どうやらドラゴンを倒したらしい
ドグマの転移した世界に、とある一つの村があった。
木造の家屋が立ち並び、質素な服に身を包んだ人々が行き交う。村の外れには畑があり、村人たちが日々農業に従事する。そんな何処にでもあるような平凡な村だ。村人の体についている、角や翼を除けば。
この村は、魔族の中でも特に個体数が多いデミデーモンの村である。
デミデーモンは人間とほぼ変わらない外見だが、頭部から二本の角が生えていて小さな蝙蝠の翼が背中についているのが人間との違いだ。所謂、魔族と聞いて真っ先に想像するような外見である。
そんなデミデーモンの暮らす平和な村に、けたたましい警鐘が鳴り響く。戦えないデミデーモンが地下のシェルターに逃げ込んでいく。そしてそれは降り立った。
漆黒の鱗のドラゴンだ。決してジークヴルムではない。強いだけのドラゴンだ。
「ダークドラゴン!?なんでこんなやつがっ」
違った。ダークドラゴンだった。
ダークドラゴンが、たった今悪態をついたデミデーモンの青年に噛みついた。グチャ、と嫌な音を立て、青年の上半身が噛み千切られる。力を失った下半身がばたりと倒れた。
「っ、アレオスッ!」
無数の矢や魔法がダークドラゴンの鱗にぶつかり、弾かれる。デミデーモンの攻撃はダークドラゴンに全く通じないようだ。
「グァオッ」
ダークドラゴンが煩わしそうに尻尾を振るう。それだけでデミデーモンの大人たちが宙を舞った。
「おにいちゃん、おにいちゃあんっ!」
「だめっ、行かないでっ」
まだ8歳ほどの少女がダークドラゴンの足下に横たわる上半身が無くなった死体に駆け寄る。どうやらこの殺されてしまった青年の妹らしい。
「おにいちゃあぁん、死なないでよぉ」
母親の制止を振り切り兄の下半身に駆け寄る少女。事案とか言っている場合ではない。兄のすぐそばには今もまだダークドラゴンがいるのだ。
「グアァアッ」
「ひぃっ、いや、いや」
ダークドラゴンが少女に牙を剥く。嫌がる少女。事案とか言う間もなくダークドラゴンが少女に噛みつく
「地に呑まれろ」
その寸前どこからか声が聞こえた。
地面から土の触手が何十本も生え、ダークドラゴンの動きを束縛する。そして、ダークドラゴンが触手と共に地面に沈み始めた。
「グラァッ!」
もがき続けるダークドラゴン。その頭上を、ズドンと鈍い音を立てて黒い影が通り過ぎる。その衝撃で気絶したダークドラゴンは、そのまま土の中に引きずり込まれ消えてしまった。
ダークドラゴンのいた場所に残ったのは、少女とその兄の下半身だけの死体。そして、漆黒の馬に跨がる漆黒の鎧の少年、ドグマだけになった。