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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
女魔術師と竜人の話
37/68

36 雪原を行こう

「~~♪」


 現在、俺は『旅の鞄』から取り出した魔導具を〈雪毛河馬(スノフェート)〉に取り付け中だ。

 《雪原迷宮》に潜るにあたって念のためにと用意しておいた品だったが、実際に使う機会に恵まれるとは思わなかった。

 ほぼ無傷で魔獣を生け捕りにするという難題を、あっさりと成し遂げてくれたオルガに感謝だ。

 ついつい機嫌良く鼻歌も零れてしまう。


「……あれは何をやっているのだろうか?」


「我輩には箱ぞりのように見えるのであるが……イツキ殿も知らないのであるか? 我輩たちよりも彼とは付き合いは長いのであろう?」


「あいつの創る魔導具はどうにも癖のある代物が多くてな。私も店では迂闊に触れないようにしているのだ。少なくともあの箱ぞりモドキは今まで見たことのない品だな」


「――というかエルトって鼻歌が下手なんだね」


 やかましいわ。

 鼻歌に下手も上手もあるものか。

 見ているがいい、この魔導具で度肝を抜いてやる。


「よし、完成! 準備できたぞ!」


 手綱を〈雪毛河馬(スノフェート)〉の身体に取り付け終わり、後ろで待っていた三人に振り向いた。

 俺が片手で示す先には〈雪毛河馬(スノフェート)〉の後方に繋がれた魔導具。見た目は箱ぞりに近いが、大きさは荷馬車ほどだ。

 反応は……なんか三人とも微妙な顔をしている。


「エルト……準備ができたのは良いのだが、それは一体なんなんだ?」


「これはだな、俺の創った魔導具――『雪原を行こう』だ!」


 ……ヒュ~ッと、冷たい沈黙と風が雪原を通り抜けた。

 なんだ、何か言いたいことでもあるのか?


「えーと……名称については置いておいて、形から推測するに箱ぞりみたいなものだと思えばいいのかな?」


「そうだな、基本的には箱ぞりと同じだ。《雪原迷宮》奥まで歩きで行くのは体力を削るから用意しておいたんだ」


 名称について何か文句でもあるのか問い詰めたいが、とりあえず話を先に進める。

 ここで時間を無駄に喰っても仕方がない。


「用途に関しては理解したのであるが……それは難しいのではないかと思うのである。魔獣がそう簡単に従うものであるか?」


「あー、それに関しては今から実験だな」


「いや、ちょっと待って。それってまだ試したことないの?」


「これは《雪原迷宮》でないと試しようがない魔導具だからな。今まで使ってみる機会がなかったんだ」


 なので日の目を見る機会が来て少し嬉しい。


「エルト、それはいくらなんでも危なくないか? もしも怪我でもしたらどうするんだ?」


 イツキが心配そうな声色で訊いてきた。

 うーん、そんな子供に向けるような心配をされてもなぁ。


「だからこそ今試してみるんだよ。もしも〈雪毛河馬(スノフェート)〉が暴れ出すようなら、イツキたちが仕留めてくれ」


「あっ、なるほどね。それなら安全に試せるね」


「ふむ、承知したのである。先程の力比べからすれば吾輩一人でもなんとかなるのである」


 オルガが獰猛に牙を見せつつ頷いた。

 この容姿で保証されると頼もしさが半端ないな。


「それじゃあ、早速だが実験を開始するぞ」


「むっ? そういえばエルト、この魔獣は気絶しているようだがどうするのだ?」


「それは勿論これを使う」


 そう言って俺が『旅の鞄』から取り出したのは一本の回復薬(ポーション)

 それを目にしたイツキが後退(あとずさ)った。


「そ、それを使うのか……」


「え、なにそれ? 何でイツキはそんなに怖がってるの?」


「吾輩には普通の回復薬(ポーション)にしか見えないのであるが」


 ええ、回復薬(ポーション)以外の何物でもないですよ。

 なのでバシャリと意識を失ったままの〈雪毛河馬(スノフェート)〉にかけてやる。

 オルガのチョップが炸裂した個所を重点的に。


「ブモ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!?」


 次の瞬間、〈雪毛河馬(スノフェート)〉が野太い雄叫びをあげながら復活した!

 

 こいつに使ったのは効果は高いが超沁みる回復薬(ポーション)だ。

 以前サントスがお買い上げしてくれた品なんだが……うん、どうやら気付けにも有効みたいだな。

 おっと、このまま暴れさせるわけにはいかない。

 『雪原を行こう』効果発動!


「ブモ゛モ゛モ゛モ゛モ゛モ゛モ゛モ゛ッ!?」


 〈雪毛河馬(スノフェート)〉に取り付けた手綱から電流が走り、その動きを強制的に止める。

 これがこの魔導具の効果の一つだ。さらに重ねて第二の効果発動!


「ブモォオオオオー」


 すると〈雪毛河馬(スノフェート)〉は全身から不満そうな気配を漂わせながらも大人しくなった。


「へぇー、ホントに暴れなくなったね、一体なにをしたのかな?」


 フィリスが感心したように頷きながら首を傾げる。


「この手綱には『雷撃』と『意思伝達』の効果が付与してあるんだ。電流で強制的に動きを止めて、使用者の意思を伝える。……まぁ、魔獣が強すぎたり思考が異質すぎると効果ないけどな」


 そういう意味では〈雪毛河馬(スノフェート)〉は実に手頃な相手だった。

 オルガ一人で抑えられる程度の強さで、尚且つそこそこの知能がある。


「それじゃあ、出発するから三人とも後ろに乗ってくれ」


 俺の言葉に三人はおっかなびっくりといった様子で後ろの箱ぞりに乗り込んだ。


「そらっ!」


「ブモウッ!」


 鞭代わりに電流を軽く流してやると、〈雪毛河馬(スノフェート)〉は不承不承といった感じで走り始めた。



 ◇ ◇ ◇



「ひゃあー! これは楽だねー!」


 フィリスの楽しげな声が風に流れていく。

 《雪原迷宮》に生息しているだけあって〈雪毛河馬(スノフェート)〉の走りは中々のものだった。

 俺とイツキとフィリスとオルガ、装備品も加えれば結構な重量になるはずだが勢いよく運んでくれる。

 もちろん『雪原を行こう』の箱ぞり部分に付与された『重量軽減』の効果もあったのだろうが。


 そして道中、他の魔獣に遭遇することもなく目的地である雪山の麓へと到着した。


「ふぅ、歩くよりもずっと早く辿り着けたな」


「うむ、本来であればもっと時間がかかっていたであるな」


 うん、どうやら特に問題はなかったようだ。

 これなら《雪原迷宮》をメインの狩場にする探索者には売れるかもしれない。

 しかし大きさがなぁ。

 探索者支部に売って貸し出しでもしてもらったほうが良いかな?


「そういえばエルト、この魔獣に関してはどうするの? 帰りまで待たせておくのかな?」


 今後の商売に関して思案しているとフィリスが声をかけてきた。

 視線が向くのは此処まで俺たちを運んでいた〈雪毛河馬(スノフェート)〉だ。


「いや、それは無理だろう。魔導具を持っていかれても困るし、ここで始末しておこう」


「なっ!? ブモウを殺すというのか!?」


 イツキが驚愕声のを張り上げた。

 ……ブモウってなんだ、ブモウって?


「ぬぅ、吾輩としても正々堂々ぶつかり合った相手を殺すのは忍びないのである。……弱肉強食、喰らうのであれば問題ないのであるが」


「うーん、此処まで運んでもらったし、ボクもそれはどうかと思うなー。逃がしてあげればいいんじゃない?」


 なんだ、このアウェイ感。

 なぜか俺が悪いみたいな空気になってるぞ。

 ……よし、それならば。


「そうだな……一応世話になったし(ねぎら)ってやるか」


 こに状況で俺のやるべきことは一つだ。

『旅の鞄』からある飲み物を取り出し、〈雪毛河馬(スノフェート)〉の鼻先に差し出す。

 最初は警戒していた魔獣だが、クンクンと鼻を鳴らすとグビグビと勢いよく飲み始めた。

 待つことしばらく。


 ――ドムッ!!


 どこからか鈍い爆発音。

 ビクンッと身体を大きく震わせた〈雪毛河馬(スノフェート)〉は白目になると、ゆっくりと冷たい雪原へと倒れた。


 呆然と信じられないといった表情で俺を見る三人にサムズアップ。


「持ってて良かった、『酒爆弾(アコール・ボム)』!」


「「「悪魔か、お前はッ!?」」」


 心外な。

 俺はもちろん人間だ。

雪原を行こう

 要は箱ぞり。ただし引くのは魔獣。

 手綱に付与された『雷撃』と『意思伝達』の効果で魔獣を使役する。

 完全に《雪原迷宮》仕様なので使い勝手が悪い。

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