上、夢と現実のギャップでがっかりしたんじゃないかって思って。そのことは昨日ゆめちゃんから聞いたの」

 ゆめの方を見ると、顔を真赤にしてうつむき加減で僕の方を見ていた。なんだかその姿がかわいいって感じた。

「かわいい」

「えっ!?」

 やばっ、口に出してた。けれど、僕のその言葉でうつむいていたゆめはパッと顔をあげてくれた。だから、僕は勇気を持って言葉を続けた。

「ゆめ、かわいいよ。ゆめは謝ることなんてないよ。僕の方こそ謝らなきゃいけないのに。僕は夢の中でゆめに出会えてとてもうれしかった。そして今、現実の世界でもゆめに会えてる。それがすごくうれしいよ」

 今度は顔を真赤にするゆめ。その姿がまたかわいらしい。

「ゆめちゃん、大丈夫って言ったでしょ。信玄くんは現実のゆめちゃんを見たからって、幻滅なんてしないって」

 おねえさんがそう言ってゆめをはげましてくれる。

「信玄…あのね、わたし、わたし…」

 もじもじしながら何かを言いたそうにしているゆめ。ここで大きく深呼吸。そしてふたたび、パッと顔をあげる。

「わたしね、信玄のことが…」

 ここで僕に肘打ちするおねえさん。そして小さな声でこう言う。

「信玄くん、男の子でしょ」

 最初は意味がわからなかった。が、そうかと思ってゆめの言葉をさえぎった。

「ゆめ、そこから先は僕に言わせてくれるかな」

 そして今度は僕が深呼吸。ゆめの両肩に手をそえて、僕はゆめの目をしっかりと見る。

「ゆめ、僕はゆめのことを…」

 この先のセリフ、頭のなかではスラスラと言えていた。これが夢の世界だったら、もちろんかっこよく、キザにキメてみせるところ。

 だが現実になると、ここから先のことをなかなか言うことができない。あれっ、どうして?思ったように口が動いてくれない。

 時が止まった。

 言え、早く言えよ、その先をちゃんとゆめに伝えるんだ。

 焦れば焦るほど、口は重たくなっていく。口の中が乾いてくる。緊張がさらに高まってくる。

 時を動かしたのは、このお店のマスターだった。

「二人とも、まずはこれを飲んでみないか」

 そう言って持ってきたのはコーヒー。僕とゆめ、それぞれに差し出してくれた。

「マスター、ちょうどいいところでジャマしちゃだめよ」

「ははは、まずはお互いの気持ちをシェリーブレンドで確認してからでも遅くはないだろう」

 おねえさんとマスターがそんな会話を交わす。ちょうどよかった、口の中がカラカラで言葉が出せないところだったから。

「夢の中でゆめちゃんから聞いているだろう、このコーヒーのこと」

 マスターの言葉に驚いた。人が望んだ味がするコーヒーって実在したんだ。

 僕は黙って、コーヒーに口をつけた。

「えっ、なにこれ?」

 びっくりした。コーヒーと思って飲んだのに、まるでチョコレートドリンクのように甘い。いや、味は確かにコーヒー、けれどとても甘く感じる。これは砂糖の甘さじゃない。とても不思議な味だ。

 ここでふとゆめの方を見る。すると、とてもニコニコしている。

「ゆめちゃん、どんな味がしたの?」

 おねえさんがゆめに尋ねる。

「はい、いつもの味。すごく甘くて、そしてあたたかくて。幸せの味」

 驚いた。僕と同じような味がしたんだ。

「じゃぁ、信玄くんはどんな味がしたかな?」

「あ、はい。僕もすごく甘い味がしました。確かにコーヒーの味なのに、まるでチョコレートドリンクみたいな。でも砂糖のような甘さじゃなくて、なんていうんだろうなぁ…」

「ふふふ、ゆめちゃんと同じじゃない。ということは、二人とも想いは同じってことだね」

 そう言われて、急に顔が真っ赤になった。ゆめも顔が真っ赤になっている。

「二人とも、言葉にしなくても想っていることは同じなんだよ。だから、安心して夢の中と同じようにしてみるといいよ」

 おねえさんはそう言って、ウインクをしてカウンターの方へと戻っていった。そうして僕とゆめはふたたび向かい合った。

 夢の中と同じことって言われても、これからどうしよう。迷っていると、ゆめが照れながらこんなことを聞いてきた。

「信玄、将来はどんなことをやってみたいの?」

 夢の中でゆめがいつもしている、あの質問だ。僕はこれに答えられなくて、いつも夢から醒めてしまっていた。けれど今は現実の世界。夢から醒めることはない。

「それ、気になっていたんだ。いつも夢の中でゆめはその質問をしていたよね。どうしてなの?」

 ゆめはちょっとうつむいて、恥ずかしそうにこう答えた。

「私ね、夢があるの。将来やってみたいこと。それを人に話したくて。でも話せる友達はいない。話せるのはここのおねえさんとマスター、そして…」

 ゆめはそう言うと僕を指差した。

「夢の中の信玄、あなただけだったの。でも、私が話そうとする前にいつも夢から醒めてた。どうしたら話せるのか、ずっと迷ってた」

 ゆめが自分の夢を語ろうとするその前に夢から醒めてしまう。その原因は僕に会った。僕がゆめの質問に答えられないから。だからゆめは自分の夢を話せずに終わっていたんだ。

「そういうことだったんだね。僕はいつもその質問に答えられなくて悩んでいたんだ」

「えっ、悩んでたの?」

 ゆめの意外そうな顔。僕は話を続けた。

「僕には夢がなかった。将来のことを全く考えていなかった。だから、夢の中でその質問をされたときに、頭の中がグルグルになって、そして夢から醒めてしまっていたんだ。だからゆめの夢の中ではその場面で終わってしまっていたんだと思う」

「ごめんなさい。私が変な質問しちゃってたから、いつも信玄を悩ませていたんだね」

「そんなことはないよ。おかげで僕は将来のことを考えるきっかけになった。けれど、ついさっきまで明確な答えはなかったんだ」

「ついさっきまで?」

「そう、ついさっきまで。でも、ゆめにこうやって出会えたおかげで、夢の気持ちが確認できたおかげで、将来の夢が一つ見えた」

「どんなこと?」

「それは…」

 ここで緊張が走った。また口の中が乾く。おちつけ、信玄。

 ここで無意識に、コーヒーに手を伸ばした。

 さっきの甘い感じに加えて、今度はゆめの姿がそこに感じられた。その姿は白いウエディングドレスに身を包んでいる。その横にタキシード姿の僕がいる。そう、まさにそれが僕の将来の夢。

「僕は、ゆめと一緒にいたい。これからもずっと。一生をかけて。それが僕の望んだ未来、僕の将来の夢」

 言った後、とても恥ずかしくなった。だって、まだ会って間もないゆめにプロポーズしちゃったんだから。

「信玄、ありがとう。私の夢、叶えられそう」

 ゆめは恥ずかしがりながらも、僕の言葉を受け入れてくれた。けれど、一つ疑問がある。

「ゆめ、一つ教えて。リアルに会ってちゃんと話をしたのはまだ二回目だよね。なのにどうして僕のことを受け入れてくれたの?」

「うふふ、知りたい?」

 今度は笑顔でそう言うゆめ。さっきまでとはちょっと雰囲気が違う。

「うん、教えて欲しい」

「あのね、私信玄と会うのはもう何度目になるかわからないくらいたくさん会っているの。だから、私のことをわかってくれるのは信玄だけだって、そう思っているから」

「何度も会っている?確かに夢の中じゃ何度か会っているけど。それもまだ数えるくらいしかないと思うけど」

「信玄は気づいていないだろうけれど、私たち、ずっと昔から会ってた。今の信玄になる前から。何百年もずっと」

「ど、どういうこと?」

「私たち、前世からずっと一緒にいることを繰り返してた。だから私の夢は、前世から一緒にいる信玄と、また今世でも一緒に暮らすってことなの」

 にわかには信じられない夢の言葉。

「前世って、ど、どういうこと?」

「私ね、それを夢で知ったの。だから、信玄とはいつか会える。そう確信してた。けれど、こんなに若くして会えるなんてびっくりだったから」

 ちょっと背筋がゾクッとした。ゆめの言っていることが本当だとしたら、ゆめと僕が出会うのは運命だということなのか。それはそれでうれしいけれど、ちょっとオカルトっぽくなってきたな。

 あらためてゆめを眺める。ついさっきまではちょっと怯えていた子鹿のような雰囲気があった。けれど前世の話になった途端、大人の女性の雰囲気を漂わせている。

「信玄…どうしたの?ボーっとしちゃって」

「あ、いや、ちょっとびっくりしちゃって。あ、トイレに行ってくる」

 そう言って立ち上がった瞬間、めまいがした。急にクラクラとなって、あの夢のときのようなグルグルと暗闇に引きずり込まれる感覚がした。その直後、僕は意識を失った。

「えっ!?」

 次に目を覚ましたのはベッドの上。僕はパジャマ姿で、窓からは朝日が差し込んでいる。

「ちょ、ちょっとどういうことだ?ここは…」

 あたりを見回すと、僕の部屋。あわててスマホを見ると日付は4月5日。新学期の始業式の前日。ってどういうことだ?

「ひょっとして、今まで体験していたのはリアルな夢の世界だったってことか?」

 おいおい、下手なSF小説の夢オチってやつかよ。それにしても夢の中で夢を見て、それがやたらと長い時間続いていたとは。じゃぁ、ゆめって女の子は実在しないのか?

「信玄、いつまで寝てるの」

 母さんが叫ぶ声が聞こえる。やっぱりこれが現実の世界か。

 しぶしぶ体を起こし、朝ごはんを食べる。さて、今日はなにをして過ごすかな。

 ここでふと、図書館に行ってみようとおもいついた。まさかとは思うが、ゆめがそこにいるのではないかという期待があったから。

 昼前に図書館に到着。目はゆめの姿を探している。が、そんな女の子は残念ながらいない。あたりまえだよな。全ては僕が夢の中でつくりだしたお話なんだから。

 窓際の一人席に座る。そして外をぼーっと眺める。そのとき、ふと背中に何かを感じた。

 振り向いたときには、一人の女の子が通り過ぎたあとだった。その後姿を見た時、思わずこうつぶやいた。

「ゆめ?」

 その言葉に女の子が振り向いた。

「えっ?」

 そして目があったときに、女の子がこう言った。

「信玄?」

 これが本当の、僕とゆめの現実の世界での出会いになった。


<夢、ゆめ、ユメ 完>

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