第2話 ギルド《アルスター》①
第2話です。
早くも少しだけ戦闘シーンがあります。
楽しんでいただけたら嬉しいです!
良かったらブクマ・感想・評価等お待ちしてます。
ギルド《アルスター》の一員となった次の日。昼過ぎに家を出て、ギルドハウスへ向かう。
昨日いなかったギルドメンバーを紹介したいから来てくれないか、とエースから昨日言われたので向かっているのだが、迷宮に潜る組もいるから全員ではないらしい。
自分のために集まってくれるので、遅刻は出来ないと思い、10分前行動をしようと少し早く家を出る。
ギルドハウスのドアを開けるのは2度目だ--緊張する。ドアを開け、ギルドハウス内を見てみると、既に30人以上が集まっている。
「こんにちは!」
「お、アルク」
「エースさん!」
「早いけど紹介してくか。いないやつはまた後日てことで。とりあえず、サブマスターからだな。あそこの変態マッチョと短剣の手入れしてるエルサがサブマスターだ」
変態マッチョと呼ばれた男は、昨日話しかけてくれたワイルドな風貌のおじさんだ。
とは言え、隆起した筋肉が衰えを全く感じさせることはない。昨日思った通り、近接戦闘が得意らしい。やっぱり。
一方のエルサは、スラッとした長身で、赤いもやもやした光を放つ短剣を手入れしている。あのもやもやした光はどういう原理なんだろうか……短剣を手入れしているから、短剣使いなのだろう。
「変態マッチョことバルドだ。よろしくな。って名前くらい言えよ、エース」
「えっと……アルクです!よろしくお願いします」
変態マッチョって紹介されたことはいいのか、と笑いを堪えながら挨拶をする。
ただ、見た目とは違って気さくな人らしい。外見だけで言うならトップクラスに強そうだ。
「エルサだ。よろしく」
「よろしくお願いします!」
一方のエルサは遠くから少しこちらを見やり、小さな声で一言言うだけだった。凄くクールな女性だ。
その後も一通りエースが紹介して、挨拶するという流れを何度か繰り返し、今いるメンバー全員と顔合わせが終わったところで、エースがバルドに話しかける。
「ところでバルドは今日は迷宮行くのか?」
「いやぁ、今日はちと知り合いからお誘いがあってなぁ」
「また闘技場行くのか?」
「おう、サンドバッグにされてくる」
どうやらバルドさんは迷宮に行かないらしい。闘技場に行くと言っていたが何なのだろうか?
「あの……闘技場って何ですか?」
「ああ、まだアルクは知らないのか。闘技場ってのは冒険者同士が己の実力を試す場所だ」
「なるほど……そんなところがあるんですね」
田舎出身でヴィネスの情報なんて入ってこなかったし、ヴィネスに来てからは生きていくことだけでいっぱいいっぱいだったので、ヴィネスでも迷宮以外に何があるかをほぼ知らないのだ。
「え? でもどうやって?」
アルクが疑問を持つのも不思議ではない。
当然、冒険者が魔物を攻撃すれば魔物は傷つく。冒険者が冒険者を攻撃してもまた、傷つくのは当然だ。
アルクはバルドに問うと、丁寧に解説してくれた。
バルド曰く、闘技場は過去の遺産であり仕組みは分かっていないが、冒険者同士で戦っても痛みを感じることはないらしい。
ただし、その痛みを実践さながらに寄せるために身体が重くなったり、動かなくなったりする。身体が耐えきれない=死亡と判断され、その戦闘は終了する。
個人同士、パーティー同士で戦えることから、かなりの人数が利用するらしく、規模が大きくなるとギルド同士やランキング戦等も行われるのだという。
「当然だが、闘技場じゃない所で斬れば血も出るし、死ぬから気をつけろよ?」
「そんなことしませんよ!」
「だが逆がないとも限らない」
「え?」
急に真面目なトーンで言われ、一瞬ゾッとする。
「力を持つと暴力的になったり、犯罪に手を染めるやつも少なくない。闇ギルドなんてものもあるらしいからな、もちろんギルド協会非公認だが」
闘技場でも最近無差別攻撃をする輩が増えているらしい。
事前に両者の同意があってやるのが一般的だが、突然襲いかかってくることもあるんだとか。
そういやつは基本的にブラックリストに載っているから注意しろとのことだった。
「めちゃくちゃ怖いですね……」
「ま、1人で行動することはそうそうないだろうから、そんなに気にすることは無いと思うけど、頭の片隅にでも覚えといてくれ」
脅されてから、そんなこと言われても安心できないな……
「気をつけます……」
「おう。お、知り合いが来たようだ。またな、アルク」
「行ってらっしゃい!」
バルドは、闘技場に行く約束をしていた知り合いが来たから行ってくるといい、去っていった。
エースが言うには、バルドは知り合いや友達も多くく、ギルドメンバーからの信頼も厚いそうだ。
確かに親切だし、気さくだからそれも納得だ。
「さて、アルク。早速だがギルドについて説明しておこうと思う」
「お願いします!」
「あ、もしかして何か知ってることとかあったりする?」
「いえ、恥ずかしながら全く……」
「オーケー、とりあえず簡単に説明するよ」
ギルドは、ギルド対抗のギルドマッチに参加することができたり、パーティーが固定されるので、安定して迷宮を攻略すること、お金は毎月少しギルド協会に納める代わりに、怪我などをした場合にかかる金額を肩代わりしてくれたりするらしい。
これの他にもいくつかあるみたいだが、それは必要な時に説明するとのことだった。
「ギルドについてはこんな感じだな。あとこのギルドハウスはいつでも使っていいぞ。パーティー組みたきゃここにだれかいるだろうし、寄ってから迷宮にいくのがいいだろうな」
「わかりました、ありがとうございます」
結構自由なんだな……
それにしてギルドの存在は有り難すぎる。
「ふぁ〜〜」
誰かが欠伸をした。
どうやら雑談したり、ギルドの説明をしてもらっているうちに、いつの間にか日が沈み、当たりが暗くなっていた。
「今日は迷宮に行くにしてはもう時間遅いし、解散するか。アルクの歓迎会はまた今度開こう。みんな、お疲れ!」
エースが解散! と言うと、ギルドハウスから次々と外に出ていく。
今日はギルドの説明やギルドメンバーの人とかなり話したので、疲れたし、家帰って早く寝よう……
☆☆
アルクもギルドハウスを出て、自分の家に向かって歩いていく。同じ方向の人はいないみたいだ。
アルクの家は、《アルスター》のギルドハウスから歩いて10分といったところにある、2階建ての少し年季の入った建物の1階である。
方向感覚に自信のあるアルクは、ギルド掲示板のある広場からギルドハウスへの道も完璧に覚えていたから、家に帰るのにも何ら問題はない……はずだった。
何だ? この異常なまでの人気の無さは?
不自然過ぎるほど人通りが少なかった。
広場が面するメインストリート程ではないが、人が通る道なはずである。
「っ!?」
思わず息を飲んだ。
全身黒装束に身を包んでいる--女だろう。体のラインから判断して、の話だが。
10mほど先に2本の短剣らしきものを持って、手をぶらりとさせていた。
明らかにヤバい!
アルクの直感がそういっている。
そもそも、街中で武器を手に持っている者はいない。
この人が襲ってきたなら対処するのは難しい。
まだ駆け出しの冒険者が勝つことのできる相手なんてほぼいないに等しいだろう。
広場には人がまだかなりいる、そこに行くまでの道に誰か必ずいるはずだろうことを考え、身を翻して広場に向けて走り出そうとする……
「っ!? はぁっ!」
アルクが身を翻そうとしたその時には、女はアルクとの距離を5m程に縮めていた。
逃げるのは無理だと判断したアルクは、槍を突くのではなく、薙ぐ。
--キィィン!
甲高い音が鳴る。
アルクと女が、その衝撃に逆らわずに距離を取る。
危ねぇ、咄嗟に体が判断したのか。まさに"火事場の馬鹿力"ってやつだな……助かった。
昔、東方の島国の領土だった時の名残である''ことわざ''というものだ。
色んな単位等も、その島国の領土だった時のものが使われてたりする。
「今ので撤退してくれればいいんだが……んなわけないよなぁ!」
女の短剣を弾いたのは完全にまぐれだが、アルクはまぐれではなく、必然であり、自分は強いんだ、デキるんだということを強気に訴える。
これで引いてもらわねば、彼は死ぬ未来しかないだろう。
これがバルドさんの言ってたやつか? 忠告受けてわずか数時間で襲われるとかどんだけアンラッキーなんだよ!
それに構うことなく、女が地面を力強く蹴る音が聞こえる。
彼の目で追えるスピードではないが、到達するであろう時間は僅か。
瞬間的に槍を振るう……
が、先程の金属音は聞こえず、アルクの槍の先から1m程先に女はいた、緩急をつけた攻撃。
1度振るった槍を懸命にもう一度振るおうとするが……
「うおぉ!!!」
くっ……間に合えぇぇ!!
女の短剣が目の前数センチまで接近する。
(あぁ……俺は死ぬのか)
アルクが死ぬ、と思った瞬間、強い風が隣を吹き抜けていった。
--ドガンッッ
何か重いもので殴りつけたような音が鳴る。
そして目の先程まで来ていた短剣が、まだ自分に達していない。
え? 何が起きた?
「アルク!大丈夫か?」
アルクの視線の先には、大柄な体は鍛え上げられ、無数な傷が刻まれている体。その体の大きさにも負けぬ程大きな槍を振るっているギルド《アルスター》のサブマスター バルドが、そこにいた。
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