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想い想われ

はい、風邪っ引きです。鼻が真っ赤です。筆が…(T ^ T)


いつもブクマ、評価、ご感想、ありがとうございます。誤字報告につきましても感謝です!

「こんなはずでは…!」


 呪うような会話を、教会の庭の片隅で聞いた。


「わざわざディアマント家を滅亡までさせたというのに…これでは、一体なんのために…!」

「軍力を強化するどころではない。おぉ、神よ、なぜ…」

「エーデルシュタインの栄華を、今度こそ我らのものにするのではなかったか…!?」


 その瞬間、目の前が真っ白になり、同時に真っ暗になった。いっそ本当に雷に撃たれていたら、どれほど楽だっただろうか。


 そうだ。よく考えなくてもわかったことではなかったか。どんな小さな雑草の花でも愛し、枯れれば悼むような彼女が、悪女などであるはずがないことを。それなのに自分は、結局は周囲の醜聞に流されて彼女を見捨てた。何かの間違いであろうと、接触が断たれても自分だけは直感を信じ続けるべきであったのに。


「ジャンヌ…っ」


 大切な幼馴染。初恋の子。

 唯一無二の愛しい女性。


 炎に焼かれ、そうして敵国の王子に連れ去られた最後の姿を思い出し、膝から崩れ落ちる感覚すら遠かった。





「で、結局なんの話だったんだ?」


 ごきげんよう皆さん。ちょっと色々と衝撃がありましたが無事です。むしろウキウキと良い気分です。今は鼻歌やろうと思っても潰れたカエルより酷いと思いますが。


「(イェシルさんが深月ちゃんに一目惚れしたっていう話です)」

「…予想外の話だな」

「あの抹茶男が?」


 プライバシー?しつこいようだけど、そんなものあると思って?

 というか、彼だってこれくらい見越して打ち明けてきたと思うわ。万が一にも、深月ちゃんに無体でも働けば、まずこの人たち黙ってないもの。最強の保険。つまりそれくらい、ちゃんと深月ちゃんのこと考えて覚悟してるって思って良いわよね?


「(まぁ、今はこっちの世界に慣れるので精一杯だと思いますし、待ってくれるとは思いますけど)」

「咳き込んでいたのは?」

「(あー…)」


 …うん、なんて言ったら良いのかしらね?本当に偏見があるわけじゃないのよ?立派な小説のひとつだと思うわ。だって、そういうシーンや雰囲気を魅力的に書くには、それ以外の部分を含めてちゃんと世界観を描いたりしなきゃならないと思うの。登場人物だって魅力的じゃないと。作家さんは舞台設定も監督も脚本家も衣装もなにもかも全部、一人でやるんでしょう?凄いと思うわ。…うん、潔く行こう。


「(いや、なんか彼、官能小説家でもあるみたいで)」

「っぶふぉ"ごべぁ"がぼっご……ッ!!」


 あらら、予想以上のご反応。

 冷静なのはきなこね。うん、私動けないから、ナミルさんとしぐれの背中お願いね。あぁ、蒸かし芋もったいない…。


「(気管大丈夫です?)」

「…も、もうすこし、まえふりをだな……」


 そんなこと言われても。これでも考えたのよ?それにしても、意外とウブなのかしらこの人たち。そっか、もしかして浮世離れしてると仙人になれるのかしら?


「ナミルさまもしぐれも、きちんと息子さんは生きていらっしゃるようですが…」

「やめろ言うな」

「殺すぞ」

「まぁ、大事なことですわ…」


 良かったね。


「…それで。なんでそんな話になったんだ」

「(やー、最初は純粋に、どんなものを贈ったら喜ぶかって相談だったんですけど)」


 そういえばなんでだったかしら…あぁそうそう、妹さんの台詞だったわね。


「(彼なりに書いてる理由?があるみたいなんですけどね。今まで気にしてこなかったのに、深月ちゃんに嫌われるのは嫌だってちょっと悩んでました)」

「…君たちの故郷では、そういうものはどうだったんだ?」

「(普通にありましたよ?いろんな趣向や書き方があったみたいですけど、ちゃんとした恋愛小説として)」


 私は読んでなかったけどね。癒しはきなことしぐれと和み庵だったもの。たぶん、そこまで欲もなかったんじゃないかしら。


「人をそういうネタでしか見てこなかったとは、どんなスレた野郎だ」

「(しぐれ、偏見めっ)」

「あの方のものを読んでみないと、わかりませんが…わたくしは、きちんとした小説を書かれる方は、豊かな教養があるとお見受けしますわ…」


 そうじゃなくちゃ書けないもんね。あくまでそれで食べていくって言うなら。


『おいも〜。むらさきだ〜』

「(そうだよ)」

「メゥ〜」


 右手で欠けらを摘んであげると、シエルももこちゃんもパクパク食べた。はいはい、お母さんも待ってね。背中もっふもっふしなくてもちゃんとあげるから。ふぅ、右腕もだいぶ動くようになってきたわ。まだ疲れるけど。壊滅的な脚はともかく、上半身は順調。強制エステのお陰ね。


「みやこさま、どうぞ…」

「(ありがとう。紫芋とか久しぶりだなぁ)」


 季節外れだけど、ジュパン領で土蔵で保存してあったんだって。和菓子にどうかって持ってきてくれたみたいで。はぁ、綺麗な色…確か、アントシアニンとか言ったかしら?

 そうそう、和菓子は色も大事。そういえば、紫って色っぽいわよね。今度は何を作ってくれるだろう。私も思い出そう。紫、紫のやつ…あったはず。


「(いーしやぁ〜きいもぉ〜)」

「破壊的にペルラに似合ってないぞ」

「(いいじゃん)」

「みやこさま、かわいいですわ…」


 だって、さつま芋って言ったらこれでしょうに。あぁ、あの声が本当に懐かしい…あれも癒されるわ…おばあちゃんに百円玉三枚くらい握らされて、ほら、買ってきてちょうだいって。あれが楽しみで、嬉しくて、冬はワクワクしてたなぁ。はじめてのおつかい、って私はあれだった。寒い冬の記憶は、不思議と全然さびしくないのよね。

 焼き芋屋さんのおじさんは陽気でにこにこしてて、こっそりおまけしてくれるの。子供の特権よね?ふふ、なんか気分良くて思わず歌っちゃった。

 そういえば、学校帰りのお兄ちゃんお姉ちゃんが時々、一緒に買って食べてるところ見たりしたなぁ。カップルだったのかしら?だとしたら萌える。コンビニのお菓子じゃなくて焼き芋。良い趣味してるわ。あのまま結婚して、おじいちゃんおばあちゃんになっても一緒に焼き芋分け合って食べてたら良いのに。はい勝手な妄想です。


「お前は、恋人はいたのか?」

「(私ですか?)」


 また唐突な。


「(前は、学生時代に、少し?今は…たぶん、そういう好意だったと思いますけど。幼馴染で、でも結局は傷つけましたし)」


 あら?しぐれったら、いきなりナミルさんどつき始めてどうしたの?プロレスごっこ?「ナミルさまは、デリカシーを学ぶべきですわ…」って、きなこも目、怖いよ?可愛いの台無しよ?あ、すりすりしてきた。今日もウチの子がゆるふわ可愛い。尊い。


 というか、最近、ナミルさんが時々妙なのよね。いつからって明確に言えないけど、強いて言うなら、王妃さまとなんやかんやあった時くらいかしら?なんか、物言いたげな視線を感じると言うか…前は思い出したように時々だったのに、今は毎日、ローゼル取ってくるし。頭ポンだって、軽い感じじゃなくなったような…そう、あの子みたいな手つきになった。


「(…元気、かなぁ……)」


 寒い冬の記憶。冷たい両手を温めてくれた、あの子。


 ふいに転移魔法陣が現れた。レイさんだ。

 やっほ、といつものように笑うもそこそこに、いやに真剣な顔つきで言うことには。


「ねぇジャンヌ、突撃してきたルカっていう少年がどう考えてもジャンヌのこと言って返せって言ってきてるんだけど、どうする?」

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