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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
女魔術師と竜人の話
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39 騎士と戦おう

 ――その後の探索は概ね順調だった。

 〈触腕粘液(イータースライム)〉との戦闘を経て目的の再確認をしたことが良かったのだろう。魔獣と遭遇しても無理に狩ることに拘らず引く時は引けた。そして必要な素材持ちの魔獣を優先して狩る。 

 偶に〈触腕粘液(イータースライム)〉のような例外はいるし、俺とイツキとアンナだけでは対処の厳しい魔獣もいたが、今回はオルガとフィリスの二人もいる。


『アーンーナーもーいーるーでーしょーっ!』


 俺とイツキしか認識出来ていない存在は数に数えていいのだろうか?

 まぁ、いずれにせよ倒せないまでも適当に煙に巻いて撤退するには十分な戦力だった。




「それじゃあ、そろそろ下山しようか?」


 少し前の戦闘で狩った魔獣の死体を『旅の鞄』に詰め終わり三人に声をかけた。

 帰りの道のりや体力的な問題を考えると、そろそろ帰路に就いたほうが良いだろう。

 無理して遭難でもしたら目も当てられないし。


「下山か、『耐熱』の効果付与に必要な素材はもう十分なのか?」


「まぁ、そこそこかな。今まで狩った魔獣から採れる素材ならそれなりの効果が見込めると思う」


 最上級品とは言えないだろうが、《熱砂迷宮》で活動する分には十分だろう。


「それなり……かー」


 俺の言葉に珍しくフィリスが物憂げな溜息をついた。

 なにかね、この雰囲気は。やっぱりどうにも解せないところがあるな。


「そうであるな。今日はこの辺にしておくのである。不足があるようならばもう一度素材を集めればいいのである」


 フィリスを宥めるかのようなオルガの言葉。

 ……それは俺が創る魔導具では満足できない可能性があるということだろうか?

 よーし、それは挑戦と受け取った! 絶対満足させて頭を下げさせてやる!


 ――そんな話をしながら雪山を下る道中、唐突にソレは姿を現した。




『――え? なにこれ?』


「……どうした?」


 最初にソレの接近に気づき戸惑いの声をあげたのはアンナ。それを聞いたイツキが足を止め周囲を警戒する。

 アンナの声が聞こえないオルガとフィリスは、イツキに怪訝な視線を向けた。しかしすぐにその視線も警戒心を帯びたものに変わる。

 俺たちの前方にて、まるで道を阻むかのように雪風が舞い踊ったからだ。


「これって――」


「どうやら油断できぬ相手のようであるな」


 ここまでくると当然オルガとフィリスも気づき、武器を構えて戦闘態勢を取る。

 戦闘が専門ではない俺ですら感じられるピリピリと肌に張り付くような圧迫感。

 ああ、これはヤバいな。激ヤバだわ。

 〈触腕粘液(イータースライム)〉など比較にもならない。


「蒼い甲冑……か?」


 雪風を切り裂くかのように虚空をはしる一閃。透き通った水晶のような剣を片手に進み出てきたのは、剣と同じく蒼く輝く全身甲冑。

 その鎧の優美さは芸術品と見まがうほどだが、発せられる殺気は明らかにこちらを敵視している。

 (かぶと)の奥からは仄暗い虚ろな光が覗く。

 まぁ、〈雪精人セルシス〉と同じ系統の魔獣なので、甲冑に中身はないのだが。


「シッ!」


 瞬間、金属がぶつかり合う甲高い音が辺りに響いた。

 残像を残して一瞬で間合いを詰めて剣を振り下ろした〈氷霊騎士(セルデイン)〉。前に飛び出しカタナを振りぬき受け止めたのはイツキだ。


 ――あ、あっぶなぁ!?

 俺一人だったら反応も出来ずに切り捨てられていたぞ!

 慌てて後退し距離を置く。


「ゴアアアアアッ!」


 烈迫の咆哮と共にオルガがハルバートを降り下ろす。

 イツキと鍔迫り合いをしている〈氷霊騎士(セルディン)〉には対処するすべはないように思えたのだが、


「――ッ!?」


 剣から片手を離し、そのまま素手でハルバートの刃を受け止めてしまった。

 どうやら全身の硬度にはほとんど違いがないらしい。

 右手でイツキ、左手でオルガを相手取り互角の力比べを演じる――が。


「ぐぅ……ッ!」


 互角じゃなかった。

 むしろイツキたちのほうが若干力負けしている。


「【火精・束ね・奔り・射抜け】ッ!」


 フィリスの援護の魔術が水晶の騎士を襲う。


「【――――ッ!】」


 しかし〈氷霊騎士(セルディン)〉が対抗するかのように大きく叫んだ。その叫びは人の耳では聞き取れない響きだ。

 そしてその叫びに呼応したのか周囲の雪が高質化し、氷の矢となって焔の矢を相殺する。

 生じた蒸気が辺りに満ちる。その隙に間合いを離したイツキとオルガが戻ってきた。

 〈氷霊騎士(セルディン)〉も仕切りなおすかのように剣を構えてこちらを窺っている。


「……かなり手強い相手である。撤退するであるか?」


「あれが相手じゃ無理だろ。追いつかれて背中から斬りつけられるぞ」


「で、あるな」


 一応確認しただけで本人もわかっていたのだろう。

 ハルバートを固く握りしめ、何時でも動けるように構えなおす。


「とはいえ、打つ手はあるのか? 何か弱点でもあると助かるのだが」


「正直ボクは思いつかないね。白兵戦で二人を相手取って、魔術にも対応可能とか厄介すぎだよ」


 一度刃を合わせて脅威を認識したのかイツキが慎重な意見を出した。

 確かにフィリスが言う通り一見すると隙のない難敵だ。


「確かに強敵だけど弱点がないわけじゃないな。少なくとも焔の魔術に対して相殺を選んだ以上、効果がないわけじゃないだろう……フィリス、もっと強力な魔術は可能か?」


 あの対応の仕方は防ぐ必要があったからこそのものだ。

 少なくとも〈触腕粘液(イータースライム)〉のように物理も魔術も効果が薄いというわけではない。

 であれば、高火力を防ぐ余裕もなくぶつけられれば話は変わってくる。


「なるほど……試してみる価値はあるね。けど詠唱にはかなり時間がかかるし、動きを止めないとさっきみたいに防がれるよ」


 まぁ、それもそうか。


「イツキ、オルガ……しばらく足止めをお願いしてもいいかな?」


 白兵戦となるとこの二人の出番だ。

 俺もやろうと思えばやれるけど、正直かえって邪魔になるような気がする。


「問題ないのである。むしろ吾輩たちだけで倒してしまえばフィリスの出番はないのである」


 オルガが冗談めかした口調で言った。

 単体としての能力では明らかに上の相手に挑むのに余裕を失わないのは経験値の差か。


「それが出来るならそれが一番だけど、無理はしないこと。フィリスの準備が出来てから、少しでも動きを止めてくれれば俺が一発かますから」


 んでもって最後の一撃はフィリス担当だ。


「それとイツキ、指輪を俺に渡してくれるかな?」


「む? 別に構わんが……何か意味があるのか?」


 俺の要求にイツキは不思議そうにしながらも『アンナの指輪』を取り出した。

 オルガとフィリスが訝し気な眼差しを送ってくるが、今は説明するつもりはない。


「では――行くのである!」


 オルガ先陣を切りイツキが後に続く。

 さらに距離を置いたフィリスが長々とした詠唱に入る。


 そして俺は『旅の鞄』から魔導具を取り出しながら、心配そうな顔で宙を漂っていたアンナを手招きした。

 寄ってきたアンナにやってほしいことを耳打ちする。

 さて、ここからが正念場だ。

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