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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
女魔術師と竜人の話
34/68

33 依頼を受けよう

「ねぇ店員さん、こんなよくわかんない魔導具じゃなくて、もっとマトモなのはないのかな?」


「『爆発シリーズ』はマトモじゃないですか?」


「本気でマトモだと思って売りに出してたのッ!?」


 信じられないといった表情でのぞけって驚く女魔術師。


 どう考えてもマトモではないか。100%本気である。

 ファンシーな人形が敵に飛び付いて諸共に爆発するとか、正にカタルシスを感じさせる光景だ。


『むー、お兄ちゃんの商品にケチつけるなんて、生意気なオッパイお化けめ。やっちゃいなさい、アンナの(しもべ)一号!』


「……!?」


 幽霊少女の容赦ない命令に首をブンブンと全力で振って拒絶するメイド少女。


 やべぇ。ツッコミどころが多過ぎる。

 とりあえずお化けはアンナだし、イツキが一号なら二号は誰なんだ?

 それと……おっぱいか。


 確かにこのフィリスなる女性の胸囲はなかなかの脅威だな。

 レザープレートの上からでも自己主張の激しいその膨らみ。

 目算だが――名もなきエルフ娘>フィリス>イツキ>越えられない壁>アンナ≧ミリィ、という序列が成立するとみた。


 ……あれ? なんだか目頭が熱くなってきたぞ?


「おーい店員さん? どこ見てるのかなー?」


「あっ、申し訳ありません。少しぼんやりしてしまって」


 軽く視線でアンナを制止していたのだが、奇妙に思われてしまったようだ。

 顔の前で手の平を振られて栗毛の客に意識を戻す。


「そうですね……では、そちらの魔導具などは如何(いかが)でしょうか?」


「魔導具って……この大きなボールのこと?」


 俺が示した先に展示してあるのは、見た目は大きめのボールにしか見えない白い球体。

 大きさは大人一人が楽に乗れるくらいはある。


「その魔導具に関しては特に危険は効果はありません。ただし合図をすると――」


「合図すると?」


 危険はないと言われて警戒心が薄れたのか、球体の上に両手を下ろすフィリス。

 そんな彼女に視線を向けながら、両手をパンッと打ち鳴らす。


「――浮きます」


「わきやああああああッ!?」


 俺の合図を受けて白い球体――魔導具『浮遊球(スカイ・ポン)』が勢いよく浮き上がる。

 咄嗟に飛びついてしまったフィリスも一緒に浮き上がり、慌てた悲鳴をあげた。

 これは悪意のない商品説明だ。マトモじゃないとか言われたのを根に持ってなどいない。


「ちょーッ!? なにこれ、これなに!?」


 浮遊球(スカイ・ポン)はきちんと安全を考慮してあるので、天井にぶつかる前に宙に浮かんだままで制止した。

 しかしパニクったフィリスはじたばたと両足をばたつかせる。

 ヒラヒラとこちらを誘惑する長い布。そこから伸びるシミ一つ無い、すらりとした脚線。

 更に奥の乙女の秘奥を守る最終防衛ラインもチラチラと――


『駄目だよー、お・に・い・ち・ゃ・ん?』


 目の前に半透明の幼女(アンナ)が立ち塞がった。

 いやいや、偶然ですよ偶然。狙ってないですよ?

 ……でも偶然の機会(チャンス)を物にしたいと思うのは、若い男ならば仕方がない事ではなかろうか。


「ほほう、宙に浮き上がる魔導具とは面白いのであるな」


「オルガーッ!? 面白がってないで助けてよー!」


「そう慌てないで飛び降りればいいのである。吾輩が受け止めるので安心してよいのである」


 フィリスの悲鳴にオルガは冷静に答え、彼女の足元へと移動する。


「ちょっとオルガ! 上を見ちゃ駄目だからね!」


「ぬぅ……吾輩すでに性欲からは解脱しているので気にする必要はないのであるが……」


「そういう問題じゃないの!」


 フィリスのかなり無茶な要求にオルガは鷹揚に答え、視線を大人しく下げる。


「それじゃあ、下りるからね」


「うむ、任せるのである」


 オルガが頷きフィリスを抱きとめる体勢を取った。

 それを確認したフィリスは上半身を浮遊球(スカイ・ポン)から離し――


「へぶっ!?」


「よっと」


 オルガの頭を足場の中継地にして無事に地面に着陸した。


 ……この状況を作った俺が言うことじゃないけどさ、その着地法は正直どうよ?


「着地成功っと」


「うむ、フィリスよ……吾輩の目を見て何か言うことはないのであるか?」


「足場になってくれて助かったよオルガ、ありがとねっ!」


「ううむ……」


 とてもイイ笑顔で礼を言うフィリス。

 そんな彼女を前に何か言いたげな様子で沈黙する〈竜人(ドラゴニュート)〉。

 うーん、苦労人の気配がするな。

 でも雰囲気的には仕方ないなぁ、という気配が漂っている。

 なんというか悪戯な妹を窘める兄目線といった感じだ。


 まぁ、彼に関しては置いておいて、もう一度パンッと手の平を打ち鳴らす。

 するとその合図に反応して浮遊球(スカイ・ポン)がゆっくりと降りてきた。


「「……」」


「――と、このように簡単に下ろすことも可能です」


「それを先に言ってよッ!」


 いや、説明する前に行動してたし。


「オルガ~、この店で本当に大丈夫かな~?」


「……吾輩も少し不安になってきたが、他に当てもないのである。それに魔導具の効果自体は中々なのではないであるか?」


「それはそうだけどさ~」


 ……はて、一体この二人は何を言っているのだろうか?

 話しぶりからすると、どうにも何か明確な目的があるかのようだが。


「店員殿。実は吾輩たちは先日のギルドで、お主らの会話を少し耳にしていたのである。よければ店主殿にお取次ぎしてほしいのであるが」


「……店主は私ですが」


「うそッ!?」


 なんだ、何か文句でもあるのか。


「ああっと、ごめんごめん。あんまりキミが若いものだから思わずね。ボクが今まで会ってきた魔導付与師(マギス)って、皆かなりおじさんだったからさ」


 そう言って頭を掻きつつ頭を下げてきた。

 馬鹿にしてるわけでなく感情表現がダイレクトなタイプと見た。

 しかし俺はそこそこ名前を知られてる方だとと思っていたのだが、自意識過剰だったのだろうか?

 それともこの二人は最近アーランディアに来たのだろうか?


「ならば話は早いのである。実は仕事をお願いしたいのだが……よろしいであるか?」


「仕事の依頼ですか……具体的な内容を教えてもらえますか?」


 俺にも出来ることと出来ないことがあるからな。


「うむ、依頼は吾輩たちの装備品に『耐熱』の効果を付与してもらいたいのである」


「ああ、効果付与のご依頼ですか」


 目の前に立つ二人の装備品に目を向ける。

 先程見た通りフィリスのほうは、蒼を基調とした服の上にレザープレートを着こみ、長めのスカートを履いている。武器は魔石のついたロッド。

 オルガのほうは頑丈そうなフルプレートの鎧。そして見るからに重量のあるハルバート。

 竜人(ドラゴニュート)の流儀には反するのだろうが、さすがに街中で全裸とはいかないのだろう。

 素材自体はイツキの『ダイナゴン』と違い、それほど希少な品というわけではないようだ。


「ちなみに効果の程はどれほどのレベルをご希望ですか?」


 『耐熱』の効果付与と言っても全てを一緒くたには出来ない。

 使う素材次第でその効果の強度も変わってくるのだ。


「出来るだけ強いほうが良いかな。欲を言えば炎に包まれても無傷でいられるくらいとか」


 気楽な口調で結構高めな要求をしてくれる。

 まぁ、不可能と言わないが。


「そういうことでしたらお値段はこれくらいになりますが……よろしいでしょうか?」


「どれどれ……うわっ!?」


「うむむ……魔導具は高い物であるが、ベースの鎧があってもこの値段であるか」


 俺が示した値段にしかめっ面になる二人。

 高い効果を望むとどうしてもね。


「必要な素材を商業ギルドから仕入れなければならないので、どうしてもこれくらいの値段になります。これは他の魔導具店でもさほど変わらないかと」


 むしろ俺の店は良心的な価格設定だ。

 これは本当に自画自賛ではなく、このへんをサービスしておかないと若手の魔導付与師(マギス)に仕事の依頼とかは厳しいのだ。


「ねぇねぇ、店長さん。この価格だけど……もうちょっとどうにかならないかな?」


 フィリスはカウンターの上に身を乗り出すと、豊満な胸元を見せつけるかのように上目遣いでお願いしてきた。

 スカートの中を見られることは気にするくせに、勝負すべきところは勝負してくるとは。

 あざとい、実にあざといな!

 生憎と俺はそのような誘惑では揺らがない鋼の理性を持っている。


「そうですね……必要な素材を直接持ち込んでもらえば、かなり値段が下がりますよ」


 ……揺らいでない、揺らいでないよ。

 これはあくまでも数少ない客へのサービスである、なにも(やま)しいところはない。

 だからイツキさんにアンナさん、そんなジト目を向けるのは止めてくれませんかね?


「うむ、素材であるか。ではそのことについて改めて相談があるのである」


 そして俺の提案に頷いたオルガが店に来た本題について話し始めた。

浮遊球(スカイ・ポン)

 合図すると浮く、それだけ。

 高い場所への移動に便利だと地味に売れた。

 「ハハハハハッ。人がゴミのようだ!」

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