不思議な出会い
とりあえず和菓子を出しとけばシリアス一色にはならないという安直ですみません。…美味しいから良いですよね?
ブクマ、評価、ご感想、いつも励まされています!╰(*´︶`*)╯
ごきげんよう、皆さん。ただ今、夢の中です。
夢を見てて、あ、これ夢だってわかる時って、あるわよね。
「…図書館?」
ほら、声だって出せる。キョロキョロ見回してちょっと歩いてみても、身体、全然痛くないもの。この脚で歩けるなんて、夢でなければ有り得ない。
森の中の不思議な図書館。まさしく、そんな感じ。
「メゥ」
「もこちゃん」
「メゥメゥ」
「どこだろうね、ここ」
なんだか頭がもこもこすると思ったら。夢の中までついてくるなんて、器用な子だわ。
木造の大きな館。見渡す限りの本棚。
薄汚いわけじゃなくて、むしろ綺麗に掃除されているけど、とても古いところだとわかる。だって、ほら見て、壁や柱なんかにょきにょき生えてる樹木や蔦と一体化してる。でも廃墟じゃない。なんというか、館全体が生きてる感じ。
空間全体を淡い光が包み込んで、ふわふわと神秘的だ。
《海の香りがするわ》
《お客さま?》
《あら、黒い雲ひつじ。珍しい》
《よっぽどこの人のこと、好きなのね》
妖精?精霊?わからないけど、海の子達と似てる。じゃあ、この子達はさしずめ、森の精霊かしら?なんてキュートなの…。
《巫女ー、お客さまよー》
《王さまー》
誰かを呼ばれたけど、良いのかしら、ここにいて。夢だからどうしようもないのだけど。
「お客さま?」
同い年くらいの、女の子の声がした。
《そうなの、縁が繋がったみたいよ》
《ほら、折り鶴、持ってるわ》
折り鶴?
顔を出した女の子と私は、同時に首を傾げた。そして、私の手の中を見る。
…あら、持ってきちゃったのね。
離宮の部屋に飾ってあったのよ、これ。懐かしくて、ついつい見つめてて…あぁ、そうそう、それで眠くなっちゃったんだったかしら。
「それ、は」
「え?」
女の子が、とても驚いた顔になって、そして、切なそうに目を細めた。
なんだろう、私、何かやっちゃったのかしら…これ、ダメだった?わからないけど、うん、泣きそうだわ。
けど、彼女は目を伏せると、心安らぐ微笑みを私に向けた。
「ごめんなさい。とても…とても、懐かしいものだったので。ご挨拶が遅れましたね、私、フォンテーヌと言います」
「フォンテーヌさん?えっと、ジャンヌと言います。あの、これ、懐かしいってことは、もしかして日本人ですか?」
気になったので尋ねると、女の子は今度こそ純粋に驚いて目をまぁるくした。
「そういう意味では、なかったのですが…ジャンヌさんは、日本人なのですか?」
「だった、ですけど。転生、したみたいで」
「そうですか…えぇ、私も、そうなんです」
「…あの」
「はい?」
「和菓子、お好きですか?」
お互いの事情はさておき、同じ日本人ならこれだけは聞いておかないと…!
「和菓子…えっと、はい、あの、春ちゃん…叔母さんが、たまに持ってきてくれた、小さな黒糖饅頭が、緑茶に合ってとても好きで」
「同志!!」
「えっ」
やだ、思わずがっちり、手を握ってしまったわ。でも良いじゃない、後悔なんかしてないわ。あぁ、黒糖饅頭、あのころんとしてて、ぎゅっと詰まった素朴な味。上白糖や和三盆とは違うコクが良いのよ。それに、和菓子にはやっぱりお茶よ、お茶。
「同郷か」
内心でヒートアップしてたら、男の人が現れた。…凄い、イケメン。騎士なのかしら、和み庵に来たエムロード大公国の人の服と色違いの衣装だわ。
なんだろう、今更だけど女の子も、どこか浮世離れした雰囲気ね…。森の子達、巫女とか、王さまとか言ってたし。気軽に話しちゃってるけど。
「ソードさん。はい、そうみたいなんです」
「…その折り鶴、確か、アンタが折った」
「えぇ…」
「ならば、この者は海の離宮にいるのか」
《そうみたいよー》
《なんか、凄いいっぱい、気に入られてるみたいなの》
「今、あそこはナミルという者が治めていたな」
あの場所を知ってて、ナミルさんとお知り合い…?友人、にしては、他人行儀な話し方だけど…。
「えっと、お邪魔してます…すみません、たぶん私、寝てて、夢だと思ってるんですけど…」
「構いません。立ち話のあれですから、どうぞ」
「…良いんですか?」
「ここは然るべき者しか入れぬ。問題ない」
椅子を勧められて、座ってから、うっかり忘れてたことを思い出した。
「すみません、私、ちょっと色々あってゾンビで…見苦しいと思うんですが」
「え?…えっと、さっき、一目見て、凄い美人さんが来たなぁって思ったんですけど…」
「え?」
言われて、身体を見下ろす。
…包帯も火傷のヘドロも、どこにもない。まっさらな素肌だわ。夢って凄いわね…。
「メゥメゥ」
「お可愛らしい子ですね」
そうでしょうそうでしょう。頭に乗ってるもこちゃんを褒められて、俄然嬉しいのは私よ。
「よほど、この娘を癒したいと思ったようだな。だからこそ、夢を渡ってここに来た」
「えぇ…それに、他にもいくつもの、祈りが見えます」
男の人が流れるような綺麗な仕草で、コポコポとお茶を淹れてくれる。
「緑茶みたい…」
「はい。私、彼の入れてくれるお茶の中で、これが一番、好きで」
あぁ、これは、和菓子だわ。和菓子を一緒に食べなきゃ。
そういえば、ここって、どこなのかしら?私にとっては夢でも、お二人にとっては現実?みたいな感じよね。
「心しておけ」
「え?」
「その身にあるダイヤモンド。それゆえ、狙われたのだろう」
ふわり、とお茶の良い香りが鼻を擽って、私は急に眠くなってしまった。
「あ、お茶…」
「あまり長居すると、周りの方々が心配なさいますから」
夢の中って、和菓子、持ってこられるのかしら。
またここに来られる保証もないのに、そんなことを思いながら目を瞑った。
「そりゃあお前、確実に『水晶殿』だぞ」
「『水晶殿』?」
はい、朝の強制エステフルコースなうです。
「『水晶』の守り人が、お住まいになっている館ですわ…そこの深い地下が、『水晶』の源泉なのだとか…わたくしも、実際に見たことがあるわけでは、ないですが…」
「一千年前は人だったらしいが、今じゃ第二の精霊王と聖巫女だ」
『ジャンヌ、王さまと巫女に会ったの〜?いいな〜』
やっぱり、あの二人って凄い人達だったのね。
「あそことここは対極の地だ」
「(…海と山だから?)」
「超要約すると、そうだ」
ナミルさん曰く。
魔法石も、生きとし生けるもの全ての命の根源も、『水晶殿』の二人が守っている山奥の土地で生まれて、創られる。
逆に海は、終着の地。例えば水も、山から海へ流れる。
終わりを迎えた命を新たにするためには、一度その形を壊さなければならない。壊れて、空を伝って、またあそこへ還って癒されて、また生まれる。水が蒸発して、雲になって雨になって、また大地に降り注ぐみたいに。この世界はそうやって成り立っている。
「創造神である精霊王の対極として、蛇王が破壊神だというのは、そういう理由だな。先代の蛇眼持ちの時から、ここの離宮の主人は代々、その循環の一端を担っている」
ううん、難しいわ…なんだかとても、この世界は複雑で、深い事情で出来てるのね。
あの二人もきっと、私なんかが簡単に理解出来ない過去や事情を抱えているに違いないんだわ。
「ちなみにその折り鶴は、俺じゃなくて先代の蛇眼持ちの持ち物だぞ」
「(蛇眼の人って、可愛いんですね)」
「…それは俺も入ってるのか?」
だって、ほっこり可愛い絵が得意なイラストレーターさんじゃない。鈴カステラでひよこ饅頭だし。
簡単にわかるわけがないと思うけど、この世界のこと、みんなのこと、もっとよく知りたい。だって、不思議なことも言われた。
「(あの、ダイヤモンドって、なんのことかわかりますか?)」
…あら?きなことしぐれのマッサージの手が同時に止まった。どうしたの?
「…なぜだ?」
「(心しておけって言われて、でも、なんのことだかさっぱり)」
「余計なことを…いや、忠告、か」
ぶつぶつ言われても聞こえないのだけど…ただでさえ、シエルともこちゃんに耳元もモフモフもこもこされてるのに。
「ーあくまで伝承だ。『天空の宝玉』と呼ばれるものの名だな」
「(そんなの、私、持ってないですけど…)」
宝石は、綺麗だなぁ、とは思うけど。前世も今も、そんな高価な宝石より、モフ可愛い子達とほっこり可愛い和菓子の方が、ずっとずっと大切で必要だわ。
「それでいい。お前が持ってないと言うなら持ってないんだ」
「(??)」
「認識しなけりゃ存在しないのと同じだろう」
やだやめて、私、哲学とか大の苦手分野なのよ…あぁ、頭使って目眩がしてきたわ。
「バカが無駄に頭を使うからだ」
「みやこさま、しばし、お休みなさいませ…」
うん、あのね?まだ朝で、起きたばかりで、私はエステ受けてるだけなのよ?あんまりグータラに甘やかしちゃダメだと思うわ、うん。
そう思うのだけど、やっぱり全然動かない身体は素直に睡魔に従った。あぁ、黒糖饅頭が食べたい…。