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「さて、うるさいやつもいなくなったところで、お嬢さん、名前を聞いても?診療記録を作成しなくてはいけなくてね」
「あ、はい。メアリアです」
おじいさんは私に質問をしながら、カルテを仕上げていく。
「メアリア、君に家族は?連絡をいれよう」
「家族はいません」
「そうか。ふむ、どうするかな。松葉杖での生活だ、
不便も多いだろう?少しの間、うちの病院に泊まるかい?」
「お支払いは、分割払いって出来ます?」
「心配いらんよ。君の採った薬草をもらった。あれだけあれば十分だ」
「え!薬草まで回収してもらえたんですか?!ありがとうございます。申し訳ないですが、お世話になります」
「さて、と。そうしたら、ここの手続きをしてくるから、ゆっくり休んでなさい。あとから、ここで看護婦をしている者も紹介しよう。もうすぐ買い出しから戻るだろう」
おじいさんはにこりと笑って、席をたった。
助けてくれた人、薬草まで持ってきてくれたんだ…お礼しなきゃ。ふと、足を見ると、私に起きた出来事を思い出す。
黒い獣が茂みから飛び出し、あっという間に取り囲まれる。逃げ道を塞がれ、たくさんの飢えた瞳に見つめられ、獲物として認識されたのだと感じた。獣に噛み付かれたその瞬間に死ぬんだと覚悟した、でも。
(誰が助けてくれたんだろう……)
記憶にない救世主に感謝をし、もう少し眠ることにした。
*===*===*===*
「先ほどの医師の方ですよね?扉の件は申し訳ありませんでした。彼女は大丈夫ですか?ケガの具合は?いつ会うことができますか?」
待合室に入るなり、男に詰め寄られた。
長身、黒髪、ガタイ良し、美丈夫。
うーむ、女に困らんだろうな。
「まさか、悪い状態ですか!?」と急に出て行こうとする男の腰にしがみついて、引きずられた。なんと馬鹿力。
「待て待て待て待て!休ませておるから!せっかちは嫌われるぞ!」
「……」
ピタリと動きを止めた男は扉を閉め、ソファに座った。なんなら、ものすごく落ち込んだ顔をして。
そして、私もソファに座り、男と対面する形となった。
「お嬢さんに会わせる前に一応、名前とか詳しい情報が欲しいが、聞いても?あの数の兵士を見たとこ、野営訓練かなんかの最中か?」
「はい。失礼いたしました。私は隣国ナーシヴァルで騎士を務めております、リシカ・ユースティリアと申します」
「おや、ナーシヴァルか。ようこそ、いらっしゃいました。して、ご滞在はどちらですか?夜分遅くまで引き留めるわけにも参りませんからな」
「本日は私のみこちらに泊めてもらえるようになりました。数日間は野営訓練をしております」
「そうですか、ゆっくり過ごされてください。お嬢さんの方はこちらでお預かりいたしますので、訓練に戻られても大丈夫ですよ」
「では、失礼します」と席を立とうとして、急にガッと腕を掴まれた。いや、ほんとになんて馬鹿力だ。そのままストンとソファに座らされた。目の前の男はとても深刻そうな面持ちだ。
「先生、そのお嬢さんとは面会できますか?」
「お嬢さんの体調と、お嬢さんが良いと言えばですが、面会はできますよ」
「そうですか!ぜひ、お願いします!」
「わ、分かりました。彼女に話してみます」
なんか変な者に目を付けられているのでは?と思わなくもないが、ここはひとまず置いておくことにした。