鯛焼きと金平糖と色鉛筆
もう、サブタイトルは「聖女さまは和菓子がお好き」で良いんじゃないかな…?
ごきげんよう皆さん。お母さんグリフォンのモフモフにすっぽり埋もれているダメ人間です。本日のペルラ海国は寒空でございます。ホカホカの鯛焼きが食べたいです。
『ジャンヌ、お魚、好き〜?シエル、採ってくる〜?』
「採ってきてやるのは良いが、まだ魚はキツいんじゃないか?」
粒餡派?漉し餡派?
私は大人になってから断然、粒餡派になりました。
小豆の粒が固すぎず、潰れすぎてない絶妙な餡子に出会えたら幸せよね。粒餡が好きか嫌いかって、そこで分かれると思うのよ。
だから腕の良い人の作った餡子なら、粒餡でも漉し餡でも良いのよ。漉し餡の、あのトロッとしたのも病みつきになるのよね…秋は芋栗餡も捨てがたい…つまりどれでも最高。
でも私は、元祖なものがやっぱり好き。前世では色々な餡があって流行ってたりしたけど、やっぱり小豆や大納言。たまーに、白餡も食べたくなる不思議。
甘すぎはダメよ。和菓子って干し柿のような自然な甘さがお手本って言うじゃない?下手に大手になってしまったところのって、残念ながら砂糖の味しかしないものが多いのよね…。
ところで前世の知人に小倉さんっていたのだけど、小倉姓が餡子好きとか酷い偏見だ!って怒ってたわね…。皆さん偏見はやめましょうね。
「なんだ、また和菓子の話か?本当に好きだな」
鯛焼きって、お店によって微妙に型が違うのよ。
だから表情もそれぞれ。よーく観察すると、個性があって可愛いの。アホヅラとか、キリッとしたのとか、眠たそうなのとか。ちょっと無愛想なおじさんが作ってるのが、またほっこりするのよねぇ…ふふ。
それで、ちょっと不恰好に焼けちゃった子とか愛嬌あって良いのよね。捨てちゃダメですおじさん、むしろその子下さいな。
「みやこさま…浮気は、ダメでございます…」
前世では一時期、薄皮のパリッとしたのが流行りだったけど、生地が分厚いもっちりしたのが良いわ。
ひと口齧ったら、歯と歯茎をもっちりじんわり刺激して、あの感覚がなんとも言えない。やっぱり焼きたてが一番。冷めないうちに食べたいけど、早く食べちゃうのがもったいないのよ、いつも。
それで、たーっぷり詰まってる餡を零さないように、あちち、なんて言いながら買い食いするのがなんと言っても醍醐味よね。きなことしぐれと、皆んなと、一緒にそんなこと、したいなぁ。
「魚の形をした菓子か。お前達の前世には珍妙な菓子が沢山あったんだな」
「(ナミルさん…食べたらそんなこと言えなくなりますからね)」
「そりゃ楽しみだ」
よし絶対いつか食べさせてやるわ。
もちろん、ド素人の私が作ったので済ませようななんて、そんな甘いことは考えない。ちゃんとした職人さんのを食べて貰うのよ!ひとつ目標!
「(星の砂みたいな可愛いお菓子だってあるんですよ!)」
「星の砂?…あぁ、海底で見つけてはしゃいでたやつか?」
「(金平糖って言って、飴みたいなものです。コロコロしてて、ちっちゃい凸凹があって、ちっちゃい宝石みたいで!)」
「飴っていうのは、そのドロップみたいなモンか?」
うぅ、ちょっと違うんです…もう本当、語彙力…。
この世界で飴っていうと、平べったい楕円のドロップが普通みたいなのよね。今、まさに舐めてるのだけど。糖分補給って持ってきてくれて。そのまんま、砂糖の味、って感じね。氷砂糖に近いかしら?
金平糖は、厳密には飴とはちょっと違うわよね…。でも、他になんて言ったら良いのかしら。砂糖の塊?可愛くないから論外ね。
うん、やっぱり星の砂が一番しっくりくるわ。ここ、海なのだし。
星の砂はちょっとトゲトゲしてるけど、それを丸っこくしたの、って言えば伝わらないかしら…。想像だけはいくらでも出来るのに…せめて、右手だけでも動かせたら…!
「…っと。こんな感じか?」
「(え?)」
ペラリ、とナミルさんが一枚の紙切れを目の前に持ってきた。
…。
…こ、これ!
「(金平糖!)」
「お?そうか、なるほど、こういう菓子か」
「(ナミルさん、色鉛筆なんてどこで…!?)」
そこに描かれていたのは、まさにコロコロ可愛い金平糖だった。
私の語彙力ない説明で、なんでここまで再現出来るの!?ナミルさん、まさか色鉛筆使いのプロなの!?
「うん?テキトーだぞ?しかし、やはりイメージを再現するのは難しいな…」
美術部員でも画家さんでもないのに、ささっとテキトーにやってこのクオリティって…しかも可愛い…え、ナミルさん、実はイラストレーターなの…?
私は画材の中で、色鉛筆が一番好きなのよ。繊細でふわふわなタッチで描けるじゃない。モフモフとか、可愛いころんとしたのとか、色鉛筆のが凄く好き。
ほら、ネットでイラストコミュニティとかあるでしょう?ああいうサイトで、ほっこり癒されるイラスト見るのが趣味のひとつだったのよ。
特に色鉛筆のイラストがもう好きで好きで…なんで色鉛筆一本で、あそこまでヒーリングワールド創れるのかしら?天才よね。
「鯛焼きは…こうか?」
「(……神!!)」
「神…?いやまぁ、確かに人外に足突っ込んでるがな」
ふんわりもっちり食感まで再現、だと…?それ、たった六色よね?二十四とか三十六じゃないわよね…?
皆さん朗報です、ここに可愛い癒し系のイラストレーターさんがいらっしゃいました…!
「おいナミル、こいつのイメージ、片っ端から描いてけ。持っていく」
「持っていく?」
「あの双子のところだ。お前昨日、こいつが食べたい食べたい想像してたモン、いくつか描いてみてただろう。試しに双子に見せたら作れたぞ」
しぐれが、また持ち帰ってきた千代紙の箱をパカっと開けた。
そしたらなんと、鈴カステラとひよこ饅頭があるじゃないですか…!?
「ほぉ?これが噂の鈴カステラとひよこ饅頭ってやつか?まぁ、確かに俺の色合いに似てるって言えば似てる、か?。可愛らしいのが複雑だが…」
「みやこさま、さっそく、お茶にいたしましょう…?まぁ、齧ってしまうのがもったいないですわ…」
「記憶障害があるが、どうもイメージさえもう一度掴めれば作ることが出来るらしい。みやこ、とにかく食べたいモン何でも良いから想像しまくれ」
「(鯛焼きと金平糖)」
「それはもう描いてあるから他のだ」
「(えー…っと、じゃぁ…)」
こんな肌寒い日と言えば…。
「(雪うさぎ…)」
「ナミル描け」
「へいへいっと」
祖父母との思い出の一品。
「和み庵」の冬の秘かな名物だった、あの雪のような上生菓子を、もう一度食べられるの…?