62 肉を取り戻そう3
「ルアァァァアアアアアアッッッ!!」
魔獣と見紛うが如き猛り声をあげながらオルガは駆ける
地を踏み締め、風を裂き、目の前の標的を粉砕せんと、愛用の獲物であるハルバートを振り下ろす。
それは間違っても〈人種〉を相手どっているとは思えない攻撃であり――――この敵に対しては余りにも不足であった。
「――ほう、迷いなき素晴らしい一撃だ。この"漆黒の魔剣士"、敬意を持って相手をしよう!」
響く轟音と動きを止めた両者。
オルガのタイミングといい威力といい、必殺と言って過言でない一閃を片手で握った長剣で受け止めた仮面紳士が事も無げに言う。
あまりにも平然とした物言いに誤解するかもしれないが、よく見ると仮面紳士の足元の地面は砕け散り陥没していた。
オルガの一撃がどれだけの威力を持っていたか、よくわかるというものだ。
……というか、それを片手で受け止めるあのオッサンは本当に人間なのだろうか?
アレを人間と認めてしまうと、人間の定義が崩れるような気が……いや、どこぞの〈岩鉱人〉や〈闇森人〉も似たようなものか?
能力のずば抜けた人材は、人格面で問題を抱えなければならない掟でもあるのだろうか。
「あー、やだやだ。ああいう奇人変人の人外の相手はめんどくさすぎるだろ」
「「…………」」
「そこの二人、なんで「お前が言うな」みたいな視線を向けるのかな?」
「意図が正確に伝わってるみたいでなによりだね♪」
「オイこら」
ニッコリと笑って返すフィリスに思わず苦い声が零れた。
「誰が奇人変人か。何処にでもいる真っ当な魔導付与師だろ、俺は」
「その台詞、一度自分の胸に手を置いて、今まで創ってきた魔導具を思い返してみてから口にするといいぞ」
「…………」
若干温度の下がった視線と共に告げられるイツキの言葉。
言われた通りに胸に手を置いて思い返してみる。
「……うん、何の問題もないな。素晴らしい魔導具ばっかりだ」
「何でそうなった!?」
「問題あるでしょ、色々と!?」
――怒られてしまった、何故だ。
ミリィもそうだけど、女性陣にはいつも不評だ。
オルガやこの間のフォード男爵とかには好評だったというのに……!
「まあ、その件に関しては置いといて目の前のことに集中しよう」
「……納得がいかない、何かが激しく納得いかない!」
「なんでこういう時はマトモなことを言うかなー」
置いといて。
「あの厄介極まりないオッサンをオルガたちが食い止めてくれてる間に〈十年土竜〉の檻を取り返そう、気づかれないように慎重にな」
「ん、承知した」
「少し遠回りだけど回り込んで行ったほうがいいよね」
火花飛び散る金属音に目を向ければ、あの規格外相手にオルガが奮戦していた。
「ゴアァァァアアアアアアッッッ!!」
実力差は明らかなのだが、それでもオルガ表情を占めるのは歓喜一色だ。
その猛りに触発されたのか、先程まで仮面紳士に圧倒されていた周囲の探索者たちも勢いを取り戻す。
「囲め! 死角から攻めたてろ!!」
「援護だ! あの〈竜人〉を援護しろ!!」
「食い物を恨みを思い知るんじゃあああああっ!!」
そんな敵意を物ともしないで高らかに笑う変態。
「フハハハハハッ! 良い、良いぞ! 君たちの全力を見せてくれたまえ!!」
……付き合ってらんねー。
脳筋たちの戦闘に注意を向けつつも、相手に気づかれないよう注意しながら〈十年土竜〉の檻が置かれた場所を目指す。
あれさえ取り戻せばもう用はないのだ。
あんな規格外いちいち相手にしてられるか、馬鹿馬鹿しい。
――――そんなふうに考えている最中にソレが降ってきた。
「――ッ! 下がれ!」
最初に気がついたのは周囲を警戒しながら先頭を歩いていたイツキ。
ハッと空を見上げ警告を発する。
その声に従って後方に飛び退くと、先程まで俺たちのいた場所にナニカが空から降ってきた。
ズンッと足元から感じる揺れ、同時に視界を塞ぐ土煙。
それらが降ってきたナニカの重さと質量を伝えてくる。
それぞれが何が起きても対処できるように構えるなか、うっすらと漂っていた土煙が晴れていき――
「――鎧?」
視界に映ったのは全身鎧だった。
なんというかこう全体的にずんぐりむっくりとした丸っこいシルエット。
太い手に持っているのはトゲトゲとした鋭い針がいかした星球武器。
『……なんで私が…………どうして……恰好…………だいたい………へい……』
そんなインパクト抜群の何者かは、こちらに視線を向けながらもブツブツとなにかを呟いている。
顔を冑で覆われ窺えず、かなりくぐもった声で聞き取りづらいが、これは……不満と怨嗟だろうか?
率直に言ってかなり不気味だ。
「――シッ!」
『ハッ!』
それを隙と見たのか、愛刀を抜き放ち斬りかかるイツキ。
しかし敵もさるもの、星球武器でもってその一撃を受け止める。
『ざ、残念でしたね! ここから先に進みたくば、この、ふ、"不動の巨凱"を倒してからにしてもらいましょうか!』
――やっぱりあのオッサンの仲間か。
登場した時に"我ら"とか言ってたからな。
オルガ相手にオルガとイツキの二人がかりでいかないで正解だったようだ。
もしもの時のために、ずっと木の上で待機していたのだろう。
しかし、この自称"不動の巨凱"さん。
オッサンほど振り切れてはいないようである。
なんというか、言動にいくらか照れが混じっているように感じる。
「ま、いっか。それじゃあイツキ、あとよろしく」
「ごめん、任せるね」
『がんばってねー、まけたらおしおきだよー』
『あ、ちょっ!? ま、待ちなさい!!』
"漆黒の魔剣士"ほど人間やめてる相手ではないと判断して、フィリスと共に脇を抜ける。
宙にフワフワと浮かぶアンナは言うまでもない。
慌てた声で"不動の巨凱"さんが制止の声をあげるが、待てと言われて待つ奴などいない。
それに――
「おっと、すまないが貴方の相手は私だ」
追いすがろうとする全身鎧も遮るようにイツキが構える。
ここは彼女に任せて先を急ぐべきだろう。
「先の攻撃を受け止めた動きから、かなりの使い手と見受ける。是非とも私の相手をしてもらいたいのだが――」
『……なんですか?』
イツキが不思議そうに首を傾げた。
「いや、すまないが何処かで私と会ったことはないだろうか? どことなく動きに覚えがあるような気がするのだが……」
『――――ッ!? き、気のせいです!!』
全身鎧の奥から引き攣った否定の声がはしった。
「貴方と私は完全無欠で初対面です! だいたいこんな恥ずかしい格好と名乗りをするような人物がそうそういるわけがないでしょう!? だから間違いなく貴方の記憶違いに相違ありません!!」
「そ、そうなのか……?」
『ハイ! 絶対にそうなんです!!』
――そんなやけに必死なやりとりが背後から聞こえた。




