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ホラーではありません

日本ではお馴染みの子です。


いつもブクマ、評価、ご感想、ありがとうございます!また、誤字報告感謝です!さて、今回も作者の好みに存分に偏っております。どうぞお楽しみあれ╰(*´︶`*)╯

「(カボチャ尽くし…!)」

「ジュパン領で豊作だったらしくてな。お裾分けを頂いた」

「それで、こちらが、みやこさんからお裾分けして頂いた干し柿とで作った《黄金(こがね)霊峰(れいほう)》です」


 ごきげんよう皆さん。和み庵なうです。なんだかんだで三日に一度は遊びに来てる気がするわね。


「まぁ、とても濃厚な色…よろしゅうございましたわ、みやこさまは、カボチャに目がないですもの…」

「カボチャの季節はバカのひとつ覚えみたいに、三食ともカボチャばっかりだった食っていたな。見ているこっちが胸焼けしそうだ」


 そうなのよ、野菜の中で何が一番好き?って聞かれたら即答でカボチャよカボチャ。蒸しただけでほっくり甘いの、それだけでもう他にはいらないって思うくらい。


 並べられているのは、贅沢にカボチャをたくさん使った和菓子たち。あぁ、この濃ゆい黄金色や橙色がもう食欲を誘うわ…ホクホクとしたカボチャの匂いに、絶妙に入り混じってる香りは、きっと肉桂ね。そう、シナモンよ。あらやだヨダレが。


「汁粉と大福と金鍔も作った。食べたいだけ食べてもらって構わない」

「張り切ったなぁ。流石に食いきれないんじゃないか?」

「良い食材が手に入れば作りたくなるものだ。尤も、作った殆どはジュパン領のお里の方々に届けてある」

「(喜んでたでしょ絶対)」

「はい、有難いことです。やはり、和菓子という存在がないせいで目新しいのか、毎度喜んで下さって」


 違うわよ深月ちゃん、目新しいのもそうかもしれないけど、二人の和菓子が美味しいからよ。だって、丹精込めて作ったものが、こんな美味しい素晴らしいものに変身しちゃうのよ?いそいそ食材持って来てるに決まってる。


「《黄金の霊峰》とは、和菓子というのは見た目や味だけでなく、名前まで風雅に拘るんだな」

「自分の子供に名をつけるような感覚だ。名ひとつで印象も変われば感じる風味も異なる」

「これは、おじいちゃんとおばあちゃんが、昔住んでいた山村で見ていた風景のひとつらしいんです。山々が本当に綺麗に染まった晩秋の、陽が傾いたほんの一瞬に見られたものみたいで…気象条件とか、紅葉の具合とか、どれもが絶妙に重なり合わないと、神々の息吹を感じられる黄金の山は見られないそうで」


 干し柿を貰って、真っ先に思い出したからリクエストしたものよ。カボチャがあったならグッドタイミングだったわけね。


「さぁ、みやこさま…あーん、です…」


 やめてきなこ、せっかく食べる前にキュン死しちゃうから。


「(いただきます!)」

「ははっ、確かにいつも以上にテンションが高いな」


 《黄金の霊峰》は、ほっくり蒸したカボチャを丁寧に裏ごしして、白餡と滑らかに混ぜて茶巾絞りにしてるの。茶漉しでうっすら、シナモンが散らしてあるのが、深まった秋の情景を上手く演出してる。香りも最高。


 茶巾で絞った時に出来る絞り跡が、山の峰を自然と表しているのが良いわ。こういう、敢えて手を加えない潔さがあるのも和み庵なのよね。

 ほら、お菓子って、創意工夫しよう、もっと美味しくしよう、って思うと、むしろ色々と手を加えて足し算したくなるでしょう?逆に引き算って、実は凄く難しいのじゃないかしら。


 中には、干し柿をよーく刻んだ餡が包まれてる。

 これ、本当に干し柿だけなの。これは裏ごしもしてないのよ。ねっとり柔らかい部分と、外側の少し歯ごたえのある部分とどっちもあって、食感に変化が出てる。


 これなら簡単に作れると思う?バカおっしゃい、シンプルなものほど難しいんだから。カボチャの練り切り餡と干し柿の餡を、どちらもシンプルでありながら上生菓子としてひとつに調和させるのは間違いなく職人技だわ。


「(んん〜〜〜、しあわせぇ〜〜〜〜…っ!!)」


 私はしぐれにバカ呼ばわりされるくらい、三食カボチャでもオールオーケーな人間だけど、ほっくり濃厚なカボチャって、それだけにうっかりすると胸焼けするじゃない?でも《黄金の霊峰》は、干し柿のフルーティーさがあるから、全然そんなことないし飽きないの。ペロッと二つや三つは余裕でイケるわ!


「どれ、俺も頂こうか」

「わたくしも、いただきます…」


 ふふ、皆んなも夜のお茶会、楽しんでるみたいで良かった。私の付き添いは、むしろそっちこそおまけで良いもの。ここ来てここの和菓子を食べたいから来る。和月君も深月ちゃんも、楽しそうなら何よりだわ。


 でもね、私、実はずっとずっと、気になってることがあるのよ。


「(和月君、深月ちゃん、ちょっと)」


 心の声で二人を呼び寄せると、私はずぅっと気になっていたことをとうとう尋ねた。


「(あそこにいるの、見えてるのって私だけかな?)」


 客室の床の間には、いつも何かしら生けてある。この世界の草花は全然詳しくないけど、今日はジュパン領の人達から南瓜と一緒に貰った秋の七草らしい。


 その床の間のそばに、ちょこん、と座ってる、着物姿のちっちゃな女の子。


「神楽坂殿にも見えるか」


 自然とひそひそ話になる。


「ナミル殿らには見えてないみたいだが…いや、フェンリル殿は気づいてるかもしれない」

「(うーん…座敷わらし…とか?)」

「私も、そう思ってるんです」


 なんでも、見えるようになったのはこっちに来てかららしい。でも、日本にいた時から、ちょっと不思議に思うような心当たりはなくもない、と二人は告白した。


「あれはどこだっけ、って思ってたら、ふと近くに置いてあったり。ちょっと掃除しようかな、って思ってたところが、いつの間にか綺麗になってたりしてて」

「敢えて見えてないフリをしているんだが、俺たちの後についてきて、何か手伝おうとしたりな。あの子も気づかれないように気を使ってるのか、掃除とかちょっとした片付けとか、こっそりやってるのが、まぁ実際はモロバレなんだが」

「(なにそれギャンかわ)」

「そうなんです。なんだか、動きとか仕草が可愛くて…でも、見えてるってわかったら、もしかしたら消えちゃうかもしれないので、うっかり話しかけられなくて。作ったものも、そっと置いておくしか出来ないんですよね…」


 私達は改めて床の間の方を見た。


 花器のそばには、《黄金の霊峰》がお皿に乗っけて置いてあるのだけど…すっごい、目を輝かせて見てるわ。ちっちゃな両手を胸の前で合わせて。さっきだって、深月ちゃんがお皿置いた途端、ぱぁああ、って音が聞こえそうなくらいだった。


 最初は神棚に置いてみたらしいけど、あの子の背丈じゃ全然届かなくて、頑張ってぴょんぴょんしてるのを見て床の間に変更したんだって。…なにそれ、想像だけで萌える。


「(でも…食べないね?)」

「そうなんだ。自分のもの、って認識していないようでな…」


 なんてことなの。和月君も、悩ましい、って顔だわ。


 和菓子の可愛さと美味しそうな雰囲気に、ソワソワうずうずしてるの。二人のことチラチラ見てる。でも、いつまでたっても食べようとしない。

 食べたいなぁ、って思ってるの丸わかりなのよ。でも、控えめに、ちょん、って指先で触ってみるだけ。あぁぁあああもう焦れったい…!


「食べてくれれば、俺達も嬉しいんだが」

「(あ、あ、お皿持ち上げた……って、眺めてるだけ!?食べなよ!?)」

「ああやって、可愛く見つめてるだけなんです。時間が経って悪くなってしまう前に、どうしても下げなきゃならないんですけど、その…下げる時、とても名残惜しそうな顔をするので、罪悪感がですね…」


 二人がそろそろ我慢の限界なのね。わかるわ、私が既に限界だもの…どうしてくれようかしら…。


「三人とも、さっきから何を見てるんだ?あそこか?」

「ナミル…!このバカがッ」


 しぐれが咄嗟に制止の声をあげたけど遅かった。

 ナミルさんが指をひとつ鳴らした途端、その子をふんわり包んでいた何かが消えて姿がハッキリと見えるようになった。


『…?…、……!?…!……っ!!』


 持っていたお皿が放り投げられて天井に衝突、続いて花器がゴトンと倒れて水と七草が畳に盛大に溢れた。隠れようとしたらしい。アワアワと私達を見て周りをキョロキョロして、ピャッとまた逃げようとしてぺシャリと転んでしまった。この間、たった五秒。


「(あっ危ない避けて…ッ!)」


 放り投げられたお皿が木っ端微塵になって、バラバラと破片になって転んだその子の真上から落下してくる。

 咄嗟に動こうとしたらきなこにとめられて、そのゆるふわ髪の毛の隙間から見えた光景は。


「…怪我はないみたいだな。いいから落ち着け。誰もお前を追い出しはしない」

『…!?…っ…!』

「これくらいで傷つくようなヤワな身体ではない」


 ナミルさんをギロリと睨みつつ、被った破片を無造作に振り落とすしぐれの片腕の中に、その子はすっぽりと収まっていた。


 えぇっと…。

 座敷わらし(?)を捕獲したようです?

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