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カフェでの自己紹介 

「改めまして、私はアリス。遍歴の修道士です」


 クロックたちは広場に出展されているカフェでお茶をしながら自己紹介をし直す。


「僕はクロックです。一応冒険者です」


 クロックはカフェというものになれておらず、少しおどおどしながら答える。


「冒険者ですか?」


 アリスはクロックの身体を頭からつま先までジロジロ見回す。わざわざ机の下を除くようなことまでしていたのでかなり大げさな人だなぁとクロックは思った。おそらく冒険者としてはもちろん一般の十五歳と比べても少し貧弱だとアリスは思ったのだろう。それにクロックの服装や装備も、冒険者と言うよりは狩人に近いというのもあるのだろう。


「一応そうです」


 クロックは冒険者カードを机に置いてアリスに見せる。


「この国の身分証明証みたいなものですか?」


 アリスは一言すみませんと小声で言ってから彼のカードを手に取る。


「この都市には来たばかりですか?」


「はい。先ほど着きまして、宿周りの散策をしていたところだったんです」


 荷物らしき物を持っていなかったのでここに来てから何日かはたっているものだとクロックは思い込んでいた。


「それは冒険者ギルドに登録した人だけの物です。身分証明に使えはしますが、一般人は違う証明証を持っています。あなたは修道士用を作ることをお勧めします」


 冒険者カードはギルドに登録すればもらえる物なので簡単な審査で発行してもらえる。犯罪歴なども都市外での犯罪歴は記録されないのでその点などで一般の住民カードに比べて信用があまりない。一応アリスは遍歴の修道士と言うことなので教会の方である程度すぐに信用のある修道士用のカードを作ってもらえるだろう。クロックはアリスにそう説明してからカードを返してもらった。


「私も冒険者の宿に登録したいのですが、教会でも証明書を発行してもらった方がよろしいのでしょうか?」


 彼女は少し困り気味にクロックに対して聞く。


「冒険者登録されるのですか」


 クロックは意外に思った。遍歴の修道士は街中での争いは止めに入るが冒険者がするようなモンスター退治などには首を突っ込まない。なのに彼女は冒険者稼業という血生臭いものに登録しようとしている。ただクロックの疑問はすぐに解消された。


「あれだけの腕があればそうですよね」


 彼女がクロックを護った、おそらく魔法なのだろう、あのような強力な魔法が使えるということはそれなりというより、多分自分より強い。その力を活かして冒険者として自身の信仰している神を異国の地で宣伝する珍しいタイプなのだろう。


「あの魔法の事ですか?」


 コーヒーに口をつけていたアリスはカップを置き、申し訳なさそうな顔をする。


「はい、詳しくお聞きしたいです」


 クロックはなぜ彼女は申し訳なさそうな顔をしているのだろうと疑問に思いながらも魔法の事を聞いておこうと思った。


「あの魔法は……。自分には使えないのです」


「それでも補助役として、パーティに居てほしい人材ですよ」


「それとまだデメリットがありまして……。対象となる人物の心が清くないと効果が十分に発揮されないのです」


 アリスはクロックの胸を見ながら話を続ける。


「その点あなたはかなり心の清い人のようですね。私はただあなたにかかる衝撃を和らげようとしただけでしたのに、あそこまで攻撃力が備わるとは思いませんでした」


 彼女にとっても予想外の威力だったようだ。普通なら心の清いと言われれば喜ぶべきなのだろうがクロックは複雑な顔をしている。


「別に僕の心は清くは無いと思います」


 そう言いながらクロックは口をつけていなかったコーヒーのカップを手に持ち口に持っていく。


 彼女は、自分のために身を挺してくれたことと兄貴分を心配したことを言ってくれているのだろう。ただ、クロックは褒められるようなことをした覚えは無かった。


 実際、兄貴分を心配したのは自身の保身の為だ。相手が殺しに来ていたのなら、最悪殺すことも視野に入れる。ただ今回はただの言い争いだ。そんなことで死人を出したり、何かの間違いで自分が逮捕されるようなことになったら姉に顔向けができない。


「まぁまぁそんなに謙遜なさらずに……。とまぁ話を戻しますが」


 ちょうど頼んでいたホットドックがテーブルに運ばれてきたので、アリスは店員に会釈をして、それをすぐに手に取る。


「私が使える魔法は心が清い人を守護するのに特化したものなのです」


 アリスはそのままホットドックを頬張り、クロックにも、もう一個の方を食べるよう目線を動かす。


「一般人に対してはどのくらいの効果が期待できるのですか?」


 クロックはアリスの食べないのですかという顔に気づかない振りをしながら話をする。


「先ほどの男性たちの攻撃を1/8にできますかね。回復魔法なら腕がちぎれた程度なら一日あれば引っ付くと思います」 


 アリスはとんでもないことを平然と言ってのけた。それにクロックは驚いている。


「すごいじゃないですか。どこのパーティにでも引っ張りだこですよ」


 アリスはえっと言った表情で彼用のホットドックから目をクロックに向ける。


「今までどこで経験を積んでたんですか」


 クロックの住んでいるアリアベルクのあるアリア地方は貧富の差がある程度あるうえ、都市外では魔物の被害が相次いでいる。しかし都市の中で暮らしていれば少数精鋭の、他の地方と比べても遜色がない騎士隊が命の保障をしてくれるし、最低限度の生活は保障されている。


 そんな恵まれているとは言えない環境の中なので冒険者の質が他の地方と比べると、上位と下位の差が激しく真ん中があまりいないと言ったところだ。


 なのでクロックはアリスが遠い東にあるという冒険者や騎士を育てる環境が整っている地方出身なのかなと、あたりをつけていた。


「……えっと、まぁー、とりあえずホットドックを食べてはどうですか?」

 

 アリスは露骨にこの話題から話をそらそうとしだした。

 彼女の手にはクロックの分のホットドックが握られており、それを彼の顔に近づけていく。


「いや、僕は遠慮しておきます」


「まぁまぁそう言わず」


「そこまで言うなら……」


 あまりに進めてくるのであまり触れられたくない話題に触れてしまったのだろうとクロックは思い、それを受け取り、とりあえず少し食べて話を変えようと思った。その時だった。


“ほら、クロック。一緒に食べよ”


「おぇっ――」

 

 クロックはとっさに手に持っていたホットドックを机に投げ出し、下の地面に吐いてしまった。ここ数日ほとんど食事ものどを通っていなかった為、出たのは胃液がほとんどで遠くからみたら、えづいただけのように見えた。


「大丈夫ですか?」


 アリスは椅子から立ってクロックの背中をなでに向かう。


「クロック丈夫か?」


 その間を遮るようにクロックの側に男性が近寄って来る。その男性は先程カウンターにいた男性でこの店の店長だった。


「店長さん。大丈夫です」


 クロックは手で二人を制する。


「フィートちゃんの事思い出したのか?」


「すみません。すみません」


「あとはこっちで片づけておくから」


 すると奥から店主の奥さんが、木の桶と布きれを持って来た。


「今日は儀式の日だろ」


 店主はクロックに水と桶を渡して、うがいするように促す。


「はい」


 いつまでも自分がここにいては、店の迷惑になると思い、クロックはすばやくうがいをして、桶に吐き出した。


「悪いがそっちの修道士の姉ちゃん。クロックをあの教会まで連れてってくれないか」


「はい、わかりました。クロックさん、肩お貸ししましょうか?」


 アリスはクロックの腕を自分の肩に掛けようとする。


「いえ、大丈夫です」


 クロックはアリスの気遣いを無駄にすることにはなるが、今は触られたくないと思った為、断った。


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