恋バナktkr
風邪っ引きの作者です。更新遅れましてすみません(T ^ T)
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「(あれ?留守?)」
いつものように遊びにくると、あらまぁ、いつものほんわか温かな甘い空気がナリを潜めているではありませんか。
「あ、みやこさん」
「神楽坂殿、来ていたか」
あれ?と皆んなで首を傾げていると、すぐに後ろから声がした。振り返ってまたびっくり、お出かけ仕様の服の和月君と深月ちゃん。え、なにその格好、かっこいいし可愛い。誰かポトガラヒー。
だって見て、大正浪漫譚もびっくりな世界モデル級の美少年と美少女よ。袴にスタイリッシュなブーツ、クロッシェ帽子や日傘やストール。和月君は元々の彫りの深い異国情緒的な顔立ちと相まって魅惑的な紳士、深月ちゃんは大和撫子だからハイカラかつ淑女で、二人揃ってどこぞの高貴な華族だわ…これ絶対に大注目だったわよね。ちょっとそこの抹茶の騎士さん、ちゃんと守ってくれたんでしょうね?
「すまんな、俺が連れ出していた」
「(いえ、むしろこっちはアポ取らないで来てるので)」
うん、ちょっと反省。そりゃ懇意にしてて二人もいつでも歓迎してくれてるとは言え、ちゃんと連絡するべきよね。親しき仲にも礼儀あり。既に二日に一度のペースで第二の家みたいな感じだし、むしろ今は世界大会に向けて私達も協力してるからうっかりしてたわ、うん。
「昼食がてら、偵察にな」
「(偵察?)」
「もう四ヶ月になるだろう。そろそろ、二人も外に出歩いてもいい頃合いかと思ってな。それに、この世界の料理や菓子の味を知れば細かな戦略も可能になる。まずは敵を知ることだ」
そうなのよね、私が拉致られ…げふん、救出されてこっちに来てから四ヶ月半が経ったのよね。二人はちょうど私の少し後だから、だいたい同じくらい。二人はなんとか和菓子業を続けていて、私は…介護されてるだけですが何か?
曰く、イェシルさんは当初から、二人にちょくちょく差し入れを持ってきてたりしたそう。どこかで購入したデリバリーのバケットサンドやらスープやらお惣菜やら。なんだ、ただお茶しばいて和菓子食べに来てたわけじゃないのね。失礼。そう言ったら、いや夜は普通に茶をしばきにきてるぞと和月君が訂正してきた。やっぱり。
「(その小物とかはどうしたの?)」
「イェシルさんが、ご実家から昔のものを兄に、妹さんのものを私に貸して下さったんです。実は、学校の制服以外でまともな洋服を持ってなくて」
「制服以外ではジャージと、弓道部の道着と袴、帰ってくればいつもので、あとは軒並み着物だからな。着慣れない服はいざという時に動きにくいから、小物で誤魔化した」
「そのまま二人に進呈しよう。なに、もう使わないものだから気にするな」
「その勢いで、実家の箪笥に肥やしになっている服や小物全部持ち込んで来ようとするなよ。ウチは処分場じゃない」
「バレてしまったか」
「ったく…」
とりあえず、イェシルさんグッジョブ。
「(そっか、じゃあ食べ歩きしてるんだね)」
「みやこさんも、絶対にいつかご一緒したいです」
「(もちろん!)」
まぁね、私はと言えば、ここ最近はいつも料理男子なナミルさんお手製のご飯食べてますよ。味覚も内臓もだいぶ回復してきて、「食事もちゃんと摂らんと和菓子はお預けだ」宣言食らって必死ですよ、えぇ。きなことしぐれも皆んな団結しちゃうし…仲よすぎか。
「今日は朝イチで《白露の落とし文》を仕込んだんです」
「(ここって今、ちょうど新緑っぽいから思い出したんだよね)」
そうそう、二人は世界大会の出場を決めたのよ。あと二ヶ月くらいかしら。賞とか名誉とかじゃなくて、この世界で和菓子がどんな手応えになるか知る良い機会だからって。だったら全力で応援するしかないでしょう?
というわけで、一緒に戦略を練ってる最中なのだけど、まずは一服。
「葉っぱを模してるのか。こりゃまた見たことない和菓子だが、落とし文というのは?」
「(要するに恋文ですね)」
《落とし文》自体は王道の上生菓子なのだけど、この名前の由来が、そりゃもうきゅんきゅんするのよ。
恋心を伝えるために、密かに恋い慕う相手の近くに落として拾わせた置き手紙。それは昔のことだから、くるくると巻物状だった。
それで、なんでも世の中にはオトシブミという昆虫がいるらしく。大切な卵を産むと、産みつけた葉っぱをくるくる巻いてポトリと落としてしまうそう。葉っぱは幼虫の揺り籠で餌で鎧というわけね。
そのポトリと落ちた葉っぱが恋文に似ていると、いつかのどこかの和菓子職人さんは餡子を葉っぱの練り切りでくるりと巻いたものを《落とし文》の銘菓にしたのだって。その人はもしかしたら、誰かに恋をしていたのかもしれないわね。
「なら、この白いのはその虫の卵か」
「そうだな。だが、意味はもうひとつ。俺なんかは好きだが、虫の卵、だけでは苦手に思う人もいるだろう。季節は梅雨時から初夏の銘菓だ、葉に滴った露のようにも見えるから、ウチでは《白露の落とし文》と言っている」
私も元祖の話は可愛くて割と好きなのだけど、虫が苦手な人もいるわよね。和菓子を心から楽しんでもらえるようにって、そんな和み庵の真心が込められてると思うわ。
恋はどんな味がするかしら?って、女の子なら一度は思ったりするのじゃないかしら。甘いだけじゃなくて、苦かったり、酸っぱかったり、しょっぱいなんてこともあるかもしれない。
《白露の落とし文》は、餡子と練り切りの間にマーマレード…柑橘系の蜜煮が仕込んである。橙だったり金柑だったり。柑橘系のジャムは、甘酸っぱくて、あの少しの苦味が特徴よね。
しょっぱいはどこかって?なんと、葉っぱの上にちょこんとあしらってる白いの、実は塩なのよ。落雁みたいに固めてあって、舌触りの良い繊細なお塩。これも初めて食べた時は驚いたわ。え、塩!?って。中には、これ間違ってるんじゃないかって聞きに行った人もいるんだって。さもありなん。でも、これがみょーに癖になる味なのよ。
おばあさん曰く、誰かを想って人知れず零された涙みたいでしょう?って。恐れ入りました。
「お塩が、後引く美味しさの決め手ですのね…」
「やはり大した発想力だなぁ。ネタなんぞ無限にありそうだ」
「とはいえ、悩みどころは、やはり菓子そのものの大きさなんだが…」
世界大会のお話です。
そうなのよ、絶対にどこに出しても引けを取らない和み庵と二人の和菓子なのだけど、ほら、ひとつひとつが小さいでしょう?そこが可愛くて良いところなのだけど、世界大会って規模になると、このままじゃダメだろうなって話になって。
イェシルさんが持ってきてくれた歴代の記録を見てみても、みーんな巨大で華麗なケーキやらなんやら。もちろん大きさだけが評価基準ではないにしても、味より先に目に映る印象が勝負どころじゃない?
「日本にも、創作工芸和菓子という形で、そういうコンテストはあったから和菓子でも張り合えると思うが…生憎と、俺と深月はそこまでの経験値はない」
工芸和菓子、凄いわよね。私も見に行ったことあるけど、何かしらねあの美術品。
二人はあくまで、街中の素朴な和菓子作りにまず集中してきたと思うから、いずれそういう技術を身につけようとしていたにしても、今は無理なのだわ。だから、どうしようかって話なのだけど。
「この間のような飴細工は見栄えするんじゃないか?」
「そうだな。だがそれも、そこまで大きなものを作るには今の俺達では足りない。それに、飴細工だけでは和菓子というには少し弱い気がする。この世界にも飴細工ならあるだろう」
「美しさなら、やはり、上生菓子で勝負でしょうか…」
「(TPO的には、饅頭とか大福とかじゃないもんね。まさかそれを巨大版で作るわけにもいかないし…)」
「誰をターゲットにした菓子なのかのコンセプトはどうするんだ」
「まさにフェンリル殿の言う通りだ」
どうせやるなら、ドーンと勝負に出たいわよね。こんな感じで最近は、みんなでうんうん戦略を練ってるわけなのよ。
「小さくとも、良いんじゃないのか」
「(え?)」
「確かに見栄えは重要だろうが、審査員は各国の王族が主だ。彼らの美意識を刺激し、その目に留まることが出来れば、評価も上々だろう」
ずず、とやっぱり騎士服のまま畳で正座で湯のみでお茶を啜りながら、イェシルさんがのんびりとそう言った。
「(審査員って王族なんですか?)」
「あぁ。そうでない者もいるが、最終的な評価や得点は彼らの意見に左右されるだろうな」
そう言うと、イェシルさんはペラリとまた何かを差し出してきた。
「文書殿に、去年や一昨年の大会のコラムが載っている地元新聞を偶々見つけてな。転写してみたんだが」
要項集に載っている歴代成績は、あくまで淡々と事実を記録したもの。でもそこには、優勝者の地元がいかにその栄光に沸いて、王族の誰がどういった評価をして褒めたのか、感情豊かに当時のことが書かれていた。
私や二人はこの世界にまだ疎いし、きなこやしぐれも基本的に人間社会とは離れたところにいたみたいだし、ナミルさんも百年以上ずっと浮世離れしてたから、要項集の記録を見ただけではそこらへんはわからなかったわ。
「…確かに、いかに王族の目に映るかが存在主張の鍵のようだ」
「(だね。二人は賞とか褒美狙いじゃなくて力試しだけど、やっぱりそこらへんも大切になるかな?)」
もちろん、王族に媚びるってわけじゃなくて。実力で、もし王族の目に留まったなら、二人にとって自信になると思うわ。
だって二人の和菓子は、和み庵の和菓子で、おじいさんとおばあさんに守られてご両親に大切に育てられた、その証だもの。世界大会の参加が、未知の異世界で二人がこれから暮らしていく後押しになれば良いのだけど。
「ところで、唐突だが、君と二人で話がしたい」
「(…私?)」
本当に唐突。そう言ったイェシルさんに、真っ先にきなことしぐれが胡乱げな顔つきになった。
「二人で、というのは、二人きりという意味か」
「あぁ」
ナミルさんは、ひょいと器用に片眉を上げて尋ねた。気安いように見えるけど、過保護オーラが発動しかけてるの丸見えよ。
「物は相談、というやつだ」
「相談、ねぇ。彼女と大して交流もない男がか?」
「そうだな。まぁ、無理にとは言わんが」
のらりくらり。そうしてまた、ずず、とお茶を啜る。やっぱり掴み所のない人ね…。
「念のため聞くが、俺が誰だかは知ってるな」
「この世界の存続を左右する『水晶殿』と同等の要所である『黄昏の宮』の主人だろう?」
「…厨房にいる。ジャンヌ、何かあれば呼べ。非常時のお前からの声は聞こえるようにしておく」
呼ばなくてもこの人達、飛んで来そうよね。でも、盗み聞きしようとしないあたり、とりあえず今の問答で納得出来たのかしら?ナミルさん怒らせたら地獄より恐ろしそうだものね。
「(相談、というのは、和月君と深月ちゃんのことですか?)」
「ふむ…なぜ、そう思う?君への愛の告白とは思わないか?」
はいスルー。
「(ナミルさんの言った通り、私達に個人的な交流はほぼ皆無ですし。共通点って言ったら、気にかけてる二人のことしかないですし)」
「半分正解で、半分当たりと言ったところか」
「(つまり?)」
「ミツキは、何を贈られたら喜ぶかが知りたい。君は同郷で、物の価値観も俺達よりはわかるだろう?」
彼は困ったように笑いながら小首を傾げた。言ってしまえば、非常にあざといけしらかん仕草だったけど、正直それどころじゃなかった。
「(………)」
「ふむ?テレパシーが切れたか?」
「(恋バナキターーーーッ!!)」
「切れてなかったか」
叫んだ私、悪くない。
「(え?え?イェシルさん、深月ちゃんのこと好きなんですか?ライクじゃなくてラブで?)」
「らいくもらぶもよくわからんが、まぁ、そうだな。おそらく、一目惚れというやつか」
「(マジですか。ちなみに聞きますが、いつ?どこで?なんで?)」
身体が動くなら押し倒す勢いでグイグイ迫ってるわよ。遠慮なんかするもんですか。こういうのいつぶり?前世の学生時代ぶりよ。これが食いつかずにいられる?喪女も干物も通り越した中身三十路女の飢えをなめないで欲しいわ。
「二人がこの店ごと転移してきた時、各国の王宮で時空の歪みを感知してな。それは異世界の者が現れる時の気配によく似ていた。異世界の者は、往々にして偉大な功績を残すことが多い。まぁ、つまるところ、異世界人を我が国にと求めるわけだ」
「(ふむふむ)」
「普通なら、転移地の国の所属に決まる。ところが今回の場合、幸か不幸か、中立地帯のこの関所だ。我先に異世界人を保護せよとのお達しが出た。いかに面倒かわかるだろう」
なるほど、そこらへんが「既に一悶着あった」の和月君の発言に繋がるわけね。
「三ヶ国の魔法騎士がぞろぞろと、武器を携えて押しかけるなど、思い返してもあれは酷かったな。まぁ、聡明で度胸もある二人のことだ。当然警戒して、更には武力には武力をと毅然として俺達に立ち向かった」
イェシルさんの視線の先には、和弓。
「君達がいた故郷には、戦ごとはなかったと聞く。怖かっただろう。それでも、弓を引く手を一切緩めずに矢をつがえる姿に、まさに射抜かれたようだったな。だからカヅキのことも好きだ。ところが、俺はどうやら同性にその手の欲は感じないタイプらしい。彼とは良き友人でありたいものだ」
射抜かれた、なんてキザっぽいセリフだけど、当時の状況的に下手すればそれ物理だったわけね。魔法で対処できたのかもしれないけど。
「(おそらく、っていうのは?)」
「近頃、ミツキを見ていると、妙な心地になってな。胸の奥で、奇妙な感覚がする。よくわからないが、何かの病気でもないようだ。そこで妹にそれとなく言ってみたところ、『人を官能小説のネタでしか見ないお兄さまが初恋キタコレ!?』と叫ばれて漸く気づいたんだが」
「っぶおっほ…ッげほごほごほっ」
「大丈夫か?」
「ジャンヌどうした!?」
私は必死で息を整えながら、バタバタと駆けつけてきた人達にハウス!と命令した。
「みやこさま…!?」
「おいこの抹茶野郎、こいつになにを」
「(何もない!大丈夫だから!今すっごく大切なところ!)」
なんとか戻ってくれたわ…でも、あのね?前置きもなくいきなりぶっ込まれると今みたいになるから、イェシルさんもちょっと悪いと思うわよ?
「(あの、改めて聞きますが、ご職業は…?)」
「エムロード大公国魔法騎士団第一近衛隊長だ」
「(では、その、官能小説というのは…?)」
「副業だ」
魔法騎士って副業可能な職業なのかしら…なんて、陳腐な疑問が浮かんだ。
「やはり、こういうことは、女性には好まれないか」
「(え?)」
「まぁ、別段、気にしてはいないが…ミツキに嫌われるのは、堪えるな」
いや、それ、めちゃくちゃ気にしてますよね。
「(えっと…確かに物の価値観は、女としても私が一番近いかもですけど、あくまで深月ちゃんは深月ちゃんですよ?)」
「そうだろうな」
「(だから、まぁ、私は何か偉そうに言えるわけではないですけど…あの、勘違いしないで下さいね。さっき、本当にいきなりすぎて驚いただけですから)」
「ふむ、君は官能小説を嗜むクチか」
「(今はそういうの良いです。ですから何が言いたいのかと言いますと、彼女は少なくとも、先入観だけで誰かを見る子じゃないと思います。驚くとは思いますけど。本気なら、イェシルさんこそ先入観じゃなくてちゃんと深月ちゃんのことを見て、向き合って欲しいです)」
久しぶりの恋バナに興奮したけど、これでも弁えてるわ。彼と彼女の行く末は、私が決めることじゃない。
でも、少なくとも深月ちゃんには、幸せになって欲しいもの。彼、なんだかんだと、やっぱり二人のこと大切にしてるのは本当みたいだし、現金なこと言えば近衛隊長とか将来安泰で申し分ないわ。かんの…副業も、彼なりに理由があるようだし、それだけで小姑みたいにとやかく言えることはない。
「(でも、最難関でラスボスは和月君ですからね?)」
「そうだな」
「(というか、それ見越して、和月君から攻略しようとしてますね?軽口叩けるようになったみたいですし?)」
「ははは」
この策士め。
とはいえ、和月君は和月君で彼の心境に気づいてて、敢えてそういう態度に出てるっていう線もあり得るわね。
「落とし文のように、奥ゆかしい真似が出来るかわからんが、のんびりやるとしよう」
「(泣かせたら祟りますよ)」
「肝に銘じようか」
さて、彼の恋はどんな味かしら?




