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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
魔導付与師と全身甲冑の話
7/68

7 薬を売ろう

 何故かイツキとサントスが腕相撲(アームレスリング)で勝負することとなり、ギルドの建物の真ん中にテーブルが置かれた。

 置かれたテーブルはやたらと頑丈そうで、ギルドマスター自らが倉庫の奥から引っ張り出してきた逸品だ。

 そしてまるでリングを作るかのように、他の探索者たちがテーブル周囲を囲んでいる。


「サントスに30フォル!」


「新人に50フォルだ!」


「イ、イツキさんに20フォルですぅ」


「サントス君に40フォルね」


 探索者共はこの勝負を見世物にする気満々で、すでに金を賭けている連中もいるくらいだ。

 ……だから仕事しろよお前ら。


「(よし、俺はイツキに100フォルで頼む)」


「(おっ、随分と強気だなエルト?)」


 当然だ。遊び半分の連中と違って、こちとら生活がかかってるからな。

 発言の棚上げ? 知らん、稼げる時に稼がないとな。

 

「(――いたたたたたっ!?)」


「(借金あるくせに賭け事とは良い度胸してるわね、あんた)」


「(いや、大丈夫大丈夫! 絶対勝てるから!)」


「(……絶対? どういうことよ?)」


 耳を引っ張って文句を言ってきたミリィだったが、俺の返答に怪訝そうな顔をした。

 まぁ、そうだよな。ああ見えてサントスはそこそこ強いし。

 しかし俺が奴に向ける視線は解体される家畜へ向けるソレである。


「さあ、始めようか? 俺様が新人の礼儀ってやつを教えてやるぜ」


「兄貴ー! やっちまえーっす!」


「が、頑張るんだな!」


(ここでこの鎧野郎を叩きのめして良いとこ見せりゃあ、俺様の人気は(うなぎ)登りよ! そうすりゃあ、念願の女探索者ともパーティを組める。……バークにカバディ、長く世話になったな。お前らのことは忘れないぜ……)


 ――なんてことを考えてるんだろうなぁ、サントスは。あのニヤケ面からして。

 


「ふむ、では手合わせ願おうか」


 対するイツキはほとんど気負っていないようだ。

 ギルド内のおかしなテンションにもプレッシャーを感じず自然体。

 微妙に残念な部分もあるが、結構肝が太いな。


「へっ。場も良い具合に温まって来たな……男同士が誇りをかけて腕力で競い合う。いいねぇ……最高だ。それじゃあ、両者構えな」


「おうよ!」


「むっ」


 審判(ジャッジ)を請け負った筋肉質の禿げ頭親父がかけた声に、サントスとイツキが片手を組み合わせる。

 何故だか頬を赤く染めて鼻息を荒くしているのだが……それでいいのか責任者(ギルドマスター)

 仕事しないでいいんですか? 受付の奥で睨み付けてくる職員の方々が怖いんだが。

 特に隣で無表情に魔束放筒(カノン)の手入れをするミリィが超怖いんだが。


「レディ……ファイ!」


 ――ドゴッ!!


 次の瞬間、凄まじい音がテーブルから響いた。

 具体的に言うと、人体を力任せに硬い木に叩きつけたような音だ。

 見物の探索者共も一瞬で静まり返り、視線を向ける先では――


「あんぎゃあああああっ!? お、俺様の腕がぁああああああっ!?」


「あ、兄貴ィイイイッ!?」


「だ、大丈夫なんだな!?」


 曲がってはいけない角度に曲がってしまった腕を抱えて、床でのたうちまわるサントスの姿が。


「むっ、すまないな。少し力を入れ過ぎてしまった」


 そう言って頭を下げるイツキだったが、サントスのほうはそれどころではない。


「あー! くそっ! 何やってんだよ、サントス!?」

「やった! 当たった! 感謝だぜ新人ちゃん!!」

「なかなかやるなあ、おい」

「ようし! 次は俺の番だ!!」

「むむっ?」

「よし、両者構えな。レディ……ファイ!」


 何故かそのまま探索者による腕相撲(アームレスリング)大会が始まってしまった。

 まあ余程の相手でなければイツキが負けることはないだろう。

 なにしろあの鎧には『筋力強化』の効果が付与されているからな。

 このことに気づいているのは、ギルド内では魔導付与師(マギス)である俺を含めても少数だろう。

 そういう目聡(めざと)い連中は当然ながらイツキに賭けていた。


 ……卑怯? 馬鹿を言ってはいけない。装備品だって立派な実力のうちである。

 そもそもそれを見抜けない奴が間抜けなのだ。


「――そんなわけで間抜け一号」


「だ、誰が間抜けだぁああああ……ッ!?」


 腕を抱え込んで座り込むサントスに近づいて話しかける。

 言い返してはくるものの、自分の声さえ傷に響くようで脂汗を流している。

 さて、ここからは商売の時間だ。


「なかなか痛そうだけど、実はここに痛みを感じなくなる不思議なお薬があったりするんだが……欲しいか?」


 鞄から自作の回復薬(ポーション)を取り出し、サントスの前でこれ見よがしに振って見せる。

 

「……みょ、妙な薬じゃあ、ないだろうな?」


「妙な薬とは人聞きが悪いな。自分の創った物に関して嘘はつかないよ。単に良く効くだけの回復薬(ポーション)さ」


「……い、いくらだ?」


 話が早い。さすがに無料(ただ)で提供するほど親切ではない。


「ざっとこれくらいになりますなー」


 軽く指先で値段を示してみせる。


「んなっ!? 高過ぎっす! 暴利っす! 横暴っす!」


「あ、足元見過ぎなんだな!」


 傍でサントスの介護をしていたバークとカバディが騒ぎ出した……失敬な。


「ちゃんと材料と手間を考慮した適正価格だっつーの。だいたいその怪我、普通の回復薬(ポーション)なら治るまで結構かかるぞ? その点、俺の回復薬(ポーション)なら一日で完治すること請け合いだ」


「……マジか?」


「ああ、もしも治らなかったら金は全額返してもいいよ」


「……わかった、買うぜ」


「あ、兄貴、いいんっすか?」


「……まぁ、確かに足元を見られてるが、こんなことで嘘をつくような奴じゃないしな」


 俺のことをよくわかってらっしゃる。


「まいどー♪」


 弟分たちと違って判断が早くて助かるわ。

 サントスから金を受け取って代わりに回復薬(ポーション)を渡す。


「……おい貧乏魔導付与師(マギス)、俺の気のせいか? やたらと毒々しい紫色をしているように見えるんだが」


「毒と薬は紙一重って言うよな」


「……鼻が曲がりそうな異臭がするんだが?」


「良薬、鼻に臭しってとこじゃないかな。ちなみに飲み薬だからな?」


「「「……」」」


 そんな目で見られても知らん。

 効果に関しては嘘は言っていないのだ。見た目や臭いは二の次である。


「ええいっ、男は度胸と勢いだ!」


「「あ、兄貴っ!?」」


 宣言通り勢いよく薬を喉に流し込むサントス。

 いいね、その思い切りの良さは嫌いじゃない。そして――


「……ぐはあっ!?」


「ああ!? 兄貴が泡を吹いて白目で気絶したっす!?」


「ど、毒を盛られたんだな!?」


「盛ってねーよ。ほら、腕を見てみろ」


 大変失礼なことを言い出したバークとカバディに指さしてやる。


「うおっ!? あ、兄貴の腕が元通りになってるっす!」


「す、凄いんだな……!」


 騒ぐ二人の目の前で目に見える形でサントスの腕が完治していく。

 そうだろう、そうだろう。

 ……こんなに凄い効果なのに何故うちの店には客が来ないのだろうか?


「ただし気絶するほど不味い上に、副作用として一日寝込んで変な夢を見るのが難点と言えば難点か」


「……ああ、光が……光が見える。……暖かい。……か、川の向こうに……死んだ婆ちゃんが……。い、今行くよ……」


「あ、兄貴ーッ!? 駄目っす! その川は渡っちゃ駄目っすよー!!」


「か、帰ってくるんだなー!!」


 二ヘラっと幸せそうに眠るサントスに、必死に呼びかけるバークとカバディ。

 うん、なかなか出来た弟分たちだな。

 

 ふと気がつくと、先程までのギルド内の喧騒がピタリと止んでいた。

 振り返ると表現しにくい表情でこちらを――正確にはサントスが落とした薬瓶を見つめる探索者たち。

 ……ふむ。


「――買うか?」


「「「買うかぁあああああッ!?」」」


 満場一致で拒否されてしまった。解せぬ。

ギルドマスター

 筋肉質の逞しい巨躯に焼けた肌。剃髪の壮年男性。

 元探索者であり、男同士の熱いやり取りが大好き。

 細かい仕事は苦手だが、各方面への人脈は太く交渉事で力を発揮する。


特性回復薬(ポーション)

 魔導付与師(マギス)エルトの自信作。

 一般に流通する回復薬(ポーション)とは比較にならない効力を発揮する。

 副作用として一日気絶し、その間奇妙な夢を見続ける。

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