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あの日あの時、彼と  作者: ゆうひ
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 彼は大学にほとんど行かなくなっていた。

 行かないときは付きっきりで教えてくれた。教えてくれたというか、教えていた。

「大学行かなくていいの?」

「行かなきゃね。」

 彼はそう言ったが、私は彼の変容ぶりに心づいた。

 彼は誤魔化し続けた。私はそんな彼に事情があることはわかっていたが、彼の教えを無下にはできないと私もそれを曖昧にしていってしまった。

 私の成績は留まることをしらず、伸び続けた。偏差値はおよそ五十五から六十。母集団にもよるがこれくらいはあるのではなかっただあろうか。

 彼の最高偏差値の七十八には到底及んでいないが、それでもかなりの上位になった。センター試験合わせて三十点のあの時から比べたら考えられない成長である。

 年末。

 いつの間にか彼は私に暴力をしたり、暴言を吐いたりするようになっていた。

 大学にさっぱり行かなくなってしまった彼が心配だった。彼にそのことをきいても、結局有耶無耶にするだけ。最近では毒づくだけだった。

 きっと出席日数は足りていない。きっと勉強もわかっていない。きっとテスト範囲や日程さえも知らない。

 きっと私が彼をこうしてしまったのだ。

 私は日に日に弱っていった。私の腕や足、身体には目に余る痣が多くつき、痛々しかった。

 精神的な辛さもあった。

 それでも私は逃げることができなかった。

 彼にはお世話になっていたし、なにより私が彼をこのようにしてしまったのだから。

 責任を感じていた。

 そうこうしているうちに迎えたセンター試験。

 ちらちらと雪が降っていた。凍てついた空気の中、私と彼はセンター試験会場に向かった。

 私は当然ながら緊張していた。そして責任感でいっぱいだった。

「頑張ってくるね。」

「頑張れ。いってらっしゃい」

 この日のために半年頑張ってきた。成果を出さないといけない。

 しかし頭の中は彼のことでいっぱいだった。

 暴力、暴言。

 不登校、退学。

 孤立、孤独。

 彼を変えてしまったのは、他でもない私だった。

 自己採点をした。

 事故採点だった。

 当然の結果だ。なにしろ試験中は彼のことしか考えていなかったのだから。

 このときようやく、前の彼氏と同じ共依存の状態に陥っていたのに気づいたのだった。

「ダメだった。」

 私は笑った。

 彼への精一杯の強がりだったのだと思う。きっと目から涙が今にも滴りそうだったに違いない。

「頑張ったんだけどなー。」

「だめだったなー。」

 段々と声が震え、悲鳴をあげるように声を出して泣いた。

 それはたった二十年ほどしか生きていない私だけど今までで一番の号泣だった。

 なんだか心に何も思い浮かばなくなった。

 頭がフリーズを起こしていたのかもしれない。

 それでも心は漠然とした不安に溢れていた。頭の中は混迷状態だった。ぐちゃぐちゃ。

 二月初め。

 私と彼は、あの日あの時再会した喫茶店に行くことにした。

 半年ぶりのその喫茶店は幸いにもまだ細々とやっていた。

 その日は空気が澄み渡った快晴。冷たい外気が肌に凍みたが、明るかった。

 私と彼はともにコーヒー頼み、彼はゆっくりとタバコを吸った。そうして何時間もお互い言葉を発さなかった。

 しばらくして、私は告げた。

「いこっか。」

 私は笑った。


お読みいただきありがとうございます。


二作目の小説です。

私の「あの日あの時、彼女と」の彼女視点の物語となります。

この小説のみでも楽しめますが、上の物語も同時に読んでいただければ、さらに楽しく読めるかと思います。


軽い気持ちで、評価、感想、批評等していただければ嬉しいです。

よろしくおねがいします。

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