雲ひつじ(バク)、保護しました
作者は未年なんです。ぬいぐるみ、実家にいます。
ブクマ、評価、ご感想、ありがとうございます♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪本日二回目の投稿!
不思議な夢を見た。
とても美しい男の人と、少女のように可憐で儚げな女の人が、寄り添っている。お互いに、想い合っていることがわかる瞳だ。
そんな二人を、少し離れたところから、別の青年が見守っていた。
揶揄うように、微笑ましそうに、呆れたようにーさみしそうに。
彼の目の周りと片腕には、綺麗な蛇の鱗の紋様が刻まれていて、その足元には、広くて深い海原が広がっている。
《およめさまー、あそぼー》
《あそぼー、およごー》
《しんじゅ、おいしーよー》
「みやこさまは、あげませんわ…今日は、もう、お終いです…」
「おいお前ら、さっさと引っ込め、目立つだろうが」
《しっと、だめー》
《ひとりじめ、だめー》
《りくだけじゃ、だめー》
皆さんごきげんよう、こちらは絶好の海水浴日和です。
この前みたいに寒いのは、ペルラ海国では珍しいことなのだそう。基本的には南国と似たような気象なのね。
《くすくす…およめさまの、争奪戦かしら》
《陸対海ね。ふふふ、およめさま、大変だわ》
朝晩の強制エステフルコースにプラス、スキューバダイビングがリハビリの日課になっている。
ここに来てから、ひと月くらいだって言われても、やっぱりピンと来ないのよね…こんなグータラしてたらね。
身体は相変わらずで、ほんのちょっと、指先が動くようになってきた程度。
でも、こんなダメ人間にも出来ることが見つかって、私の気分はとても良い。
和月君と深月ちゃんという友達ができて、和み庵のお手伝いが出来る。イラスト描くのはナミルさんで、私はこれ食べたい!ってイメージするだけなのだけど。
「ジャンヌがそうやって思い出してイメージしなけりゃ始まらないんだぞ?あの双子にとっちゃ、だけ、じゃない」って言われれば、素直に頷くしかない。大好きなものを想像することがお仕事って、なんて贅沢なのかしら。
『ジャンヌは〜、お空とも、仲良し〜』
「グルル…」
さっき届けられたのは、苺大福と桜餅。
お留守番してたシエルとお母さんグリフォンが、ちょっと拗ねちゃったのよね。あぁ、それにしても、モフ可愛い子達が可愛い和菓子食べてるの、本当に眼福ね…。
海の子達にも分けてあげたら、気に入ってくれたみたい。ぷく、ってほっぺまぁるくして頬張って、萌え死にそうになったわよ…可愛いって凶器。お返しに生まれたての真珠を貰ったのだけど、これ、私も食べられるのかしら…?
「…!」
「(しぐれ?)」
ふいに、しぐれが空を見上る仕草を見せた。
同時に、りん、と軽やかな音色。
何かが膝の上に、ぽすん、と落ちてきた。
《あら、雲ひつじ》
《灰色ね、どうしちゃったのかしら》
《ここは本当に、ワケありの子達が来るわね》
ばいばい、と海の中に帰っていくのに心の中で手を振りながら、少し目線を下げて見る。
…もこもこした、灰色の毛玉?
「雲ひつじ…初めて、見ましたわ…でも、どうして、落ちてきたのでしょう…」
「(雲ひつじって?)」
「夢ひつじとも言われてる。正式にはバクという、これでも高位の魔獣の一種だ。ここの結界を抜けてこられたということは、害意はない。つまり、本当に落ちてきただけだろうが…」
震えてる、のかしら…?それこそ羊みたいな雲みたいな毛並みが、もこもこ、と揺れている。ちょうど腿のところにあった手の上に乗っかってるのだけど…。
「(も、もこもこの、泡石鹸…!)」
え、なにこの、超絶気持ち良いの。
「メゥ…」
何かがクリティカルヒットした心臓をなんとか落ち付けようと頑張っていると、もこ、とつぶらな瞳が見上げてきて吐きそうになった。何を、なんて殺生なこと訊かないで。
まぁるい灰色のもこもこには、小さな羊の角がくるんと二本。それ以外に見えるのはちっちゃな両目だけ。
ひょい、としぐれが持ち上げた。あぁぁぁああ待って連れて行かないで。
「おい、お前、どうした」
「メゥ…」
「追い出されたか…あぁ、いい、わざわざ説明しなくても事情はなんとなくわかる。空のやつらは白を好むからな…ったく、だからいけ好かないんだ…ここの主人が誰かは知ってるか?あぁ心配するな、別にアイツは取って食いやしない。どう噂されてるかは見当がつくが、戯言だ。ここはお前みたいなワケありが流れ着きやすい、どうにでもなる。あからさまに怯えるのはやめろ」
ぶっきらぼうだけど、しぐれって、実は凄く優しいのよね。
しぐれと、もこもこ。なんて癒されるビジュアルなのかしら…。
「むしろ、このバカの上に落ちてきたのは幸運だったな。…こいつがそういうタチなだけだが」
しぐれが軽く放って、もこん、もこもこが膝の上に戻ってきた。
あぁぁぁああ思いっきり撫で回したい抱きしめたい…!
だってこの子、前世で誕生日に祖父母が買ってくれた羊のぬいぐるみとそっくりよ。未年だったの。ぎゅうぎゅう抱きしめながら眠ったっけ…。えっと、名前は、もこちゃんだったかしら。
『シエル、シエルっていうの〜。もこもこ〜。シエル達と、違うね〜?』
「メ…っ」
「シエル、今はやめとけ。お前ら恐怖の対象だ」
「グル…?」
シエルはたぶん、よろしく〜、っていうつもりだったのだろうけど…もこちゃん、明らかに怯えて私の肩に乗ってきた。ふわわ、耳がどうにかなりそう。
「なんだなんだ、今度はバクに懐かれてるのか?本当にお前はワケありホイホイだな」
見回りから帰ってきたナミルさんが、ユニコーンから降りて早速覗き込んでくる。もこちゃんはもっと縮こまった。うぅ、首筋が…。
「なんだ、ジャンヌの上にピンポイントで落ちてでもきたか?」
「あぁ」
「そりゃ益々、縁ってやつか。まぁ構わん。ここは広いし、今更ちっこいの一匹増えたからといって何でもない。好きにさせておけ」
気軽にそう言って、ナミルさんはひらひら手を振って、また外の見回りに出かけていった。一度戻ってきたのは、とりあえず結界抜けたのが何か確かめるためだったのね、たぶん。
「メゥ…?」
「だから言っただろう」
不思議そうに首を傾げたもこちゃんは、隠れていたところから出てきて、もこんと膝の上。そうして振り返って、また私を見上げると、目を丸くした…のかしら?
「メゥ、メゥ」
「(…?)」
「みやこさまのを、心配しているようですわ…」
「メゥメゥ…」
あぁそうだったわ、今の私、ゾンビ。やだ、怯えさせてないかしら。
「メゥメゥ、メゥ、メゥゥ〜」
すりすり、と身体のあちこちをもこもこしてくる。え、なに、もしかして、痛いの痛いの飛んでけ〜って、あれやってるの…?気絶しそう…。
なんだかよくわからないですが、もこちゃん、保護しました。