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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
女魔術師と竜人の話
41/68

40 騎士を仕留めよう

 蒼き水晶の騎士〈氷霊騎士(セルディン)〉は強い。

 攻撃は重く、動きは早く、技は鋭く、体力は無尽蔵で魔術にも対応してくる。

 総合的に見れば〈触腕粘液(イータースライム)〉以上の実力だろう。

 それでも戦うことに徒労感がないのは、少なくとも攻撃が当たりさえすればダメージは通るからだ。

 ――あくまで当たればだが。


「――シッ!」


 踏み込んだイツキの刃が空気を切り裂き〈氷霊騎士(セルディン)〉に奔る。

 鍔迫り合いにならないよう次の斬撃を意識した一閃。最初の切り結びで力では敵わないのを悟り、手数で押す戦術らしい。

 しかし氷の魔獣はその鋭い太刀筋に危なげなく対処する。わかってはいたが剣士としての技量もかなりのものだ。

 つうか何で魔獣が真っ当な剣術なんか使うんだよ!?

 普通に力頼みだけで十分強いだろ!


「ヌウンッ!」


 イツキが手数で動きを封じている隙をつき、オルガが豪快にハルバートを振り下ろす。

 完璧に騎士を捕えた一撃――が。


『――――ッ!』


 再び不快な不協和音が響いた。竜人と騎士との間に現れる氷の壁。

 ほんの刹那の間だが確かにオルガの攻撃は阻まれ、騎士は瞬時の間に二人から距離をとった。

 それぞれに武器を構えなおした三者は、再び向き合い隙を窺う。


 ――攻めきれない。

 しかし二人のおかげで〈氷霊騎士(セルディン)〉にはこちらに構う余裕はないようだ。


「【火群よ・来たれ・集え・猛るは灼熱の炎……】」


 フィリスの詠唱が朗々と響く。

 ロッドを構え、栗色の髪を靡かせながら汗を流す彼女は一種のトランス状態に入っているのだろう。

 既に一通りの準備を終えた俺の役割は、前衛で戦う二人が突破された際の最後の壁だ。

 うん、自分で言うのもなんだが薄っぺらい壁だわ。


『(コクコクッ!)』


 ちらりと宙に浮くアンナへと目を向ければ、大きく頷き手を振ってきた。

 どうやら彼女の準備も終わったらしい……全身の疲労感がのしかかってくる。


『――――ッ!!』


 今まで聞いてきた叫びとは微妙に異なる響き。

 フィリスを除く全員が警戒する中、〈氷霊騎士(セルディン)〉は優美に透き通った美しい盾を創り出し左腕に纏った。

 見かけは防護に適しているようには見えないのだが……。


「ぜいやぁ!!」


 同じ印象を持ったのか、怯むことなくオルガが挑む。

 凄まじい膂力でもって振るわれるハルバート。〈氷霊騎士(セルディン)〉は構築した氷盾を掲げ――


「ガアアアアッ!?」


 鮮血が宙を舞った。

 今さらだが〈氷霊騎士(セルディン)〉には血液など流れていない。

 身体を切り裂かれ血を噴き出したのは巨漢の竜人(オルガ)だ。


「オルガの攻撃を『反射』したのか!?」


 〈氷霊騎士(セルディン)〉に関する情報は資料室で得ていたが、この能力は記録になかった。

 無事に帰れたらギルドに報告せねばなるまい。


「――ならば!」


 イツキが『新・キリキリ丸』を手放し、背後から〈氷霊騎士(セルディン)〉を羽交い絞めにした。

 なるほど、これなら『反射』能力を持つ氷盾といえど意味はないな。

 しかし力自体は〈氷霊騎士(セルディン)〉の方が上、そう長くはもたない――と、ここで軽く背中を叩かれた。

 振り返るとフィリスと目が合った。コクンと頷く彼女に準備が整ったことを悟る。


「よし、行け!」


 足元に準備しておいた魔導具を一斉起動。

 雪原を華麗に駆けるは犬さん猫さん熊さん鳥さん……ファンシーな人形軍団。


『――――ッ!』


 自身に勢いよく迫ってくる物体に危機感を覚えたのか、聞き取れないナニカを叫ぶ〈氷霊騎士(セルディン)〉。

 雪が集まり虚空より放たれる氷槍の群れ。

 だが――甘い。


『――――ッ!?』


 表情など存在しない氷の騎士が驚愕したように見えた。

 その視線の先には機敏な動きで氷槍を躱すラブリーな人形たち。

 よぉおおおし! よくやった!


「イツキ、そこから離れろ!」


「無茶するなーっ! 大馬鹿者ーっ!!」


 〈氷霊騎士(セルディン)〉の全身に人形たちがしがみ付いたのを確認しイツキに指示を出した。

 人形のことを知っていた彼女は怒声を放ちながら大慌てで騎士から離れる。

 状況を察したオルガも同じように騎士から距離をとった。

 相手の方が強いんだから無茶しないと勝てないだろ。ってか無理無茶無謀に関してはイツキに言われたくない。

 

 そして――『人形爆弾(ドール・ボム)』が一斉に起爆。

 轟く爆音、紅蓮の閃光に染まる視界。

 一体一体の威力は小さいが、複数体が同時に爆発すれば話は別だ。


 勇敢にも強敵に立ち向かい、華々しく散っていったドールズに敬礼!


 だがそれでも〈氷霊騎士(セルディン)〉を倒しきるには威力が足りなかったようだ。その推測を裏付けるかのように煙の中で揺らめく影。


『とまっちゃえー!!』


 ここでアンナが可愛らしい声を張り上げ、その影の動きがピタリと止まる。

 幽霊少女ならではの特殊能力『金縛り』をアンナが放ったのだ。通常であれば効果はなかっただろうが、完全な不意打ちの上に『人形爆弾(ドール・ボム)』のダメージは抜けきっていない。

 このために彼女には指輪を通じて精気を送っておいたのである……ああ、身体が怠い。


「【灼熱の炎よ・全てを喰らい・焼き尽くせ】ッ!!」


 詠唱を完了したフィリスが撃ち出した大火球。

 轟! と無防備な〈氷霊騎士(セルディン)〉に叩きこまれたそれは雪原を溶かし熱風を撒き散らす。

 四方より武器をそれぞれに構え、油断なく焔の中心点を警戒する。

 これで仕留めきれなければ後は消耗戦となるが――


「ふぅ……」


 フィリスが安堵の溜息をついた。

 全員の視線が重なった先に〈氷霊騎士(セルディン)〉の姿は影も形もなかったのだ。




「ごめんね、お店では悪いこと言っちゃって」


「ん?」


 焔が鎮火したのを確認し、〈氷霊騎士(セルディン)〉がかろうじて残してくれた素材を確保しているとフィリスが謝ってきた。

 なんだ、唐突に?


「ほら、キミの創った魔導具を馬鹿にするようなこと言っちゃったからさ。……けど実際に使ってみると凄く役立ったからさ」


「ああ、あのことか。別に気にしなくていいよ」


 客の率直な感想は重要だからな。


「でも可愛い人形を爆弾にすることはないんじゃないかな?」


「いや、そこが重要だろう。爆弾に全然見えない人形が爆発するからこそ意味があるだろ?」


 そうかなー、などと首を傾げるフィリス。

 うーん、なかなか伝わらないな。謝られるよりもそこに感嘆してほしかったんだが。


「……あれ?」


 突然ズズッと何かが揺れるような感覚を感じた。

 おかしい、周囲には敵らしい敵の姿はなく視界の裡にもおかしな光景はないというのに。


「……? 今何か揺れたように感じなかったか?」


「あっ、イツキも? ボクもそんな気がしたんだよね」


「吾輩もである。とはいえ近場ではないと思うのであるが」


 どうやら今の衝撃は俺の気のせいというわけではないようで、他の三人も怪訝そうに周囲を見回している。


『……あ』


 アンナの呆けたような声。それを受けて彼女の視線の先に目を向ける。


 ――まだ遠く距離のある雪山の上。

 白く巨大なナニカが斜面を凄まじい勢いで流れ落ちてながら迫ってくる。

 うん、ナニカっていうか、あれはもしかしてというか、ほぼ間違いなく……


「雪崩だぁあああああああッ!?」


 一難去ってまた一難とはこのことか。

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