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なにはともあれ可愛いは正義っていう話

和菓子が絡むとなんでこんなに筆が進むんでしょうね…可愛くて美味しいからですね!

ブクマ、評価、ご感想、本日もご閲覧ありがとうございます╰(*´︶`*)╯

 朝帰りしたら怒られて泣かれましたまる。


「(き、きなこ…)」


 そ、そういえば前世でも、私が仕事先の飲み会で断りきれずに0時回って帰ったら、玄関でずーっとずーっと待ってて、丸々三日間くらいは絶対に離れようとしなかったわね…。うぅ、これ、どうしよう…。


「やれやれ、これは思った以上に重傷だな…おいフェンリル、頼むからその戦闘モードやめてくれないか、ったく、お前みたいなのが執着心持つと厄介だ」


 くわばらくわばら、とおどけているようだけど、ナミルさん、ドン引きしてるわ…。実を言うと、私もちょっと引いてるのだけど。

 フェンリルって、こんな姿だったのね…怒ってるからかしら、たてがみが炎みたいに揺れてる。真っ黒な体躯に、毛先だけ緋色だ。


「(あ、戻った…)」

「…怖いか」

「(え?)」

「怖いか、俺が」


 あっという間にヒトの姿になったと思ったら、ぼそ、っと訊かれたけど、よくわからない。怖いって、しぐれが?うん、まぁ、怒られるのは怖いわよ?特にしぐれはイケメンだから、迫力あるもの。


「(えっと…夜遊びして、ごめんなさい…?)」

「…ッチ、もういい、訊いたこっちがバカだった」

「(??)」

「おいナミル、金輪際、こいつを海に連れ出すな」

「おいおい、そりゃ我儘が過ぎるんじゃないか?ジャンヌはかなり暫く先まで、陸じゃ自力で動けないんだぞ?鬱屈とさせたいのか?」

「俺は水と相性が悪い」

「つまり、そばで守れないから嫌だ、と。やれやれ、素直にそう言えば良いものを」

「この…っ」


 私の勝手な想像だけど、しぐれと言い合い出来るのって、実は凄い気が合う証拠だと思うのよね。良いわよね、一見仲悪そうに見える男同士の友情って。ほっこりするなぁ。しぐれ饅頭とひよこ饅頭だものね。


「そんなんじゃないっ!」

「っぶ、くくく…っとに、発想が豊かというか可愛らしいというか、だな」


 よし、よくわからないけど、こっちはどうにかなった。


「(きなこ、私、きなこのこと、置いていかないよ?きなこが、私に愛想尽かさないでいてくれるなら、今世も最期まで一緒にいたいよ?ほら、食べ歩きとか、カフェ巡りとか、今は一緒に出来そうだし)」


 前世では、動物持ち込みOKなところしか、一緒に入れなかったもの。増えては来ていても、近所にそういうお店はなかなかなかった。

 あっても、和菓子を出してるところでそういうのって、あまりないのよね。誰か作ってくれてても良さそうなものなのに、不思議。うん、衛生のこと考えたら、難しいんだろうなぁっていうのは、わかるから仕方ないのだけど。


「…約束」

「(うん?)」

「約束、ですよ…もう、置いて、いかないでくださいませ…」


 私の腕にきゅぅとしがみついて肩に顔をうずめていた顔が、ゆぅっくり離れて、翡翠色の瞳が至近距離でウルウルと見つめてくる。こ、こしょばい。罪悪感が凄いわ…。


『ジャンヌ〜、シエルも〜』

「(うん、シエルも)」

『おかーさんも〜』

「(うん)」


 あら?でも、するとやっぱり、治るまではずっと、この子達にゾンビの介護させることになるのよね…良いのかしら。よろしくないわよね。

 そもそも、再会したりするまで、きなこ達どこでどんな風に暮らしてたんだろう。家族は?友達は?うーん…。


「(ねぇ、きなこは)」

「それ以上、言わないでくださいませ…」

「(え?)」

「わたくしは、みやこさまのおそばでなければ…」


 え、え、またなんかウルウルし始めた、私が何を言うと勘違いしたの!?今ずっと一緒にいたいって言ったよ!?


「(きなこ!私、お腹空いたな!!)」


 苦し紛れに言うと、やっと涙を拭って、はい、とふんわり笑ってくれた。昇天しそう。


「(そういえば、しぐれ、この和菓子ってどこで見つけたの?買ってるの?)」


 そんなわけで、お茶の時間です。

 あの日から、しぐれは毎日、数種類の和菓子を持ってくる。この世界にも和菓子屋さんってあるのかしら?こんな西洋風な世界なのに?そういえば、双子がどうのって言ってたような…。


「たぶん、日本からの転移者の双子だ。作ってるのをたまたま見つけた」

「(お店?)」

「店まるごと、こっちに来たらしい。但し、立地が悪い上に、記憶障害がある」

「(どういうこと?)」


 今日は真っ白い薯蕷饅頭と、もちもちの求肥餅と、粒餡たっぷりおはぎ。

 きなこにしっとり侍られながら、時間をかけて口の中で溶かしています。少しだけ口、動くようになってきたのよ、これでも。


「例えば、餡子の作り方、餅の練り方は覚えている。だから、こういう地味なものは作れる。だが、それ以上の高度な技術…というより、上生菓子のような上等な菓子の記憶が、どうにも思い出せないらしい」


 確かに、これまでしぐれが買ってきたものはどれも、白か黒か茶色か、だ。

 ううん、もちろんそれだって、見た目は地味と言うか素朴でも、美味しく作るには熟練の技が必要だと思うのよ。そういうのがあって、華やかなものもあるのだろうし。しぐれもそれは、わかっていると思う。


「(…転移の、バグ?)」

「俺はそう見てる」


 異世界転生、はたまた異世界転移。

 流行ってたなぁ。もちろん、小説や漫画の世界で、だけど。それだって、まさか現実にあるなんて、思ってなかった。


「(しぐれ、ちなみに、そのお店の名前は?)」

(なご)み庵」

「(………うそぉ)」


 そのお店は、なんと前世で私が行きつけだった和菓子屋さんのようです。

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