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お相手は竜騎士様かよッ!  作者: 宵道(よいみち)
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「迷子だわ…」


メアリアは森のなか、途方に暮れていた。

迷子になると動かない方が良いと聞くが、元来た道を戻れば大丈夫!と歩いた。なんなら歩き回ったと言っても過言ではない。門に着いても良い頃合なのに、周りは木々ばかりだ。もう日が落ちてしまうので内心焦ってもいる。


街から今いる森に入るには門で受付をし、閉門に間に合うように門塀所で管理されている。門塀所で森に入る理由を書き、戻らない者がいれば捜索隊が出る仕組みだ。だが、捜索隊が出る際には門塀所の鐘が鳴らされ、それが兵の集合合図になっているのでいやでも街中に知れ渡ることになる。


(どうしたものか…恥ずかしいから捜索隊が出るのだけは避けたい)


いつもより薬草採りに夢中になってしまい、見渡せば知らない場所に出ていた。背負い籠にはどっさり薬草が入っており、荷物になっているが手放せない。何より良い値段で買い取ってもらえる。まあ、体力を使うよりかは確実に薬草を手にしたい。捜索隊を待つか…と佇んでいると、首の後ろをチリッとした痛みが襲い、全身に鳥肌が広がる。


(これは危ないかも…)


森とはいえ、ここは来たことがない場所だから何が出るか分からない。森には獣もいれば森を守る精霊もいる。人を襲わないとは限らないのだ。


『ヴヴゥヴヴゥ…』

『ヴヴゥアアァ…』


息を詰める。犬のような複数の唸り声が木々の間や草むらから一定間隔で聞こえ、急に動かないほうが良いと脳が指令を出してくる。背負い籠が邪魔で全力疾走も難しいし、何よりどこに隠れているのかも不明だ。とりあえず動けないのは危ないと思い、刺激しないように籠を地面にゆっくりおろしていく。


だが、傾けた拍子に背負い籠から少し薬草がこぼれ落ちてしまい、思わず「あ!」と口走ったと気付いた時には遅く、茂みから大型の真っ黒な獣が襲いかかってきた。反射的に逃げようと背を向け走り出すが、足に激痛が走った。獣のほうが早く、私のふくらはぎに噛み付いたのだ。


「ああああああああっ!!!」


叫び声に驚いたのか犬のような獣たちは私をぐるりと取り囲む。しかし、私は今までに感じたことのない痛みに耐えかねて、獣に囲まれながら人生初の気絶をかましたのだった。


*===*===*===*


目が覚めた。どうやら、私は生きているらしい。清潔そうな白い天井に、カーテンで仕切りがされている。右足が熱く、痛みなどの感覚はあまりない。喉も渇いている。手を持ち上げてみると至るところに包帯が巻かれていた。


(誰かに助けてもらえたんだろうか?ここは病院……?)


疑問ばかり出てくるが、ひとまず助かって良かったと安心した。喉が渇いているし、お腹も空いた。薬草は残念だけど、また取りに行くしかない。今、どんな状況なのかそれがよぎった。


「っれ…か…いま…か?」


喉が張り付いてびっくりするほど声が出なかった。相当寝ていたのかもしれない。


「すみ…ませ…、誰か…ますか?」

「おや、起きたかな」


カーテンを開けて入って来たのは背が小さいおじいさんだった。白衣を着ているし、薬草のような消毒液のにおいがするから医者なんだろう。


「意識もちゃんとあるね。水飲めるかい?」

「はぃ…」


軽く起き上がり、グラスに差し出された水を飲むと喉に染み渡るようでおいしく感じた。


「もう少し寝るかい?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか、ではまず状況から説明するかね。楽な姿勢で良いからね」


おじいさんは近くにあったイスを持って来て座った。

私は座ったまま話を聞くことにした。


「ここは門塀所内にある医療室だよ。そして、私はここで働いている医者だ。君は昨日、魔獣に襲われたんだ。覚えているかい?」

「はい。大きな犬みたいなものでした」

「そうか。君はそれに足を噛まれて、気絶しているところをここに運び込まれた」

「そうなんですか…」


だとしたら、魔獣に囲まれた後に誰かが助けてくれたんだな。とてもありがたい話だ。


「足なんだが、今はきっと感覚が麻痺していると思うが、それは魔素のせいだ。魔素を薄める薬を使ったから歩行自体は早くできるようになるはずだよ」


私は少し足を動かしてみる。確かに足を動かしているつもりだが動いていない。


「魔獣には魔素というものがあってな、噛まれた時に君に魔素が移っている。ようは魔獣にとっての印付けみたいなものか」

「印付けですか…」

「自分の獲物だという印付けでな、魔素が消えるまで森には近づかないほうが良いだろう。魔素があるということはその魔素をたどって他の魔獣をおびき寄せやすくなっている」


ふと、考えがよぎる。これは薬草取りに森に行けないのでは?ましてや、足もまともに動かせないんだからお金稼げないのでは?前途多難すぎる!


「魔素が消えるのにどれくらいかかりますか?」

「そうだなぁ…けっこう濃いからなぁ、ひと月は見た方が良いだろう」

「ひと月!!!」

「足の感覚が戻ったら杖を貸してやるから、徐々に足を動かす練習をしていくようになるかな」

「はい…」


私、もう詰んでいる。ひとり暮らしの小娘がひと月も働かないで生きられない。あの時の籠いっぱいの薬草があれば少しは違ったのに!私はなんてダメ人間!少しくらい薬草を引っ掴んどけば良かった。これから極貧生活が待ってるんだわ。


じわりと目頭が熱くなり、涙が出そうになったその時、ゴン!ガン!と勢いよく扉が倒れ、その衝撃の風で髪が舞った。そう扉が倒れた。叩かれた(殴られた?)であろう箇所がひしゃげ、床に倒れている。視線をあげると、入口より背が高い男の人が入口をくぐって扉を踏みつけ、ふらりふらりとこちらに近づいてきている。


(え??こわっ…何?)


束ねられたツヤのある黒い長髪が背で揺れ、表情はこぼれ落ちている前髪でうかがえない。兵服を着ているということは兵士なのだろう。剣などは身につけていないようだ。


「大きな音を立てないでください。それに、患者に障るので待っていてくださいとお願いしたはずですが?」

(え?何何何何?!)


おじいさんが立ち上がってキツい口調でその人に注意するが、男の人は聞いていないようで私のベッドの横で跪いた。気遣わしげに額をベッドの縁にぽすんと乗っけた。


「……い…てない…」

「え?」


その人は掠れて聞こえないくらいの小さな声で何かを言った。でも、何かを言ったのは分かったが私は聞き取れなくて、もう一度聞こうとした時、通路から大勢の走って来る足音が近づいてきた。「確保ーー!!!」という声とともに、慌ただしく入ってきた兵士たちがこれまた慌ただしく跪いた状態の男の人を引きずっていった。


「騒がしくしてしまい、誠に申し訳ございません!扉の修理についてはまた伺います!失礼いたしました!」


最後尾にいた眼鏡姿の長髪の人が敬礼をし、走っていく。


「……いや、何事?」

「さあな…騒々しい奴らめ」


おじいさんはさっきの出来事の説明が面倒くさくなったのか、何事もなかったように私の足の病状について説明しはじめたのだった。

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