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モフ可愛いケモ耳美少女

仕事忙しい。

こんな癒しが欲しい。

 皆さまお知らせです。グリフォンは人間をダメにするベッドでした。


 朝起きて、もっふり夢心地のまま綺麗な海をひたすら眺められるって、世界ランキング上位のリゾートでも絶対にない。お母さんグリフォン最強。今の私は物理的に動けないけど、これ動けても動けないやつじゃないかしら…?

 グリフォンという精獣は、頭が鷲や鷹で、胴体が獅子の動物らしいのだけど。

 こんなにゴツいのに、毛並み…羽並み?がふわふわモフモフってどういうことなんだろう。あ、ダメよモフっちゃ。起きたのにまた寝ちゃうから。

 この無重力感が凄い。お陰様でどんな体勢でも身体中痛いはずなのに、どこにも負担かかってなくて熟睡出来るのです。


『いいよ〜、ジャンヌ、寝ていいよ〜』


 やめて、その声も寝ちゃう。

 あのね、私、いくらお世話になるしかないって言っても、甘えちゃダメだと思うのよ。こんなグータラ寝てたらバチが当たってしまうと思うの。


『ジャンヌ、いっぱい頑張った。お休み、たいせつ。だから、寝ていいよ〜』


 はて、私は一体誰とお話ししているんでしょう?


『シエルだよ〜。ジャンヌが「名」をくれたの。だから、今度はシエルがジャンヌにいっぱい、何かしてあげる〜』


 キュィ、と聞きなれた鳴き声に、副音声が重なって聞こえた。


『おはよ〜ジャンヌ』

「(…シエル?)」

『うん、シエルだよ〜。おはよ〜』


 ちょん、と肩に乗ってきて、スリスリと頬擦りされる。顔も火傷でいっぱいだけど、全然痛くないのよこれ。やっぱり癒される…。


『やっとお喋り、出来てシエル、嬉しい〜』

「(やっと?)」

『エーデルシュタイン、あっちより良い魔力、いっぱい。だから、ジャンヌとお喋り、出来るの〜。ジャンヌの魔力も、きっと戻るよ〜』


 グルル、とお母さんグリフォンも頬ずりしてくる。私これ、全身埋まってるんじゃないかしら…?


『おかーさん、シエルが羨ましいって〜』

「(なんで?)」

『ジャンヌはね、きっと聖女だから、「名」づけは凄く、シエル達には嬉しいの〜。ジャンヌ、おかーさんにも「名」、あげて欲しいな〜』

「そこまでだ」


 私達がいるのは、テラスみたいなところだ。

 やってきたナミルさんは、こら、と呆れたようにシエルを叱った。


「無闇に『契約』をするもんじゃない。しかも精獣から持ちかけるとか前代未聞だぞ」

『ごめんなさーい』

「お前のは不可抗力なんだからな。ジャンヌ、お前もこいつらにホイホイ『名』をつけるなよ。そういうのは、この世界の理を理解してからだ」


 よくわからないけれど、複雑な事情があるよう。とりあえず素直に頷いておくことにした。シエルをただの小鳥だと思っていた私は、確かに箱入りなのだろうし。


 ふと、ナミルさんの後ろに、誰か立っているのに気づいた。


「俺達は獣人だとか、半獣などと呼んでいる。ジャンヌ、お前の世話係だ」


 驚きのモフ可愛い儚げ美少女です。


 …でも、どこかで見たことがあるような気がするのは、気のせいかしら。


「ジャンヌさま…」


 見た目を裏切らない声は玉鈴のようで、サウンドヒーリングという言葉を思い出した。


 彼女はしずしずと近寄ってくると、更に擦り寄るようにそばに膝をつく。…近いです。凄く、近い。ヒーリングって過ぎると毒なのかもしれない…。

 澄んだ翡翠色の瞳に、金と銀が入り混じったゆるふわな髪の毛。ぴょこん、と頭についているのは、まごうことなきケモ耳。背中のほうに見える、見るからにモフモフなものは尻尾ですよね…?この子はヒーリング要素で構成されているのかしら。


「わたくしのことを、覚えて、おりませんか…?」

「(え…?)」

「ディアマント家で、見世物に捕まっていたところを、貴女さまにお助け頂きました…」


 ー思い出しました。


 あれは、悪役令嬢を演じ始めて、少し軌道に乗ってきた時のこと。

 彼らが闇オークションや売春にも手を染めていることを知った私は、なんとか演じて潜り込むことが出来た。


 本当に、もう、あの世界はひどくて。


 吐きそうになりながら、きっとなんとかするのだと自分に言い聞かせて、如何にも高みの見物にやってきた侯爵令嬢を装いながら舞台裏に潜り込んでいた。


 数々の檻の中に、その子はいた。


 見張りの人がうっかり施錠し忘れていたのか、その檻だけ鍵が開いていた。絶望に瞳を曇らせていたその子も、気づいていなかった。

 半分以上無意識で、その子をこっそり連れ出した。この子だけでも、なんてとんだ偽善だとわかっていても。「逃げて。遠くへ。早く」と。


「貴女さまへのご恩は、それだけでは、ないのです…」

「(…?)」

「わたくしは、前世で、貴女さまに拾われた仔猫でございます…。後ろ脚が一本ない、哀れな仔猫を、貴女さまは慈しんで下さいました…」


 覚えて、おりませんか…?

 もう一度聞かれて、ビックリして、私はその子をじーっと見つめた。


 ふわふわと、目の前の光景と別の光景が重なり合ってゆく。

 私を一心に見つめる彼女の影に、少しずつ、ぼんやりと、一匹の仔猫の影が見えた気がした。


「(きなこ…?)」


 心の中で呟くと、うるり、と翡翠色に透明な水が溜まった。

 こんな美少女に泣かれると心臓に悪い。悪いことをしてしまったみたいで、私はオロオロ慌てた。


 みやこさま、と、彼女は濡れた声で私を呼んだ。


「今度こそ、おそばで、お役に立たさせてくださいませ…」


 そう言うと、彼女は私の火傷や傷を労わるように触れてきて、きゅぅ、と腕に縋り付いてきた。ふわん、と良い香りのする髪の毛とケモ耳が、私のHP値にクリティカルヒットした。


 モフ可愛いケモ耳美少女は、前世で拾った仔猫でした。

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