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セイウチVSトド 

作者: あめふらし

 ある日、北極でセイウチとトドが出会ってしまった。

 セイウチとトドは決して馴れ合わない生き物だ。犬と猿、光と闇、たこ焼きとお好み焼きぐらい、相性が悪い。

 昔はセイウチとトドが出会って北極だけに刀傷沙汰もあったという。(刀傷と凍傷を掛けた、IQ2000くらいのギャグ)。

 

 それ故に、今はセイウチとトドが出会ったら、ラップバトルで決着をつけるという法律が出来た。

 これを守らないものは、ツララをケツ穴に突っ込まれて奥歯をガタガタ鳴らす刑に処せられる。

 

 どこからともなく、セイウチとトドの間にバックミュージックが流れ始めた。

 ズンチャッ、ズンチャッ、とビートを刻み、二人の間に緊張が走る。

 先に口を開いたのは、セイウチだった。


「YO! YO! そこのデブは何用? 俺は魚を取りに来たんだYO! 俺ならマグロを丸のみ! お前じゃせいぜいポテチを丸のみ! 用がないのにここに来るなYO! ここは俺の縄張り、分かったら帰れメーン!」


 くっそ下手なラップを奏で、セイウチがトドを罵倒する。トドも負けじと体をDJのごとく、揺らしながらラップをし始めた。


「NO! NO! ここは俺の縄張り! 毎日ここでウンコバリバリ! いつでも快便、お尻便々! 今日も朝からブリブリ三昧! お前じゃせいぜい、ぷりぷり惨敗! 負けを認めろ、デブメーン! YO! YO!」

 

 くその様に汚いラップでトドが言い返す。

 客観的に見て、実力は互角だった。これでは決着がつかない。

 そして、こういう場合は審査員を呼んでの公平な審査が求められる。


「仕方ねぇ、審査員呼ぶか……、俺が電話するからな。あー、スマホスマホ、どこしまったけ?」


 トドがタプタプの腹からスマホ探る。

 その様子を滑稽だなぁ、と見ていたセイウチの脳裏に電流走る!!


(あれ? 思えばトドってポテンシャルヤバくね? セイウチと違って、あいつポ○モンでトドゼ○ガとかいるし、黒飴のCMでもトド○ロちゃんとかいうのを時々見かける。しかも、トドのつまり、とか言うことわざまである。それに対して、セイウチってどうだ? 見た目は完全にデブのおっさんだし、何のキャラクターにもなってねぇ。ぶっちゃけやばくない?)


 そうなのだ。傍から見ればセイウチとトドは似たようで、圧倒的に差があるのだ。

 海洋生物としての地位は、セイウチよりもトドの方が圧倒的に上! ラップが互角となれば、その他の点で決着がつく可能性が高い。そうした場合、負けるのは必然的にセイウチになる。

 

「ああ!! あんなところに、シロアザラシの赤ちゃんが!!」


「え? どこどこ?」


 セイウチはとっさの嘘でトドを騙し、視線を自分から離させた。そして、トドが気を散らしている間に、セイウチは呼吸を整える。

それはシステマの構えだった。


『システマ』


 システマとはロシアの軍隊格闘術である。

 システマが他の格闘術と違っている点は、明確な型よりも呼吸法やリラックスが重要な点だ。

 呼吸法では浅い呼吸を間を開けず繰り返すのが肝で、セイウチも未熟ながらシステマの呼吸法を会得していた。


「こぉ! こぉ! こぉ! こぉ!」


 呼吸共に体を揺らすセイウチ。システマの基本理念に常に移動するという物がある。セイウチは基本に倣って、戦闘態勢に入ることに成功したのだ。

 

「!!」


 それにトドも気づいた。次の瞬間、セイウチから重い蹴りが放たれた。

 メリィ! とトドの骨を砕き、トドの肉体を吹き飛ばす。氷の岩盤を三つほど貫通させて、トドはやっと止まった。


「ちぃ! 野郎……素人ではなかったか!」


 トドが毒づく。それと同時にトドも戦闘態勢に入った。

 足幅を合わせてトドが立つ。トドが習得している格闘技は……。


『カポエイラ』


 独特な音楽に乗って戦う円運動中心の護衛術である。もとはブラジルの奴隷たちがダンスに見せかけて、精錬させてきた格闘技だ。

 

「こぉ! こぉ! こぉ! こぉ!」


「死ねぇや! デブが!」


 セイウチとトドが衝突する。その衝撃で、氷の大地にクレーターが出来る。

 二匹の戦いは天候すら変えた。

 雪雪崩が大地に降り注ぎ、魚が地震を感知して深海へと逃げて行った。

 肉を断ち、骨を砕く、戦いが続き、セイウチとトドは満身創痍で大地に立つ。

 二匹は戦いの最中に脂肪の栄養を使い、痩せ果てていた。

 おそらく次の攻撃が最後、二匹の間に言葉はないが、そう思わせる何かがあった。

 奇妙な友情とでもいうべきものかもしれない。殴り合いの果てに、何かとしか言えないものが二匹を繋いでいたのだ。

 セイウチとトド。二匹が同じ種族なら、きっと隣同士で笑い合う中だっただろう。


「行くぞ、セイウチ!!」


「こぉ! こぉ! こぉ! こぉ!!」


「あの~、すみません」


 気づくとそこに、二人の間にはペンギンが立っていた。警察官だ。

 彼は煙草を取り出し、火をつけると言い放った。


「ラップ決着法を犯した罪で、両者逮捕。ツララをケツに突っ込んで奥歯をガタガタ言わせる刑ね」


 かくして、セイウチとトドの戦いは幕を閉じた。

 彼らは留置所でツララをケツに突っ込まれ、奥歯をガタガタ言わせて釈放せられたという。

 フォーエバー、平和。アイラブポテチ。

 今日も明日も、ラップバトル。毎日が縄張り争い。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] いい感じに狂ってますね!(笑) はじめは絵が浮かばなかったのですが、 最後は人形コマドリアニメのアードマンだっけ? そんなのが浮かびました。 [一言] 面白かった。 そして、ヒロインがこ…
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