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33/40

喧嘩出来るうちが華

予告通り、タイトルを変えました!スロー(物理)笑

今後もよろしくお願い致します!いつも応援感謝です!╰(*´︶`*)╯

 皆さんごきげんよう。オアシスなうです。

 …何を言っているのかわからないと思うけど、私もわからない。一体どういうことなの…。


「………」

「………」


 沈黙が、重い…!


 周りにはローゼルをはじめとした、南国系の色とりどりの草花。人工的な滝や小さな泉もどき。壁や床や柱は白い真珠の輝き。ギリシャ神話に出てきそうな神殿風の建物の外から、爽やかな潮風が薫ってくる。


 そして、目の前には王妃さま。一体どういうことなの…(二度目)。


「食べぬのですか」

「(…頂きます)」


 やっと口を開かれたと思えば、優雅な扇子の向こうから氷のような眼差し。美し過ぎるって凶器だわ…。

 心の中できなこと目配せし合う。お母さんグリフォンが、大丈夫、と元気づけるように羽をもっふもっふ、膨らませてくれた。ありがとう、でもあんまりやると私、寝ちゃうからね?こらシエル、もこちゃん、真似しない。寝ちゃう。


「菓子も果物も、最上級のものを用意させました」

「(ありがとうございます)」


 そうね、見ただけでとびっきりのものだってわかるわ。白目を剥きそうなくらい。今、きなこが口に運んでくれたのなんて、パイナップルみたいな果物だけど、果汁がジューシーで思わずむせそうなくらい。


「それは、ペルラで国宝認定されているパティシエのものです。先日、馳走になりましたワガシとやらにも劣らぬでしょう。食したことは?」

「(いえ、初めてでございます)」

「ならば、食べておゆきなさい」


 初めて途切れないで一往復以上会話が続いたわ。その事実に目眩がしそう…一体どういうことなの(三度目)。


 ここは、王宮…ではなくて、たぶん、王妃様の別宅だとか離宮だとか、そういうのだと思う。あっちに王宮が見えるもの。

 ナミルさんの離宮で、うつらうつら、微睡んでいたらレイさんが現れて、ごめんちょっと一緒に来て頂戴って。もう慣れた転移魔法陣が光って、気づけば今ココ状態。…やっぱり意味がわからないわね。

 そのレイさんは、ロクに説明しないで、神妙な顔つきでそこの隅に控えてる。何か考えがあるのだろうけど…留守にしてるしぐれとナミルさん、私達が不在って知ったらどうなるのかしら。ぶっちゃけ、そっちの方が怖いわね…過保護だもの。


「(どれも、美味しゅうございました)」

「そうですか」


 …これは、もしかしなくても、先日の手土産のお礼のおもてなし、だったりするのかしら…?ううん、判断出来ないわ。


「………」

「………」


 ズラリと並べられた、お菓子や果物。氷の眼差しと口調でそれぞれ淡々と説明されるまま、食せとの威圧感に気圧されてひと口ずつ、一通り食べたところで沈黙合戦再び。これ以上どうしろと。


「母上」


 レイさんが、何か促すように王妃さまに端的に呼びかけた。

 すると、扇子の向こうの美しすぎる瞳が凶悪に歪んだ。…え、なに、これ睨まれてる?きなこも警戒したのか身構えてる。でもレイさんは、何故か呆れたように溜息ついてるし…ううん?


「…そなた」


 あの、今、扇子の骨がピキって音がしませんでした…?声音も重々しいし…えっと、ゾンビに話しかけるのに、そんなに力まなくても…あ、ヴェール被ってたわね。


「あの子とは、どのような、関係です」

「(あの子…?えっと、それは、ナミルさんのことで)」

「なぜです」

「(え)」

「なぜ、そなたは、そのように気安いのです」


 あ、これ、もしかしてそういう修羅場?そうなの?そうなのね?そりゃ、色々説明されたんだろうとはいえ、知らないうちに自分の息子に変な女が近づいてたらお母さん心配ですよね…!馴れ馴れしく呼ぶなって思いますよね…!


「わたくしは、あの子をこの腕にロクに抱くことも出来なかったのに…!」

「(へっ?)」


 パキ、と、とうとう扇子が折れました。ワッツ?


「なぜ、母のわたくしよりも、ポッと出のそなたの方が近いのです!?なぜ、そんなにも親しげなのです!?なぜ、あの子はそなたには笑いかけるのです…!?」

「(え、え、ご、ごめんなさいまし…!?)」

「なぜですか!わたくしは、あの子の、母なのに!」


 軽く困惑して、変な令嬢言葉が飛び出たわ…え?なにかしらこれ、修羅場は修羅場でも、想定と別方向なのだけど?

 …と、いうか。


「(王妃さま、あの、キャラが…?)」


 ギャップにもほどがある。氷の女帝が、年端もいかない少女のように癇癪を起こしてるとか…そんな風に唖然と、まじまじ見つめていたら、驚きの速さで詰め寄られてガッと肩を掴まれた。あ、ヴェールが。


「百十九年!あの子は自ら離宮に渡って以来、この母に一度も姿を見せようとはしなかった…!いかないでと、わたくしは言うことも出来ず…!」

「(痛っ…!)」

「ただ毎日毎日、この丘から見つめることしか出来ぬ…!」


 う、い、痛い…肩の骨がミシミシ言ってるわ…つ、爪、爪が食い込んでます…きなこが頑張って離そうとしてるけどビクともしない。王妃さま、もしかして怪力…?そこもギャップなの…?


 でも、私は、仮に動けてたとしても、引き離す気になれなかったと思う。

 だって王妃さま、泣いてるわ。


「母上!」

「ナミル、そこで隠れていろと言っただろう!」


 え、ナミルさん、そこにいたの?本当にこれどういうこと?


 これまた驚きの速さで近づいてくると、グイと私達を引き離した。


「何をなされる、彼女は重傷を負っているとあれほど」

「(ナミルさんストーップ!!)」


 手だけでも思い通りに動くなら、その頭、スッパーンって張り倒してたわよ。

 全然よくわからないけど、咄嗟に、これはダメだって思ったんだもの。


「(お母さんばかり責めない!あと、王妃さま!寂しいなら寂しいって言わないとダメです!)」


 もういいわ、私も頑張って令嬢キャラ作ってたけどやめた。

 私にとって、まくしたてられた主張はどれも脈絡ないけど、でもそういうことでしょう?あの傷ついたような目はそうなんでしょう?私、何も知らないけど、元日本人のKY(空気読む)スキルなめないでちょうだい!


「(百十九年って、どれだけ拗らせてるんですか!)」

「その通りですよ、母上。ナミルも」

「ジャンヌ?兄者も…どういうことだ…?」


 どういうことだ、は、こっちの台詞!!


「今の母上の言葉を聞いただろう、ナミル。それで何も察せないなら、お前は大馬鹿者だ」


 あ、ナミルさん、その顔は微妙によくわかってない顔ね。部外者の私ですらもう少しわかってるわよ。ええい、この鈍感!


「はぁ…ナミル、お前は、離宮の主人に召し上げられる十八の時を待たずに、自ら篭っただろう。確かに、周りのうるさい連中の思惑が絡んでいたことだが、父上や母上の決定ではない以上、何も十五で役目を引き受けることはなかった。そもそも、その役目とて強制ではない」

「それは、そうだが…いや、待ってくれ、その話はここで何の関係が」

「私も腑に落ちなかった。…いや、納得いかなかった。ナミル、どうしてお前は早々に離宮に上がることを選んだのだ」


 お兄さま、相当、苛立ってるわね…。流石は神獣の契約者で次期国王さま、正直、この間よりも迫力あるわ。ほらナミルさん、たじたじ。


「そ、れは……その方が、母上は、心安らかに過ごせるだろうと」


 次の瞬間、ハリセンよりも良い音が響いた。


「っだ、れが…っそのようなことを、言いましたか…!!」


 あまりの勢いに尻餅をついたナミルさん。

 …ごめんなさい、今、凄く愉快だわ。これ、修羅場じゃなくてコメディだったのね。それとお母さん、最高級のお菓子とか出してきたの、おもてなしじゃなくて対抗心だったんですねわかりました。


「おまえは、いつもいつも…!理解して、悟ったような顔をして、まるで他人のように、この母を見て…!わたくしは、我が子を抱き締める度量も、可愛がる資格もないと言うのですか!?蛇眼持ちだからなんです!?腹を痛めて産んだというのに、乳をあげることもあやすことも、わたくしは許されなかった…!」

「…い、や…それは、そうだろう…?未だ未知の異力だ、母上に何かあってはマズかろう。俺にあんまり良くして近くにいれば、母上こそ奇異の目で見られる。実際、そういう空気があった。だから、俺は」


 ダメだこの人。あぁそっか、十五で人間やめたんだものね?人間の心の機敏なんてわからない?えぇ皮肉ですけど何か?


 王妃さまは、更にタガが外れたように、今度はナミルさんの肩をガッと掴んだ。


「この娘なら良いのですか!」

「はっ?」

「この娘には、笑うのでしょう!?だったら、わたくしが母でなくなればお前は!笑うのですか!?」


 完全に傍観態勢な私に、レイさんが近づいてきてこっそり耳打ちする。


「弟と妹を頑張って産んだのだって、そうすればナミルを呼び寄せて近づけるかもしれないって下心もあったのよ」

「(なるほどです)」


 ところが、コソコソしていたら再びキッと睨まれた。


「お前もですレオパルド!」

「は」

「この母に、隠していることがあるでしょう!なぜ、二人揃って母を信じてくれないのです…!?」


 うわぁ。

 私の内心は、ひと言で言えばそれに尽きた。


「……え、えー…うっそ。え、いつから…?ナミルでさえ、アタシからアウトプットしなかったら気づかなかったのに…?」


 はい、説教一名追加。


「とんだすれ違いだな」

「(あ、しぐれ。ほんとにね)」


 まぁ、王族だからこそ、自由に出来ない部分なんてそれこそ、たくさんあるのだろうけれど。でも、百十九年、って、ちょっと長すぎよ?


「(和月君と深月ちゃんの、和み庵の和菓子のお陰だね)」

「みやこさまも、でございますわ…」

「これは、このまま見てるのか」

「(良いんじゃないかな)」


 目の前ではガミガミおろおろしてるけど、なんだかほのぼのしてきたわ。


「(孝行も喧嘩も、やれるならやった方が良いよ)」


 したくても出来ない切なさや虚しさより、よっぽど良い。

 当て馬だろうがなんだろうが、私、少しは役に立ったかしら?


「(みたらし団子と、ほうじ茶かなぁ)」

「お串に、三つのものでございますね…」

「(そうそう、今、なんかそんな気分。皆んなで食べようね)」


 ふと海を見ると、もう夕暮れ時だった。

 《黄昏の浮島》のように、夕焼けの色にきらきら煌めいて、深い深い色になってゆく海の離宮を眺めながら、ほっこりと微睡んだ。

…喧嘩?

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