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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
女魔術師と竜人の話
45/68

44 敵を討とう2

 話は少しだけ巻き戻る。

 ミリィを通じてフィリスたちの過去を知った俺は頭を抱えてしまった。

 知らない人であれば気にしなかった。顔見知り程度の探索者であれば気の毒だとは思っただろう。

 しかし一度だけとはいえ、パーティを組んで人となりを知ってしまえばそうもいかない。

 単に《迷宮》に潜るだけであれば口出ししない。だけど明らかに死地と思える場所へ向かうとなる――流石に放ってはおけなかった。

 ……まぁ知らないままであれば後になって訃報を聞いて、嫌な気持ちになっただろうからどっちもどっちだけど。


 どの《迷宮》に入るにしても一般の探索者はギルドを通過する必要がある。

 よってミリィに二人が《熱砂迷宮》に向かったならば知らせてほしいと頼んでおいた。

 結果は言うまでもない。知らせを受けた前日に〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉の目撃情報があり、ギルドが探索者たちに通達していたからこれはもう確定だろう。

 予め準備しておいた『旅の鞄』を担いで、店に『閉店中』の看板を下げ足早に《熱砂迷宮》へと向かう。

 ちなみに先に事情を話しておいたイツキはやる気満々だ。


「義を見てせざるは勇無きなり! 共に《迷宮》に挑んだ者として、私はフィリスたちへの助力を惜しまないぞ!」


 ……どうもシチュエーション的に燃えるものがあるらしい。

 まぁ士気が高いのは良いことだ。

 幸い二人が《熱砂迷宮》に潜ってからそれ程時間が経たないうちに後を追い、目的地も大体わかっていたので追いつくのは難しいことではなかった。

 具体的に言えば集落から出た付近の砂漠地帯で合流できたのだが……大変だったのはむしろその後だ。


「わざわざ来てくれたのは嬉しいんだけどさ……出来れば帰ってくれないかな? 今日はオルガと二人で探索する予定なんだ」


「なぜだ? 二人は敵討ちのために〈特殊個体(ユニーク)〉の元に向かうのだろう? それならば少しでも戦力は必要ではないか?」


 おい、バカやめろ。

 首を傾げて疑問を呈するイツキを制止しようとしたが時すでに遅し。

 最初はイツキが二人の過去を知っていることに戸惑っていたフィリスだったが、眉を顰めてこちらを睨んできた。

 どうやら俺が調べたことに気づいたようだ。実際はミリィに頼んだのだが大して変わらないし、イツキはそういうタイプじゃないしな。

 彼女なら訊きたいことは素直に質問するだろう。


「確かにイツキの言う通りボクたちの目的は敵討ちだよ。……一年前に亡くなった仲間のね。けどだからこそ部外者には踏み込んでほしくないんだ」


 フィリスは溜め息をつくとキッパリと言い切った。

 敵意があるわけではないが、その言葉にははっきりとした拒絶の意思が宿っている。

 部外者という言葉にムッとしたイツキを手で制し考える。

 ここで逆に説得されてしまえば、何のためにここまで来たのか分からなくなってしまう。


「二人の敵を討ちたいって気持ちは理解できるさ。……けどいくらなんでも専門の探索者から逃げ切った〈特殊個体(ユニーク)〉相手に二人だけでっていうのは無謀だろ。他の探索者にも声をかけて作戦を立てて挑むべきだ」


「それはボクも一度は考えたんだ。でもね……これはボクたちの個人的な私怨だ。そんな身勝手な戦いに他の人を巻き込むわけにはいかないよ」


 頑固。

 それなら相方の方はどうだろうか。


「オルガの方もフィリスと同じ意見なのか?」


「……うむ。お主らの意見は正しいと思うのであるが、出来れば手出し無用に願いたいのである」


「――相手が相手だぞ? 勝ち目は薄いし下手したら無駄死ににしかならないんじゃないか?」


「もっともであるな。だが吾輩たちもこの日のために一年間準備していたのである。勝算も十分にある故見逃してはもらえぬか?」


 こっちも頑固。

 ため息を零して攻め方を変えてみることにした。


「なるほどなるほど……二人に聞く耳持つ気がないのはよーく分かったよ。けどさ、それでこっちが……というかイツキが納得すると思ってる?」


「……待てエルト。どうしてそこで私を引き合いに出す?」


「「……うーん」」


「そっちもどうしてそれで悩むんだ!?」


 納得できないとばかりに抗議するイツキ。

 直情的で頑固で善良という分かりやすい人格をしているからだと思うぞ。

 さて張りつめていた空気にワンクッション置いたところで本題だ。


「どうしてもって行くって言うのなら力づくで止めることになるぞ。……流石に俺たちと一戦やりあった後に〈特殊個体(ユニーク)〉に挑むのは自殺行為じゃないか?」


「……なら、どうしたら引いてくれるのかな? 確かにキミたちと戦った後に〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉に挑むのは無謀だとボクも思うけど、日を改めれば済む話なんだよ?」


 と言いつつフィリスが強くロッドを握りしめたのは見逃さない。

 隙あらば俺たちを無力化するつもりなのだろう。

 なのでこの辺りで譲歩案を出すことにする。


「――そうだな。俺たちと一緒に行くのならこの場は引いてもいいぞ」


「ボクたちの話を聞いてたのかな? 部外者の手は借りたくないって言ったつもりだけど……」


「わかってる。だから最初のうちは手を出さないって約束するさ。その代わり、二人だけじゃどうにもならなくなったら参戦するってことでどうかな?」


「……」


 俺の提案に考え込む様子を見せるフィリス。

 色々と思うところがあるのだろう。

 だが、そんな彼女を横目で見ていたオルガが先に答えを出した。


「うむ、その条件でいいのである」


「オルガ?」


「フィリス、お主の気持ちも分かるがこの場で押し問答していても仕方がないのである。時間をかけすぎて〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉が《迷宮》奥へと戻れば本末転倒ではないか?」


「それは……」


「それに初めのうちは手を出さないと約束してくれるのであれば、吾輩たちだけで倒してしまえば済む話である」


 そうであろう? と同意を求めるオルガにフィリスは押し黙った。

 そして軽くため息をつくと了承するように頷く。

 感情的には納得しがたいのだろうが、それが最善だと判断したようだ。


「わかったよ……けど、絶対手出ししないでね? イツキは特に」


「だからどうして私ばかりに言うのだ!?」


 強く念を押すフィリスにイツキが吼えた。




 ――そんなやり取りを経て〈特殊個体(ユニーク)〉の目撃情報があった場所に向かうことになった。

 『耐熱』効果を防具に付与したこともあって、そこまでの道中は前回ほど苦労せずに済んだ。

 標的である〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉とも首尾よく遭遇出来た。

 しかし大変だったのはそれからだ。


 具体的に言うと今にも飛び出しそうなイツキを抑えるのが実に大変だった。

 予め言い含めておいたし彼女自身も承知してはいたのだろうが、それでも仲間の危機を離れて見守るだけというのは人情に篤いイツキには無理があったらしい。

 特に〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉が『炎の吐息(フレアブレス)』を放った瞬間には、引き留める俺を引き摺らんばかりに血相を変えていた。

 その心配っぷりはオルガとフィリスの無事な姿を見た途端、安堵のあまり崩れ落ちそうになったほどだ。


 ……一応断っておくが、俺が大人しく見守っていたのは彼女たちの実力を正しく把握し、魔導付与師(マギス)としての知見に基づき問題ないと判断したからである。

 決して俺が人でなしであったりするわけではないので勘違いしないように!


 ――閑話休題。


 とにかくそんな感じで二人の戦いを見守っていた俺たちだったが、どうやらこの辺りが限界らしい。

 二人は良く戦った。たぶん一年前の〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉であれば倒せていたのではないだろうか。

 しかし一年の間に二人が力を蓄えたように、この魔獣もまた成長したのだ。

 その脅威はフィリスが決め手として用意した上位火系魔術にすら耐えるほど。

 オルガは意識を失い、フィリスは戦意は衰えずとも魔力を使い切り身動きがとれない。


 ここに至って我慢の限界に達したイツキが飛び出した。

 俺もここまでだと判断したので止めるつもりはない。

 ただしフィリスのことはイツキに任せ、そーっと〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉の背後へと回る。

 先の一戦でかなり負傷しているようだが、動きをとれない二人を守りながら仕留めるのは正直無理だ。

 ゆえに必要なのは足止めである。

 というわけで……そーれっ!


 《雪原迷宮》で手に入れた素材で創った魔導具――『蜘蛛氷網封(フリゲイダー)』を〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉の真上に投擲。

 大きく投網のように広がった糸が魔獣の巨体を包み込むように締め上げる。

 〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉は全身に絡みつく糸を振りほどこうと暴れまわるが、暴れれば暴れるほどに糸は強く絡みつく。

 その巨体の動きを封じると糸はパキパキと凍りつき、完全に魔獣を封じることに成功した。


「これでよしっ……と。急がないとな」


 〈紅鱗貪鰐(フルムダイン)〉が動きを止めたことを確認し、跳ね飛ばされたオルガの元へと走り寄る。

 『狂竜化』による消耗に加え、打撲に火傷を負って意識を失っているようだが、幸いにして命に別状はないようだ。

 流石は〈竜人(ドラゴニュート)〉、人種とは生命力が段違いだ。

 これなら()()()()()強力な回復薬(ポーション)を使えば復帰できるだろう。


「ブルアァァアアアアアアアアアッッ!? な、何事であるか!?」


「落ち着けよオルガ。回復薬(ポーション)をぶっかけただけだからさ」


「ポ、回復薬(ポーション)!? こ、これがであるか!?」


 回復薬(ポーション)を頭からぶっかけてやると、オルガは奇声をあげながら瞬時に意識を覚醒させた。

 まぁ、普通の回復薬(ポーション)ではなく、以前サントスに売り付けた効果が高い代わりに超しみる回復薬(ポーション)なんだけど。

 うん、これなら気付け薬の代わりにもなるかな。


「よし、それじゃあ一先ずこの場を離れよう。俺はオルガに肩を貸すから、フィリスのことは任せるぞ」


「むっ、せっかく魔獣の動きを封じたのだから、このまま止めを刺した方がいいのではないか?」


「あー、それな……うん、無理」


「……無理?」


 フィリスの提案に頬をかきながら首を振って答えた。

 いや、まぁ彼女の言ってることは妥当なんだけどね。


「この魔導具って、内側からはそうそう破れないんだけど外からの衝撃には凄く弱くてさ。子供が蹴飛ばしただけでも効果が切れるんだ。……あと時間制限つきで、しばらくしたら自然に氷が溶けちゃうんだよね」


「つ、使えない……! それは拘束する意味がなくないか……?」


「いや凄く使えるし! 意味はちゃんとあるし! ほら見ろ、さっきまで暴れてた魔獣が身動き一つとれないんだぞ!」


「それはそうなんだが……」


 俺の反論にイツキは「うーん」と首を傾げた。

 徹底して拘束封印効果を高めた結果、外部干渉と効果時間に難が出ちゃったんだよなぁ。

 その分威力はかなりのものなんだが、現状今回みたいに一時的な足止めくらいにしか使いないかね。


「ま、まあとにかく急ごう! 効果が切れて自由になるまでにこっちも準備を整えないとな」


 そう言ってオルガに肩を貸しながらその場を後にした。

蜘蛛氷網封(フリゲイダー)

 投擲すると蜘蛛の巣のように広がり標的を拘束する。

 意図は非常に強靭かつ柔軟で、力づくで外そうとしても伸びるだけ。

 相手を包み込むと凍りつき氷の繭で封印する。生半可な力では破れないほどに強固。

 ……ただし外部からの衝撃に非常に弱い。また効果時間も短く、すぐに溶けてしまう。

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