鈴カステラとひよこ饅頭
ブクマ、評価、ご感想、ありがとうございます!
それにしても、話に進展がない…いえ、ちゃんと進展しますよ?ただ、仕事終わりに寝るまでの時間で書けるとこまで書いて投稿しているので…今回も凄く短いですが、なにはともあれ、読んでほっこりして頂けたらそれで良いのです╰(*´︶`*)╯なんだか和菓子の話になってきましたね。
うーん…なんだったかしら……
「グルル?」
「(あ、ううん、大丈夫よ。ちょっと、思い出したいことがあるだけなの。どこか体調悪いとかじゃないから)」
「今のアンタは体調良いところなんかないだろう」
「みやこさま、思い出したいこと、とは…?前世のことでございますか…?」
「(うーん、とね…)」
ごきげんよう、皆さん。どうでも良いと思いますが、ただ今ちょっと悩み中です。
ほら、こう、喉の奥まで出かけててなかなか思い出せない、アレです。普段馴染みのあったり大切なことほど、何故かド忘れすることってありませんか?あれなんででしょうね…。
「(なんか、ナミルさん見てて、こう、もやもやイメージが…)」
「は?ナミル?」
「何かに、似ておりますのでしょうか…」
うん、たぶんね、別にそんな重要なことじゃないと思うの。でも、こう、なかなか思い出せないとひたすら気になるじゃない。思い出してスッキリしたいんだけど…うーん、なんだったかなぁ…。
その時、りぃん、と音がした。
「あぁ、お帰りになられたようですわ…」
金属音よりも優しく、水の中に溶け込むような、そんな音だ。
これは、この離宮を中心に、沖と外洋の境目を守る結界魔法に主人が帰ってきたことを報せる音なのだそうだ。確かナミルさんは、見回り?に出掛けていたような。
「(鈴…鈴?鈴、鈴……)」
あ、なんだろうこれ、喉から出かかってる。あともう少し、もう少し…。
まもなく扉が開いて、ナミルさんが入ってきた。
ペルラ海国の、それも王族の衣装は、まるで真珠を絹糸にでもしたかのようなものだ。裾や袖は海の波をイメージしているように、風にゆったりと揺れている。光を反射して、粉砂糖みたい。
でも、ご先祖さまは海賊だったらしい。褐色の肌が野生っぽいのはそのせいかしら。ペルラの人たち全員がこうなのかはわからないけど。ほどよくこんがり色してるのは健康な証拠ね。淡い金色の髪は、そうそう、カステラみたいでー
「(鈴カステラ!!)」
「は?」
身体が動くなら、今、私はナミルさんを指差している。
「(あー、良かった、思い出せた…)」
「鈴…」
「カステラ…?」
「(うん。なんか色合い、似てない?)」
「確か…鈴カステラというのは、カステラを小さく焼いたもの、でしたでしょうか…」
「(それそれ)」
あの、ころんとした小さいの、可愛くない?見てるだけでほっこりするの。屋台のもいい。
でも私が一番好きだったのは、前世で行きつけだった和菓子屋さんのもの。
だってね、あそこは、本当にカステラ生地を焼いたものだった。
ほら、屋台のとかは実はカステラじゃなくてホットケーキミックスとかそんな感じで、スーパーで売ってる袋入りのは、ちょっとパサパサしてない?うん、もちろん、それも美味しくて可愛いのよ?
でも、あそこのは、しっとり柔らかな、本物のカステラ生地だった。
口の中に入れたら、モグモグなんて出来ない。その前にほどけちゃって、歯で捕まえてなんておけないの。
こんがり色はほどよく苦味があって、中は上等な淡い金色。きっと卵にもこだわってた。それでね、ほんのり、粉砂糖がかかってて。ほら、彼にみたいでしょう?
あぁ、でも、髪の毛はしっとりっていうより、ひよこのうぶ毛みたいだったっけ…?
火刑台から攫われた時、かろうじて感覚残ってる顔に、こう、ふわってきた。あぁ、自分の語彙力のなさに凹む…。
とにかく、ひよこ。ひよこなの。色も似てる。ひよこ、可愛いよね。ひよこ饅頭も可愛い。あぁなら、鈴カステラも良いけど、ひよこ饅頭でも良いかしら彼。
「ぶふぁ…!」
「(ふぁ!?)」
え、なに、どうしたのナミルさん。咳き込…んだわけじゃ、ないみたいだけど。なんで、ちょっとタンマ、みたいに掌こっちに突き出してるのかしら…?
「可愛いのは、みやこさまですわ…もう、わたくし、死んでしまいそうです……」
え、きなこ、死んじゃうの!?私やだよ!?吐きそう!?
「ッチ、そうだ、こいつはこういうやつだった…」
え、なんでまた、舌打ち?音、大きすぎない…?あれ、目、痛いの?目薬さす?
なんで、きなこもしぐれもみんな、後ろ向いてるのかしら…。尻尾、パフパフ揺れてる…早く触りたい…。
「は、はは…参った、イメージまで伝わってくるとは…菓子はともかく、まさか、ひよこに、例えられる日が、来るとはな…」
な、なんか、凄く頑張って声を抑えてるけど…でも若干、震えてるの隠せてないし、口元隠して、目尻に涙溜まってる?え、本当にどうしたのかしら…過呼吸?
『ジャンヌ〜、シエルは?シエルは、な〜に〜?』
「(シエル?えっと、いちご大福)」
『おかーさんは〜?』
「(桜餅?)」
シエルは白い羽の内側に赤いメッシュ入りで、お母さんグリフォンはそれを溶け合わせたようなもっふりだもの。
「まったく、とんだキテレツな発想をするなら、悪役令嬢ではなくずっとこっちにしとけ。いくらかマシだ」
何からかわからないけど、立ち直ったらしいナミルさんはそう言って、ぽん、と頭に手を置いてきた。
…あら、なんか、不思議な感じ。
頭ぽんっていつぶり?前世では両親も祖父母も早くに亡くなってしまったし、今世に家族の団欒なんてもっとなかったから、きっとうんと昔だわ。安心するようなくすぐったいような…お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかも、いなかったし。
「ずるいですわ…わたくしだって、まだ、やったことないですのに…」
「おいナミル、気安くこいつに触るな」
「ブレないなお前達」
あぁ、思い出したら猛烈に食べたくなってきた…鈴カステラとひよこ饅頭も、どこかにないかしら…?
「あぁそうだ。ジャンヌ、そういうのが好きなら、俺の自慢の海の中も見てみると良い」
「(え?)」
「それに、あいつらも、早く会わせろっていいかげん、うるさいからな…驚くなよ?」
どうやら、彼自慢の海の中へもご招待して頂けるようです。
私、昔はやたらと、近所の求肥餅が好きで好きで堪りませんでした。今も好きですが、なんでひたすらあれだけ食べてたんでしょうね…美味しいからですね!もちもち、最高。