不思議なお茶会
黒糖、好きなんです。仕事であんまり疲れて、糖分補給に黒糖の塊を齧ってて、黒糖饅頭ネタに走った次第です。
ブクマ、評価、ご感想、いつもありがとうございます(*´꒳`*)
「メゥメゥ」
「…あれ?」
ふ、と目を開けて息を吸うと、淹れたてのお茶の香り。
「いらっしゃい」
「えっと…待っててくれたんですか?」
「縁が、繋がりましたから」
私の目の前に二人がいて、テーブルの上にはカップが三つ。目を閉じて現実で目が覚める直前と、何もかも一緒だった。頭の上にはもこちゃん、手の中にはやっぱり折り鶴。
不思議に思ったけど、夢だもの。なんでもありよね。
そう納得して、勧められたので飲み損ねていたお茶に今度こそ口をつけた。…あぁ、緑茶とは少し違うみたいだけど、とても落ち着く。好きだっていうの、わかるなぁ。
「黒糖饅頭…雪うさぎ、わらび餅、胡桃しぐれ、ひよこ饅頭…」
「…?」
「絶対、合うと思うんですよね」
二人にも、このお茶と一緒に食べて貰いたい。和み庵の和菓子は、本当に最高なんだから。なんならここに届けられないかしら。ほら、夢の不思議パワーで。
「和菓子を、とても愛しんでいるのですね。ありがとうございます」
「フォンテーヌさんは、他にどんなのが好きなんですか?」
「私は…その、すみません、前世はとても貧乏で、黒糖饅頭以外、食べたことがないんです」
でも、和菓子屋さんて、良いですよね。とても幸せな気分になって。あのご夫婦は何を買うのだろう、あのお子さんはどんな笑顔になるのだろう、この可愛いたくさんの和菓子たちはどなたの心を癒すのだろう、って想像して、幸せをお裾分けして貰ってました。
「黒糖饅頭は、小さなひとつを、ひと口ずつ、分けて食べたんです。私、もうそれだけでお腹一杯で…え、あの、どうされましたか?」
今の私、きっと、ガーン、って顔してるわ。
かわいそう、じゃないの。私は前世でも、なんて世界を知らなかったんだろうってショックだわ。
同じように和菓子に幸せを感じるのに、食べたくても食べられない人達がいた。そんなこと、これっぽっちも想像しなかったもの。
「持ってきます」
「え?」
「絶対持ってきます。和菓子。和み庵の。どうやるかわからないですけど。私それしか出来ないですけど。黒糖饅頭も雪うさぎもわらび餅も胡桃しぐれもひよこ饅頭も全部…!」
「…ここは、特殊な亜空間だ。そう容易く現世のものは持ち込めぬ。それに、俺達も既に人の理を外れた存在。口にすることは叶わぬ」
「ありがとうございます、ジャンヌさん。そのお心だけで、とても、嬉しいです」
神様のバカヤロウ。
こうなったらナミルさんに直談判してどうにかしてもらうしかないわね。よくわからないけど人外って言ってたじゃない。時々不思議発言するし、ここでそのパワー発揮しなくてどこで発揮するのよ、今でしょう?
「メゥメゥ!」
《あら凄い》
《見たことないわね。でも、美味しそうなお菓子》
《はいどうぞ、巫女》
《王さまも食べるでしょ?》
ポポポン ポン
内心で燃えに燃えていたら、あら不思議、思い浮かべていた和菓子たちが出てきたわ。それを森の精霊さん達がお皿でナイスキャッチして、運んできてくれた。
「わぁ…」
「執念深いと言うべきか…」
彼女は素直に目を輝かせて、王さま?は呆れたように可愛い和菓子たちを見つめている。さすが私の夢、こうこなくっちゃ。
「ソードさん、これ…」
「この娘の想念だ。厳密には食べるのとは異なるが…食べたければ、食べると良い」
あぁ、彼女、すっごい可愛い。うずうずそわそわしちゃって。それと王さまって、ぶっきらぼうなようだけど、彼女の見る瞳が深い想いに満ちているのがわかる。
最初に守り人の話を聞いた時、そんなに凄い存在で一千年以上生きているなら、どんなに神様に近い雰囲気なのかと思ってたのよ。
でも、確かに浮世離れしてるけど、良い意味で想像してたのと違う。…あぁ、そうね、きっと人の心を持つ二人だから、ここを任されているんだわ。誰かを慈しんで、愛しむことを知っているから。
ベタベタ甘いわけじゃなくて、そう、それこそ上等な和菓子の上品な甘さよ。そんな二人に精霊たちも嬉しそう。なにこれ凄い和む。
「うさぎ、ですか?凄い…」
「ぜひ食べて下さい!ほんっとうに美味しいんです!」
「はい、では、いただきます」
語彙力なんか関係ない、食べれば、わかる!
「ーっ!」
ほら!
「…っ、……!〜〜〜…っ」
言葉になってないけど、彼女の瞳が何よりの証拠よ。和菓子と交互に見て、彼に訴えてる。あぁ可愛い。これは男たちが放って置かなかったと思うけど、よく死守したわね彼。よくやった。
《あたし達もたーべよ》
《巫女ー、これも美味しいわよ。胡桃が入ってるわ》
《あたしはコレが好きだわ。もっちりしてるの》
「それでこれが、和み庵の黒糖饅頭です!口どけ抜群です!」
《これ、ひよこね。どこから食べる?頭?尻尾?》
私は精霊たちと一緒になって、二人にぐいぐい押し出す。見てこの連携プレイ。
「一気に持ってくるな…許容量を超えて、倒れる」
《良いじゃない、幸せいっぱいで倒れるなら。王さまが看病すれば良いわ》
《相変わらず、贅沢水準低いわねー巫女》
《王さま、結構頑張って甘やかしてるのにねー》
「倒れちゃうの?」
《そうなのよー》
《巫女ったら、生きてるだけで幸せいっぱいなんだもの》
《朝起きて、太陽が出てたら幸せでー》
《雨でも幸せでー》
《夜、眠る時にお月さまが見えて、彼が隣にいれば幸せー》
なんて健気なの…良いわ、もう、たくさんお食べ。
ババ臭い?なんとでも。
色々と聞きたいことあるけど、今は無粋ってものよ。これ全部食べさせるまで夢から覚めないから!
「やめておけ。…蛇王に拗ねられると、少々具合が悪い」
「蛇王?」
「蛇眼持ちだ」
「よくわからないですけど、ナミルさんだってゾンビのお世話を休む時間があって良いと思いますよ?寝てれば気を遣わないと思いますし」
「…今の言葉を、本人にそのまま言ってみれば良い」
王さま、意外とお喋りね。
ふわりとお茶が香って、とりあえずまた目を閉じた。次は何を食べてもらおうかしら。