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アーランディアの魔導付与師  作者: 鋼矢
メイドと幽霊少女の話
24/68

24 接客しよう

 高品質にして面白み溢れる優れた魔導具を、極めて良心的な価格で売り出す我がフォーン魔導具店。

 立地条件は少し厳しいものの、こんなに素晴らしい店が繁盛しないのは余りにも不可解である。

 だが、俺はようやくその理由を特定できた。

 すなわち――可愛らしい従業員の有無こそが流行らない原因なのだ!

 ならば行うべきことは一つである。


「――い、いいいらっしゃいませ~」


 華奢な肢体を彩る愛らしくも慎ましやかなメイド服。

 艶やかな黒髪を飾る純白のヘッドドレス。

 清楚な装いでありながら確かな存在を主張する、柔らかそうな丸みを帯びた二つの膨らみ。そしてスラリと伸びる手足の瑞々しさ。

 実に可憐なメイドさんがそこにいた。


「フォ、フォーン魔導具店に……よ、ようこそ~」


 あとはその引き攣った笑みさえなんとかできればなー。

 まぁ、これでも十分に営業効果はあるからいいんだが。


「こ、こんにちわ! ポ、回復薬(ポーション)を買いに来たんだが……」


「なるだけ安いのを頼むっす!」


「さ、最近収入が少なくて厳しいんだな」


「ポ、回復薬(ポーション)の棚は……こ、こちらになりますッ」


 こんな感じの客がそれなりに来るようになったのだから、男というものは実にバカである。

 金さえ落としていってくれれば、俺としては文句ないけどな。


 はい、そこー。メイドさんにチラチラと舐めるような視線を向けないようにー。

 そんなことしてる暇があったら商品を買えー。


「よう、赤貧魔導付与師(マギス)。この回復薬(ポーション)を買おうと思うんだが……妙な効能はないだろうな」


「妙な効能ってなんだよ。うちの商品は全部優良品だぞ」


「あんな毒物を平気な顔で売っといて、どの口で言ってやがるッ!」


 ええい、唾を飛ばすな。

 ちゃんと腕は治っただろうが。なにが不満だというのか。


「この回復薬ポーションには本当にこの前みたいな副作用はないよ。そもそも飲み薬じゃなくてかけ薬だし、効果のほどは保証してやる。……まぁ少しだけしみるかもしれないけど」


「しみる……? おいおい、薬はしみて当然だろ。子供じゃあるまいし、そんなことでとやかく言うかよ」


「それじゃあ、お買い上げってことでいいのかな?」


「……いや待て。一度効能を試したい」


 チッ、警戒心が上がってやがる。


「――よし、バーク。傷口に薬をかけてくれ」


「了解っす!」


 サントスは軽く手の甲を傷つけるとバークに手を差し出した。

 バークはサントスの頼みに答え傷口に薬を近づけていく。


 ……さて、耳栓耳栓っと。


「……ふん。こんなものなんということも――」


 薬をかけた瞬間はサントスも余裕綽々だった。

 しかし徐々に顔色が赤く染まり、くすんだ金髪がこころなしか逆立ったようにも見える。


「あんぎゃぁああああああああッ!?」


「あ、兄貴ーッ!?」


「な、なんなんだな―ッ!?」


 片手を押さえ床を転げ回るサントス。

 おい、やめろ。埃が飛ぶだろ。店には高価な商品もあるんだぞ。


「な、なんなんだこれはぁあああッ!?」


「だから言っただろ。少ししみるって」


「これが少しなわけあるか!? 死ぬかと思ったわ!!」


「けど傷はちゃんと治っただろ?」


「なに……? ぐぬぬぬ……な、治ってやがる……ッ!」


 なぜ治ったのに悔しそうなのか。

 こんなにも早く傷が治る回復薬ポーションとかそうはないというのに。


「納得いかねぇ。なんでこんな毒薬みたいな薬が効果抜群なんだよ」


「むしろ効果が高いからこそだろ。……で、買うの? 買わないの?」


「ぬぅ……」


 サントスは腕組みして考え込む。

 どのみち開封した薬は買い取ってもらうがな。


「いいだろう。買ってやるよ」


「まいどー」


「ちょっ!? 兄貴ッ、いいんっすか!?」


 サントスの決断にバークが抗議の声をあげた。

 先程のサントスの醜態を見ていれば気持ちはわからなくもない。


「確かに痛みはキツいけど《迷宮》の中ですぐに傷が治るのは魅力的だろ。万が一の備えとしちゃ悪くねーよ」


「け、けど痛いのは嫌なんだな。け、怪我しないよう頑張るんだな」


 なかなか冷静な判断力。

 なんだかんだで探索者としての腕は悪くないんだよな、腕は。


「こいつは買いでいいとして……他には使えそうな物はないのかよ? ああ、物品のほうは高いから薬のほうでな」


「んー。じゃあこの『豪腕薬マッスルポイント』とかどうよ? 飲んだら凄く強くなるぞ」


「……副作用は?」


「一時的にしか効果がなくて、一定時間経ったらぶっ倒れる」


「使えるかボケ!!」


「一応魔術師用の『激魔薬(マジックポイント)』もあるけど」


「魔術なんか俺様たちは使えねーよ!」


 結局サントスたちは安めの回復薬ポーションを幾つか買って帰っていった。

 チャレンジャー精神が足んないなぁ。


「あ、ありがとうございました~。……はぁあああっ」


 強ばった笑顔でサンバカを見送ったイツキが大きく溜め息をついた。

 一仕事終えて、全身から力が抜けている。


「そんなに緊張する必要ないと思うんだけどなぁ」


「無茶を言うな! 接客なんて初めての経験なんだぞ? だいたい……なんなんだ、この格好は!?」


「なにって……メイド服?」


 片手で服を指し示して訊いてくるイツキに言葉を返す。

 メイド服以外のなんだというのか。


「だから何でメイド服なんだ? 接客はいいとしても……コレは明らかにおかしいだろ?」


「おかしくないぞ。『可愛いは攻撃力』って言葉を知らないのか?」


「そんな言葉なぞ知らん。……そもそも可愛いというなら私が着ても仕方がないだろう?」


 イツキは自信なさげにスカートを摘まみながら呟いた。妙に自己評価が低いな。

 それならイツキ目当ての客なんて来ないと俺は思うんだがな。


「十分に似合っていると思うぞ。うん、可愛い可愛い」


「か、かわ――っ!?」


 瞬間的に顔を朱に染めたイツキが蹲ってうーうーと唸る。

 ……なんだろう、この面白い生き物。


「……まぁ、それは置いておいて。それでどうだ、そのメイド服は? なにか違和感を感じたりするか?」


「うぅ……い、違和感? 特にそんなものは感じないが……足元がスースーして落ち着かないくらいか。なぁエルト、せめてズボンを履いては駄目だろうか?」


「駄目に決まってるだろ」


 誰得だよ、そんなの。


「というかメイド服はメイド服だろうに。違和感もなにもないと思うのだが……」


「普通のメイド服じゃなくて魔導具だからな。調子を気にして当たり前だろ?」


「……は?」


 なぜか呆けたように固まったイツキを前に解説を続ける。


「そのメイド服は俺が創った魔導具でな。普通の軽鎧を凌ぐ防御性能に加え、ある程度の温度変化にも対応可能。更に簡単な汚れや傷なら自動補修する優れものなんだ」


 なかなかの自信作である。

 その分お値段はお高めで、これ一着だけで鎧が五つ買える。

 まっ、性能に見合った金額というやつだな。


「……なぁ、エルト」

「ん? どうしたんだイツキ、そんな死にそうな顔をして」


 一通り俺の解説を聞いたイツキが何やら言いたげな視線を向けてきた。


「私は世間知らずだから偉そうなことは言えないのだが……お前は絶対に力を入れる方向を間違えていると思うぞ」


「そ、そんなことはない! ……たぶん?」


 何故か皆似たようなことを言うんだよなぁ。

 いや、方向性は間違っていない。間違っていないはずなのだ!

 きっと時代が俺に追い付いていないだけだ!

スーパーメイド服

 耐衝・耐刃・耐熱・耐寒の効果付与に加えて自動補修機能も備えた優れもののメイド服。

 戦うメイドさんとかならきっと欲しがるに違いない。

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