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第五話 無自覚系錬金術師、職業で驚かれる

「おーい、ユーディット! デュマ様!」


 ふと誰かに名前を呼ばれたので振り返ると、先程町長の家にいた若い女性がこちらに向かって手を振りながら歩いてきていた。


「どうかしました?」


「町長が、助けていただいたお礼に是非デュマ様に泊まっていただきたいと言っておりまして。如何でしょうか?」


「まあ。デュマさん、是非とも今夜は我が家に泊まっていってください」


 そこまでしてもらうのは何だか悪い気もするが、実際問題として今日の宿はまだ決まっていない。


 それに、町長さんならば今の世界で錬金術がどうなっているのかを詳しく知っているかもしれない。

 ここは一つお言葉に甘えさせてもらうことにしよう。


「はい、では喜んでお受けいたします。何から何までありがとうございます」


「いやいや、私達にできることはこれぐらいですから。ではこれから準備をしますので、支度が整ったらまたお呼びしますね」


 女性はそのまま来た道を戻って行った。


「これでは私の方が助けられてばかりのようだ」


「そんなことないです! デュマさんは私の父を、ヴァイネートの町長を助けてくれた恩人です。むしろこれぐらいは当然のことです」


 何故か急に上機嫌になったユーディは、腰に手を当てながら自慢げに笑った。


「ユーディは町長さんが好きなんだね」


「はい! お父さんは両親がいない私を自分の娘同然に育ててくれました。お陰で私はちっとも寂しくなかったですし」


 町長さんはユーディの本当の父親ではなかったのか。

 確かに言われてみれば二人は別に似ていなかった。


「あっ、急にこんな話をしてしまってごめんなさい」


「いや、ユーディが町長さんを大好きだということはよく分かったよ」


 だからこそ、あんな危険な森に入ってまでポーションを手に入れようとしたのだろう。


「でも、だからといって廃墟にポーションを探しになど行っては危ないよ。行商人からか、他の町で買ったほうがお金は多少かかるけど安全だからね」


 俺がそう話すと、何故かユーディはものすごく不思議そうな顔をした。


「行商人さんがポーションなんて珍しい物をこの町に持ってくるわけないと思いますよ? それに、ポーションは王都に行かないと買えないと思います。それもすごい金額になるという話ですけど」


「ポーションはレベル3ぐらいまでなら、行商人が売り歩いていると思っていたけど違うのかい?」


「デュマさんの国ではそうなのかもしれませんけど、少なくともこのリーンブルク王国ではポーションは王都でしか売ってないと思います。そういう噂を聞いたこともないですし……」


 ポーションが王都でしか売ってない。

 いくらなんでもそれは変じゃないだろうか。


 でも、彼女が危険な廃墟に行くぐらいだから多分真実なんだろう。


 リーンブルク王国という場所は初めて聞くのでよく分からないが、政策か何かでわざとポーションを売ってないという可能性もある。


 ひとまずユーディに尋ねてみることにしよう。


「ええと、ここはリーンブルク王国というところ?」


「はい、ヴァイネートはリーンブルク王国にある町です。デュマさんはどちらの国からいらしたんですか?」


 まずいな。

 国の名前が変わっているようなので、回答次第ではまた変人扱いされてしまう。


「ひ、東の方の国から……」


「は、はあ。東からですか」


 苦笑いしながらなんとか誤魔化すと、ユーディは空気を読んでくれたのかそれ以上追及はしてこなかった……。


 変な沈黙の後、鳥の鳴き声だけが辺りに響き渡った。



 それからしばらくの間、町の色々な場所を二人で回った後、町長さんの家で夕食をすることになった。


 目の前にはこの辺りで獲れるであろう動物の肉を加工して作ったソーセージやハム、そして野菜のスープと黒パンが置かれている。


 俺が一緒に食べることになったので豪華にしたのだろう。ということは、普段はこれよりも更に質素な食事をしているということになる。


 ここに来る前に思い描いていた未来の料理とは随分と違っていた。


「大したもてなしもできず、申し訳ない。お口に合うとよいのですが」


「いえいえ。こちらこそこのような豪華な食事をご用意いただき、感謝しております」


 町長さんはユーディと二人でこの家で暮らしているそうだ。


 当時門番をしていた町長さんは、町の入口に置かれていた籠の中で眠るユーディを見つけ、娘として育てることに決めたのだとか。


 ユーディは優しい娘に育ったようだ。きっと大切にされてきたのだろう。


「そういえば、デュマ様は東から旅をされてきたのだとか。するとやはり冒険者の方ですかな?」


 冒険者というのは特に俺が商売相手にしていた人々の事だ。


 彼らは冒険者ギルドという組合に所属し、危険な魔物の討伐依頼やダンジョンに眠る財宝の回収を生業としている。


 冒険者はほぼ必ずポーションや魔導具を持ってから仕事に出かけるため、自分の工房を持つ錬金術師達は商人からの大口の依頼と、彼ら向けの商品を販売して生計を立てて暮らすのが普通だった。


「いえ、私は冒険者ではありません」


「おや、そうでしたか。レベル4のポーションなどという大変貴重な品をお持ちでしたので、てっきりそうかと思っておりました」


「ああ、あのポーションでしたら私が生成したものですから」


「え?」「はい?」


 町長さんとユーディは目を大きく見開いたまま固まった。


「私は冒険者ではなく錬金術師ですので、自分でポーションを生成して持ち歩いているんですが……」


 職業について話したところで、町長さんは急に体を震わせはじめた。


「ま、まさかデュマ様が錬金術師様だったとは! もしや、東の国ではさぞご高名なお方なのでは!?」


「いやまったく。無名なので間違ってもそんなことはありませんよ。至ってごく普通の錬金術師です」


「いやいや! レベル4のポーションを生成できる錬金術師様がこの世に存在するなど今まで聞いたことがございません!」


 それはいくらなんでもないと思うが……。


 前の時代でも魔導学院の学徒などはレベル4ポーションを普通に生成していたはず。ならば当然どの国でも流通していたはずだ。


「ハハハ、それは何かの間違いだと思いますよ。だとしたら、私は一躍有名人になっているはずですから」


「とんでもない! 私が町を訪れた冒険者や行商人の方々から聞いた話では、どの国でも錬金術師様が生成できるポーションは出来の良い物でレベル2まで、レベル3以上は全てダンジョンや都市の遺跡から入手するしか方法がないとのことでした」


「まさか……」


 異常すぎる話だが、町長は冗談を言っているようには見えない。


 だとしたら、この未来の世界における錬金術は一体どうなってしまっているのだろうか?

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