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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
メイドと幽霊少女の話
26/68

26 幽霊と話そう

 幽霊を見て失神というベタな展開を体で実演してくれたイツキをベッドに寝かせる。

 ちなみに運んだのは俺の部屋である。彼女の部屋に運ぶべきか迷ったのだが、女性の部屋に断りなく入るのもどうかと思ったので自室にした。


『うぅぅ……お兄ちゃんのベッドに寝るなんて、居候のくせに生意気な! お兄ちゃんお兄ちゃん、落書きしてやりたいんだけど何か方法ないかな?』


「やめとこうね。……というか無理だって知ってるだろ」


 ふわふわと宙を漂いながらイツキの眠り顔を覗き込む金髪の少女。

 一緒の家に住むんだから仲良くしてほしいんだが。


『じゃあじゃあ、悪夢とか見せてもいいかな? 最近コツが掴めてきたから上達したんだよ?』


「やめいって言ってるだろうに。そんなの上達しなくていいから!」


 愛らしく小首を傾げながら何を言ってくるんだ、この幼女(ロリ)め。


「……んんっ」


『あっ』


「おっ」


 そんなふうにアンナと話していると、ベッドの上のイツキが身じろぎした。どうやら意識を取り戻しそうだ。

 話すのをやめて見守る俺とアンナの前でゆっくりとイツキの瞼が開かれる。


「……エルト、か?」


「はいはい、エルトさんですよっと。……それでどうだ、気分のほうは?」


 ベッドに寝た状態から上半身を起こしたイツキは、意識を確かめるように数度頭を振ると、まっすぐ俺を見つめてきた。


「気分のほうは大丈夫だ。ただ……少しおかしな夢を見たな」


「おかしな夢?」


「うむ、金髪の女の子がドロップキックしてくるなどどいう夢なのだが……」


 変な夢だよなーハッハッハ、と笑うイツキ。

 うん、気持ちは理解できなくもないけど現実に目を向けようね。


「必死で見ないふりしてるところ悪いけど、それ現実だからな。流石に目の前にいる相手をシカトするのはどうかと思うぞ」


『そうよそうよ! 毒婦のくせにアンナを無視するんじゃないわよ!』


 シュッシュッとシャドウボクシングしながらイツキを睨むアンナ。

 まぁ所詮は幼女なので怖くもなんともないが。


「……う」


 しかしイツキはそうでもなかったらしい。

 まるで錆びた歯車のようにギギィっとぎこちなくアンナに視線を向ける。

 一筋の冷や汗が彼女の白い肌の上を流れ――


「嘘だぁあああああっ!? 幽霊なんかいない! いないんだぁあああああっ!!」


 叫び声をあげながらベッドの中に潜り混んでしまった。

 そのまま亀のように毛布の中に閉じ籠る。


『……ふふん♪』


 それを見たアンナは意地の悪い笑みを浮かべると、イツキの耳と(おぼ)しき場所へ唇を寄せる。


『う~ら~め~し~や~』


「ひぃいいいいいっ!?」


『出てけ~。お兄ちゃんとアンナの愛の巣から即刻出てけ~』


「いぃやぁあああああっ!?」


 愛の巣ってなんだ、愛の巣って。

 アンナはとても楽しそうではあるが、これでは話が進まない。

 そして個人的にのけ者にされているようでつまらない。

 異議を申し立てるために、以前創ってみた対幽霊(アンナ)用決戦兵器にそっと手を伸ばす。


「はい、そこまでな」


『あうっ!? 痛いよ~、お兄ちゃーんっ』


 スパーンッ! と良い音を立てて『対霊指導用具(ハリセン)』がアンナの脳天に炸裂した。

 

 説明しよう! 『対霊指導用具(ハリセン)』とはアンナ用に開発した魔導具であり、幽体である彼女にもお仕置きすることが可能なのだ!

 さらに繊細な微調整により必要以上のダメージは与えず、決して強制浄化させない優れものだ!

 値段は普通の武器よりも高め! やはり売れない!


『でも大丈夫! これがお兄ちゃんの愛の形なんだから、アンナは喜んで受け入れるよ!』


 人聞きの悪いことを。

 アンナは可愛い子だし情もあるけど……流石にそんな愛はないな。

 俺は性的にはノーマルだし。


「そらっ、イツキもいい加減に出てこいって!」


「ぬわっ!? か、返せっ、毛布を返してくれ!」


「駄目だってつーの。心配しなくても今のアンナには大したことは出来ないから、そんなに怯える必要はないぞ」


「……そ、それは本当か?」


「ほんとほんと。せいぜい悪夢を見せたり耳元で囁くくらいだからな」


「それでも十分怖いだろう!?」


 まぁ、そうだな。

 俺は現実的な脅威のほうが怖かったので平気だったのだが。

 具体的には魔束放筒(カノン)とかハンマーとか薬物とか魔術とか借金とかな。


「なぁ、《迷宮》で魔獣と戦うのは平気なのに何でそんなに怖がってるんだ?」


「ま、魔獣は斬れば死ぬではないか!? ゆ、幽霊は斬れないんだぞ!」


 そこかよ。

 どこまで脳筋なんだよ。


「だったらこれを貸してやるよ。この対霊指導用具(ハリセン)ならアンナにも触れるからな」


「こ、これがか……?」


 ため息をつきながら対霊指導用具(ハリセン)を手渡してやる。

 イツキは疑わし気にしげしげと眺めた。

 当然ながら黙っていないのはアンナである。


『あー! なにやってるの、お兄ちゃん!? そんな泥棒猫の味方しないでよ!』


「ひうっ!?」


「はぁ……。護身用というかお守り代わりに渡しただけだろ。アンナもあんまり脅かさないでやってくれよ。これから一緒に生活するんだから」


『いーやー! この家はアンナとお兄ちゃんの家なの! ビッチの同居とかだいはんたーい!!』


 アンナは両手を振り回して部屋を跳ね回って抗議の声をあげた。

 こうなるだろうなー、とは思っていたが予想以上の反応だ。


『お兄ちゃんはアンナと穀潰しのどっちが大事なの!?』


「ご、穀潰し……?」


 うわぁ、すげー面倒なことを言ってきた。

 妻帯者の探索者曰く、絶対にされたくない質問らしい。

 それと対霊指導用具(ハリセン)を握りしめたイツキが地味にダメージを受けている。


「そうは言ってもイツキは今や店の看板娘だからな。出て行ってもらったら俺としても困る」


『むー』


 膨れっ面で黙り込むアンナ。

 彼女もうちの家計の問題について少しは知っているのだ。

 しかし、パッと顔を輝かせたと思うとこんなことを言ってきた。


『じゃあじゃあ、アンナが代わりに看板娘をやってあげるよ。そしたらお客さん倍増だし、年増も追い出せるでしょ?』


「……いやアンナは普通の人には見えないから無理だろ?」


「と、年増……?」


 それにそれで増えるのは特殊な層(ロリコン)だけだと思う。

 特殊性癖にも理解のある俺ではあるが、そんな客ばっかり出入りするのはどうかと思う。

 あと地味にイツキにダメージを与え続けないでほしい。


「まぁ、そんなわけで……うちに住み着いてる幽霊のアンナ・エリスだ。元々この家に住んでた娘さんで、実年齢は百歳を超えてるらしい」


『違うよ、お兄ちゃん? アンナは永遠の十歳だよ?』


 ニッコリ笑顔だけど目が笑っていないなー、怖いなぁオイ。


「そ、そうか、アンナというのか……私の名前はイツキ・カンナギだ。今はエルとに世話になっている身だ。――よろしく頼む」


 俺とアンナのじゃれあいで少しは恐怖が薄まったのか、落ち着きを取り戻したイツキが頭を下げた。

 しかし釈然としないことがあるのか首を傾げる。


「……だけどどうしてアンナが急に見えるようになったんだ? 今まで薄々存在を感じることはあっても、ここまではっきりと姿が見えることはなかったというのに」


「それはさっきイツキにはめてもらった指輪の効果だな。あれも魔導具の一種で、はめるとアンナの姿が見えるようになるんだ」


「そうか……この指輪が」


 ちなみに指輪はすでにイツキの細い指から抜き取ってサイドテーブルの上だ。

 でないとちょっと困ったことになるからな。


「それと指輪を長期間はめていると、精気がアンナに吸われて疲労困憊になるから注意な。その代わりにアンナが物にさわれるようになったりする効果もあるけど」


『そうだっ! お兄ちゃん、アンナは良いことを思いついたよ!」


「良いこと?」


「うん! あのね、こいつにずっと指輪をはめててもらおうよ! そうしたらアンナも日頃から出来ること増えるし!』


「あ、わわわわわ……!」


 名案だとばかりにアンナは華やいだ声で提案してきた。

 だから止めてあげなさいよ。イツキが本気にして怯えてるじゃないか。


「アンナ、冗談もほどほどにな」


『えー』


 アンナは不満ですっ、とでも言いたげな表情を見せる幽霊少女。

 ……冗談、だよな?


「とにかく、だ。これから一緒に暮らすんだから喧嘩しないようにな。アンナはあんまり脅かさない事。イツキは頑張って慣れてくれ。こう見えて根は良い娘だからさ」


『……はーい』


「わ、わかった……頑張ってみる……」


 アンナは不承不承、イツキは肩を落として頷いた。

 ……大丈夫かな、この二人?

対霊指導用具(ハリセン)

 別名:対アンナ用決戦兵器。幽体であるアンナにもダメージを与えられる。

 細心の注意のもと調整が行われており、必要以上のダメージを与えることは決してない。

 お値段はゴースト系の魔獣に効果的な聖銀(ミスリル)性の一級武器と同価格。

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