表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/40

令月堂 和み庵

お饅頭を蒸してる匂いとか暖かい湯気って、本当になんとも言えず和みませんか?

それにしても、本格的に和菓子の話になってきたぞ…。


ブクマ、評価、ご感想、ありがとうございます╰(*´︶`*)╯

 約束の時間は夜だった。目立たないように、って。


 転移魔法陣が消えると、目の前の風景も様変わりしていた。本当にここは、魔法のある世界なのね…ちなみに私は、ナミルさんにお姫様抱っこされている。実態はこんなゾンビで申し訳ないわ。


「ここら一帯は、サフィール王国、リュビ国、エムロード大公国の三ヶ国を跨ぐ関所でな。この路地は昔、ちょっとした宿街だったんだが、見ての通り今は寂れちまってるわけだ」


 例えるなら、古き良き京都の裏路地。

 …と、いうか、そのままじゃないかしら?これ。


 良い年季を感じる石畳がちょっと似てるのかと思ったけれど、周りもよく見てみると凄い既視感よ…?だってそこに、柳とか竹藪あるし、手入れはされていないけど、路地の両端に細い堀があって水が流れてる音がする。

 うん、こういうの修学旅行で見たわ。…まさか、ここ作ったの、日本人…?トリップ者…?ううん…??


「おい、ぐずぐずするな」


 私が一人勝手に悶々としている間に、しぐれが先導したのは路地の一番奥。


 …あぁ、懐かしい……。


 ほこほこと温かい湯気と、ほんのり甘い匂い。淡い灯り。


 和菓子屋さんって、和菓子そのものだけじゃなくて、こういう佇まいが本当に癒されるのよ…激務で帰りが遅くなったり、仕事でどうしても心が荒んでしまった夜、もうお店は閉まってても、仕込みか何かでほっこりふわふわ漂ってくる雰囲気に、一体どれだけ救われたかしら…。


「ほぉ、これが例の店か」

「わたくしも、懐かしゅうございます…」


 暖簾には、見間違えようもない、記憶よりも少し古くなった「令月堂 和み庵」の文字。

 そうよね、きなこもよく一緒に来たものね。特におばあさんが、凄く可愛がってくれたわよね。


 私達はしぐれについて、表から暗い竹藪のある裏へ回った。


「連れてきた」


 取り付けてある鈴を鳴らすこともせずに、言いながら手慣れたように、しぐれは戸を開けた。

 もわん、と上品な甘い匂いがもっと広がる。きなこの小さな鼻がひくひく動いた。なにそれ可愛い。あぁもう、ヴェールが邪魔だわ。


「フェンリル殿か。待っていた」


 聞こえてきたのは、とても落ち着きのある、若い男の子の声。


深月(みつき)、手を止められるか。お客人だ」

「んー」


 続いて、とても深みのある、若い女の子の声。


「フェンリルさん、こんばんは。そちらの方々も、どうぞ」


 ヴェールの中からだと、薄らぼんやりとしかわからないのが残念…でもきっと、その格好は和菓子職人さんの着物ね。少し生成り色の白が見えるわ。


 案内されたのは、厨房を抜けて、いわゆる客室のお座敷になっている部屋だった。

 …そこに、こんもりと、座布団と布団の、山。


「こんなもので良かっただろうか。これがありったけなんだが」

「十分だ」


 用意させてすみません。


「さて、お初にお目にかかる。ここの仮店主をしている、大神和月(おおがみかづき)だ。こっちは妹の深月」

「はじめまして」

「そちらは何とお呼びすれば良いか?」


 武士みたいな佇まいに話し方ね…見たところ、いってまだ二十歳くらいだけど、本当に?妹さんの方も、大和撫子って感じだけど、薙刀でも持ってたら似合いそう…。そこに和弓二張、あるし。


「俺は今回の主役じゃないが…ペルラ海国で沖の守衛を務めている。ナミルで良い。お前達が畏るような相手ではないぞ」

「なら、ナミル殿と」

「お前達が会いたいと言っていたのは、こっちだ。あとは付添人と思えば良い」


 向かい合っている二人が改めて私を見たのがわかる。…のだけど、どうすれば?


「いつも通りで良い」

「(え?)」

「一時的に、テレパシーが通じるようにしてやる。そっちの二人もそのつもりで、驚くなよ?」


 ナミルさんがそう言うので、私はおそるおそる、そっと呼びかけてみた。


「(あー、あー…マイクテスト、マイクテスト。聞こえますか?)」


 そして一瞬後、真正面と左右から思いっきり噴き出された。

 …えぇ、バカみたいなことした自覚はありますけど、何か?でも学校の校内放送でやってたんだもの。


「いや、すまない、懐かしくて、つい」

「こいつのバカはいつものことだ…」

「みやこさま、やっぱり、可愛いですわ…」

「流石にテレパシーは初めて体験するが…放送委員のご経験がおありか?」

「(まぁ…)」

「この単語が通じるということは、確かに同じ日本人か…雪うさぎの方、お名前をお聞きしたい」


 え、私、この双子の中でそんな呼び方になってるの?可愛すぎて、なんだか恥ずかしいわね…。


「(神楽坂みやこ、でした)」

「神楽坂…あぁ、なるほど。なら、じいさま達が言ってた雪うさぎの子が、貴女か」


 え、日本名言ったのに、なんで訂正されないの?


「でした、と言ったな。すると、貴女は転生者か」

「(はい)」

「あぁ、俺たちに畏る必要はない。差し支えなければ、前世での終末は何年だっただろうか。西暦でも和暦でも」

「和暦の方が信憑性、あるんじゃないか」


 それは思った。なのでしぐれの言う通り、和暦で答える。ついでに何月何日だったかも。


「なら、俺たちはまだ産まれていないな…」

「和月、今の、おじいちゃんとおばあちゃんの命日と…」

「確かめる。更に踏み込むようで申し訳ない。貴女の死因は、竜巻では?」


 ドンピシャすぎた。

 きなこが反射的にか、きゅぅ、と腕にしがみついてくる。なのにこっちは萌え死にそうになってる罰当たりでごめんね。


「じいさまとばあさまも、同じくだった…と、父と母から聞いている。二人は両親を庇って、家の下敷きになって亡くなった。その時の母のお腹に、俺達がいた」

「(そう…おじいさんと、おばあさんも)」

「その後、両親は店をなんとか立て直した。辛いことや悲しいことがあっても、ウチの和菓子で少しでも誰かの心を休ませられるようにと、いつもそればかり考えていた。『きなこ色の猫を連れた、神楽坂さんちのお孫さん』のことも、よく聞いた」

「(私、と、きなこ…?)」

「ご両親が亡くなられた際、祖父母殿に連れられて、店の隅で雪うさぎを食べて目をまんまるにしていたそうだな。それで、大人になってからもウチを一等愛しんでくれて、誰よりも幸せそうに買って帰ってくれたと。…楽しみにしていた足音が途絶えて、両親は寂しそうにしていた。だが、貴女のような方を想えばこそ、生き残った自分達は作り続けなければならないと」


 そんな風に、思われていたの…。


「ありがとう。ウチのことを、昔も今も、愛しんでくれて。真っ先に、これだけはお伝えしたかった」

いつか、和み庵を主役にした物語も書きたい…というか、書くつもりです。いつになるかわからないですが。今、書きたい風景が次々浮かび上がっていて大変です。圧倒的に時間が、足りない…!仕事ェ…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ