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April 10 P.M 19時43分 新宿駅
帰宅ラッシュのピークを越え、人が疎らになった山手線ホーム。
自販機に仄暗く照らされて立つ背丈の高い男がいた。
歳の頃は二十代半ば。
草臥れたトレンチコートを纏い、その下に同じく草臥れた量販のビジネススーツを身に着け、
足元の革靴は泥にまみれ酷く傷ついていた。顔は無造作に伸ばされた髪に隠され伺うことはできないが、そのビジネスマンという出で立ちの割には手には何も持ってはおらず、代わりに、本来の長身が意識できないほど背中を丸めており、この世の闇の全てを背負っているかのようであった。
髪の間から時折に覗く、力のない虚ろな眼はきっちり3分置きに来る電車を品定めするかのように
見つめ、見送っている。
新たな電車のライトがホームに瞬いた時、男の足が線路へ向かい動いた。
「すみません」
黒いパナマ帽を被った燕尾服を着た老人が男の肩を掴み、男をそこに留めた。
男が後ろに振り返ると老人は朗らかな笑みを浮かべ、問いかけた。
「あなた、コンバットバトラーになりませんか?」
キーンという甲高いブレーキ音と共に電車は止まり、乗車扉が開いた。