導入
俺は上原啓介。43歳男性。
無職引きこもりの、人生詰んだどうしようもないヤツだ。
俺の人生、そんなに悪いことばかりではなかった。
小学校では成績優秀、高校では委員長を務めたり・・・まあ、人生の前半分にばかり重点がいってしまったのか、年を数えるにつれ、どんどん冴えなくなってしまい、もはや人生の後半は消化試合。
そこで、没入型ゲームといわれるモノに人生を飲み込んでもらう覚悟をした。
現実世界の肉体は献体として解剖され、脳だけを培養してプレイするという・・・なんとも倫理観が怪しいものだが、実際にこういうゲームが流行りだしてからは、いわゆる臓器問題が解決していくケースが増えたのだとか。
まあ、俺の場合は人生を投げたいが故に、ゲーム世界に逃げるわけだが。
幸い、ゲームを始める初期費用の手持ちはあった。
覚悟は出来ている。
もう捨てるものはない。
「上原さん、あなたの献体で救われる命があるんです」
と、医者に言われたときは、正直言ってうれしかった。
ただ、何かを蔑視されたような気はしたが。
43歳無職だからしょうがないか。そりゃ軽蔑もされるわ。
「僕は卑怯者です」と言えれば、どれだけよかったか。
まあ、もう脳だけになってしまったから、口もなければ声帯もない。ぐうの音も出ない。
そうして、43歳無職のファンタジー生活が始まったのだ。