63 肉を取り戻そう4
イツキのカタナと"不動の巨凱"さんの星球武器が火花を散らす音を背後に先へと進む。
幸い障害となるものもなく無事に目的の場所へと辿り着くことが出来た。
目の前には山と積まれた〈十年土竜〉の檻があるのだが……。
「さすがにこれを全部持っていくのは無理だよね?」
「だな、……残念だけど、もうほんと~うに残念だけど。欲張らないで、持っていくのは二つくらいにしておこう」
「……心の底から悔しそうだねー」
フィリスには苦笑されたが仕方がない。
今回は本心から悔しがっているのだから。
あの変なオッサンさえ現れなければ……!
クソッ、いったい何故こんなことになったんだか。
本音を言えば自分が狩った分は全て持っていきたいところだが、後の事を考えるとやはり二つが限度だろう。
〈十年土竜〉は死亡すると味が急速に落ちるので生け捕りが基本。
この特性のせいで、生きてるものは入れられない『旅の鞄』も使用できないし。
「……と、そうだ。アンナ、念のためにコレを渡しておくな」
『んー? これなーに、おにいちゃん?』
「今回の"謝肉祭"用に創っておいた魔導具なんだけど、アンナのおかげで使わなかったからな。もしもの時はコレを使って足止めしてくれ」
『りょうかい! アンナにおまかせだよ!』
取り出した魔導具をアンナに預け、〈十年土竜〉の檻を確保。
そのままソロソロとその場を離れ――――
「――むッ、曲者!」
離れた鋭い気合の声と共に目の前をナニカが通過した。
怖気を感じるほどに鋭いソレは、足元の地面をも切り裂き波打つ緑の園を容赦なく刈り取る。
……パラパラと切れた前髪が宙に舞った。
「………生きてる?」
あぶねぇええええええっっっ!?
すぐ傍から恐る恐る声をかけてきたフィリスにコクコクと頷きを返し、斬撃の出所と思わしき方向へと目を向ける。
そこにはちょうど振り切ったばかりらしい長剣を構える"漆黒の魔剣士"。
……おかしい、どう考えてもおかしい!
なんでこの間合いで剣の一撃が届くんだよ!?
物理法則、仕事しろ!!
「…………」
蝶の仮面の奥から鋭くこちらを睨む鷹の眼光。
……やべっ、目が合った。
「戦略的撤退!!」
「舐められたものだ……この私が盗人をみすみす逃すと思うのかね!」
「「「お前が言うなぁあああああっ!!」」」
〈十年土竜〉の檻を抱えて、アーランディアへと通じる"扉"を目指して全力逃亡を開始。
自身の所業を天高く放り投げた仮面紳士の発言に、周囲の探索者たちから総ツッコミが入った。
「生憎とここを通すわけにはいかんのである。どうしても通りたくば、この我輩を倒してからにしてもらおう!」
「ニシシ、逃がさねぇぞ。もう少し付き合えやオッサン!」
「あのヘタレに協力するのは業腹だが、これが一番効果的っぽいからな」
俺の目論見を悟ったらしいオルガも含めた探索者たちが"漆黒の魔剣士"の道を塞ぐ。
援護というわけではないのだろうが、このオッサンに一泡吹かせてやりたいという方向で利害が一致したようだ。
また、他の探索者の中には俺と同じくソロソロと〈十年土竜〉の檻へと近づく者もいる。
ヘタレ呼ばわりは非常に不本意であるが、これなら逃げ切るまでの時間稼ぎも――
「王技――【ライトニング・ジェネシス】ッ!!」
出来るはず、という俺の考えは蜂蜜をぶちまけたパンケーキよりも甘かったらしい。
後方で大気を打ち付けるような雷鳴が轟き、激しい稲光が輝いた。
「む、無念である……!」
振り返ると頼もしい肉壁であった探索者たちが、まとめて黒焦げになって地面に倒れ伏していた。
……どうやら足止めにもならなかったらしい。
ピクピクと震えながら呻き声をあげているあたり、もちろん死んではいないのだろう。
というか明らかに手加減されている。
しかし、身体が痺れて十数秒程度は身動き取れないだろう。
そしてこの相手に十数秒というのはあまりにも致命的だ。
「フハハハハッ! さあ、狩りの時間の始まりだ!」
「だぁああああああっっっ!?」
高らかに哄笑をあげながらこちらに向かって疾走する仮面紳士。
背後に迫る足音から必死に逃げる俺。
意味がわからない!
"謝肉祭"は美味しいお肉を狩るイベントだろ!
なんで俺が狩られる立場になってるんだよ!?
天に向かって物申したいところであるが、嘆いたところで現状が変わるわけでもない。
「エルト、ここはボクに任せて先に行って!」
「すまん、任せた!」
予定通りフィリスを残して先へと進む。
別に見捨てたわけじゃないぞ、これは彼女への信頼の証というものだ。
……しかし、このシチュエーション。
何故か無性に不吉な気配がするのはどうしてだろうか?
「【阻めよ灼熱の壁 その紅き障壁でもって 迫る脅威を退けよ】ッ!」
そんな不安にかられる俺をよそに、仮面紳士の足止め役に残ったフィリスが詠唱を完了。
魔術に構築された炎の壁が"漆黒の魔剣士"の行くてを阻む。
熱気が感じられるほどに燃え盛る炎だが、足元の草花に燃え移ることはなく、フィリスの卓越した技量の冴えをうかがわせた。
しかし――
「――見事な魔術の技だ。このまま成長すれば一角の術者になるだろうな……だが、まだ甘い!」
「うそっ!?」
漆黒の長剣でもって触れる全てを焼き尽くすような豪炎の壁を強引に突破。
驚き戸惑うフィリスの脇を駆け抜け、さらに迫ってくる。
だあああああっ! マジかおいッ!?
「こ、のっ! なんで当たんないのよ!? インチキスペックも大概にしなさいよ!!」
苛立たし気に怒鳴りながら『魔束放筒』を連射するミリィ。
探索者たちの邪魔にならないよう離れていたのが功を奏し、先の仮面紳士の無差別攻撃には巻き込まれなかったようだ。
放たれる魔弾の弾幕は、並みの魔獣なら群れごと殲滅できるほどに苛烈なものだが、標的である仮面紳士は変態的身体能力を見せつけながら軽やかに回避する。
「フハハハハッ! 無駄無駄ァ! 身長を伸ばしてから出直してきたまえ幼女よッ!!」
「幼女言うなぁあああああッ!!」
ミリィの攻撃が激しさを増し、同時に変態の高らかな笑い声も増した。
……というか若干泣きが入ったようなような気がするな。
やっぱり気にしてるんだろうか?
んー、なんか腹が立ってきたな。
〈十年土竜〉の件は別にしても、あのオッサンには一発キツイのを喰らわせてやりたい。
『あ! アンナのでばんだね!』
なので宙にフワフワと浮いて配置についていたアンナに合図を送る。
体を張って立ち塞がってくれたオルガたちに悪いと思うけど、こちらのほうが足止めの本命なのだ。
位置取りもいいし、これならばあのオッサンとて足を止めずにはいられないはず……!
『いっくよー。えーい、とうかー!』
気合を入れてはいるんだろうけど、逆に力が抜けるアンナの可愛らしい掛け声。
同時に彼女が投擲した魔導具がその効力を発揮した。




