クロックとアリスとシオンの出会い
「すみませんでした」
クロックはアリスに連れられ、冒険者ギルドが運営している教会前まで来ていた。
「いえ、わたしが勧めすぎたせいです。この話はこれで終わりましょう」
クロックはアリスにフィートの事を聞かれるかと思っていたがそこには突っ込まないでくれたことを感謝した。けれど自分もアリスの触れてはいけないことに触れてしまったかもしれないことについて謝りたかったがそれもできなくなってしまったことは残念に思った。
「それじゃ、冒険者登録しますか?」
クロックは一応もう一つ冒険者ギルドがあること、こっちのギルドはレベルが低いことなどを説明する。
「こちらのギルドに登録します」
「冒険者登録をしていればあちらのギルドでもクエスト受注することはできますから」
登録はどちらのギルドでもできるし、クエストの受注もどちらでもできる。ただし人数制限があるような依頼はその登録したギルドの冒険者が基本的に優先される。それでも彼女ほどの能力があれば、例外的に彼女が優先されるだろうとクロックは思ったので、無理にあちらのギルドを進めるのは止めた。それに個人的にもこちらのギルドに登録してくれるのは、クロックもうれしかった。
「それでは僕はこれで失礼します」
朝早めに家を出ようとしたがいろいろあったこともあり儀式の時間までもうすぐとなっていた。
「ついては来てくださらないのですか?」
「もし心配なのでしたら儀式が終わった後付き合います。それまで待ってていただけますか?」
「そうですね。その儀式にも興味がありますので見学してもよろしいですか?」
この儀式は一般公開もされているので、そのことを伝えてクロックは教会の中へ入っていく。
「クロックさん、もうすぐ始めますよ」
「すみません」
もうすでに会場の準備は終わっており、あとはクロックが来るだけの状態になっていた。
「ごめんね」
クロックはもう一人儀式を受ける軽武装の赤髪の少女に頭を下げる。
「遅れたわけじゃないから、謝る必要はないわ」
クロックはこの少女の事をよくは知らない。多人数の採集依頼で何度か一緒になったことがあるくらいだ。ただ宿で何回か受けられない高難易度の依頼板を覗いていたのを何回も見たことがあり記憶に残っている。
「二人そろいましたし、始めさせてもらいます」
神父のその言葉を聞いてクロックは席の方へ振り向く。
一番前の席にアリスは座っており、目線があったその時に手を振ってきた。
クロックは人がそこまでいないにしても少し恥ずかしくなりすぐに司祭の方へ向きなおした。
「それではまず、今回の洗礼を受けてくださることをあなたたち二人に感謝します」
この洗礼は本来絶対参加というわけではない。誕生月の最後の日に一括で行われるうえ、受けなくても誕生日になれば依頼を受けることができる。そのため受けない冒険者もある程度いる。それでも依頼と重ならなければ受ける人が七割と言ったところだ。昔は絶対に参加するといったものだったのに時代が変わったと前に司祭さんが言っていたのをクロックは思い出した。
「二人に女神アリア様の祝福があらんことを」
その後は昔話が続いた。女神アリアが、この地方の神として人々からあがめられるようになったこと。魔王の誕生から勇者の誕生そして彼らの最後。今でも神の使いが試練の為地上に降り立ってきている子供なら信じるであろう昔話だ。
次に近世の英雄。今は無き、人と魔族が交わったアドラ帝国の侵略からこの国を護った“神眼回路”ハインリヒの伝承。
その後はギルドの受付に話し手が変わり、冒険者の心構えや依頼を受けることの重大性やそれに伴う責任など眠気を誘われる、昔ギルドに冒険者登録した時に聞いた退屈な話が続いた。
「これで儀式を終わります。お疲れ様でした」
先ほどまで話していたギルドの受付の人に変わって司祭が儀式を閉めた。
「ありがとうございました」
クロックは司祭たちに頭を下げてお礼を言い、アリスのもとに向かおうとしたその時だった。
「ちょっといいかしら」
赤髪の少女に呼び止められた。
「なんですか?」
クロックはなんだろうと思いながら振り返る。
「あなた確かクロックっていったわね」
「そうですけど」
「私とパーティを組まない?」
そう言って少女は手を差し出してきた。
「え、いや、ごめん。名前も今知ったような間柄だし……」
とりあえず一緒に洗礼を受けたよしみで声をかけてくれたのだろう。元々クロックは、固定のパーティを誰かと組む気はなかったため断ろうと思った。
「つれないこと言わないで欲しいわ」
そう言って少女は無理やりクロックの手を握りながら説得しだした。
「何度か一緒の依頼を受けた仲じゃない」
「そうはいっても大人数の依頼だし……。僕はこんなに体の線が細いし」
一応彼女も自分と一緒に依頼を何度か受けていたのを知っていたことにクロックは驚いた。
「あなたに剣やハンマーを振り回す役割は求めていないわ。依頼で初めて一緒になった時薬草を見分けるの早かったし、二回目の時はモンスターに出くわした時回避楯役をしながら指示を出していたし、そういう役割を求めているの」
クロックは素直に感心した。その上で少し嬉しかった。
自分の事をそんなにきちんと見ていてくれたこの少女はこれから伸びると思った。
だから尚更パーティーは組めないと思った。が――
「それに私は今朝の事でもあなたを評価しているの」
クロックから手を離し少女はアリスの方を向く。
「あなた名前は? 私はシオンよ」
「アリスです」
「そう。あなたも私たちのパーティーに入らない? それとも二人は先に組んでいたのかしら? それなら私も入らせて頂戴」
「いえ組んではいませんが私の冒険者登録が終わったらクロックさんに声を掛けようと思っていました。今朝の件を見ていて誘ってくださるのはうれしいのですがあの能力にはデメリットが……」
「良かったわ。それならきまりね」
シオンはアリスの方へ向かうとそのまま握手をする。
「いえ、話を聞いてからに……」
アリスは少し困り顔で対応する。
「あの魔法はかなり強力ね。けれど私はそれにはあまり興味がないの。たとえあの魔法が一日一回限定とかクロックにしか使えないとかでもあなたとパーティーを組みたいわ。チンピラ相手にあれだけ怯えずにお説教する心持ちを評価しているのよ私は」
「――そうですか……。なら私からもお願いします」
アリスは彼女の少し膨らみかけの胸を凝視した後、自分から手を握り返した。
「なら決まりね。クロック、私は今日はこれで家に帰らなければならないから、二人で一緒にクエストでも受けてね。それじゃ、ごきげんよう」
そういってシオンはそのまま教会を後にした。
「え、パーティー組むのは決定事項なの?」
クロックは一人小さくつぶやいた。