大福で福々すれば良い
王道も元祖も大切ですよね!
それと、タイトル少し弄ってみました!この方がわかりやすいかな?
いつもブクマ、評価、ご感想、本当にありがとうございます!今日も皆様の心の栄養になりますように!╰(*´︶`*)╯
「いらっしゃい」
「お邪魔します。…あ」
目を開けるといつも通り出迎えられてから、ぱちりと目を瞬いた。
「その子…」
《トゥルル…》
「はい。ジャンヌさんを待っていました。還る前に、もう一度だけ会って、お礼を言いたかったみたいで」
フォンテーヌさんの両手にいたのは、あの時、私の右手で繭になった子だと、なんとなくわかった。
彼女が微笑んでそっと両手を差し伸べると、ふわっと飛んで、パタパタと私のところまで来た。
「天蟲にも種類がある。中でも天糖蟲は、天の虫と崇められてはいるが、特に人の文化に寄り添った精霊蟲だ。生来的に、人のそばに在ることを好む」
「ジャンヌさんの手の上で、安心して天寿を全う出来たようですよ」
夢の中では滑らかに動く指先で、ふわふわな身体をそっと撫でる。すると、パタパタ動かした羽から、きらきらとした鱗粉が掌に舞い落ちた。
「また、ね」
《トゥルル…》
ふわっと指先を離れて、私達の頭上を舞い上がった。『水晶殿』の中心に聳える大黒柱の大樹へ、溶け込むようにして消えていった。
そうだ、ここは、命が巡って還る場所なのだったわ。
「あれは、エーデルワイスという世界樹だ。地下深くの水晶の源泉を育んでいる。一千年かけて、彼女が育てた」
「フォンテーヌさんが?」
「恐れ多いです…」
「アンタはまだそんなことを言っているのか」
《そうよー》
《巫女はー、聖巫女でー》
《ことほぎの巫女でー》
《癒しの聖母でー》
《守り人でー》
《王さまの可愛い妻!なんだからー》
《ちゃーんと自覚、しなさいよー?》
うんうん、なかなか良いコンビネーションね。私なんてまだ付き合い浅いけど、どうも彼女は自己評価がちょっと低いみたいだから、周りが押せ押せでいかないと。
というわけだし、私に出来るささやかな応援って言ったら、美味しい想像よね。今日は何を食べてもらおうかしら?
《ジャンヌ、それ、天糖蟲の粉砂糖よ》
「そうなの?」
《例えば、よっぽど気に入ったお菓子職人の作ったお菓子に、時々ああやって振りかけてあげるのですって》
《せっかくだし、食べちゃえば?天糖蟲のお砂糖は、普通のお砂糖よりずっと滋養があるのよ。薬になるくらい》
金色のようにも、銀色のようにも見える。さらさらしていて、確かに粉砂糖みたい。
えぇと、でも、どうやって?舐めればいいかしら?
「あ、どうも」
《王さま、気が効くぅー》
「このハーブティーにも、合うと思います。是非、どうぞ」
勧められたので、淹れてくれたお茶にさらさらと溶かした。
…あぁ、美味しい。どんな味になるかと思ったけど、程よくお茶の風味を引き立てて、いい感じだわ。
「もこちゃんも飲む?」
「メゥ…?」
「私は良いよ」
《今日ももこもこねー》
《真っ黒ねー》
《仲良しねー》
はい、本日ももこちゃんと一緒です。もこもこが良いマッサージです。
「あの天糖蟲は、お話しされている、行きつけのお店で…?」
「そうなんです。一昨日行ったら、いっぱいふわふわパタパタしてて」
「えっ」
「え?」
「…いっぱい、ふわふわパタパタ?」
「はい。いっぱいふわふわパタパタ。…あの?」
あら?絶句されちゃったのだけど…?
「…天糖蟲は」
「はい」
「一匹二匹ついたら、人間国宝と呼ばれる」
「………えっ」
今度は私が絶句する番だった。
言葉少なに説明した王さまは、頭上の精霊達に何か確認するように目を向けた。
《大丈夫よー?》
《自然界に異常はないわよー?》
《異常発生じゃなくて、単にその人達の素質じゃぁないー?》
《凄いわねー、アタシ達も行ってみましょうよ》
《美味しいものねー》
「やめておけ。目立つ」
《ええー!!》
え、ちょっと待って?あの光景、十匹でも済まなかったわよ…?嘘でしょ、じゃあなにかしら、和月君と深月ちゃんって、国宝どころか、神レベル!?
「か、帰ったら、注意喚起します…」
「それが良い」
私だって、そんなバカじゃないわ。
あれ、下手に見つかったらまた魔法騎士云々とかに騒がれて二人が危な…待って、魔法騎士さん一人、ばっちり見ちゃってるじゃない!?え、イェシルさん、今頃言いふらしてるとかないわよね!?大丈夫よね!?二人を裏切ったら祟るわよ!?しぐれが何も言ってないから、そういうことにはなってないと思うのだけど…。
「メゥメゥ」
「う、うん、しぐれが監視してるから、大丈夫なはず…」
こほん、気を取り直して。
よし、決まった、今日フォンテーヌさん達に食べてもらいたい和菓子!
ポポポン、ポンっと空中に現れたのを、《ひゃっほー》と森の精霊さん達がまたお皿でナイスキャッチしてくれた。
「…今日も多いな」
《王さまったらそればっかりー》
「さぁどうぞ!」
《どうぞー》
きゃらきゃらと笑っている子達と一緒に、ずずいと二人に押し出す。
私?私は良いのよ。現実で和月君と深月ちゃんを手伝って食べるっていう大事なお仕事があるんだから。ここでは二人に食べてもらうのが仕事!
「綺麗…こっちの、まぁるい小さなものは、もしかして大福…?」
「はい!」
私が想像したのは、この前の《珊瑚真珠》と《酔芙蓉》、それに、和み庵とっておきの大福三種類。
そう、皆んなが大好きな大福です!拍手!
「小豆餡と、黒餡と、柚子餡です」
「三種類もあるんですね。食べきれるかな…」
「ひと口サイズだし、全部食べてもらいます!」
《気合い入ってるわねージャンヌ》
《手伝うのもやぶさかじゃないわよ?》
《顔がニヤついてるわねー》
和み庵の大福で、強いてベストスリーを決めるならこれなのよ。
《やだー、巫女ったらお口ちっちゃいから、リスみたいになってるー》
《もっちもちー》
まず、真っ先に食べるべきなのは小豆餡。
でも、ただの定番だなんて思わないことね。そんな風に思って買わない人とかいるけど、なんて愚かなのかしら。
いつか流行った塩大福?いいえ。製法が特殊?これも違うわ。流行りのスーパーフード系?NO。生クリーム?論外。
正真正銘の、小豆餡よ。
それだけ?
今、それだけって言ったわね?
違うわ、これが全てなのよ。
あのね、小豆餡を小豆餡として、素直に丁寧に作り続けるって素晴らしいことよ。個性豊かな餡子があるけど、埋没しないでちゃんと王道の味を貫いてる。
この大福を食べるとね、目に浮かぶの。丁寧に育てられて、綺麗に現れた小豆が、お鍋の中でコトコト柔らかく煮込まれて、お砂糖と一緒にだんだんとツヤツヤ、ふっくら炊き上げられていくの。そんな素朴な風景がちゃんとわかる味なのよ。すっごい、幸せな気持ちになるわ。
「これが、大福…」
「はい、これが大福です!」
もうね、これを彼女に食べて貰いたくて!
王道はつまらないんじゃなくて、元祖なのよ元祖。これを食べずして他の大福なんて有り得ないわ。ふふ、彼女、口の周りに打ち粉ついちゃってる。それをさり気なく拭ってあげる王さま…あぁ目の保養。ちょっと誰かカメラ。
《こっちの餡子、そのもこもこみたいに真っ黒ねー?》
《でも、なにかしら、香ばしい匂いだわ》
次は黒餡ね。
なんとこれ、黒豆の餡子なのよ。なかなかないと思わない?
ほっくり炊き上げられた黒豆に、和み庵の厨房にある石臼でじっくり挽いた黒胡麻と、松の実が一緒に練られてるの。こっくりとコクのある、舌触り滑らかな黒餡よ。
でね、ほんのちょっと、胡麻油と味醂が混ざってるのが風味を上品にしてる。絶対に黒豆と黒胡麻と松の実だけじゃないと思って、聞いてみたらこっそり教えてくれたわ。
ほら、チョコレート大福とか生チョコ大福ってあるじゃない?冬限定でよく出てくるわよね。私もね、寒くなったらチョコレートっていう感覚、凄いよくわかる。
でも私はそこで、チョコレートじゃなくて、この黒餡大福に飛びつくわ。
もう、本当にチョコレートみたいに濃い味わいなのよ。このちっちゃいのひとつで、大満足しちゃう。食べ過ぎたら鼻血が出るんじゃないかしらね。
欲張りは禁物よ。
しぶーいお茶を飲んで、パクリとひと口で丸食べ。
鼻をふわっと黒胡麻の香ばしさが抜けて、とろりとした黒餡が舌に絡んで溶ける。
無言でもっちゃもっちゃ、濃厚なのを思う存分堪能した後は、また渋いお茶をひと口啜って。
それで、はぁー…、ってひと心地ついたら、寒くても疲れてても、また明日頑張れるんだわ。
「ちょ、フォンテーヌさん、まだ手を合わせるのは早いですよ」
《そうよー巫女、まだ二つしか食べてないじゃないー》
「え、でも、もう私、幸せいっぱいで…」
その気持ち、わかるわ。この二つだけで至福だものね。この大福の良さを、これでもかと理解してくれた彼女に私も幸せいっぱいよ。唇に黒餡ついてるのクソかわ…。
でもここでは容赦しません!次は柚子餡!
「…覚えている。確か、ジュパン領特産の、柚子か」
「え?ジュパン領?」
「彼女の故郷だ」
なんと、彼女は噂のジュパン領のご出身だそうです。これじゃあ、益々日本の里山っぽいわね…。本当にどういうところなのかしら。
「和菓子、あっても良さそうな感じなのに」
「えっと…確かに、お団子や、餡子…お豆をお砂糖と似たものを、お汁粉にして食べたりする風習はありました。でも、それは和菓子というより、郷土料理という感覚で…」
ううん、そっか、つまり和菓子の原形?もっと素朴な形のものは、彼女も食べたことがあるのね。言われてみれば、和菓子って元々、風土食が発展したものだものね。納得。
「柚子…懐かしいです。でも、不思議ですね。さっぱりとしているのに、どこか、濃厚なチーズケーキのような…?」
「正解!」
「へっ」
ごめんね、和み庵の和菓子のことになるとヒートアップするのは仕様なのよ。諦めて。
柚子餡はね、白餡に柚子の果汁や果肉を混ぜただけじゃないの。
ベースはそうだけど、和み庵の大福は、実は豆乳が練り込まれてるのよ。あっさりしてるけど濃厚、の秘密はこれ。
不思議なことに、豆乳と酸味のあるものを混ぜると、チーズケーキの風味になるらしいのね。牛乳アレルギーでチーズケーキ大好きな人が、確かそんなこと言ってたわ。
でも、もちろんこの大福はちゃんと和菓子よ?ちゃんと白餡で、柚子の爽やかさが、疲れた頭や身体にすぅーって染み込むわ。後味がくどくないから、リフレッシュ出来る。それでいて、チーズケーキみたいな風味が満足感抜群なのよ。
「どうですか、大福」
「大福って、とてもぴったりな名前ですね。もう、お腹いっぱいで」
「まだですよ」
「えぇ…?」
《ほら巫女ー、こっちの綺麗なのも食べなさいねー?》
《凄いわよ、海とお花》
味だけじゃなくて、ひと口サイズっていうのがミソなのよね。これがもし、普通の大きさだったら、それこそなかなか食べきれるものじゃないわ。
美味しいものは、少し足りないかな?っていうくらいの量が良いの。その絶妙な加減が、美味しい、って気持ちを膨らませるのよ。
なにより、小さくてころんとしてるの、見るだけで癒されるでしょう?
次の上生菓子二つに行く前に、ちょっとひと休み。
「あの、私、海の向こうから来たので、色々とわからないことだらけなんですけど…蛇神って、ナミルさんのことなんですか?」
わからないことだらけだから、理解するべき順番だってわからない。不思議発言も不思議ワードも、てんこもりなんだもの。
知るために動きたくても、今は歩くことすら出来ない。周りの会話から、少しずつ把握はしてるけど、無秩序に欠片を集めてるような感覚なのよね…。
「…厳密には、太古の精霊王と対の存在であった者が、そうと呼ばれていたと言うべきか。蛇眼持ちのナミルという者と、先代の男は、その蛇神の異能を隔世遺伝的に身に宿した者、となる」
「蛇眼は、具体的にどのような力なんですか?」
「魔力とは別物だ。俺も、全て把握しているわけではない。おそらく、本人ですら把握しきれてはいないだろう。ただ、海の安寧を統べる上で、一役買っていると見て良い」
「蛇眼を持っているから、離宮の役目を任されるんですか?」
「少なくとも、本人の意思でその立場にいる。先代の男も、そうだった」
うーん?なんか、先代に対する言い方が妙に親しげなような…?この折り鶴の持ち主だったわよね。
「知り合いだったんですか?」
「俺達がこうなる以前、直接の関わりを持っていた」
「そうなんですか。先代…ん?え?それ、一千年前…?あれ?」
「あの男は、五百年ほど生きたか」
「ごひゃっ!?…え、蛇眼持ちって、長寿なんです…?」
そ、そういえばナミルさんも、人外とかなんとか自分で言ってたような…。
「…あれは、凄まじい意志力だった。それゆえだろう。ナミルという男が、今後どうするのかは、わからぬが」
ううん、やっぱり複雑というか、ワケありっぽいわね…あら?彼女、《珊瑚真珠》と《酔芙蓉》に感動しているようだけど、またあの切なそうな瞳だわ。無意識に地雷でも踏んじゃったのかしら…。
「頂いて、良いですか?」
「どうぞどうぞ。あ、《珊瑚真珠》も丸食べでお願いします!」
彼女から意思表示してきたわ!やった!
食べ方は大事よ、ちゃんと言わないと。
それにしても彼女、本当に大切に味わってくれるわ…そうそう、こういう人にこそ、和み庵の和菓子は相応しいのよ!
ううん、そうね…もし彼女を意匠にするなら、どんな和菓子になるかしら?王さまも。ナミルさんは鈴カステラとひよこ饅頭だけど。
《きゃー!甘いお酒だわー!これ、だーいすき!》
《海がぷるぷるもちもちー!》
《ねぇ、やっぱりこっそり行きましょうよー》
「ダメだ」
《王さまのケチー!!》
容赦ないわね…あ、あら?フォンテーヌさん?
「…あの、もしや、お酒に弱い…?」
「………」
ち、沈黙は肯定ですね!やだ、王さま怒ってたらどうしよう…彼に甘えるように寄りかかって寝ちゃってる彼女がグゥかわすぎて萌えるから良いわ。開き直り上等よ!
「問題ない」
「あ、おやすみなさい」
彼女をお姫様だっこして、席を離れてゆくのを精霊達と見送った。
「…今更謝るのはおかしいけど、私、お邪魔してて良いのかな?」
《ぜんぜーん?》
《良いわよー。問題ないない》
「そう…?」
《そうよー。巫女は、嬉しいと思うわよー?》
《そりゃぁ、ちょっと思い出したりとかして、寂しくなったり、悲しくなったりするかもだけどー》
《でもそういうの、大事だしー》
「海の…ペルラのものって、地雷?」
《んー》
《色々、あったのよー。先代の、蛇眼持ちとねー》
《巫女は、愛されてるから、仕方ないわねー》
《いいのよ、ジャンヌはジャンヌでー》
《気にしない気にしなーい》
《その方が、きっと良いからー》
この子達がそう言うなら、と思うことにしよう。今のところ。
「メゥメゥ!」
「うん、そろそろ、帰ろっか」
《ジャンヌ、またねー》
《また美味しいのよろしくー》
さて、次は何を食べてもらおうかしら?




