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悪役令嬢を演じきった結果

息抜きに書き始めてみました。

かの有名なジャンヌ・ダルクは、どんな気持ちだったのだろう。


「最期に言いたいことは」

「…ありません」


私って、バカだなぁ。


ぼんやりと、靄がかった頭で足元に火がつけられるのを見つめる。自分をせせら嗤ったけれど、今の私はきっとゾンビよりも酷い顔で表情なんかないに違いない。


ここは火刑台。


周りには、悪行の限りを尽くしたディアマント侯爵家の娘にして悪女『ジャンヌ・ディアマント』のザマァな最期を見ようと押しかけている人々で埋め尽くされている。その父親や母親、親族に連なる者達はもう首を落とされた。


ーディアマント侯爵家は由緒正しき歴史を持った、王室の信頼も得ていた家だった。過去形だ。その歴史は私の父や母によって穢され、王室の信頼は地に落ちた。


彼らの罪は数え切れない。


悪行は巧妙だった。ご先祖様が築き上げたものを利用して、誰かが訴えようとも証拠や尻尾を掴ませなかった。


私は無力だった。


こんなことはやめようと言葉で訴えた。手酷い虐待を受けた。こっそり証拠を押収出来ないかと考えた。お前が余計なことをしたせいでバレそうになったと剣で斬り付けられた。親族の誰かに味方はいないかと探した。誰一人いなかった。


そんな中、王室で王様の側近を務めている方々に人知れず話を持ちかけられた。


「悪役令嬢を演じて欲しい」と。


つまり、悪女になったフリ。ディアマント侯爵家の悪行を食い止めたいと思っている私が、敢えて彼らと同じように極悪非道の悪女を演じることで、なかなか掴めない尻尾を掴めるかもしれないという話だった。


私は悪女として彼らの懐に入り込み、油断させて、掴んだ証拠を王室に献上する。


それは有効な手かもしれないと思った。


もちろん、誰かを殺すとか虐げるとか、実際にそんなことはチキンな私に出来るわけがない。そういうことはせず、如何に上手く演じて父や母や親族を油断させられるかが勝負どころだ。

「貴女の潔白は我々が知っている。全てが終わったその時は、貴女は協力者だと無罪を申し出よう。侯爵令嬢という身分がどうなるかはわからないが、その後の生活も斡旋しよう」と言った彼らの手を取った。


私は本気で演じた。全力で演じた。

だってもう、誰かの嘆き悲しむ声を聞きたくなかったから。


「すまない。元老院も、国王陛下も、説得出来なかった」


そして私は、本気で演じすぎたらしい。


「ゴホっ…ッゴホゴホ…っ」


煙が苦しい。生理的な涙が流れる。

足元は完全に炎に包まれ、もう感覚がない。


バカだなぁ。


あの方々が証言しても信じてもらえないくらい、演じちゃうなんて。私、そんなに演技の才能あったのかな?

でも、実はあの方々もそんなに信用なかったのかもしれない。それとも、最初から私も貶めるつもりだった?遺恨は残さずっていうものね。今となっては確かめることは叶わないけれど。


わかっているのは、私は今日、この世界から消えるということだけ。


「キュィっキュィっ」


あぁ、あの子の啼き声が聞こえる。ダメだよ、こっちに来ちゃ。綺麗になった羽根が燃えちゃうからね。こんな醜い人間の世界なんか忘れて、空へお帰り。

ありがとう。みんなのためってわかってても、演じるの辛かった。ただの演技でも、結局は誰かが苦しんでるのに加担してることが苦しかった。発狂しそうになっても、君の可愛い瞳とモフモフに癒された。悪のディアマント侯爵家はやっといなくなるよ。


良かった。


さようならー


「随分な茶番劇だな?」



ー…


ー……


………息が、吸える?


「だっだれだ貴様は!?」

「ペルラ海国、ナミル・マルガリートゥム」


誰かが、私を、担いでる…?近くで、あの子がキュィキュィ啼いているみたい。


「おいそこで傍観してる豚野郎ども。お前らがこの娘に悪役令嬢を演じろと言ったんだろう。協力者に対して、随分と見上げた褒賞じゃないか」


ペルラ、って、確か、敵国…?

なんだろう、この状況。目が霞んでしまって、よく、見えないけれど。でも、なんだか風を感じる。まだ身体の感覚、残ってたんだなぁ。


「この娘は貰う。精々、精霊の怒りを買わないようにしろよ?」


ふわっと浮遊感があった。

霞んで見えた空に吸い込まれるように、私の意識は沈んだ。

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