第4話 迷宮での試練
ヴィネスを象徴する、一際高く天辺が見えないほどの高さを誇る塔--迷宮
アルクとバルド、エリの三人は迷宮までの道を歩いていた。
エリさんは、短剣を二本持っていることから、黒装束の女と同じような戦闘スタイルか……エリさんはいい人だと思うが、あまりいい思い出ではないな、短剣は。
まあ殺されかけたんだから当然といえば当然なんだろうけど。
でも、バルドさんは昨日自分の目で実力の一端を見たし、エリさんの実力もこの目で見てみたいと思うわくわくした気持ちが優っていた。
「あの、武器って何が1番良く使われているんですか?」
「大剣か短剣二刀だろうな」
「意外ですね……短剣も使用者多いんですね」
「バルさんが言う通りかなり人気かな~。敵に気付かれずに倒しやすい武器だからね~」
てっきり使いやすい大剣か、魔法を一番生かせる杖を使う人が多いのかと思っていた。
一階層だけ見てみれば剣と杖で六割程度を占めているイメージだった。
自分みたいに魔法カッコいい!とか思う人が多いのだろうか。
剣を装備していても魔法を使えないという訳では無いが、杖には魔法をアシストするものが付与され、魔力も強化されるので、魔法を軸に使うなら装備は杖一択だろう。
しかし、人気なのは短剣二刀流と大剣らしい。
「気配を薄くして、近づいて、モンスターを倒す!これが1番安全で危険が少ないからね~」
正面から戦わずに済んで、リスクを避けられる。
上に行けば行くほど身を守るためにも、それが1番いいのか……確かに魔法は凄いけど目立つから狙われそうだもんな。
「俺やアルクが使う槍の利点としては、攻撃範囲が大剣よりも広く、投擲等の使い方も出来る」
バルド曰く、槍の間合いの方が懐に入れさせないような立ち回りをすれば短剣使いや大剣使い相手とはやり合えるらしい。
俺はまだ基本的な槍の使い方すら微妙だし、投擲とかそんなレベルじゃないけど……
なんだかんだそんな話をしているうちに、迷宮の入り口に着いた。
迷宮の前ではパーティーメンバー募集をしている人、これから迷宮に行く人で、時間はかなり早いがかなり賑わっている。
「行くぞ」
入り口から迷宮に入る。
アルクは一階層しか行ったことがないが、一階層はかなり広い。
ビビって二階層に行けなかったが、二階層まで最短で行っても20分くらいはかかりそうだ。
一階層が1番広く、そこから上に行くにつれ少しずつ狭くなっていく。
一階層は少しひんやりした洞窟のようになっており、地面は少し湿っている。
外は暑いので結構気持ちよく感じる。
基本的に道の幅は狭くても、そこまで戦うのに窮屈という感じではなく、槍を振るうだけの道幅はある。
モンスターは魔法陣から出現する。
基本的にそう一気に出現することはないが、放置すると群れを成していたりすることもある。
地面が目の前で淡い光を放ち始める……魔法陣だ。
さっそくお出ましのようだ。
魔法陣から出てきたのは青い生物――スライムだ。
人間と同じような手と足も生えていない、目と口はあるのか不明だが液体状で可愛らしい見た目をしている。
「スライムか、おし、アルク! 」
バルドがアルクに指示する。
スライムの体は透き通っており、色は様々である。
青・赤・緑、他にも色にはバリエーションがあるのだが、特に違いがあるわけではないが、スライム自体は一階層にある割には意外と厄介である。
ヌメヌメした体は魔法によるダメージしか受け付けない。
物理攻撃ではヌメヌメした体の中の核だけしかダメージを与えられないので、そこを狙っていく。
「はぁっ!」
アルクは槍で核を狙い、突く。
核を少し掠めたものの、倒すには至らない。
スライムが溶解液を吐こうとしたので、咄嗟に下がる。
ジュウゥゥ……
溶解液のかかった石が音をたてながら少し溶ける。
基本的にパーティーでしか倒したことないから、1人だと難しいな……
基本的にモンスターを倒すには二つの方法がある。
核を破壊するか、ダメージを与えて倒すかだ。
核は、お金と取引出来るのでなるべく残しておくのが普通ではあるが、スライムの場合は物理攻撃しか攻撃手段を持っていないアルクには不可能だ。
アルクにとって、スライムはすこぶる相性が悪い。核が5割以上損傷するとモンスターは死滅するので、アルクは核を破壊するため核めがけて攻撃を繰り出す。
アルクがスライムに苦戦している中でも、モンスターの発生が無くなるわけではなく。またすぐ近くで地面が淡い光を放ち始めた。
すぐ近くで槍を持った人を少し小さくしたようなモンスターが現れる--ゴブリンだ。
ゴブリンは剣や槍、弓を持っていたりする。
その上仲間との連携も良く、複数体集まってしまうと非常に厄介だ。
槍を持ったゴブリンはアルクを視界に捉えると、距離を詰めて……心臓を狙い、突く--アルクは体を捻ってバランスを崩しながらも避ける。
間髪入れずに、スライムの溶解液--アルクは壁に槍を突き刺し間一髪で避ける。
そこに、ゴブリンは愚直に突っ込んでくる。
この階層のモンスターなら力負けすることはほぼないだろう。
ゴブリンの刺突を態勢が不安定ながら弾き返し、槍を突き刺す。
しかし、それだけではゴブリンが死ぬに至らず……
槍をこちらに向けて突き刺そうとする……ヤバイッ!!
ヒュッッ……スパッ!!
--バルドが槍を薙いだ。
目の前のゴブリンは綺麗に上半身と下半身で真っ二つになっていた。
俺は驚きを隠せない。
あんなにデカくて重そうな槍を振るったところが全く見えなかった。
槍ってあんなにスパッと切れるもんだっけ?
まあ確かにレベル的に見れば全然違うんだろうけど、それでも、だ。
「おし、アルクの実力は大体把握した」
「うひゃあ、そんなに綺麗に真っ二つなんて流石ですね、バルさん」
奥にはいつの間にかスライムを倒したエリさんが立っていた。
いつの間に……?
身軽な服装だが、短剣二刀使いのあの黒装束の女とは次元が違う、移動した時、姿も気配すらも、最早何も感じられなかった。
こんな人達と俺は迷宮に来てるのか、思わず鳥肌が立つ。
「アルク大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です」
「なら先に進もうか」
バルドさん達の実力をこの目で見たいとアルクは考えてたものの、その実力を見ることすら叶わなかったのだった。
バルド、エリ、アルクこの3人以外の迷宮に行くシーンもこれから書いていけたらと思ってます。
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