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「初めまして。私は隣国ナーシヴァルで一介の騎士をしております、リシカ・ユースティリアと申します」
メアリアはカッチカチに固まった。
医師によると、メアリアを助けた人物から見舞いをしたいとの申し出があったそうだ。メアリア自身も早くお礼を伝えたいと思い、足はまだ動かせる状態ではないが面会をお願いした。
そして、今に至る。
ベッドの横に置かれたイスに腰かけたのは出会ったこともないような美形。しかも、扉を壊してお見舞い?に来た人だった。
「私はメアリアです。助けていただきありがとうございました」
「いえ、騎士として当たり前のことをしたまでです。それよりも、足の具合はいかがですか?」
「はい、足自体はもうすぐ動かせるようになると思うんですが、しばらくは杖での生活になりそうです。あとは足に魔素が残っているらしく、森には近づくなと言われました」
「そうですか。薬草採りがお仕事なのでしょう?大変なことになりましたね」
メアリアはハッとした。
もしや、背負い籠いっぱいの薬草まで届けてくれたのは彼ではないかと。
「あの、薬草まで届けていただいたみたいで助かりました!こちらでお世話になる分は薬草で足りるそうで本当にありがとうございました!」
「それは良かった。あれだけ摘まれているならば腐らせてしまうのはもったいないかと思いまして」
「おっしゃるとおりで!!あ、いや、えーっと、やはり何かお礼を、あっ、足が治り次第でも薬草を採ってまいります!!騎士様にも需要はあるでしょうし!!」
前のめり気味な勢いで話してしまったために驚いたのか彼は目を見張っている。メアリアはやり過ぎたと恥ずかしくなった。自分にできる一番のお礼はそれしか思い浮かばなかった。
すると彼は少し考えたように口を開いた。
「では、お願いしたいことがあります」
「はい、できうる限り力をつくします」
彼は少し視線を彷徨わせたが、深呼吸をして椅子から立ち上がり、すぐ近くで膝をついた。彼の目線が少し下がり、まるで私に許しを請うような表情が見てとれる。
「私と結婚していただけませんか?」
その言葉の衝撃にメアリアは返事に詰まる。
お願いという範囲になるのか、そもそも結婚に至る理由もわからない。
「……リシカ様、勉強不足で申し訳ありません。他国でいうケッコンとはどんなものでしょうか?」
「そうですね、この国と変わらないと思いますが夫婦になるという意味合いの結婚ですね」
「私とですか?」
「はい」
絶句。
跪いたまま見上げてくる彼の目は真剣そのもの。
助けてもらった身とはいえ、勘繰ってしまうのは否めない。
「申し訳ありません。結婚はできません」
彼は目をカッと見開き、固まった。
言葉を噛みしめているのか、必死に考えているのかついにはオロオロとし出した。
「もしかして、その……結婚を考えている方がいるのですか?」
「いえ、いませんけど」
「では、何か理由が?」
「えっ」
メアリアは戸惑う。
出会ったばかりで疑っているからと本人に直接言えるわけがない。自分が一目惚れされるような容姿でもなく、薬草採りで生計を立てている一般人という自覚はある。他国の騎士にも初めて会ったくらいで特に接点もない。
それに対して、リシカは隣国の騎士という役柄に、なんといっても目を引く容姿。どちらかというと美男美女みたいな組み合わせが妥当なところと考えている。
「あの、失礼な言い方になってしまったら申し訳ないんですが、リシカ様とは知り合ったばかりでお互いのことを知らなすぎると思うんです。ですので、結婚はお受けできません」
「知り合ったばかり……そうか……」
彼はハッとした表情から、目を輝かせた。
「そうですよね。メアリアさん、私に機会を与えてくださいませんか?あなたに意識していただけるように頑張ります。もし、それでもあなたが本当に嫌になればおっしゃってください。どう、ですか?」
伺うように首をかしげ、返事を促すリシカ。
メアリアもここまで言われて突き放すのも悪い気がしてくる。なにより、助けてくれた救世主だ。もしかしたら、その間に恩返しできることがあるかもしれない。そう思うとメアリアは頷いた。
「それでも良ければ、その、よろしくお願いします」
「こちらこそ、末永くお付き合いくださると嬉しいです」
反応に困ったメアリアは“末永く”を聞かなかったことにしたが、リシカは頬を染めメアリアがドキリとするほど艶やかな笑みを浮かべた。
なぜか、お見舞いからお見合いが成立した瞬間にメアリアは頭を悩ませるのであった。