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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
仮面の紳士と謝肉祭の話
62/68

61 肉を取り戻そう2

「王技――【ライトニング・ブレイク】ッ!!」


「うぐわぁぁぁああああッ!?」


 真正面から突っ込んだ探索者が吹っ飛ばされた。


「王技――【ライトニング・ブレイバー】ッ!!」


「ぎゃぁあああああああッ!?」


 背後から仕掛けた探索者が蹴散らされた。


「ちくしょう、この化け物が! 囲め、遠距離から仕留めるんだ!!」


「【炎獣よ 荒れ狂いて 焼き払え】ッ!」


「【アイシクル レイン】ッ!」


「【光よ】ッ!」


 近距離戦では不利と判断した探索者の指示に従って様々な魔術がたった一人の変態に殺到する。

 それぞれ己に合った詠唱でもって構築された魔術は、速度を重視した結果として威力は低いものの、それでも小型魔獣であれば十二分に仕留められる威力を誇る。

 それが四方八方から撃ち込まれるとあっては、個人に対するには過剰攻撃も良いところである。

 しかし標的となった仮面の紳士――自称"漆黒の魔剣士"とやらは容易くその上をいった。


「王技――【ライトニング・アイアス】ッ!!」


 胸元に構えた黒の長剣を中心に展開された魔術の楯が、放たれた無数の魔術を相殺する。

 剣技に優れ、魔術を自在に使いこなし、集団を相手取ってものともしない。

 そのうえ恐ろしいことに、打ちのめされた探索者は()()()()()()再起不能(リタイア)していない。

 この状況下にあってまだ手加減する余裕がある――ここに至ってはこの場の誰もが理解せざるを得ない。

 この変態、ただの変態ではない。


 ――――規格外の変態である。


「フハハハハッ! どうしたどうした! 君たちの実力はその程度かね!?」


「クソッ、怯むな! 数でもって攻めたてろ!」

「オッシャ、死ねや変態!」

「あたしの〈十年土竜グレイモール〉返してよ!」

「絶対に許さんわ! 後悔させてやるぞい!」


 しかし相対するは日頃から《迷宮》潜りを日常とする探索者たち。

 潜り抜けてきた修羅場の数は指の数では足りないのだ。

 どれだけ圧倒的実力差を見せつけられたとしても怯むことはない。

 むしろ負けん気を増して更に戦意を高めていく。


 そんな光景を――俺たちは少し離れた場所で見ていた。


「……むぅ、あの男、尋常でない使い手だな。悔しいが明らかに私よりも数段上の技量の持ち主だ」


「それを言ったらボクもだよ。なんであんな短い詠唱であれだけの威力の魔術が使えるんだか……自信無くすなー」


『ひとってあんなふうにとぶんだねー。……あ、またふきとばさらた』


「……クッ。クハッ、クハハハハハッ! これは辛抱溜まらんのであるな、我輩もいざ参らん!!」


「「「ちょっと待て」」」


「ぬおっ!? なにゆえに止めるのであるか!?」


 ヒャッハー、とばかりにハルバートを振りかぶって自分も混ざろうとしたオルガを三人がかりで引き止める。

 ……って力強すぎ! 数歩分だけど引きずられてしまったじゃないか。


「いくらオルガでもアレに真正面からぶつかるのは無謀だよ。やるならきちんと策を立ててからにしようよ」


「ああ、勇気と蛮勇は別物だ。ただ突き進むだけでは他の探索者の二の舞だろう」


「……むぅ」


 過去の経験からの反省か、オルガを宥めるイツキとフィリス。

 その説得に血が昂って仕方がないといった様子の〈竜人(ドラゴニュート)〉は不承不承頷いた。

 まあ、信仰対象である"龍"へと近づく修行のために《迷宮》に赴く彼である。

 強敵はむしろ大歓迎といったところか。


「――それじゃあオルガも落ち着いたようだし作戦を練ろうか」


 と、おもむろに切り出す。

 幸いにしてやられてもやられても、回復薬(ポーション)を使って再度挑む探索者たち。

 まだまだ元気な彼らのおかげで作戦を立てる時間くらいはある。

 お礼として後で良く効く回復薬(ポーション)を売ってやろう。


 ……無料(ただ)で? いや俺は慈善事業者じゃないし。


「では作戦その一。――オルガに全力で突っ込んでもらう」


「おお! 望むところである!」


「「ちょっと待った」」 


 おかしい、俺の素晴らしい作戦にオルガは胸を叩いて応じてくれたというのに、女性陣から制止がかかってしまった……何故だ?


「人の話を聞いてたのかな? 真正面から仕掛けるのは無謀だって話をしてたよね?」 


「そうだぞエルト。いくらオルガといえど一人で挑んで敵う相手ではない。……せめて私が同行するべきだろう!」


 うん、フィリスはともかく、イツキは自分が戦ってみたいだけだよね?

 一応自重してはいるけど、内心では勝負をしたがってるのがバレバレだから。

 なんだかんだで立派な戦闘思考なんだよなぁ、この娘さんは。

 黙っていれば深窓の令嬢と言っても通用しそうな容姿をしているんだが。

 とはいえ《迷宮》での仲間であることを考えれば頼もしいと言うべきか。


「いやさ、そもそもの問題として、俺たちの目的はあのおっさんを倒すことじゃないわけで」


「……あ」


「なるほど、そういうことか」


 そう言って縦横無尽に暴れている仮面の紳士の背後へと目を向けると、反対していた二人も合点がいったとばかりに手を打った。

 言うまでないことだが、そこには自称"漆黒の魔剣士"さんが探索者たちから盗み取った小型檻が山と積まれている。

 あのおっさんに登場のインパクトと、その後の挑発でこういった状況になってはいるものの、そもそも今回の目的は〈十年土竜グレイモール〉を狩ることだ。

 好き好んであんな規格外を相手取ることはない……あ、また一振りで五人ふっ飛ばされた。

 あれは本当に人間なんだろうか?

 実は人間型の〈特殊個体(ユニーク)〉とか言われても驚かないぞ。


「けど、あれを狙ったら確実に妨害が入ることは請け合いだ」


 現に俺たちと同じ判断を下した探索者もいるようだが、電光石火の一撃でもって蹴散らされている。

 こころなしか、その威力は他の者たちよりも強めだ。


「なのでオルガには足止めをお願いしたいんだけど……」


「フハッ! 願ってもない事である! 死力を持って挑ませてもらおう!」


 そこまでしてもらわなわなくてもいんだけど……言うだけ無駄か。

 手綱を離したら今にも突貫しそうな勢いだ。


「ちょっと待った! それなら私も「イツキは駄目」――なぜだ!?」


 己も是非にと手をあげるイツキの意見を却下すると、信じられないものを見るような視線を向けられた。

 そんなに戦いたいのか、君は。


「戦力としてはオルガだけじゃなくて他の探索者たちもいるからな。足止め役は一人で十分、イツキには他の仕事をやってもらうよ」


「むぅぅぅぅ……し、仕方がないな、承知した」


 相当の葛藤があったようだけど、最終的にイツキは頷いてくれた。

 ガックリと肩を落とす様子に少しだけ申し訳ない気持ちになるが、これは我慢してもらうしかない。

 想定通りならイツキの出番もあるだろうし、そちらで頑張ってもらいたい。


「じゃあ、あとは……」


 その後、作戦について幾つか細かい点を調整した。

 といっても大雑把に筋道を立てて、あとはそれぞれ臨機応変にといった感じだ。

 いい加減だと思われるかもしれないが、あれほどの相手だと想定外の状況が平気で起こるので、むしろ繊細な作戦を立てる方が危険なのだ。

 ある程度の方針を決めれば、あとはそれぞれの判断に任せたほうが上手くいく公算が高い。


「――――では、我輩から先陣を切らせてもらうぞ! グルァアアアアアッ!!」


 最後に作戦を確認したオルガが、もはや待ちきれぬとばかりに地面を踏み砕いて飛び出した。

 その咆哮を耳にした探索者の幾人かが顔を引き攣らせて道を空ける。

 うん、気持ちはわかるけど、彼は味方だから。


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