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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
魔導付与師と全身甲冑の話
8/68

8 探索しよう

 せっかく良く出来た回復薬だったというのに何故か全く売れなかった。

 結構自信作だったのだが……いったい何が不満だというのか。


「うーん、何が悪かったんだろうな?」


「あれを見て買おうと思う人間は稀だろう……理由は副作用が最悪だったからだと思うが」


 俺のぼやきに答えたのは隣を歩く鬼面の鎧武者、イツキ・カンナギである。

 あの騒動の後、予定通りパーティを組んで《森林迷宮》へと足を踏み入れたのだ。


「そんなに問題があったかな? ちょっと不味くて一日寝込んで、ついでに変な夢を見るくらいだぞ?」


「ちょっと……? いや、気絶するような薬は《迷宮》の中では使えないだろう」


「……ああ、なるほど。それもそうだな」


 凄く納得してしまった。

 確かに継戦能力は大事だ。効能を優先し過ぎて失念してしまっていた。

 よし、次回はその辺りの改善を意識していこう。

 

 余談だが積極的に騒動を主導したギルドマスターは、ミリィを筆頭とした怒れる職員の方々に奥へと連れていかれてしまった。

 何やら野太い悲鳴が聞こえたような気もしたのだが……冥福を祈ろう。


「ところでこうして《迷宮》に入ったわけだけど、イツキは戦闘のほうは大丈夫なのか? ここは外だと見かけない魔獣とか平気でいる場所だけど」


「大丈夫だ、こう見えても戦闘であれば自信がある。いざという時は任せてくれて構わないぞ」


 むん、と片手を持ち上げ力(こぶ)を作るような動作を見せる。

 まあ、鎧に覆われているので中身は見えないのだが。

 とはいえミリィ曰くなかなか稼いでいるらしいので、あまり心配する必要もないだろう。


「むっ、早速敵襲のようだな」


 ガサリと音を立てて茂みから出てきたのは灰色の狼、〈群浪狼(グレイウルフ)〉だ。

 血走った目に鋭い爪と牙を持つ獣型の魔獣で、普通の狼よりも機敏で身体も大きい。

 肉はとても食えたものではないが、爪と牙は毛皮は探索者ギルドの買い取り対象だ。


「グガァ!」


 〈群浪狼(グレイウルフ)〉は全身の毛を逆立て、こちらに向けて唸り声をあげた。

 ――がここで気を付けるべき相手は目の前の狼ではない。


「〈群浪狼(グレイウルフ)〉は集団で狩りをする魔獣だ。たぶんあいつは囮で、周囲を他の狼が囲んでいるな」


「ああ、承知している。こいつらとは二度ほど殺り合ったからな。エルトは少し下がっていてくれ」


 言われてイツキから距離を置く。

 一応周囲を警戒しつつ、お手並み拝見といこう。


「「「グガウッ!!」」」


 イツキが囮の一匹との間合いを慎重に詰めると、木の影や藪の中から一斉に灰色の狼たちが飛び出してきた。

 鎧武者の全身に狼が群がり、その鋭い牙と爪を突き立てる。


「――ぬんっ!!」


 纏わりつく狼をものともせずにイツキが振りぬいた片刃の剣が、鎧に群がった〈群浪狼(グレイウルフ)〉を両断した。

 その刃の軌跡はほとんど視認できない程に非常識な速度だ。

 更にはその身を覆う甲冑には傷一つとて付いていない。


 ……なんつー強引な。

 どうも鎧の防御力頼みでカウンターを打ち込むのがイツキの基本戦術らしい。


「ガウッ!」


 これは敵わないと察したのか、生き残った数匹は尻尾を巻いて逃げて行った。

 潔くて何よりである。こちらとしても別に彼らを殲滅したいわけではないのだ。


「どうだ、心配いらないだろう?」


 見たか? とでも言いたげにイツキが振り返ってきた。

 たぶん鬼面の下ではドヤ顔をしているのだろう。

 うん、まあ確かに魔獣は蹴散らせたが、それでも言っておきたいことがある。


「いくらなんでも鎧の防御力に頼り過ぎじゃないかな? もう少し回避の技術も学んだほうが良いと思うけど……」


「問題はない。この『ダイナゴン』さえ着ていれば、どんな攻撃も無力だ!」


 そんな名前かよ。

 というかこれは駄目だな。どうも考えを改める気はゼロのようだ。

 過信……とは言えない。実際にあの甲冑の防御力は大したものだ。

 この《森林迷宮》であれば傷つけられる魔獣は皆無だろう。

 しかし他の高難易度の《迷宮》だと流石に怪しい。

 だが注意したところで聞く耳持ちそうにないし、おいおい改善していくしかないかな。


「――まあ、それならそれでいいよ。それじゃあ死体は回収するけど、いいかな?」


「ふむ、さすがに全部を回収するのは無理そうだな。どれを持っていくのだ?」


「……ん? ああ、それなら心配いらない。全部回収しよう」


 そう言って〈群浪狼(グレイウルフ)〉の躯に近づき、『旅の鞄』に手早く詰める。

 そこでイツキが声をあげた。


「――待て。何だ、その鞄は? 明らかに収容量がおかしくないか?」


「こいつは『旅の鞄』っていう魔導具でね。中の空間は広くなってて、見た目よりもたくさん物が入るんだ。だから全部回収しても問題ないよ」


「そんなものがあったのか。……ちなみに値段はいくらぐらいするんだ?」


 興味津々といった感じで尋ねてくる。

 まあ、気持ちはわかる。これがあれば探索の際にかなり役立つからな。


「希少な素材を使うし、創るのも難しいからかなり高いぞ?」


「高いって……いくらぐらいだ?」


「イツキの借金が可愛く思えるぐらい……かな?」


「んなッ!? ……た、高すぎる。なんでそんな高い代物をエルトは持っているのだ?」


「俺の職業忘れてないか? これは自分で創ったんだよ」


「そうか、エルトの職業は魔導付与師(マギス)だったな。……ちなみに私の分を創ってくれたりは?」


「制作費に関してはサービスしてもいいけど……金は払えるのか? 希少な素材を使うから、素材費用だけでも結構高くつくぞ?」


「むぅ……何時でも何処でも大切なものは金だということか……っ!」


 うん、お金は大切だよ。俺らみたいに借金がある身だと特に。


「まあ、創る時はなるだけサービスするからさ。それより探索を続けよう」


「本当か!? 絶対だぞ! よし、早く借金を返せるよう頑張ろう!! ……っと、それとは別に一つ尋ねたいことがあるのだが構わないか?」


「……何だ、尋ねたいことって?」


 妙に戸惑いがちにイツキが質問してきた。

 この時点で嫌な予感はしていた。

 何しろイツキの視線が俺の片手に向かっていたからな。


「……どうしてハンマーなんだ?」


「……武器だ」


「いや、武器なら剣とか槍とか斧とかのほうが良くないだろうか……?」


「……これはこれで便利なんだよ」


「いや、でも……」


「訊くな」


「え、ええと……」


「訊・く・な」


「……はい」


 俺だって出来れば別の武器が良かったっつーの。

 でもな、ハンマー(これ)をメイン武器(ウェポン)に使わないと潰されるんだよ……俺の頭が。

 物理的にな!




 ――そんな感じで探索を続けて、ある程度狩れたところで本日の探索は終了。

 《森林迷宮》の探索者ギルド支部へと向かう。

 こちら側の"扉"を中心に築かれた集落。

 町とまでは言えないが、村程度の規模があり人も結構な数住んでいる。


「一応訊いておくけど……ここでは迷子にならないよな?」


「ば、馬鹿にするな! さっきまでは少し戸惑っていただけだ!」


 怪しいものである。

 何しろ先程までの探索中、三度は(はぐ)れている。

 後ろを歩いていたかと思えばいなくなり、前を歩いていたかと思えば突然走り出す。

 実はかなりの方向音痴ではないかと疑っている次第だ。


「んんっ、ところで不思議に思っていたのだが、どうして《迷宮》の中に集落があるんだ?」

 

 軽く咳払いしてイツキが周囲を見回しながら言った。

 明らかに話題逸らしのようだが乗っておくことにする。

 迷子(これ)に関しては丁度良い対策に心当たりがあったからだ。


「元々は迷宮内の"扉"を防護するために簡単な建物が建てられたのが始まりらしいよ。それからアーランディアに戻らずにこっちで野宿する人とかが出てきて、そういった人たち相手に商売する人たちが出てきたりして今の規模になったんだとさ」


 なんとも逞しい話である。

 集落内にはギルド支部もあり、そこで探索の成果を換金して必要な物を購入して再び探索に戻る。そんな探索者も結構な数いる。

 人が集まり、物が集まり、金品のやり取りが始まる。目敏(めざと)い商人は手を広げ、人は更に増える。結果としてちょっとしたコミュニティが出来上がるわけだ。

 これは《森林迷宮》に限った話ではなく、他の《迷宮》も同様だ。


「むっ? ギルドに行くのではないのか?」


「イツキのおかげで割と稼げたからな。今回は直接解体所に行こう」


 イツキに言ってそのままギルド隣の建物、解体所の扉を潜る。


「うん? お前さんたちは解体の依頼か?」


 解体所の中には数人の人間が解体作業を行っていた。

 その中のリーダーらしき角刈りの中年が俺たちに気づいて声をかけてくる。


「ええ、量が結構あるんで直接こちらに持ってきました。お願いできますか?」


「そいつはいいんだが……どこに解体物があるんだ?」


「ちょっと待っててください」


 角刈り中年に断りを入れて『旅の鞄』から収穫物を取り出した。


「ほう、『旅の鞄』か。……確かに量が多いな。これは全て買い取りでいいのか?」


「いえ、〈群浪狼(グレイウルフ)〉の爪と牙と毛皮を三匹分は再買い取りでお願いします」


「おう、三匹分だな。それじゃあ支部のほうで待っててくれ。終わったら受付が呼ぶからよ、名前を教えてくれないか?」


「エルト・フォーンです。それじゃあ解体のほう、よろしくお願いします」


 解体の依頼を終えて、そのまま支部へと移動する。


「……なあ、さっき頼んでいた再買い取りというのは何なんだ?」


 支部内の椅子に座って飲み物を頼むと、向かいに座ったイツキが訊いてきた。

 この辺のことはまだ知らなかったのか。


「んー、探索者が探索で得た品は一度全て探索者ギルドで買い取られるんだ。それを商業ギルドが買い取って更に民間が買い取るって仕組み(システム)になってる」


「何故そんなまどろっこしい真似をするんだ? 直接店に売ればいい気がするのだが……?」


「差額は国庫に納められてギルドの運営資金とかに使われてるんだ。……ちなみに探索物を無断で持ち帰ったり、直接店に売り込んだりした場合は重罪だから注意するように」


 この仕組みに不満を持つ者もいるみたいだが、《迷宮》は国の施設扱いだから使用料だと思っておけばいいだろう。


「……む、待て。買い取りの仕組みはわかったが、結局再買い取りとは何なんだ?」


「ああ、そっちも説明しなきゃな。探索者には自分が取ってきた探索物に関しては優先的に買い取り権があるんだ。だから欲しい物がある時に希望すれば買い取れるってわけだ」


「ふむ、なるほどな」


 そんなふうにダラダラ喋って待つことしばし――


「エルト・フォーンさーん! 買い取り査定終わりましたー!」


 カウンターのギルド職員から名前が呼ばれた。

 さっ、今日一日の労働報酬を受け取るとしよう。

群浪狼(グレイウルフ)

 一般の狼よりも一回り大きい漆黒の毛を持つ狼の魔獣。

 集団で行動し狩りを行う。

 肉は不味いが、爪・牙・毛皮は買い取り対象。

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