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和菓子好きな人に悪人はいない

二日ほど更新停滞ごめんなさい!

仕事の都合と、もうひとつ執筆中のこの世界を舞台にした小説があるので、日が空くことがありますが、覗きに来ていただけると嬉しいです(*´︶`*)


 ごきげんよう皆さん。王宮に呼び出されたと出掛けるナミルさんを、いってらっしゃいと見送って、ただ今ハンドマッサージなうです。


「前世でもそうでしたが、みやこさまのお手は、とても形がよぅございますわ…」

「(普通だと思うよ?)」


 感覚を取り戻すリハビリに、きなこが凄く凄く丁寧に、指一本ずつマッサージしてくれる。強張りが少しずつほぐれてゆくと、心も楽になるみたい。

 前世では「ハンドマッサージ10分◯◯◯◯円」っていう看板見るたびに、失礼なようだけど有り得ないって思ってた。え、手だけで?って。でも、こうなってみると、侮れなかったのね…マッサージ屋さんごめんなさい。


「(あ、おかえり、しぐれ)」

「今日は茶葉も一緒に貰った。緑茶だ」

「(飲みたい!)」


 仲良くなったシエルともこちゃんが、いそいそと共同作業で箱の蓋を開けてくれた。あまりに可愛すぎて内心で奇声をあげてしまったけど、後悔なんかないわ…!


「(黒糖饅頭!)」

「メゥメゥ!」

『海だ〜』


 和月君と深月ちゃんが、本日届けてくれたのは三つ。

 言わずと知れた黒糖饅頭。蒸し立て最高。もこちゃんが反応したのは、未年の時に作られていた羊がモチーフの上生菓子で、シエルが反応したのは海を模した葛饅頭。あらいけない、涎が垂れちゃう。


 しぐれが木箱を開けると、ふんわりとお茶っぱの香り。あの竹林の向こうにある里山から貰ったんだって。日本みたいな領地らしい。ところで、ここに急須なんてあるのかしら?


 そんなことを思いつつワクワクしていると、貴重なお茶っぱが床にバラまかれた。

 え、と思う間も無く、しぐれが瞬く間に本来の獣姿に変化して、きなこが私を庇うように抱きついてきてヴェールを被せてきた。なにごとなの。


「アラ、また色々と増えてるわねぇ」

『貴様…』

「やァだ、そんなに威嚇しないで頂戴な」


 真っ白い、虎?みたいな、しぐれより少し大きい獣を従えた女性だった。魔法陣があったから、転移魔法?で来たようだけど…来客の話なんて、あったかしら。


 パッとヴェールを取られた。

 …え、うそ、まさか、しぐれが反応するよりも早く動いた…?


『そいつに触るな…!』


 案の定、しぐれも驚いたよう。

 唖然として、けど直ぐにこっちに来てくれようとした。でも、白い虎に阻まれてる。


「な、何者です…近寄らないで下さいませ…!」

「メゥメゥ!」

「取って食いやしないわよ」


 指先で顎を掬われる。顎クイですねわかります。でも、その意図は?うぅ、少し首筋の火傷が引き攣ったわ…イタタタ…。


「ヤダ、今度は何を拾ったのかと思ったら、人間じゃない。何の屍かと思っちゃった」


 半死だったから、まぁ間違ってないわね…いっそ死体の方がマシかもしれない見た目だと思うもの。精神衛生上、鏡で確認してはいないけど、するまでもないわ。


「随分手酷くやられたわねぇ。それとも、それ相応の悪事でもやったのかしら?でも、それならあの子が拾うはずもないし…」


 ペルラ海国の民族衣装。褐色の肌。真珠の虹彩を写し取った瞳。髪色の金は、ナミルさんよりも濃くてハッキリしてる。とんでもないオーラの獣を従えた、とんでもないオーラの人。


「(ペルラの、王族、かな…)」

「そうかも、しれませんわ…ですが、不埒者に、変わりありません…」

「(あの虎みたいなの、きなこは何かわかる?)」

「確か、白虎という、神獣だったかと…」

「(シエルとお母さんは、この人に会ったことあるの?驚いてないよね)」

『うん、シエルも、おかーさんも、知ってるよ〜?あのね〜、この人は〜』


 やっと正体がわかる、と思ってたら、ガシッと顎を掴まれて振り向かされた。あの、やっぱり少し痛いです…。


「こそこそ話してないで、アタシとも喋りなさいな」


 パチン、と指が鳴らされた上で、至近距離でガン見を続行される。


「(…はじめまして)」

「なんだ、可愛い声じゃない。そう、女の子なのね。女の子の顔にこんな火傷を負わせるなんて、万死に値する行為だわ。ねぇ?」

「(はぁ…)」

「でも、残念。女の子で、声が出ないところは同じだけど、アナタはアタシが探してるコじゃないみたい」

「(どなたか、お探しなんですか?それで、ここに?)」

「一応、確認にね」

「(えっと…ナミルさんの、ご家族でしょうか、なんて…)」

「賢い子は嫌いじゃないわよ?」


 きなことしぐれはかなり威嚇してて、もこちゃんも困ったようにオロオロしてるけど、シエルとお母さんグリフォンは全然警戒しないで、むしろ寛いでる。なので、私もひとまず緊張を解いた。


「(ナミルさん、出掛けてる最中なんですが…お茶でも、いかがですか?)」

『おい!』


 なにここの主人みたいに振舞ってるんだ、って罵倒されたら言い訳できないけど、これしか対応が思いつかないのよ…バカでごめんね…だって丁度良くお茶菓子、あるし。


「(友人が作ってる和菓子なんですけど)」

「ワガシ?」

「(お菓子です)」


 少し動くようになった右手で、お母さんグリフォンに寝そべったまま、足元を指差す。ううん、まだまだ指先、しっかり伸びないわね…死に際のご老人みたいだわ。


「ま、綺麗…」

「(はい、自慢の、和菓子なんです)」


 せっかくなので、ひとつひとつ説明することにした。


 まずはこれ。口どけバツグンの黒糖饅頭。

 ころんとした、子供の手のひらサイズよ。


 それでね、これ、実は小麦粉じゃないの。茶色い皮は米粉なのよ。

 だから、小麦粉アレルギーの人でも食べられるの!なんて素晴らしいの…。ふんわり優しい風味があって、いくつ食べても胃もたれしないから困っちゃう。


 シャリシャリ、黒糖の欠片が混ざってるのは仕様。蒸し立ては、欠片の周りが少しトロッと溶けてるのが味わえる。餡子の粒と良いハーモニー。


 真冬は店先で蒸篭で蒸してて、疲れてるのについつい、その場で立ち話しちゃったわ。でも、疲れも吹き飛ぶってものよ。

 …あぁ、そうね、お嫁さんのお腹、大きくなってたわね。和月君と深月ちゃんも、一緒にいたんだわ…。これこそ、しぶーい緑茶と一緒にどうぞ。


「なんで俺が…」

「(しぐれ、お茶淹れるの上手いね…負けちゃった…)」

「……ッチ!」

「(また!?)」

「フェンリルがお茶汲み、ねぇ?本当に変なの拾うわねぇあの子。…あら、アタシ、苦いお茶って嫌いなんだけど、これは美味しいわ」

「(黒糖と相乗効果です)」


 彼女はレイさん。

 なんか、こう、衣装が衣装なら夜のお店にいそうな…ごほん、とにかく、とんでもない色気を持っている。凛々しいわ…真っ赤な口紅って下品に見えそうなものなのに、自然体で似合う人っているのね。格好いいって言葉は女性にも当てはまるんだわ。


 格好いい人は何を食べていても格好いい…んじゃなくて、これは和み庵の和菓子効果だと私は信じるわよ。えぇ、誰がなんと言おうと。


「みやこさま…お勧めしてばかりでなく、お食べくださいませ…」

「うん、ビジュアルがおかしいわ」

「(私もそう思います)」


 (ひつじ)年限定だったコレは、《羊雲》。


 細かく挽いた餅米の粉と卵白と、蜂蜜をよーく練り合わせると、しっかり弾力があって、ふわっと綿飴みたいに蕩ける生地になるんだって。本当に不思議よね…。

 このフワフワ生地の中に、お祝いの紅色に染めた白餡が包まれてるの。くるんとした角とつぶらな両目は焼き印ね。この上目遣い、反則…!


 色は白と黒があって、黒いのは炭ですか?って聞いたら、昔の忍者食だって。

 黒米、黒大豆、黒胡麻、松の実、黒かりんの微粉末を調合したもので、滋養があるらしいの。難しいことはわからないけど、私、どちらかと言えば黒が好きなのよ。白よりも、こう、主張しすぎない複雑な風味がしてクセになって。ほら、もこちゃんでしょう?


「このバクそっくりね、コレ」

「メゥ…」

「(もこちゃん…共食いにはならないよ?)」

「共食い…っぶふ!ていうか、このコったらずっと黒いままなの?」

「(最初は灰色だったんですけど…季節になって脱毛したら、白く生え変わるのかな…)」

「…こいつのはそういう問題じゃない」

「(え?)」


 涼やかな葛饅頭は《珊瑚真珠》。


 透明な半球の葛の中に、薄桃色の珊瑚。

 これ、練り切りなのだけど、もう、一体どうやって中に仕込んでるのか意味不明なのよ…絶対にボトルシップよりも難しいわ。


 浮いてる細かな気泡が、海の泡のようでもあり生まれたての真珠のようでもあり。珊瑚のそばにひとつ、添えられている丸い艶々が、真珠に見立てた小さな白玉ね。

 海底の水色は白餡なのだけど、透明な葛に光が通ってそんな色に見えるの。偶然にしても凄くない?


 これはね、もったいないようだけど、おっきな口で一気に丸食べするのがおススメ。下手に切ろうとしたら、綺麗な世界が壊れちゃうのよ。

 それに、ちびちび食べようと思っても、葛だからするんって口の中に入っちゃう。冷たくて柔らかな弾力が口いっぱい埋め尽くして、ほのかな塩気が涼を呼ぶ夏の名物よ。


「…ねぇ、誰が作ってるのか知らないけど、パティシエ世界大会上位ランクレベルよ、これ」

「(世界大会…?えっと、お菓子作りの、世界選手権みたいな…?)」

「出場、させてみたら?その気があるならだけど。ちょうど次が半年後くらいだったかしら?」


「兄者!!」


 和み庵の和菓子レポに熱くなって、すっかり忘れてたわ。


「だから、なんの前触れもなく来るのはやめてくれとあれほど言っただろう!?特に今はこいつらが面倒くさいと言うのに…」

「アハ、バレちゃった」


 ナミルさんが、大慌てでユニコーンから降りてきた。仕事は終わったのかしら…………え?


「(あに、じゃ?)」


 頭の中に、ひとつの単語が浮かんだ。


 それを読まれたのか違うのか、色気たっぷりの美貌に、レイさんはにぃと美しく唇で弧を描いた。ナミルさんは、頭が痛いとばかりに、大きな溜息をひとつ。


「レオパルド・マルガリートゥム。俺の兄上にして、次期国王だ…」

「 ヨ ロ シ ク 」


 バッチンと大きなウィンクと投げキッスを賜りましたありがとうございます。


 …えぇ、深く考えるのはやめるわ。いいじゃない、お兄さんだろうがお姉さんだろうがオネェさんだろうが、和み庵の和菓子を好きになった人に悪い人はいないもの。


 あぁ、和み庵の和菓子、今日も最高。

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